最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

102話 翡翠の戦士

 昇格の話も済み、全てが落ち着いてから更に次の日。
 俺達は一先ず休暇を取ることにした。先の事件での報酬も山分けにし、それぞれ必要なものを調達に向かった。
 俺は特に必要なものも無かったので適当に街を歩く。


 レオは銀月の調整を、シエラは矢の補充や弓の修繕を、エヴァは……


「見てみてクロト!あ、あっちもいいな。でもこれも可愛い……」


 買い物を満喫していた。
 昨日今日、憂いるような表情はしていない。
 ゴブリン戦で少し自信を取り戻したんじゃないだろうか。と俺は思っている。このまま何事も無くいつものエヴァに戻ってほしいけど……


「クロト?」

「あ、いや悪い。どうした?」

「もう、ちゃんと聞いててよ」

「悪い悪い」


 エヴァの買い物はまだ続きそうだ。





 別の通りを歩いているのはレオ。
 二代銀月を調整に出す為、鍛冶屋の多い通りを歩いていたのだ。だが、どの鍛冶屋がどうなのか、土地勘の無いレオにはわからず、結局こうして歩き回っているのである。
 そんな時……


「お、良い刀持ってるね、兄ちゃん」


 と、突然声をかけられた。
 声の主は家の中に居るらしく、開けっ放しの引き戸の奥から聞こえてくる。


「わかるのか?」


 レオは家の敷居を跨ぎながら聞く。
 声の主は白髪混じりの頭にねじりはちまきを巻き、タンクトップを着たおじさんだった。その上腕二頭筋はキンミー村のアルテ・ロイテにも負けず劣らずのムキムキさだ。


「まぁな、どうだ?俺に鍛えさせてくれねぇか?」

「腕は確かなんだろうな?」

「そりゃぁお前さん、もちろんよ」

「わかった、預けよう」


 レオは腰から二代銀月を外し、おじさんに渡した。


「夕方までには終わらせよう。俺の名前はデッテツ。よろしくな」

「おれはレオだ、よろしく」


 レオはデッテツと握手を交わし、家を出ようと振り返ると顔馴染みがレオに気付き近づいて来ていた。


「レオ!……と、ガーデルさん!?」


 クロトとエヴァだ。
 レオに手を振りながらその後ろで二代銀月の具合を見ていたデッテツを見てかなり驚いている。


「誰があのバカ兄貴だ」


 二代銀月から顔を上げたデッテツがクロトの言葉を否定する。


「あ、すいません。知り合いの武器職人に似てた……って、兄貴!?」

「おうともよ。お前さんが言ってるのはエルトリア帝国城下町で店を構えているのは俺の兄貴、ガーデルだろ?」


 テンペスター、ローズレインの産みの親であるガーデルの実弟がこのデッテツだったのだ。
 しかもこんな所で会うなんて……


「弟が居たなんて知らなかったな」

「俺たち兄弟は元々ここの生まれよ。兄貴は武器を極めるとか言って飛び出したがな」

「そうだったのか……」

「二本も剣を持ってるようだが、どれ、鍛えてやろうか」

「ホントか!」


 クロトはテンペスターとシュデュンヤーを鞘ごと抜き、デッテツに差し出す。デッテツは二本の剣を暫く眺めると、首を振りながらクロトに返した。


「すまんな、こいつは鍛えられねぇ」

「ど、どうして?」

「この白い方の剣は兄貴の剣だろう 俺が口出しできるほどぬるい剣じゃない 既に完璧に近い。そしてこの黒い方の剣だが、こいつはまだまだ成長する……が、それを為すのは俺じゃない」

「……そうか」

「おう、わりぃな」


 シュデュンヤーはゾンビとなった人達の魂を地獄へと戻すパイプ役でもあり、送った魂の数に比例して性能が上がる剣だ。
 鍛冶では鍛えられないのも無理はない、か。
 その後クロト、エヴァ、レオはデッテツさんにお礼を言い、宿に戻って、その日一日を終えた。因みにシエラの買い物もうまく行ったようで、部屋には大量の矢が置いてあった。





