最弱属性魔剣士の雷鳴轟く
143話 雷神襲来
時は深夜。ブルーバードの正面入口を睨みつけるように立っている一人の男がいた。距離にして五十メートル以上は離れている。男は上裸で、腰には二本の片手剣をさしている。
年齢はその若々しい肉体から四十代にも見えるが、体に対し顔にはシワも多い。だが筋肉で盛り上がった体は老人のそれではない。
白髪を後ろで一つ結びにしており、鋭い目付きは歴戦の戦士も怯むほどの眼光を放っている。
「……雷槍」
男の手の平から放電した雷は槍状に変化し、男の手に収まる。そのまま槍投げの構えを取り、ブルーバード目掛けて投げつける。
雷槍は狙い通り正面入口に激突。入口を中心に爆発を引き起こし、ブルーバードが半壊するという圧倒的な威力を見せた。
◇
時は少し遡る。
ラプツェラの尋問を終えた俺達は一つのテーブルを囲んでいた。メンバーは俺、リンリ、レオ、ナイアリス、マスターボウ、雨刃、アジェンダの計七人。シエラはまだ疲れが取れないらしく、寝ている。月之女神式魔法陣はそれだけ体力を使うらしい。〈シルク・ド・リベルター〉の他メンバーはセントレイシュタンに張ってあるテントで何か用事があるらしい。
昼間はマルスも居たが現在は居ない。どこに行っているかも不明。
カウンターにはレッグとヴァランがラプツェラを見張るついでに店内の掃除をしている。
「ちょっと、いい加減縄をほどきなさいよ」
尋問を終えて五分程度経った頃、ラプツェラが騒ぎ出したが、雨刃が片手剣一本を喉元に突き付け「黙ッテロ」で大人しくなった。
「皆はどこまでが本当だと思うのん?」
「“計画”トヤラノ為ニナントシテモ生キテ帰ルト誓ッテイル奴ガ本当ノ情報ヲペラペラ話ストモ思エン」
「俺も雨刃と同意見だ。ただ、ここへ来た三人の魔族については特徴が当てはまった、少なくともそこは本当だろう」
アンノウンことジャエレダとラプツェラの他にももう一人エンデルという魔族が来ていたらしい。
偶然だが、そのエンデルという男はレオ達が倒していたのだ。つまり生き残っているのは色彩魔女のみ。嘘をついてもバレないが、ここで嘘をついていないのなら多少は信じる余地がある。
「私は計画についてだんまりだった事からその他の情報は多少信じてもいいと思うわよん」
「アア、ダガソレニシタッテ不審ナ点ハ多イゼ?」
「周辺の調査と可能なら強力な冒険者の排除ってやつか」
「あいつが誰に従って動いてるのかはわからないが、魔族がそれをさせる目的ってのは……」
「マァ、戦争ダロウナ。特ニ大魔人ハ数十年前ノ戦争デ人間ヘノ強イ憎悪ヲ持ッテシマッテイル」
「今まで身を潜めてたのも戦力が揃うまでだとしたら、相手に有利な戦争が始まる」
「そもそも帝国で始まった心臓狩り、それに続くように各地の襲撃が始まったわ。それを全て戦争への準備だとしたらとっても厄介だわ〜」
「アア、国王ニデモ報告スル……ン? 今何カ光ッ……」
「伏せろ!」
直後巨大な地響きと共に壁が吹き飛び、全員の体にビリビリと電流が流れる。
ブルーバードの壁と屋根が半分以上吹き飛び、全員がその衝撃で店の奥へ投げ飛ばされる。
テーブルは割れ、爆風でグラスもいくつか割れている。その場にいた九人は咄嗟に伏せた事である程度は防げたが、突然の事で頭が混乱している。
「皆無事カ!」
「なんだ、何が起きた?」
「ゴミが目に入って目が開けられん」
「お、俺の店が……」
煙の合間から見えた景色は光り輝く夜空と遠くに見える森、そして森の前に立っている一人の男。
それがブルーバードの“中”から見えているのだ。
