最弱属性魔剣士の雷鳴轟く
174話 奥義、再び
「おじゃましまーす……誰も居ない、よね……?」
パンツェや団員達を抜けて、アジトへ到達したリュウは玄関ホールで立ち尽くしていた。
外とは打って変わって静かな空間。気配も全く無く、それがまた不気味さを醸し出している。
「レオは地下に行けって言ってたっけ……? でも地下ってどうやって行くんだよ……」
周囲を見渡しながら探索を始める。
「こういう時こそ竜鎧装の真の力、五感リンクが使えるんだろうけど……俺あれ下手だしなぁ……」
巨大な玄関ホールには右に上へ登る階段、左に通路が続いており、正面には気持ちの悪い悪魔のようなものを奉った祭壇がある。
一先ず地下ということは右の階段は無いだろうと考え、左の通路へリュウは足を進める。
◇
「アタイらを」
「一掃する、ですか」
パンツェら四人と三桁に近い数の団員に囲まれ、まさに絶体絶命と言える状況下にいるにも関わらず、レオは余裕そうに笑みを浮かべている。全員がレオに武器を構え、その全方位を囲っている。唯一エルデナのみは二つに折れた大剣を下に下げ、棒立ちしている。
「至天破邪剣征流 奥義!」
レオは一度だけエルデナにアイコンタクトを取り、「怪我したくなかったら下がっておけよ」と伝え、抜刀の構えを取り集中力を高める。
レオを中心に肌で感じるほどの圧が生まれる。その重圧にパンツェはおろか、他の誰も一歩を踏み出せない。なにか巨大な生物に睨まれているかのような、そんな緊張感がこの場にいる全員を襲う。
「薙払の型 『神薙麒麟暴』!」
レオが抜刀すると切っ先から『大空を舞う龍の轟爪』よりも太く速い斬撃が走り抜ける。
続けてあらゆる方向へ次々に抜刀し、斬撃を飛ばす。更に一つの斬撃が二つの斬撃に分かれ、お互いが反発して更に別の斬撃を生む。レオから放たれた大砲の如き斬撃は次々に数を増やし、〈猿狩り〉や団員達の間を駆け抜ける。
本来、『神薙麒麟暴』は正面の敵や障害物を斬り裂いて走り進む技だが、それは対象が一人での場合であり、一対多を得意とするのが今の形だ。周囲の木々は切り倒され、アジトには綺麗に斬られたような跡が次々と残る。団員達は切られたり衝撃で吹き飛ばされたりで既に半壊している。地面をえぐり飛ばすほどの斬撃に誰も対抗できていない。
パンツェは羅生門、クレフィは結界でラスカと共に身を守ったが、それもあっさり破られ、吹き飛ばされている。エルデナは正面から大剣でガードしたが、それも砕け、全身に浅くはない傷を作って倒れた。一応急所は避けたようだが助かるかどうかはわからない。
「こ、これは……」
「斬撃が……嵐みたいに……」
「と、閉じ込められた!?」
一つ一つの斬撃が別の斬撃とぶつかり、反発し続けた結果、大量の斬撃が竜巻を描くように巨大な斬撃の牢獄を作り出した。レオ、〈猿狩り〉、団員達を取り囲むその斬撃の牢獄は一切の隙が無い。
だが、まだまだレオの動きは止まらず、竜巻は密度を増していく。
「何も適当に斬撃を飛ばしていたわけじゃない。ある一定の動きと速度で斬撃を飛ばし続ければ、斬撃同士が流れを作り巨大な竜巻を引き起こす」
「全ての軌道を読んでいたのですか……」
「いいや、読んでいたわけじゃない。そうなるように斬撃を飛ばしただけだ」
「あまり頭のいい人には見えませんでしたが……戦闘センスは頭一つ抜けているようですね」
「そんな悠長にしてていいのか? この竜巻は収束するぞ」
舞いを終え、銀月を鞘に仕舞いパンツェに向き直る。が、そんな話をしている時間はない。現在、竜巻は規模を縮小していき、団員達も逃げ場が無くなり次々に斬られ、弾かれている。
ただの斬撃ではなく相当な威力のこもった斬撃。一つ一つの勢いが普通の斬撃とは桁違いだ。
