最弱属性魔剣士の雷鳴轟く
126話 漣の如し戦い
「ふぅ……来てくれて助かった。ナイアリス」
「べ、別に良いわよ。それぐらい」
夜もすっかり更け、森の中で修行していたレオは胡座で座りながら助っ人に礼を言う。
マーダラービーとのエンドレス回避修行を終わるに終われなかったレオを助けたのは、先日のゴブリン事件でクロトや雨刃と共に名乗りを上げた冒険者〈舞姫〉のナイアリスだった。
アイゼンウルブスを拠点として活動している彼女が、何故セントレイシュタン付近のここに居るかと言えば、一言で言うなら「レオに付いて来た」のである。だが、極度の方向音痴であるナイアリスがレオに付いて行く事など不可能に近い。
魔王との激戦が繰り広げられていた時にはアイゼンウルブスの周りを何周も何周もぐるぐると彷徨っていた。
そして今日の昼間、やっとこさブルーバードにたどり着いたのである。その時丁度レオは森に入る途中で当然の如く付いて行ったわけだが迷った。
「どんなけ道に迷うんだよ……ブッ! ハッハッハッ」
「そんなに笑わなくてもいいでしょっ!」
「ん、そういえばお前、また喋り方変わったな」
「そ、そう?」
「ああ、でも……自然でいいと思うぞ」
「ほ、褒めても何も出ないわよ!」
「で、森に入った後どうしたんだよ。まさかこの時間まで見て放置してたのか!?」
「そんなわけ……レオをまっすぐ追いかけてたけど見失ったのよ」
「ブッ……どうやったら見失うんだよ……」
「そ、それは……」
「あーやめてくれやめてくれ。腹がよじれて死にそうだ」
頬を膨らませてプンスカ怒っているナイアリスの隣でレオはゲラゲラ笑い転げている。
クロトやシエラが今のレオを見れば別人かと疑うだろう。それだけナイアリスにはレオの素を出させる何かがあり、レオも不思議のうちに心を開いてしまっていた。
「大変だったんだからね! 何故か森の中で〈紅の伝説〉に会うし……まぁそれに驚いて逃げた先にレオが居たわけだから、半分紅の伝説のお陰ね」
「紅の伝説か……」
「勝負は私も見てたわよ」
「そうか……」
じーっと一点を見つめ、考えているレオ。チラチラ見ながらナイアリス。
遂に我慢できなくなったのか、大きく身を乗り出してレオの視界に無理矢理入る。だがそれでもレオを思考の中から呼び戻す事は出来ない。
そんな状態が十分は続いただろうか……
「おい……」
「くぴー」
「寝たのか?」
「…………ぐぅ」
「しゃーねーな」
気にもたれかかったまま寝てしまったナイアリスを唯一銀月と共に持って来ていた毛布で包み、レオ自身は銀月を地面に突き刺し仁王立ちで構える。
魔物は夜、活発になる奴も多いからだ。
「これはこれで修行になりそうだ」
◇
「ふぁ〜」
そして朝、目覚めたナイアリスがグーッと伸びをしながら目を開けると、周りが赤く染まっている事に気がついた。
「え……なにこれ……」
巨大な蜂やら熊やらの死体が何十体も転がり、地面はそいつらの血で真っ赤。その中で立つレオに、ナイアリスはすぐに駆け寄った。
「だ、大丈夫!?」
「起きたか。もう少し寝てても良かったぜ」
レオは返り血でほぼ全身真っ赤だが、ナイアリスに笑いかけた。レオにとってどういう意味の笑顔かは定かではないが、少なくともナイアリスににこやかに笑いかけたわけではなく、戦闘本能から来る笑みだ。
一晩中戦い続けていたレオだが、幸いにも外傷は負っておらず、疲労でフラフラしてはいるが、命に別状は無さそうだ。
「もしかして……私が寝てからずっと戦ってたの!?」
「ん? まぁな」
「ば……バカじゃないの!」
「馬鹿じゃねーよ!」
「なんで、私は起きなかったんだ……」
ナイアリスは祖父に厳しく鍛えられたせいもあり、戦闘センスや勘は普通の人よりも鋭い。逆に言えばそのナイアリスが気づかなかったほど夜の戦闘は静かに行われていた。
「起こしたら悪いと思ってな」
「……もぅ」
「とは言え流石に疲れ。ブルーバードに帰る。お前も来るか?」
「……も、もちろんよ! 一人で行かせられないわ」
「そうか」
ナイアリスはフラフラと歩くレオに駆けていき、肩を貸す。
「そういえばお前、その剣珍しいよな」
レオはナイアリスの腰に三本付けられている三日月刀をちらりと見ながら言う。
「まぁね、おじいちゃんが使ってたの」
「へぇ、でも使うのは二本だろ? なんで三本も……」
「おじいちゃんの教えで、剣が折れても戦えるようにって」
「ならもっと持ってた方がいいんじゃないか?」
「いや、それが『折れても三本目まででケリをつけろ!』って……」
「へぇ……強かったのか?そのおじいちゃんってのは」
「四十年前になるけど帝国で将軍をしていたのよ」
「何!?」
「華将軍 サルバンザ・レヴァン……帝国の軍事体制が大きく変わった丁度その時期の将軍なのよ」
「それは……一度戦いたいもんだ」
「残念ながらおじいちゃんは……」
「……悪い」
「農業にハマっちゃって、野菜を育てることに余生を注いでるわ」
「……悪い」
「そろそろ見えてきたわよ」
「おー、久しぶりな気がする」
「一夜明けてるわけだしね……」
無事に森から抜け出したレオとナイアリスは丁度ブルーバードから出てきたクロトとばったり出会い、少しだけ話の花を咲かせた。