壁は一面が吹き飛び、屋根も半分ほどなくなっている。周りのテーブルや椅子も壊れ、辺りには瓦礫が散っている。
「アレハ……俺ノ目ガ死ンデナイナラアレハ恐ラク……」
「誰だよ、あれ」
「ナンダ、知ラナイノカ?」
「あれは先代国王、デルダイン・エルトリア!?」
「あ、ありえねぇ」
「ヴァラン?」
「デルダイン王は数十年前の戦争で死んだはず……正確には行方不明だが、生存している可能性は絶望的だと」
「実際目ノ前ニ居ルンダカラ仕方ネェ。問答無用デ攻撃シテ来ルッテ事ハ敵ダロウ……本来ナラ有リ得ナイ話ダガコウシテ襲ッテ来テルンダ。考エルノハ後!」
雨刃は既に片手剣を展開し、デルダインらしき男を見据えいる。
マスターボウも落ちてしまったシルクハットを被り直し、服についた埃を払っているが、その目には闘志がみなぎっている。
俺も立ち上がり、改めてデルダインを見る。確かに本で読んだ肖像画によく似ている。だけどその本が正しければ滅茶苦茶強いはず。本気で俺達を攻撃してきているのだとすればこんな強敵はいないぞ……
「痛……」
「どうした? ナイアリス」
まだ仰向けに倒れているナイアリスが小さく悲鳴をあげる。レオが駆け寄ると、その脇腹に木片が刺さっており、血が滲んでいる。
「レッグ、その嬢ちゃんを連れて地下へ!ドクターなら治せる」
「ああ」
「クレセンティーヌを下に置いてきちゃったからこれしか無いけど……どう?マスターボウ。勝てる?」
アジェンダが腰から片手サイズの斧を両手に持ち、マスターボウに話しかける。
「勝率は一割ってところかしら……いや、一割も無いと思ったほうがいいわよん」
「ほぼ負けね。でも、相手が殺しに来てるとしたらここで死ぬわけにはいかないわ」
「レオ、行けるか?」
「クロトこそ、休んでていいぞ。おれが殺る」
年齢はその若々しい肉体から四十代にも見えるが、体に対し顔にはシワも多い。だが筋肉で盛り上がった体は老人のそれではない。
白髪を後ろで一つ結びにしており、鋭い目付きは歴戦の戦士も怯むほどの眼光を放っている。
「……雷槍」
男の手の平から放電した雷は槍状に変化し、男の手に収まる。そのまま槍投げの構えを取り、ブルーバード目掛けて投げつける。
雷槍は狙い通り正面入口に激突。入口を中心に爆発を引き起こし、ブルーバードが半壊するという圧倒的な威力を見せた。
◇
時は少し遡る。
ラプツェラの尋問を終えた俺達は一つのテーブルを囲んでいた。メンバーは俺、リンリ、レオ、ナイアリス、マスターボウ、雨刃、アジェンダの計七人。シエラはまだ疲れが取れないらしく、寝ている。月之女神式魔法陣はそれだけ体力を使うらしい。〈シルク・ド・リベルター〉の他メンバーはセントレイシュタンに張ってあるテントで何か用事があるらしい。
昼間はマルスも居たが現在は居ない。どこに行っているかも不明。
カウンターにはレッグとヴァランがラプツェラを見張るついでに店内の掃除をしている。
「ちょっと、いい加減縄をほどきなさいよ」
尋問を終えて五分程度経った頃、ラプツェラが騒ぎ出したが、雨刃が片手剣一本を喉元に突き付け「黙ッテロ」で大人しくなった。
「皆はどこまでが本当だと思うのん?」
「“計画”トヤラノ為ニナントシテモ生キテ帰ルト誓ッテイル奴ガ本当ノ情報ヲペラペラ話ストモ思エン」
「俺も雨刃と同意見だ。ただ、ここへ来た三人の魔族については特徴が当てはまった、少なくともそこは本当だろう」
アンノウンことジャエレダとラプツェラの他にももう一人エンデルという魔族が来ていたらしい。
