最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

140話 三叉の奥義炸裂

「行けっ!」


 シエラが天に放った矢は上空でゆっくりと急カーブし、地上へ落ちる。三本の矢がアンノウンを囲う様に刺さり、それを合図に足元を魔法陣が照らす。


月之女神アルテミスしきほうじん! 滅力魔法陣・月神げっしん、発動!」


 魔法陣から放たれた光は円柱に伸びてアンノウンを包み込む。
 月の引力を利用する月之女神アルテミスしきほうじんは月が近ければ近いほど効果を発揮する。
 現在は月もかなり近い時間帯である為、その効果は絶大。アンノウンのパワーは約六分の一程度にまで抑えられている。


「ナ、なんじャこりゃ。やメロぉッ!」


 いくら力を抑えられていても動けないわけでない。
 アンノウンは背中の触手を全て俺達に向け、発射した。スピードこそ落ちてはいるもののそれでも速い。雨刃も俺も準備中。シエラも結界を維持している為手は離せない。


「我流 亀ノ太刀!」


 三人とアンノウンの間に入ったリンリが上から下へテンペスターをまっすぐ下ろす。縦に一本入った炎の斬撃が横へ広がり、亀の甲羅の様に展開する。炎の甲羅と触手がぶつかるが、第一形態の弱点を引きずっているのか、結界の効果も相まって炎を抜けてくる触手は無く、全て弾かれている。


「ヨシ、後ハ任セロ」


 雨刃の片手剣は柄の部分を中心にした円形の扇へ変化していた。十本で一つ。合計百本で十個の扇が空中に浮いている。
 それをどう動かしているのかわからないが、扇は回っており、回転刃の状態になっている。


「行クゼ?」


 リンリが退いたのを確認し、雨刃は回転刃をアンノウンへ向ける。


「操作ガ難シクテ十連撃シカ保タナイ」

「わかった。それを合図に斬り込む」

「オウ」


 回転刃はギギギと嫌な音を立てながらアンノウンへ迫る。いくら硬度を増しているとはいえあれを防げるほど硬くはないだろう。


「唯一ノ技ニシテ奥義……」


 一つの回転刃がアンノウンの触手を数本と右腕を切断した。
 回転刃は切断した直後にバラけ、雨刃のマントまで帰ってきた。
 だがアンノウンはすぐさま再生する為大した効果はない。だが、既に次々と回転刃は迫っている。


「暴殺……」


 二つ目は左腕を切断し、胴へと深い切れ込みを入れる。次の一つは右足、もう一つは左足を切り裂き、五つ目の回転刃は首を狙うも特別硬いのか三分の一程度まで食い込んだがそこでバラバラに崩れてしまった。


「螺旋刃……」


残った五つのうち、四つの回転刃はほぼ同時に再生したアンノウンの四肢を斬り裂いた。


「…………乱舞!」


 最後の回転刃が四肢を再生させるよりも速くアンノウンの頭と胴を縦断。切断には至らないが本来の弱点である内蔵や脳は一時的に破壊されただろう。
 しかし『唯一ノ技ニシテ奥義』『暴殺螺旋刃・乱舞』か。雨刃らしいと言えば……雨刃らしいが、ネーミングが暴力的すぎないだろうか。


「今ダ」

「雷帝流奥義・改!」


 俺の全身に走っていた雷は小さいが高電圧をかけ続ける事で威力を何倍にも引き上げてある。
 それをシュデュンヤーへ集めて獄気を流し込めば白かった雷は赤黒く変化し、スピードとパワーにおいて一時的にだけではあるが獄化・地装衣インフェルノトォールをも越える。
 踏み込みでアンノウンとの距離を詰める。
 まだシュデュンヤーは抜いていないが、彼我の距離は数センチ。既にアンノウンの上空を掠めて通り過ぎかけている為この機を逃せばこの赤雷はアンノウンに当てられない。
 赤雷を纏ったシュデュンヤーを抜刀し、若干斜め左上をカーブするように上からアンノウンの頭へ叩き落とす。雨刃の最後の一撃からここまでに一秒もかかっていないだろう。アンノウンも四肢を辛うじて繋げる程度まで再生させているが、もう遅い。いや、俺が速すぎた。


「赤雷一閃!!」


 赤雷一閃はアンノウンの頭部を捉え、破壊。
 俺はまるで導かれる様にシュデュンヤーでアンノウンの左胸、本来なら肺が有る部分を斬り裂いた。抉れた胴体から覗いたそこには、赤い石が埋まっており、見た時にはもう真っ二つに斬られた後だった。
 直後剣に纏われていた赤雷が暴発し、アンノウンの体をバラバラに吹き飛ばして天へと登る。
 完全にコントロールを失った俺は勢いを殺せず、そのまま地面へ頭から転げ落ちた。





 その日、その時間。セントレイシュタン内に起きている者はごく少数ではあったが、人々は見た。
 北の森から天へ、一直線に駆け上る赤雷を。
 その雷をある者は正体不明の化物がやったと言い、ある者は三千年前の英雄、ゼウスの再来かと囁いた。実際にはどちらでもないが、それを知る由は無い。


 それを起こした本人はアンノウンを斬ったと同時に気を失ってしまい、雨刃に担がれて下山していた。
 翌日捜索に来た冒険者が見たのはバラバラの肉片レベルにまで飛び散った正体不明の化物であった。

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