「パンツェ様! 竜巻が迫ってきます!!」
「なるほど……ですがこの竜巻は貴方も飲み込まれるのではありませんか?」
「お前達を一掃できればそれでいい。現にお前達は逃げ場がもう無いんだからな」
「果たして、本当にそうでしょうか。確かに周囲、そして上は塞がれていますが、まだ逃げ道はあるように見えますよ」
「…………逃げるのをおれが何もせずに見逃してくれるといいな」
レオは再び腰を落とし、抜刀の構えを取る。
「土術 砕土沈下!」
砕土沈下、文字通り地面を砕いて下へ潜る術。攻撃に使われることは滅多に無く、また、回避としても燃費の悪さから使われる事はほとんどない。だが、こんな状況では光る術。パンツェが右腕を地面に付けようとしたその時……
「青きは聳孤」
一閃の青い光がパンツェをすり抜け、寸前まで地面に届きかけていた右腕は、文字通り地へ“落ちた”。ドバっと血が溢れ、パンツェは肘から先がない右腕を抑え、苦悶の表情を浮かべる。
「な……ぐぁ……ぁぁぁ……」
「流石に泣き喚いたりはしないんだな」
すぐに状況を読み取ったパンツェは自らの鉄術で腕を縛って止血を行い、痛みに震えながらもレオを睨みつける。
「私……達は〈猿狩り〉ですよ……狩る側であって狩られる側ではない……」
「猿狩り?」
「猿という生き物……一部では自惚れを象徴するそれを狩ると名前に冠している、つまりは思い上がったバカ共を狩るのが私達の仕事です。狩られてたまるものか……クレフィさん、ラスカさん。立ってください まだ仕事は終わっていませんよ」
クレフィもラスカも数カ所を斬られている。決して軽症ではない。しかし、リーダーのパンツェに従う彼女らは無理にでも立ち上がる。エルデナは元より戦意が喪失していた為、パンツェも呼びかけなかったのだろう。
「根源はお前か……赤きは炎駒!」
鋭くて速い、それでいて浅い斬撃がクレフィとラスカのお腹に走り、その速さから生まれる摩擦と痛みのショックでギリギリまで保っていた意識が切れ、倒れる。本来は断面が焼け付くほどの威力を放つ炎駒だが、威力は抑えられ、気絶程度で済んでいる。
「おのれ……全員でかか……」
「周りを見ろ、もうお前だけだ」
〈猿狩り〉のパンツェを除く三人も倒れ、団員達も迫りくる竜巻にほとんど飲み込まれて斬り裂かれた。
飲み込まれていない者も、既に戦いで傷を負い、倒れている。
「おれの育った国にこんな言葉がある。“ミイラ取りがミイラになる”……自惚れを狩っているうちに有頂天になっていたのはお前だったようだな」
「……クッ」
「猿を狩っていた猿が、思い上がっちまったが最後、麒麟に食い殺される。白き索冥!」
地面を削るように下から上に斬撃が放たれ、パンツェの胴体に深い傷を付ける。そのままパンツェは倒れるが、それで終わりではない。
神薙麒麟暴はもう殆どの団員を飲み込み、もうすぐ〈猿狩り〉の四人も飲み込もうとしていた。
「……黒き甪端」
レオが金打すると、竜巻にいくつもの斬撃が走り、斬撃同士が相殺され、竜巻が砕け散る。
聳孤、炎駒、索冥、甪端……これらは神薙麒麟暴を完璧にマスターした者にのみ使えるとされる言わば超奥義。一つ一つが奥義級の威力を持っている。
「はぁ……はぁ……」
アジト周辺の森は殆どの木が斬り倒され、アジトにも巨大な傷跡が何本も走っている。団員、〈猿狩り〉を含む全員が倒れており、戦いの結果は明白。とはいえ、レオも無傷ではない。銀月を鞘から外し、杖のように立てながら荒い息をついていた。
ウェヌス盗賊団アルバレス支部アジト前。
団員三百名以上、三剣獣、〈猿狩り〉が全滅。
勝者レオ。
残るは支部長ラファーム・フォルター、ただ一人。