偶然だが、そのエンデルという男はレオ達が倒していたのだ。つまり生き残っているのは色彩魔女のみ。嘘をついてもバレないが、ここで嘘をついていないのなら多少は信じる余地がある。
「私は計画についてだんまりだった事からその他の情報は多少信じてもいいと思うわよん」
「アア、ダガソレニシタッテ不審ナ点ハ多イゼ?」
「周辺の調査と可能なら強力な冒険者の排除ってやつか」
「あいつが誰に従って動いてるのかはわからないが、魔族がそれをさせる目的ってのは……」
「マァ、戦争ダロウナ。特ニ大魔人ハ数十年前ノ戦争デ人間ヘノ強イ憎悪ヲ持ッテシマッテイル」
「今まで身を潜めてたのも戦力が揃うまでだとしたら、相手に有利な戦争が始まる」
「そもそも帝国で始まった心臓狩り、それに続くように各地の襲撃が始まったわ。それを全て戦争への準備だとしたらとっても厄介だわ〜」
「アア、国王ニデモ報告スル……ン? 今何カ光ッ……」
「伏せろ!」
直後巨大な地響きと共に壁が吹き飛び、全員の体にビリビリと電流が流れる。
ブルーバードの壁と屋根が半分以上吹き飛び、全員がその衝撃で店の奥へ投げ飛ばされる。
テーブルは割れ、爆風でグラスもいくつか割れている。その場にいた九人は咄嗟に伏せた事である程度は防げたが、突然の事で頭が混乱している。
「皆無事カ!」
「なんだ、何が起きた?」
「ゴミが目に入って目が開けられん」
「お、俺の店が……」
煙の合間から見えた景色は光り輝く夜空と遠くに見える森、そして森の前に立っている一人の男。
それがブルーバードの“中”から見えているのだ。
壁は一面が吹き飛び、屋根も半分ほどなくなっている。周りのテーブルや椅子も壊れ、辺りには瓦礫が散っている。
「アレハ……俺ノ目ガ死ンデナイナラアレハ恐ラク……」
「誰だよ、あれ」
「ナンダ、知ラナイノカ?」
「あれは先代国王、デルダイン・エルトリア!?」
「あ、ありえねぇ」
「ヴァラン?」
「デルダイン王は数十年前の戦争で死んだはず……正確には行方不明だが、生存している可能性は絶望的だと」
「実際目ノ前ニ居ルンダカラ仕方ネェ。問答無用デ攻撃シテ来ルッテ事ハ敵ダロウ……本来ナラ有リ得ナイ話ダガコウシテ襲ッテ来テルンダ。考エルノハ後!」
雨刃は既に片手剣を展開し、デルダインらしき男を見据えいる。
マスターボウも落ちてしまったシルクハットを被り直し、服についた埃を払っているが、その目には闘志がみなぎっている。
俺も立ち上がり、改めてデルダインを見る。確かに本で読んだ肖像画によく似ている。だけどその本が正しければ滅茶苦茶強いはず。本気で俺達を攻撃してきているのだとすればこんな強敵はいないぞ……
「痛……」
「どうした? ナイアリス」
まだ仰向けに倒れているナイアリスが小さく悲鳴をあげる。レオが駆け寄ると、その脇腹に木片が刺さっており、血が滲んでいる。
「レッグ、その嬢ちゃんを連れて地下へ!ドクターなら治せる」
「ああ」
「クレセンティーヌを下に置いてきちゃったからこれしか無いけど……どう?マスターボウ。勝てる?」
アジェンダが腰から片手サイズの斧を両手に持ち、マスターボウに話しかける。
「勝率は一割ってところかしら……いや、一割も無いと思ったほうがいいわよん」
「ほぼ負けね。でも、相手が殺しに来てるとしたらここで死ぬわけにはいかないわ」
「レオ、行けるか?」
「クロトこそ、休んでていいぞ。おれが殺る」
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