最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

153話 海神の娘

 『麒麟駆け』を放つ為、数歩踏み出したレオに異変が起きた。
 銀月を抜刀する前に体が前のめりになり、白目を剥いて頭から地面へ突っ込んでいった。最初は石に転んだのかと思ったが、よくよく考えればレオはデルダインの電撃を何発も食らっていた。
 ダメージはまだ体に残ってるって事だ。


「え?なになに、それの方が怖いよ。死んだ? え、死んだの?」


 リュウはリュウで喚いてるし……まぁ、レオは放置しててもしばらくしたら目を覚ますだろう。


「とりあえず勝負はなしだ。今のうちにレオから血、採ったらどうだ?」

「あ、うん。そうするよ」


 しかし竜鎧装を纏っていると声も曇るんだな。本当に鎧を付けてるみたいだ。


「その鎧は天装衣とは違うのか?」

「テンソウイ?」

「あーっと、こういうのだ。雷化・天装衣ラスカティグローマ!」


 とりあえず雷化して見せてみる。雷化する時のバチッと音を立てて発生する雷にビビってたが、リュウは興味深そうに見ている。と言っても鎧越しなので表情はわからない。


「いや、天装衣ってのとは違うな。竜鎧装は竜の体を着るイメージだから……体ごと体質を変化させてる天装衣とは違う」


 雷化・天装衣ラスカティグローマを見ただけで体質の変化を見抜いたのか? 思ったより目がいい。レオみたいにバカだけど戦闘センスはいいってタイプだろうか。


「中々の戦力アップでありんすね」

「よろしくお願いします……」

「さぁ、お前ら、終わったなら作業再開だ。今日中に家具は作りきっちまうぞ!」


 ヴァランの号令で再び再建工事が始まる。





「いやぁ、そう言われましてもね……」

「いいから私に任せなさいよ!」


 アルバレス公爵領最東に位置する街、クエイターン。
 この街はアルバレス公爵領でありながら、ヘレリル公爵領、エレノア公爵領と隣接している為、流通も盛んで、人も多く活気にあふれている。
 そんなクエイターンにある冒険者ギルドにて、受付の男と金髪の少女が何やら揉めていた。受付の男はギルドの係員で、金髪の少女は冒険者だ。と言っても新米でまだランクも下から二番目のアイアンだ。
 そして彼女が受けようとしているのはオリハルコン級ですら受けないような高難易度且つ、訳有な依頼。


「私の腕が信用ならないっていうの?」

「いや、そうは言いませんけどね。この依頼はやめておいたほうがいいですよ」


 透き通るような水色の目がぱっちりと大きく、幼気が残る顔立ちの少女は、ワンピースとローブが混ざったような白い服を着ている。その品質はかなり上等な物で、格好こそどこかの貴族かと思うほどである。が、かなりわんぱくで高飛車な部分があり、パーティにも入らずに一人で冒険者をやっていた。いや、入らないというより入れないの方が正しい。
 なるべくきれいな言葉遣いを心がけているが、この様にうまく行かないと素が出てしまうのだ。


「忠告ありがとう。でもやるわ」

「いやぁ、私にこれを受理することはできかねます」

「なによ! 本っっ当に話のわからない奴ね!」

「もし、お嬢さん」


 突然第三者の声が割り込み、二人共抗争をやめ、声の方を向く。見ると、歳はまだ若そうだが小太りで優しそうな目が特徴的な貫禄溢れる男が立っていた。この街では有名な冒険者パーティ〈猿狩り〉のリーダーだ。


「その依頼はかなりレベルも高そうです。どうでしょう、私達のパーティに入って成績を上げてから挑むというのは。それならギルド側も断れませんよね?」


 優しく微笑む男の目には見えない重圧に受付の男も無言で小さく頷く。


「どうですか?」

「……わかったわ! やってやるわよ」

「よろしくお願いします」


 にこやかに手を差し出した男に少しだけ困惑しながらも少女は手を握り返した。この困惑は今までパーティに入らないかなどと言われた事が無かったからだ。


「私はサエよ。よろしく」

「私はパンツェ、〈猿狩り〉のリーダーをしています」


 二人はお互いに自己紹介を済ませ、一旦冒険者ギルドから出た。サエを紹介する為、別の場所で待機している〈猿狩り〉のメンバーの所へ向かうのだ。


「どうして声をかけたの? 私、あんまり自分で言いたくはないけど周りの人から避けられてるわ。今まで一回か二回しかパーティに入ったことないし」

「サエさんからは強い意志を感じました。そんな心を持っている人が、くだらない階級のせいで折れてしまうのが忍びない……と思ったのですよ。幸せな事に〈猿狩り〉はこの辺りではかなりよくしてもらっていますので、なにか力になれたらな、と」

「へぇ……いい人なのね」

「サエさんこそ、言葉遣いは確かに荒っぽい部分がありますが、根は良い方なんでしょう? 少し話をすればわかりますよ」

「ふふ……そうかしら?」


 パンツェのゆったりとした心地良い声色と喋り方でサエもかなり落ち着いていた。そして密かに考えていた。ここなら素の私を出しても迎え入れてくれるかも……と。

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