最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

178話 三兄妹

 冒険者ギルドは酒場も兼ねている為、昼間でも人が多い。ブルーバードに勝るとも劣らない賑やかさで、クロト達もすっかり紛れ込んでしまっている。


「なんだか久しぶり」


 席について飲み物だけ頼み、一息つく。
 街についてから休憩をしてなかったから足も腰も疲れて思ったよりもヘトヘトだった。


「ついこの間までブルーバードに居たんだけどな。それにしてもレオ達は居ないし、まだ着いていないのかそれとも別の場所にいるのか……」

「変な噂も聞いたしね……」


 ここに来るまでに二つの噂を聞いた。一つはこの街にドラゴン騎士団が滞在しているという事。もう一つはウェヌス盗賊団アルバレス支部が何者かによって壊滅した。更にはそれに続くようにエレノア公爵の判断で、エレノア支部が壊滅させられたらしい。
 元々ウェヌス盗賊団の討伐は考えていたらしいが、アルバレス支部の壊滅を聞いてその流れに乗ることにしたらしい。
 とはいえ壊滅が二日前だということを考えると驚異的なスピードだ。
 加えてあれだけみんなが警戒していたアルバレス支部の壊滅を行ったのが誰なのかも気になる。本部が来ても問題ない程の実力者なのか、それとも……


「考えても仕方ないよ。クロト」


 考えにふけっていた所を、エヴァの声で呼び戻される。


「そうだな、ドラゴン騎士団の事も気になる」

「確かに……アラン団長、懐かしいね」

「もし本当にこの街に居るのなら出会わないように気をつけよう。今は死んだ事になってるしな」

「うん!」


 その後しばしの休憩を楽しみ、俺達はお金を払って冒険者ギルドを出た。
 行く宛も無いが、いつまでもあそこに居ると匂いだけで酔いそうになる。主にエヴァが。メイン通りから少し外れた街道を歩きながら今後のことについて考える。


「クロト!」


 エヴァが袖を引っ張りながら建物と建物の隙間を指差す。
 この建物の向こうはメイン通りに繋がっており、その賑わいがこっちまで伝わってくる。エヴァの指差す方をよく見ると赤い鎧を着た男達が歩いているのが見えた。忘れもしない。肩にドラゴンが彫り込まれた鎧。ドラゴン騎士団だ。


「アラン団長は居たか?」

「よく見えなかったけど、多分」

「そうか……」


 俺は荷物袋を下ろして、中からマントを引っ張り出す。
 これを着れば俺がクロトだと言うことはわからない。ただし、このマントを被った姿は指名手配されている。
その為今までは素顔を晒している方が安全だったが、こんな近くに知り合いがいるとなれば話は別だ。


「とりあえず着よう。魔族と間違えられた方がまだいい」

「…………」


 マントを羽織りながらエヴァが少し不思議そうに見つめてくる。


「どうした?」

「帝国と協力すれば魔族ももっと簡単に倒せるんじゃないかなって」

「……帝国か。国も確かに魔族を倒すのに反対はしないと思う けど……どうしても、どうしてもあいつ等の力は借りたくない。イザベラさんの事もあるし、信用できないしな」

「そっか……ごめん」

「いや、謝ることじゃないよ。とにかく様子を探りつつ身を潜めよう。ドラゴン騎士団が何故ここに居るのか、知る必要もある」

「うん!」


 距離を取る為にドラゴン騎士団と反対側に歩き始めた時、俺とエヴァの頭に声が響き、足を止める。





「全然変わってなーい!」


 一面真っ黒の大地を軽やかに駆けながら、エヴァは久々の地獄に懐かしさを感じていた。俺はついこの間帰ってきたが、その時はまだエヴァも目覚めていなかったっけ。
 ドラゴン騎士団から離れようと歩き出した時、丁度ハデスから連絡があった。そんな事が出来たのかと若干驚きつつも至急地獄へ帰ってきて欲しいとの事でこうやって帰ってきたわけだ。


「アルギュロスも居るかな?」

「ああ……あ、そうだ。少し驚くかもな」


 アルギュロスは俺が昔助けたジャイアントウルフで、一時期は共に旅をした仲間だ。
 黒い宮殿に向かう途中、エヴァにアルギュロスに子供が生まれた事を伝えると、かなり驚いた様子だったが同時に嬉しそうでもあった。
 ハデスの用事は気になるが、丁度俺からも話したい事があったのでちょうど良くもあった。


「バウッバウッ!」


 黒い宮殿が近づくと、遠くの方から鳴き声が聞こえくる。しばらくすると声のした方向から三匹のウルフ達が元気よく走ってきた。子供、とは言ってもジャイアントウルフとケルベロスのハーフなので既にアルギュロスの半分程度の大きさはある。


「あ!あれが……可愛い〜!」


 みるみる近づいてきた三匹は俺達を前に急停止し、興味深そうに鼻をひくつかせている。二頭の白ウルフと三頭の白ウルフはエヴァに頭を突き出し、気持ち良さそうに撫でられているが、黒い一本頭のウルフはフンっと顔を背けている。この前来た時には一匹残らずじゃれてきたのに、何かあったのだろうか。


「主!」


 いつの間にか傍らにアルギュロスが居た。


「前に会った時より随分個性が出てきているな」

「はぁ、それがですね……」


 アルギュロスの話によればこの時期からかなり体格と性格面がかなり成長し、更には形成も終わるそうだ。
 つまりこの三匹もこの間と違い、それぞれの個性が出てきたわけだ。白い二匹は随分懐っこそうだが、黒い一本頭はなんだかツッパった感じだな。


「結構やんちゃでして……強いんですけどね」

「へぇ ま、話でもしてみるか」


 アルギュロスも困っていそうなので、少し話でもしてみようと近づく。俺が何か言っても変わるかどうかわからないが、新しい刺激を与えてみるのもいいだろう。


「よ! お前名前は?」

「……メラン。お前は親父の知り合いか」


 凛々しい声で返事が返ってくる。男の子なんだな。


「そうだな、地上から来たんだ」

「地上……」

「こら! クロトさんにそんな口の聞き方しない!」

「レウコンは黙ってろ」


 隣からレウコンと呼ばれた二本頭の白いウルフが注意するが、メランは悪びれる事も無く答える。気難しい年頃らしい。


「ちょっとクロトに似てるね」


 それはどういう意味だい。エヴァさん。


「俺はクロト。随分尖ってるみたいだがどうかしたのか?」

「…………」

「実は、早く地上に出たいそうなんです。自分の強さを証明する為に地上で暴れるって……」

「レウコン! 余計な事言うな」

「でも……」


 兄妹としては心配なのだろうか。しかし地獄にもそういう文化はあるんだな。なんというか、地上への憧れが。幼き俺の帝国への憧れと重なるな。


「じゃあ俺と勝負してみるか? 地上には俺より強いやつがゴロゴロ居る。俺に勝てないようじゃあ、まだまだ地上で暴れるなんて無理だ」

「なに……わかった。やってやる」

「がんばれー!」

「ちょっと、メラン!」

「兄ちゃん……」


 レウコンは止めようとし、三本頭のウルフは心配そうにメランを見ている。まぁ、ちょっとびっくりさせるぐらいだ。
 エヴァに二匹を遠ざけてもらい、周囲には誰もいない状態になった。俺とメランが一対一で向き合っている形だ。


「行くぜ」

「バゥゥ」

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