最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

116話 ネグラ

 今のは……エヴァの記憶か。エヴァは今、俺の腕の中で目を閉じている。一瞬焦ったが、眠っているだけのようだ。
 あまりいいものではないと思ってはいたが、これは想像以上に……


 今までこんなに長く一緒にいたのに、どうしてもっと早くに聞いてやれなかったんだ。こんな小さい体に、どれだけの悲しみや寂しさを抱えて生きてきたんだ。


「エヴァ……」





 目を覚ますと私は、真っ白な、どこまでも地平線が広がる空間にいた。


 あれ、私何してたんだっけ。フロリエルと戦って……黒氷を使っちゃったんだ。フロリエルは倒せたんだけど、私も倒れて、それでクロトが来てくれて……


 あ……


 私はその後の事を思い出して恥ずかしくなり考えるのをやめた。あんなに嬉しいと思ったのはいつぶりだろう……初めてクロトに会った時かな?
 ううん、さっきの方がもっともっと嬉しかったなぁ。


“愛してやる”


 むふふ……あれ? そういえばなんであんな疲弊してたんだろう。


『そりゃ、お前。本来ならお前は自力で立てないほど非力な体だからさ』

「えっ……」


 慌てて後ろを振り返ると私が居た。
 十年ぶりに会ったもう一人の私。最初に会った時はわからなかったけど、クロトの話を聞いて確信した。
 これは黒氷を使った時の私の姿なんだ。


「久しぶり、だね」

『ああ、こうやって面と向かって会うのは何年ぶりだろうな?』

「うーん、結構長い間だよね」

『ふっ……ああ、長いな』

「それで、どういう事なの?」

『お前は元々病弱だったろ?』

「うん」

『それをオレの力で、正確にはその胸の魔石で無理やり補強してたわけだが、今回はお前の精神的揺れが強すぎてお前にも影響を与えたわけだ』

「えーと……」

『黒氷が発動する時、それはお前が何かに心を不安定にさせられた時だ。一度目は母の死、二度目は最愛の人の危険、そして今回は死への強い恐怖』


 さ、さささ、最愛の人!?
 そんな、直接的ないい方しなくても……でも、あんまり悪い気はしないなぁ。


『残念ながらオレはお前の考えてる事の殆どが筒抜けだぜ。で、話を戻すと今回はその揺れが大きすぎた故にオレも力を出し過ぎ、お前の体を支えるほど力が残ってないってわけだ』

「そっか……ごめんね」

『別に謝ることじゃない。むしろ被害を受けるのはお前だ』

「いつ頃目覚めるの?」

『力が戻るまでに多く見積もって一ヶ月』

「一ヶ月か……」


 クロトには何も言えずに気絶しちゃったし、一ヶ月は辛いなぁ。


「そういえば、三回とも私の体を乗っ取らずに助けてくれてるよね」

『勘違いするな、お前が死ねばオレも死ぬんだ。オレはまだ死にたくねーからな』

「ふふ……そっか」

『やっぱり変なやつだな』

「君もね」

『オレの名前はネグラ。伝説級をも超越せし氷の悪魔 ネグラだ』

「氷の悪魔?」

『お前も一時期その名で呼ばれたらしいが、オレにとっちゃお前みてーな弱虫が俺と同じ二つ名で呼ばれるのは気に食わなかったぜ』

「私のせいじゃないんだけどな」


 でも私が氷の悪魔って呼ばれてる事と、ネグラの事は無関係じゃなさそう。一体何があったんだろう。


『…………お前の人生を見ていくうちに最期まで見てみたくなった』

「え?」

『幼い時に両親を無くし、それが自分の力の暴走のせいだと苛まれ、周りの人には悪魔と呼ばれた少女がこれからどんな人生を送るのか、興味が湧いた』


 興味……?


『お前を守る本当の理由だ。お前は不運に見舞われた可哀想な子だ。だから、オレが……』


 可哀想な子……
 今まで何度もそういう目で見られた。恐怖、もしくは哀れみ。私を見る人達の目には、必ずどちらかが含まれていた。
 でもクロトは違った。ガイナやマナ、レイグ。そしてレオ、シエラも。


「私はもう、“可哀想な子”じゃない……今は一緒に泣いて、笑ってくれる仲間が……愛してくれる人がいる」

『…………』

「私だって、強くなってるんだから」

『フッ……取り越し苦労ってわけか。元々お前の親父はお前を守る為の魔石を作ったんだ。〈氷の悪魔 ネグラ〉から力を吸い出し、魔石に変えてな』

「そうだったの?」

『ああ、いつか本当の体で会いたいものだよ。ま、今話してるオレは本当の俺の人格の一割にも満たない人格だから、会えば敵として、だろうけどな』

「それは嫌だなぁ、伝説級より強い相手は」

『……もう一人でもやっていけそうだな』

「え?」

『オレは眠る事にする。お前が黒氷を使っても倒れないように、百パーセントの力を貸してやる』

「でもそれって……」

『もう二度と会うことは無いだろうな』

「待ってよ!」

『ちゃんとオレの力をコントロールしろよ? じゃあな』


 ネグラは少しずつ消えていき、最後の言葉を言い終えると同時に光の粒になった。
 私はひどい喪失感を覚えながら、精神世界でも意識を失い、現実の体、精神世界の心の両方が眠りについた。

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