最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

188話 一進一退

 白髪の女団員が発した炎をエヴァが凍らせたのを横目に見ながらハンターに雷撃を数発打ち込む。あの女団員……確かエヴァを悪魔だのなんだの罵ったアイリーンって奴だよな。


「よそ見とは余裕だな!!」


 アイリーンの言動を思い出し、怒りがふつふつと湧き上がったタイミングで思わぬ隙を作ってしまい、『狂鬼零刀』が肩をかすめて振り上げられる。
 雷化・天装衣ラスカティグローマを発動しているが攻撃は咄嗟に避ける。あの刀の能力に「実態の無い物でも斬れる」なんてあったら大変だからだ。一旦エヴァとドラゴン騎士団の事は頭から出そう。エヴァは大丈夫。今は目の前に集中する。


「雷帝流奥義!!」

「……来い」


 シュデュンヤーを鞘に戻し、腰を落とす。そして狙いを定めて踏み込む足に力を込める。


「食らえ! 紫電一閃!」


 まさに雷の速度でハンターに接近し、剣を抜き天に掲げ、落雷に合わせて振り下ろす。そのまま体を前転させて滑りながらハンターの後ろへ回る。雷の衝撃をモロに受けてノーダメージは無いだろう。


「おォ、びっくりしたな」


 案外ケロっとした様子で振り返る。確かに『狂鬼零刀』でガードされた感覚はあったが、それにしてもダメージが少なすぎる。普通の人ならその衝撃と雷が迸る感覚にフラついたりするものだ。


「この刀で受けたダメージは俺まで届かないんだよね。全部吸収・・してるから、ナ」

「吸、収……?」

「そう、そしてそれは放出される」


 ハンターは『狂鬼零刀』の切っ先を俺に向ける。悪い予感しかしない。吸収された紫電一閃を、そのまま放出できるのだとしたら……


「死ね」


 刀の刃の部分が紫に光り、数回バチバチっと静電気を放つ。直後、俺の視界は紫に染まり、体が地面を離れるのを感じた。





 気が付くと、俺は片膝を付いて全身から焦げたような煙を出していた。確か、吸収された紫電一閃を直撃して……
 周囲を見渡しても先程となにか変わった様子はない。一瞬だけ意識が飛んでいたらしい。
 すぐに記憶も戻り、状況を思い出す。しかしまずい。こちらの攻撃は吸収されて返されるとなると迂闊には攻撃できない。


「自身の技でやられるのはどういう気持ちなんだ?」

「……あぁ、最高だ。お前にも教えてやるよ!」


 雷化・天装衣ラスカティグローマを使っていたのにダメージを受け、更に雷化は解けてしまっている。自身の技ながらこうも強かったのかと実感する。よくよく考えてみれば俺が戦ってきた相手はコロコロ姿の変わる気持ち悪い魔族や圧倒的な力を持つ王様だ。自分の技がただの相手にとってここまで効果があるとは知りもしなかった。だが、同時に確信もした。
 当てれば勝てる。


「お前だって『狂鬼零刀』を持ってなければほぼ普通の人間だ」

「その普通の人間に勝てるといいな」


 刹那の中、時がゆっくりと感じた。一瞬が永遠のように感じ、気づけば俺とハンターはお互いの武器をぶつけ合っていた。攻防が一瞬のうちに何度も入れ替わり、相手が攻めればこちらは守り、こちらが攻めれば相手は守る。
 一進一退の攻防の中、若干……本当に僅かではあるが押されてきている。息が上がっている俺に対してハンターは汗の一つすらかいていない。疲労が全く感じられない。万全の時ならまだしも、今はダメージも受け疲れも蓄積されている。どんどん彼我の戦力差は開く。


「我が筋力を最大まで高めた一撃、まともに受けられるかな?」

「そっちが最大の技ならこっちも最大の技だ! 雷化・天装衣ラスカティグローマ!続けて奥義!」


 どちらが先に攻撃するか、というよりもどうやって相手の技を相殺するか。剣を鞘にしまわずにハンターから大きく距離を取り、両手でシュデュンヤーを握ってハンターのタイミングを伺う。
 もし先制で攻撃したとしてもハンターの攻撃を受けたら不味い。うまく当てて、なおかつ相殺しないと……


「フンッ!!」


 ハンターが右腕をフルスイングして刀を振るう。それに合わせて俺も突っ込み、シュデュンヤーを振り切る。


「電光石火!!」


 強大な二つの力がぶつかり合い、爆風が舞い上がる。衝突した『狂鬼零刀』とシュデュンヤーは力のあまりガチガチと震える。
 衝撃は二人の足を通して地面に逃げ、クレーターの様にへこんでいる。


「まだ……まだァ!!」


 『狂鬼零刀』を押すハンターの力が強まり、若干足が地面に沈み……下からの強い衝撃で俺の足は地面を離れ、弾き飛ばされた。勢いは止まらず、地面をゴロゴロと転がりながら後ろに吹き飛ばされ、咄嗟にシュデュンヤーを地面に突き刺してブレーキをかける。『狂鬼零刀』に気を取られて下からの攻撃を想定できていなかった。まさかハンターが“蹴り”を繰り出してくるとは……

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