パンツェや団員達を抜けて、アジトへ到達したリュウは玄関ホールで立ち尽くしていた。
外とは打って変わって静かな空間。気配も全く無く、それがまた不気味さを醸し出している。
「レオは地下に行けって言ってたっけ……? でも地下ってどうやって行くんだよ……」
周囲を見渡しながら探索を始める。
「こういう時こそ竜鎧装の真の力、五感リンクが使えるんだろうけど……俺あれ下手だしなぁ……」
巨大な玄関ホールには右に上へ登る階段、左に通路が続いており、正面には気持ちの悪い悪魔のようなものを奉った祭壇がある。
一先ず地下ということは右の階段は無いだろうと考え、左の通路へリュウは足を進める。
◇
「アタイらを」
「一掃する、ですか」
パンツェら四人と三桁に近い数の団員に囲まれ、まさに絶体絶命と言える状況下にいるにも関わらず、レオは余裕そうに笑みを浮かべている。全員がレオに武器を構え、その全方位を囲っている。唯一エルデナのみは二つに折れた大剣を下に下げ、棒立ちしている。
「至天破邪剣征流 奥義!」
レオは一度だけエルデナにアイコンタクトを取り、「怪我したくなかったら下がっておけよ」と伝え、抜刀の構えを取り集中力を高める。
レオを中心に肌で感じるほどの圧が生まれる。その重圧にパンツェはおろか、他の誰も一歩を踏み出せない。なにか巨大な生物に睨まれているかのような、そんな緊張感がこの場にいる全員を襲う。
「薙払の型 『神薙麒麟暴』!」
レオが抜刀すると切っ先から『大空を舞う龍の轟爪』よりも太く速い斬撃が走り抜ける。
続けてあらゆる方向へ次々に抜刀し、斬撃を飛ばす。更に一つの斬撃が二つの斬撃に分かれ、お互いが反発して更に別の斬撃を生む。レオから放たれた大砲の如き斬撃は次々に数を増やし、〈猿狩り〉や団員達の間を駆け抜ける。
本来、『神薙麒麟暴』は正面の敵や障害物を斬り裂いて走り進む技だが、それは対象が一人での場合であり、一対多を得意とするのが今の形だ。周囲の木々は切り倒され、アジトには綺麗に斬られたような跡が次々と残る。団員達は切られたり衝撃で吹き飛ばされたりで既に半壊している。地面をえぐり飛ばすほどの斬撃に誰も対抗できていない。
パンツェは羅生門、クレフィは結界でラスカと共に身を守ったが、それもあっさり破られ、吹き飛ばされている。エルデナは正面から大剣でガードしたが、それも砕け、全身に浅くはない傷を作って倒れた。一応急所は避けたようだが助かるかどうかはわからない。
「こ、これは……」
「斬撃が……嵐みたいに……」
「と、閉じ込められた!?」
一つ一つの斬撃が別の斬撃とぶつかり、反発し続けた結果、大量の斬撃が竜巻を描くように巨大な斬撃の牢獄を作り出した。レオ、〈猿狩り〉、団員達を取り囲むその斬撃の牢獄は一切の隙が無い。
だが、まだまだレオの動きは止まらず、竜巻は密度を増していく。
「何も適当に斬撃を飛ばしていたわけじゃない。ある一定の動きと速度で斬撃を飛ばし続ければ、斬撃同士が流れを作り巨大な竜巻を引き起こす」
「全ての軌道を読んでいたのですか……」
「いいや、読んでいたわけじゃない。そうなるように斬撃を飛ばしただけだ」
「あまり頭のいい人には見えませんでしたが……戦闘センスは頭一つ抜けているようですね」
「そんな悠長にしてていいのか? この竜巻は収束するぞ」
舞いを終え、銀月を鞘に仕舞いパンツェに向き直る。が、そんな話をしている時間はない。現在、竜巻は規模を縮小していき、団員達も逃げ場が無くなり次々に斬られ、弾かれている。
ただの斬撃ではなく相当な威力のこもった斬撃。一つ一つの勢いが普通の斬撃とは桁違いだ。
「パンツェ様! 竜巻が迫ってきます!!」
