最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

161話 再確認

「ふぅ、疲れた……」


 厚めの扉を押し開けながらため息混じりに呟く。中はシンとしていて入店を知らせる鐘だけが小さくなっている。


「あ、おかえりなさい」


 机に向かって何かしていたナイアリスが振り返り手を振る。武器の整備でもしてたんだろうか。中にはレッグとナイアリスしかおらず、ヴァランや〈シルク・ド・リベルター〉のメンバーはいなかった。
 まだ昼頃で、俺達も昼飯でも食べようかと帰ってきたので、皆ももうすぐ帰ってくるかもしれない。因みにリンの水中訓練は午後からみっちりやる……遅れた分を取り戻すために難易度を格段に上げるそうだ。


「おう、人が少ないな」

「ヴァランならマーダラービーを狩りにね。お酒の原材料になるんだってさ」


 そういえば昔もそんな事言ってたっけな。


「てかクロトその腕何?」


 なにか信じられないものを見るような目をしながら俺の右腕を指す。言われて右手を目の高さまで上げる。新技を試した結果、ボロボロになった腕だ。木を二本貫通させ、三本目をえぐる程の威力がある代わりに腕へのダメージが尋常じゃない。
 雷化・天装衣ラスカティグローマで試してみたがそうすると腕の方が技に耐えきれず、更には威力が半分以下にまで落ちる。まだまだ改良しないと使えない技だ。


「ちゃんと手当しときなさいよ。シエラならリンリと街に行ってるからしばらく帰ってこないと思うけど……包帯ぐらい巻いとかなきゃ」

「ああ、そうだな……エヴァ頼めるか?」

「はーい」


 エヴァがコトコトと歩いていき、レッグに何か話している。多分包帯の場所を聞いているんだろう。その前に腕を洗ってくるかな。


「いいわね、貴方達は」

「え? なんか言ったか?」

「いや、なんでもない。そういえばもうすぐここを出るんだって?」

「ああ、だいぶ長く居たからな 超決闘イベントの事もあるし、ケルターメンに向かおうと思ってる。一緒に来るか?」

「いや、私はいいわ。一度アイゼンウルブスに帰ろうと思ってるし……でもケルターメンに行くなら気をつけてね」

「何かあるのか?」

「道中で一つと……ケルターメンで一つ。道中に関しては〈シルク・ド・リベルター〉がいれば大丈夫だけどケルターメンでは特に気をつけて」

「だから何なんだよ」

「三人のオリハルコンがいるのよ」


 三人のオリハルコン? 『STRONGER』でよく名前が載るのはマスターボウ、アジェンダ、あとは〈正体不明の霧〉のミストだけど。マスターボウとアジェンダに関しては心配する必要なんてないだろう。てことはミストを含めたとしてもあと二人のオリハルコンが居るのか。


「その三人はオリハルコンの中でもかなり強い……しかも曲者ばかりでマスターボウやアジェンダみたいに仲良くなれると思わないほうがいい……とにかく出会わないように気をつけて」

「どんな奴らがいるんだよ。オリハルコンとは言っても冒険者だろ? そこまで悪い奴じゃないんじゃ……」

「〈鬼帝殺きていごろ三極柱さんきょくばしら〉……三人を総称して人々はそう呼ぶわ。表にはあまり出てこないし、『STRONGER』もあの三人だけは取材しようとしない……でも実力ならランキング上位三名は本来その三人が占めるはずよ」

「そんな奴らが……」

「だから絶対目を付けられないようにしてね。アイツらに目をつけられると九割……いや十割死ぬわ」

「絶対死ぬじゃねーか」

「だから出会っちゃ駄目なのよ」

「でも俺らは特にケルターメンで冒険者稼業をするつもりはないし……関わることがない気がするけど」


 俺が思った事をそのまま口に出すとナイアリスは呆れたようにため息を付き、俺の耳元で周りを警戒しながら呟く。


「相手がアジェンダより強いとわかったら反応するやつが一人いるでしょ。もし喧嘩でも売ったら間違いなく終わりよ」

「あー……なるほど」


 肝に銘じておこう。レオの前でそれを言ってはいけないんだな。


「じゃ、私はもうすぐここを離れるから、また縁があれば会いましょ!」

「ああ、またな」


 しかしレオはいいんだろうか。俺が見てもナイアリスの気持ちはわかる。そんなあっさり引き下がるとは……まぁ超決闘イベントのチケットは持ってるって言ってたし、またすぐ会えるかもな。


「…………」

「……あ、悪いエヴァ。頼む」


 席に戻るナイアリスを見届けていると後ろから視線を感じ、慌てて振り返る。エヴァに謝りながらも右手を差し出すとエヴァはなれた手付きで包帯を巻いていく。


「…………」


 黙々と包帯を巻いていく、エヴァとの間に沈黙が流れる。


『いいか、クロト。女は男が思ってるより不安なんだ。それっぽい行動をしていても実際に言葉にしないと不安になるし苦しい。だからちゃんと言う事言ってやれよ』


 昨日、ブルーバードの手伝いをしている時リンに言われた言葉がふと蘇る。
 確かに……俺はエヴァに結婚の約束もしている。それなのに不安にさせてたらダメだ。ここは男なんだから俺から言わないと……


「……エ」

「ねぇクロト」


 ほぼ同時のタイミングでエヴァも口を開く。


「なんだ?」

「やっぱり……胸の大きい子の方が好き?」

「え?」


 あまりにも予想外な話が来て思わず間抜けな声が出てしまう。エヴァも手が止まってるし顔が赤い。


「急にどうしたんだ?」

「だって……シエラもナイアリスも大きいから……私、小さいし……」


 俯きながら小声でボソボソ喋るエヴァ。しどろもどろしていてなんと言うか……可愛い。


「……どっちも好きだよ。それにそこだけを見てるわけじゃない。エヴァの魅力はそこだけじゃないだろ?」

「……でも……でもっ!」


 少しだけ瞳を潤わせながら顔を上げたエヴァの頭に左手をポンっと乗せて撫でる。


「エヴァ、何度だっていうが俺はエヴァ好きだし、愛してる。今までも、これからも
エヴァだから好きなんだ。代わりになる人なんて居ないよ」

「…………」


 少し潤みが強くなって表情が緩み、無言で抱きついてくる。右腕で抱き返しつつも左手は頭の上をポンポンと叩く。


「ごめん、もう疑わない……ありがとうっ!」

「ああ! 俺も……」

「クーロトちゃーーん!!」


 その時、激しく扉が開き風が店内を吹き抜ける。と、同時にスーツにシルクハット姿のマスターボウが姿を現す。

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