最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

119話 闇の結託

「なるほど、ここを出てからそんな事があったのか」


 無事にブルーバードに着いた俺達はエヴァ、リンリを奥の部屋で寝かせ、レオとシエラも加えて紹介し、イザベラさん達の死体は一旦馬車においたままヴァラン達に事情を説明した。
 この場にいるのは俺、シエラ、レオ、ヴァラン、レッグ、それに先に着いていたマルスも居る。


「ああ、なんとか魔王の攻撃は凌いだが、少し休みたい」

「それは構わんが、話を聞いた限りじゃ、その白髪嬢ちゃん……それにクロトも
大丈夫なのか?」


 この大丈夫なのか、は身体的な疲労ではなく、精神面を案じてくれたのだろう。


「俺は元々失っていた、だから多少の心構えは出来ている。でも、リンリは……」

「一先ずお前の恩師と白髪嬢ちゃんの姉貴を埋葬してやろう。死体のまま置いておくのは心が痛む」

「ああ、だが場所が……」

「うちの裏庭でいいなら使ってくれ」

「本当か、助かる」





 出来るだけ早く二人を眠らせてやりたかったので、すぐに裏庭に大人二人が入れる程度の穴を掘り、馬車からイザベラさんとエンリを運んで来た。


「よい、しょっと……」


 本当なら、鎮魂にはもっと正式なやり方や形式があるのかもしれないが俺は知らなかったし、形式もそこそこにイザベラさんとエンリを穴の中へ入れた。


「本当はせめてリンリが起きてからやりたかったんだが、仕方ない……」


 もし起きたとしても、逆に辛いかもしれないからな。


「本当にありがとうございました。ゆっくり休んでください」


 俺は追悼の言葉を述べ、目を閉じ、祈る。
 余談ではあるがイザベラさんの剣、ローズレインは馬車の中に置いてある。本当は一緒に埋めたかったんだが、マナが使っていたのを見ていた俺は返してやる方がいいと思った。


「クロト、そろそろ」

「ああ」


 俺達は二人を埋め、イザベラさんがリブ村でそうしてくれた様に、ささやかではあるが墓をたてた。
 シュデュンヤーでトドメを刺したから再びリヴァの傀儡になる事はないだろう。だが、エンリは……いや、考えるのはやめよう。その前にリヴァを倒せばいい話だ。


 あまりにも心身共に疲れすぎた。暫くは休憩しようと思う。





 フランケンポールの研究室兼拠点の城にとある訪問者が訪れていた。


「アリゲインの情報では例のガキはブロンズからミスリルへ昇格したようだね……」

「何を一人で言っているのだ?」


 そこへ背後の廊下より来訪者が部屋へ入ってくる。


「正確には“二人だ”」


 言葉の如く、気づけば来訪者の首元にはナイフが突きつけられており、そのまま進んでいれば首を切られていただろう。
 部屋の壁際にいつの間にか立っていた男は背中に黒い翼を持ち、烏の仮面を被っている。


「ほぅ……誰だ?これは」

「僕の被験体九号、レイヴンさ。そんな事よりも久しぶりだね、ジガルゼルド」


 ジガルゼルドと呼ばれた来訪者は黒の髪が蛇のようにくねり、本物の蛇そっくりな目を持っている。放つオーラは常人のそれとは比べ物にならないレベルだ。
 この男はフランケンポールと肩を並べる実力者で現在は四魔王の頂点に君臨している。通称、大魔人。


「レイヴン、客人だ」

「御意」


 レイヴンはどんな術を使ったのか、闇に紛れるように完全に気配……いや、姿そのものを消した。


「その名前は久しく使っていないな。元気そうで何よりだ、フランケンポール」


 二人は友であり、敵である。
 数十年前、人間がこの大陸に攻め込んできた際、魔族側が全滅を避けられたのはこの二人のおかげだとも言われている。
 魔物を無から生み出すジガルゼルドと人間や魔族を媒体とし魔物を創り出すフランケンポール。
 五千を超える魔物の軍団を用いて二人は人間からこの大陸を守った。だがそれ以来、元々いがみ合っていた事もあり、全く会うことは無くなった。
 そんな二人でも現在は特に争うこともなく、かと言って干渉することもなく、お互いにお互いを無視して生きていた。


「君から来るとは珍しいね。何か用かい?」


 今回はその沈黙を破り、大魔人ジガルゼルドからフランケンポールにコンタクトを取ってきたのだ。


「数十年ぶりに、手を組まないか?」

「否、僕にメリットが無いね」

「そうでも無い、と俺は思うがね」

「……なんだと?」


 再び机に向かおうとしたフランケンポールはジガルゼルドの言葉に動きを止める。


「お前が今探している皇帝鬼エンペラーオーガを倒した少年……正確にはもう青年だが」

「それが……?」

「ついこの間、うちのフロリエルがそいつに殺された。俺達も前から注意はしていたが、まさかそこまでやるとは思わなかった」

「不死不滅はどうしたんだか。それで? まさかそれだけを言いに来たわけじゃあるまい」

「狙っている獲物が同じなら協力してもいいんじゃないかと思ってな」

「それは僕にとってメリットがあるのかい?」

「勿論、お前がするのはその青年……クロト、及びその仲間三名の抹殺、俺が差し出すのは奴らの情報」


 フランケンポールの目が真剣になる。


「どこまでの情報を持っている?」

「奴らが使う技から苦手とするもの、性格、特性……お前が必要だと思う情報は全て持っていると言ってもいい」

「……わかった そいつらを潰すことに関してだけは手を貸そう」

「交渉成立というわけだな。よろしく頼むぞ、フランケンポール」

「ああ、ジガルゼルド」


 ここに、数十年前より厄災と言われたフランケンポール。そして今、人類を恐怖に陥れている大魔人ジガルゼルドの結託が成された。

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