最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

172話 火竜砲

 再び戦意を奮い起こし、団員達がレオに迫る。
 レオも迎え撃つように抜刀の構えを取るが、流石に限界が近いのか一瞬だけふらっと倒れかける。なんとか踏みとどまるが無意識に集中力が切れてしまった為技が出ない。


「……ッ!」


 迫ってくるナイフや矢を単純な運動神経と銀月のみで受け切る。
 右から飛んでくる矢をかわし、左後ろから刺してくるナイフを銀月で上に弾き、そのまま回転に合わせて横一文字に振り切る。
 とはいえ技のないただの斬撃ではこの人数は相手しきれない。


至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 薙払の型 『狂乱の太刀』!!」


 無理矢理はなった四連撃が迫り来る団員達を跳ね飛ばすが、相手はまだまだいる。
 矢やナイフを避ける為に少しずつ下がっているが、とうとう森の木に背がついてしまう。団員の一人が狙いを定めるようにナイフを刺すように構えながらジリジリとにじり寄る。


火竜砲カノン・オブ・サラマンダー!」


 レオが一か八かの賭けに出ようとした時、とある声が響き、敵が視界から消える。正確にはレオの視界を右から大砲のような衝撃で五メートル以上も燃え盛っている業火が横切り、団員達もまとめて吹き飛ばした。
 さっきまでの状況がたった一度の攻撃で一変する。


「お、おーい……大丈夫かー?」


 先程の声とは違い、弱々しい声が聞こえてくる。レオはその方向を一目見て新手ではないことだけを確認し、肩を落とす。


「お前、クロトの所に帰ったんじゃなかったのか」


 木の影から顔の半分だけを覗かせているのはリュウだ。


「だって……仕方ねーだろ。あんなもん見ちまったら……」

「あんなもん?」





 遡る事約一日。
 レオと別行動を取ることになったリュウは最初はレオの身勝手に怒りながら森を進んでいた。


「ったく、なんだよ強い奴強い奴って! いくら顔見られたからってわざわざ追いかけることないだろ!相手の規模もわからないのに……そもそも一人で行くことないだろ!仲間連れて行けよ!!……ん? レオが一人ということは……お、俺も一人って事じゃねーか! こんな所で一人!? う、嘘だろ……だってウェヌス盗賊団が他にいる可能性だって……レ、レオはどっちに……」


 今の現状を再確認したリュウは途端怯えたように周りを混渡す。
 こうなれば全てが恐怖の対象になる。ただ木が揺れる音でも、自分が後ずさった時に踏んでしまった木の枝が折れる音でも……


「レオを探さないと……いやでもあいつはウェヌス盗賊団に喧嘩売りに行ったんだよな……どっちにしろ駄目じゃねーか。クロトだ、クロトの所に……ってどこにいんだよ!!」


 自問自答、いや自ボケ自ツッコミをかました時に地面に投げつけた荷物から食料や寝袋等が溢れ、特に慌てた様子もなくそれをせっせと片付ける。
 その時、手を伸ばした先に人間の足の様な物が目に入る。


「…………フゥフィンッ!?」


 飛び上がりながら、後ろへ下がり、木の後ろに隠れる。


「ななななななんだよ今の……人の足!? 足だよな足……でもなんで足……人……死んでる!? いや、まだ決めるには早い……とりあえずもう一回……」


 もう一度確認するようにさっきの足を見る。裸足の足が見える。脛より上は木に隠れてしまって見えない。


「誰か……居るの?」


 その時、丁度若い女の人の声がしてリュウは再び飛び上がる。


「あ、あの……どうしたんですか?」


 とはいえ生きているとわかれば最悪の事態を想定していたリュウにとっては少し気持ちが楽になった。
 意を決して木の影から出て、未だ足しか見えない女性に話しかける。


「まさか……こんな所で……最後に人に会うとは……」


 生気のない声色と最後という言葉にただならぬ気配を感じ、女性に近づく。
 女性は赤毛を肩程まで伸ばしているが、その髪はどこかボサボサで、来ている服も所々が破れていたり、泥で汚れていたりと綺麗とは言えない。さっきまで怖がっていたリュウだが、すぐに女性の頭を少し上げ、無事を確かめる。


「大丈夫か……?」

「私は……もう死ぬわ」

「な、何言ってんだよ。死なれても困る!!」

「少し前までは……冒険者としてそれなりに活躍してたんだけどね……ウェヌス盗賊団に手を出したのが間違いだった。仲間は皆殺されて、私も殺されると思った でも支部長が私を気に入ったらしくて、趣味だと言って散々拷問されて……苦しかったなぁ……」

「しっかりしろ! すぐに近くの街まで連れて行く。竜鎧……」

「お願い、聞いて……私の体はもう何をしても元には戻らない。あの魔石をもう三ヶ月以上も投与され続けたもの……一週間や二週間なら何とかできる……かもしれないけど……
そう、ある日私は解放されたの……今思えば死体を処理するのがめんどくさかったのかな……それが昨日。嬉しかった……やっとこの地獄から解放されるんだと……でも現実は違った。この三ヶ月間で私はここまで弱っていた」

「そ、そんなに何をされたんだよ……とにかく死なないでくれよぉぉ、俺の仲間もウェヌス盗賊団追って行っちまったしよ!!」

「それは……早く追いかけた方が……ゴホッ……ゲホッゲホッ……これで……本当に解放だ」


 そのままカクンと首が垂れ、女性は眠る様に息を引き取った。
 リュウは内心パニック状態だったが済ませる事を済ませ、レオを追いかけるため一気に駆け出す。





「……そんな事が……ともかく助かった。休憩も終わりだ、構えろ!」

「えぇ、俺も戦うの!?」

「なんの為に来たんだよ、行くぞ」


 リュウの炎により多少は数は減ったが、それでも団員の数はまだまだ残っている。リュウが参戦したとしてもレオの疲労が回復するわけじゃない。


「これはこれは……三剣獣まで倒され、団員の数も半分を切っている。一人で乗り込んで来るだけはあります……と言っても今は二人ですか」

「誰だ?」


 団員達が道を開けるように立ち退くと、そこには四人の人影がいた。正面に立つはパンツェ。優しい表情を浮かべてはいるが、本性ではない。その後ろに赤髪の小柄な少女、ラスカ。緑髪のクレフィ、大剣を持った黒髪の大男、エルデナの三人が並ぶ。
 〈猿狩り〉の四人だ。


「パンツェ様だ!」

「助かった!」

「まだまだ行けるぞ!」


 〈猿狩り〉の登場にウェヌス盗賊団の士気が再び上がる。


「戦うしかないのかよ……」

「やらなきゃ死ぬぞ」

「わかってるよっ!竜鎧装 全身フルメイル! 来い! 竜牙閃デストリカオ……ってなんだこれ……」


 全身に竜の鎧を纏ったリュウが全身フルメイル時にのみ呼び出せる竜鎧装の槍、竜牙閃デストリカオを手の上に呼び出す。が、それは冷気を放っており、刃の部分も氷のようなものに覆われている。


「もしかして……グラキエースドラゴンの力が竜牙閃デストリカオに?」

「……?」

「竜を鎧に戻すと、それぞれの部位にその力が戻るんだ。火竜サラマンダーなら篭手に、土竜ロックドラゴンなら鎧に……そして氷竜グラキエースドラゴンなら竜牙閃デストリカオに……!!」

「なんでもいい、来るぞ」

「よーし、行くぞ。竜牙氷絶閃グラキエース・デストリカオ!」


 レオは抜刀の構えを取り、リュウも氷槍を構える。

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