最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

168話 拷問

「んー……大丈夫かなぁ……」


 クエイターンに着いた翌日の朝。日が昇る少し前に俺達は二人一組に分かれて出発した。最後までリュウは恨めしそうにこっちを見ていたが、仕方がないんだ。
 現在は小さな森の中で一休みしている。エヴァもまだ復活したばかりで本調子とは言えないので、少しずつペースを上げている。


「どうしたの?」

「リュウとレオ、大丈夫かなと思って」

「あの二人は強そうだし大丈夫だよ」

「だからこそ……ウェヌス盗賊団に手を出さなければいいんだけど……」

「……確かに」


 シエラとリンリはそれこそ何事もなさそうなんだがなぁ……





「レ、レオ? どうしたのどうしたの!!」


 同じく森で休憩を取っていた……というよりリュウが無理矢理取らせた休憩中に突然レオが立ち上がり銀月を構えたのだ。
 辺りを探るように目を動かし、何かに警戒している。


「静かにしろ、居るぞ」

「居るってな……!?」


 リュウが叫んでいる途中にヒュっと空を切る音が聞こえ、リュウのすぐ隣の木に矢が刺さっていた。


「……矢……矢ぁ!?」

「来るぞ!」


 予言通り草むらや木の影から一斉にウェヌス盗賊団員が現れた。その数、十から二十前後。
 その中の三人の男が一斉にレオに斬りかかる。レオは特に驚く様子もなく静かに狙いを定めて……


至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『虎武璃とらぶり』!!」


 見事に三人同時に斬り捨て、更には斬撃の衝撃で周りをも威圧する。


「リョウ! 戦え!死ぬぞ!」

「リュウだよ!誰だよリョウって! あぁぁ!もう! 竜鎧装りゅうがいそう アーム!」


 リュウも腹を括ったように右腕に鎧を纏う。
 一人の男が斬りつけてくるナイフをその腕でガード、そのまま払い除けて女が放った矢の軌道を腕でずらして避ける。


至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 薙払の型 『狂乱の太刀』!!」


 無差別に放たれた四つの斬撃が木の枝や地面を削り、前方に群がる団員を牽制する。


「ぐへぁぁ」


 リュウの拳が男の顔面を捉え、そのまま投げ飛ばす。


「こ、こいつら強い」

「一旦退くぞ! ラファーム様に報告だ!」 


 勝ち目が薄いと悟ったか、団員達は蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。


「逃げるなら来るな」

「でも……どうしよう? 顔とか見られてるよ。アレがウェヌス盗賊団だとしたら……」

「……追う」

「で、でも待って! 支部に手を出せば本部が動くって……」

「クロトに伝えてくれ。『おれはウェヌス盗賊団と戦ってみたい。じゃあな』って」

「な、何言ってるんだよ お前それ自分が犠牲になるってことだぞ!」

「何言ってんだ。おれは強者と戦う為にここまで来たんだ。相手が国も手を出せないほどの盗賊団? 上等!」


 それだけ言い残し、レオは自分の荷物を担いで盗賊団が逃げた方に走っていった。


「あーー!!もう! 知らないからな!」





「オラァ! 起きろ!」


 水を顔にかけられ、その冷たさにサエは目を覚ます。
 一番に目に入ってきたのはウェヌス盗賊団と思わしき若い男とパンツェ達にラファームと呼ばれていた男。相変わらず葉巻をくわえており、サエを見て不敵に笑っている。
 周りを見ると、石レンガで出来た部屋で窓はない。サエ自身も天井から吊るされた鎖で手を拘束されている。
 両手を上げている形だ。


「こ、ここは……」

「ウェヌス盗賊団アルバレス支部アジト……俺様の城さ。プリティガール、ようこそ?」

「何が目的よ……なんで……なんでパンツェ達を使ってまで私を!」


 食って掛かるサエの頬をガシッと掴んで黙らせ、ラファームは静かに呟く。


「粋がっちゃぁいけないよ、プリティガール。俺様がお前を連れてきたのはお前が俺様達ウェヌス盗賊団を狙っていたからだ。パンツェ達〈猿狩り〉は俺様達と契約させている冒険者パーティよ。稀に現れる自分の力量も弁えずに俺様達に逆らってくる自惚れたバカを狩るためにあの街に置いていた言わば刺客……危険の芽は若いうちから摘んでおく。いくら俺様達が強くたって敵を侮らないのが最強の秘訣だ」

「む……むぅ……」

「おっと、これじゃ喋れねぇか」


 ラファームは手を離し、サエの口を解放する。


「確かに私はウェヌス盗賊団に固執していた。でも今は違う!仲間が出来たから……」

「おやおやぁ? その“仲間”に拘束され、殴られたのをお忘れかぁ? プリティガール」

「…………」


 思い出したくない現実を突き付けられ、サエは思わず歯を食いしばりながら俯く。


「危険を排除するだけでなく、俺様の趣味も同時に兼ねるという賢い方法さ。プリティガール、君はもう助からない。諦めな」

「……趣味?」

「ふふふはははっ! 気になるかい? いいだろう!教えてやる。君みたいな小娘に希望を与えて絶望に叩き落とす、そんな様を見ながら酒を飲む それが俺様の趣味さ」

「…………悪趣味」

「特にプリティガールの様に気の強そうな女は楽しみ甲斐がある。せいぜい楽しませてくれよ?」


 ラファームは気持ち悪い程のニヤケ顔でサエを一瞥した後、近くの棚に入っている錠剤サイズの小さな魔石を取り出し、無理矢理サエの口に放り込む。
 口と鼻を塞がれ、不覚にもその魔石を飲んでしまったサエの体にすぐに変化が訪れる。


「な、なにこれ……体の中が……気持ち悪い」

「今の魔石はプリティガールの魔力の流れを掻き乱す魔石さ。昔の偉人が唱えた一説にこんなものがある。『体に流れる魔力は魔術を使うだけだなく、人間の生命活動にも関与しているのではないか』……例えば痛み。人間の皮膚を同じく人間の手で叩いたところでそれなりの痛みはあるが、失神したり絶叫する程の痛みはないだろう。しかしそれは魔力が皮膚を防御しているからではないか……という説」

「な、何を言って……」

「その説が本当なのかどうか、それは未だ解明されてはいない……が、その説を後押しするようにこんな魔石が生まれた。今プリティガールが飲んだ魔石さ。魔力の流れを掻き乱し、痛みを数倍にまで引き上げたり……いや、引き上げるというよりも本来の状態へ戻すと言った方が正しいか。その他にも生命活動に支障をきたらせる……表の世界では所持すらも禁忌に触れる。まぁ体験してもらう方が早い」


 話についていけないサエを他所にラファームは袖をまくり、サエに近づく。


「う……ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ラファームの拳がサエの無防備な腹を躊躇なく殴る。ラスカの打撃に比べれば全く痛くない程の拳だったが、今のサエには激痛。腹部から痛みが伝わり、全身が痺れ、痛みが駆け抜ける。


「ぐ……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」


 そのまま拳を捻って腹に食い込ませる。本来なら痛くも何ともないだろうが、今のサエは吹く風すらも激痛に変わる。


「プリティガール……まだまだ壊れないでくれよ? 俺様の大事な“玩具”なんだから……」

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