「なるほど……ですがこの竜巻は貴方も飲み込まれるのではありませんか?」
「お前達を一掃できればそれでいい。現にお前達は逃げ場がもう無いんだからな」
「果たして、本当にそうでしょうか。確かに周囲、そして上は塞がれていますが、まだ逃げ道はあるように見えますよ」
「…………逃げるのをおれが何もせずに見逃してくれるといいな」
レオは再び腰を落とし、抜刀の構えを取る。
「土術 砕土沈下!」
砕土沈下、文字通り地面を砕いて下へ潜る術。攻撃に使われることは滅多に無く、また、回避としても燃費の悪さから使われる事はほとんどない。だが、こんな状況では光る術。パンツェが右腕を地面に付けようとしたその時……
「青きは聳孤」
一閃の青い光がパンツェをすり抜け、寸前まで地面に届きかけていた右腕は、文字通り地へ“落ちた”。ドバっと血が溢れ、パンツェは肘から先がない右腕を抑え、苦悶の表情を浮かべる。
「な……ぐぁ……ぁぁぁ……」
「流石に泣き喚いたりはしないんだな」
すぐに状況を読み取ったパンツェは自らの鉄術で腕を縛って止血を行い、痛みに震えながらもレオを睨みつける。
「私……達は〈猿狩り〉ですよ……狩る側であって狩られる側ではない……」
「猿狩り?」
「猿という生き物……一部では自惚れを象徴するそれを狩ると名前に冠している、つまりは思い上がったバカ共を狩るのが私達の仕事です。狩られてたまるものか……クレフィさん、ラスカさん。立ってください まだ仕事は終わっていませんよ」
クレフィもラスカも数カ所を斬られている。決して軽症ではない。しかし、リーダーのパンツェに従う彼女らは無理にでも立ち上がる。エルデナは元より戦意が喪失していた為、パンツェも呼びかけなかったのだろう。
「根源はお前か……赤きは炎駒!」
鋭くて速い、それでいて浅い斬撃がクレフィとラスカのお腹に走り、その速さから生まれる摩擦と痛みのショックでギリギリまで保っていた意識が切れ、倒れる。本来は断面が焼け付くほどの威力を放つ炎駒だが、威力は抑えられ、気絶程度で済んでいる。
「おのれ……全員でかか……」
「周りを見ろ、もうお前だけだ」
〈猿狩り〉のパンツェを除く三人も倒れ、団員達も迫りくる竜巻にほとんど飲み込まれて斬り裂かれた。
飲み込まれていない者も、既に戦いで傷を負い、倒れている。
「おれの育った国にこんな言葉がある。“ミイラ取りがミイラになる”……自惚れを狩っているうちに有頂天になっていたのはお前だったようだな」
「……クッ」
「猿を狩っていた猿が、思い上がっちまったが最後、麒麟に食い殺される。白き索冥!」
地面を削るように下から上に斬撃が放たれ、パンツェの胴体に深い傷を付ける。そのままパンツェは倒れるが、それで終わりではない。
神薙麒麟暴はもう殆どの団員を飲み込み、もうすぐ〈猿狩り〉の四人も飲み込もうとしていた。
「……黒き甪端」
レオが金打すると、竜巻にいくつもの斬撃が走り、斬撃同士が相殺され、竜巻が砕け散る。
聳孤、炎駒、索冥、甪端……これらは神薙麒麟暴を完璧にマスターした者にのみ使えるとされる言わば超奥義。一つ一つが奥義級の威力を持っている。
「はぁ……はぁ……」
アジト周辺の森は殆どの木が斬り倒され、アジトにも巨大な傷跡が何本も走っている。団員、〈猿狩り〉を含む全員が倒れており、戦いの結果は明白。とはいえ、レオも無傷ではない。銀月を鞘から外し、杖のように立てながら荒い息をついていた。
ウェヌス盗賊団アルバレス支部アジト前。
団員三百名以上、三剣獣、〈猿狩り〉が全滅。
勝者レオ。
残るは支部長ラファーム・フォルター、ただ一人。
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