「べ、別に良いわよ。それぐらい」
夜もすっかり更け、森の中で修行していたレオは胡座で座りながら助っ人に礼を言う。
マーダラービーとのエンドレス回避修行を終わるに終われなかったレオを助けたのは、先日のゴブリン事件でクロトや雨刃と共に名乗りを上げた冒険者〈舞姫〉のナイアリスだった。
アイゼンウルブスを拠点として活動している彼女が、何故セントレイシュタン付近のここに居るかと言えば、一言で言うなら「レオに付いて来た」のである。だが、極度の方向音痴であるナイアリスがレオに付いて行く事など不可能に近い。
魔王との激戦が繰り広げられていた時にはアイゼンウルブスの周りを何周も何周もぐるぐると彷徨っていた。
そして今日の昼間、やっとこさブルーバードにたどり着いたのである。その時丁度レオは森に入る途中で当然の如く付いて行ったわけだが迷った。
「どんなけ道に迷うんだよ……ブッ! ハッハッハッ」
「そんなに笑わなくてもいいでしょっ!」
「ん、そういえばお前、また喋り方変わったな」
「そ、そう?」
「ああ、でも……自然でいいと思うぞ」
「ほ、褒めても何も出ないわよ!」
「で、森に入った後どうしたんだよ。まさかこの時間まで見て放置してたのか!?」
「そんなわけ……レオをまっすぐ追いかけてたけど見失ったのよ」
「ブッ……どうやったら見失うんだよ……」
「そ、それは……」
「あーやめてくれやめてくれ。腹がよじれて死にそうだ」
頬を膨らませてプンスカ怒っているナイアリスの隣でレオはゲラゲラ笑い転げている。
クロトやシエラが今のレオを見れば別人かと疑うだろう。それだけナイアリスにはレオの素を出させる何かがあり、レオも不思議のうちに心を開いてしまっていた。
「大変だったんだからね! 何故か森の中で〈紅の伝説〉に会うし……まぁそれに驚いて逃げた先にレオが居たわけだから、半分紅の伝説のお陰ね」
「紅の伝説か……」
「勝負は私も見てたわよ」
「そうか……」
じーっと一点を見つめ、考えているレオ。チラチラ見ながらナイアリス。
遂に我慢できなくなったのか、大きく身を乗り出してレオの視界に無理矢理入る。だがそれでもレオを思考の中から呼び戻す事は出来ない。
そんな状態が十分は続いただろうか……
「おい……」
「くぴー」
「寝たのか?」
「…………ぐぅ」
「しゃーねーな」
気にもたれかかったまま寝てしまったナイアリスを唯一銀月と共に持って来ていた毛布で包み、レオ自身は銀月を地面に突き刺し仁王立ちで構える。
魔物は夜、活発になる奴も多いからだ。
「これはこれで修行になりそうだ」
◇
「ふぁ〜」
そして朝、目覚めたナイアリスがグーッと伸びをしながら目を開けると、周りが赤く染まっている事に気がついた。
「え……なにこれ……」
巨大な蜂やら熊やらの死体が何十体も転がり、地面はそいつらの血で真っ赤。その中で立つレオに、ナイアリスはすぐに駆け寄った。
「だ、大丈夫!?」
「起きたか。もう少し寝てても良かったぜ」
レオは返り血でほぼ全身真っ赤だが、ナイアリスに笑いかけた。レオにとってどういう意味の笑顔かは定かではないが、少なくともナイアリスににこやかに笑いかけたわけではなく、戦闘本能から来る笑みだ。
一晩中戦い続けていたレオだが、幸いにも外傷は負っておらず、疲労でフラフラしてはいるが、命に別状は無さそうだ。
「もしかして……私が寝てからずっと戦ってたの!?」
「ん? まぁな」
「ば……バカじゃないの!」
「馬鹿じゃねーよ!」
「なんで、私は起きなかったんだ……」
ナイアリスは祖父に厳しく鍛えられたせいもあり、戦闘センスや勘は普通の人よりも鋭い。逆に言えばそのナイアリスが気づかなかったほど夜の戦闘は静かに行われていた。
「起こしたら悪いと思ってな」
「……もぅ」
「とは言え流石に疲れ。ブルーバードに帰る。お前も来るか?」
「……も、もちろんよ! 一人で行かせられないわ」
「そうか」
ナイアリスはフラフラと歩くレオに駆けていき、肩を貸す。
「そういえばお前、その剣珍しいよな」
レオはナイアリスの腰に三本付けられている三日月刀をちらりと見ながら言う。
「まぁね、おじいちゃんが使ってたの」
「へぇ、でも使うのは二本だろ? なんで三本も……」
「おじいちゃんの教えで、剣が折れても戦えるようにって」
「ならもっと持ってた方がいいんじゃないか?」
「いや、それが『折れても三本目まででケリをつけろ!』って……」
「へぇ……強かったのか?そのおじいちゃんってのは」
「四十年前になるけど帝国で将軍をしていたのよ」
「何!?」
「華将軍 サルバンザ・レヴァン……帝国の軍事体制が大きく変わった丁度その時期の将軍なのよ」
「それは……一度戦いたいもんだ」
「残念ながらおじいちゃんは……」
「……悪い」
「農業にハマっちゃって、野菜を育てることに余生を注いでるわ」
「……悪い」
「そろそろ見えてきたわよ」
「おー、久しぶりな気がする」
「一夜明けてるわけだしね……」
無事に森から抜け出したレオとナイアリスは丁度ブルーバードから出てきたクロトとばったり出会い、少しだけ話の花を咲かせた。
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