 それから一週間弱、俺達はミスリル級冒険者パーティとして依頼を受け、過ごしていた。
 ゴブリンの一件が終わってからフーバやディーナス達とも仲良くなり、たまに一緒に仕事に行ったりもする。雨刃達は何でもすごい依頼とやらがあるらしく、サーカス一座揃ってこの街を出てしまった。
 結局〈シルク・ド・リベルター〉のサーカスを見られなかったというのだけが心残りだ。
 そういえば一番皆が驚いていたのが、他者を拒み孤高を貫いていたナイアリスがレオと共に仕事に行った事だ。
 ナイアリスは討伐専門の冒険者のため、レオが願っていた『強い奴と戦えてがっぽり稼げる依頼』を回される事が多い。その事を知るや否や「バラバラに受けた方が報酬も増えるだろ」と珍しく正論を吐いてさっさと二人で行ってしまった。
 そんな事もありつつ、俺達は資金調達に物資調達を完了させ、そろそろ旅立つことにした。


「忘れ物ないか?」

「二週間ぐらいしか居なかったでありんすが、随分長い事居た気がするでありんす」

「そうだな」

「レオ、荷物全部忘れてるよ」

「うお、いつの間に」

「しっかりしてよ」


 先程、今までお世話になった〈ホワイトパピー〉の女将さんやフィールにお礼を言い宿代を払ってきた。
 そして街の入り口にある馬宿に止めておいたエリザベスとゴンザレスを久々に馬車に繋ぎ、荷物を積み込みが今終了した。
 二匹とも「やっとか」と言わんばかりの目つきでブルブルと鳴いている。


「お待たせ、また頼むぞ」


 俺は二匹に餌をやり、皆が最後の荷物チェックを終わらせるのを待つ。
 暫く考えないようにしていたが雷化・天装衣ラスカティグローマの物理無効を破った皇帝鬼エンペラーオーガや、それを意図的に作ったらしい人物も気になる。


「クロト、準備オッケイだよ!」


 エヴァが荷台から顔を覗かせた。それを合図に、俺も乗り込みゴンザレスとエリザベスを進ませる。


 次に目指すはヘレリル公爵。
 ヘレリル公爵へ直通で行くと途中で大きめの森を通る必要があるらしい。行商人も行き交う道があるらしいので比較的安全との事だが、だからこそ盗賊団とかに狙われるんじゃないかと思わずにはいられない。
 とは言え、そこらの盗賊程度なら何とかなるだろうと言う楽観視とその森を通れば大幅に時間短縮出来るという理由から、その森目指して馬車を走らせる。





 同刻。とある酒場のとある男達の会話。


「おい、聞いたか?」

「何をだよ」

「魔王の話だよ」

「また何かあったのか?」

「あったもあった。今度は伯爵邸が襲われたらしい」

「またか?」

「ああ、幸いにも死人は出なかったらしいが、伯爵の私兵が一人残らず倒されちまったらしいぜ」

「マジかよ。またあいつか?」

「ああ、“翡翠ひすいの戦士”だ」

「最近現れた超強い剣士だよな」

「ああ、翡翠色の髪に妙な仮面を被った剣士……こえーよな」

「出来れば会いたくないぜ」

「魔王ってのも今頃どこにいるのやら……」





 そしてアイゼンウルブスからペレリル領の途中に鬱蒼と茂る森……中間部に紺色の振袖の付いた着物風ワンピースを着た黒髪の美女と褐色肌に白髪をショートにした少女が居た。


「リンリ、さっきのは行商人?」

「はい、アリス様。この森を通り抜けようとしていましたので、途中で少し脅かしましたところ、慌てて引き返していきました」

「そう……その調子でお願いね」


 四魔王、巨兵神女のアリスとその奴隷姉妹の妹、リンリだ。


「エンリの様子はどう?」

「……? いつも通りですが」


 アリスの主旨不明な質問に対し、リンリは訝しげに答える。エンリは現在、アリスと同じ四魔王、死者ノ王リヴァと共に周辺の偵察に出ている。


「そう……ならいいわ。これから今までで一番苦しむ戦いをする事になるわ」

「私達が苦戦する……という事ですか?」

「……まぁ、そうなる……わね」

「……? 心してかかります」


 途中で言葉を途切らせるアリスを不審に思いつつもリンリは決意を固める。そこへ丁度リヴァとエンリが偵察から戻ってきた。


「いい感じに人もおらんようじゃし、丁度良いかもしれんのぅ」

「そう……そういえば、この前伯爵の私兵と戦ったのは何故?」

「大魔人様の仰った負のエネルギーを集める糧にもなるし、アレを試したかったからじゃ」

「……なるほどね。それでどうなの? 使えそう?」

「うむ……これなら今回の戦いもいけそうじゃ」

「なら安心ね。エンリ、リンリ……二人共、いつでも戦闘態勢に入れるようにしておいて」

「わかりました」

「……了解」

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