最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

101話 フランケンポール

「……ロト! 起きてーー!!」

「うおっ!」


 突然腹に何かがのしかかって来た苦しみで俺は目を覚ます。
 見るとベッドで仰向けに寝ている俺の上でエヴァがバタバタと暴れていた。


「起きた!起きたー!」

「あ、おはよう!」


 確か宴会をしてて、途中でエヴァを寝かせた所までは覚えてる。その後寝ちゃったのか。
 起き上がって周りを見てもレオとシエラは居らず、二人だけだった。


「レオとシエラはどうした?」

「さぁ? 下で寝てるんじゃない?」


エヴァもさっきまで寝てたらしい。


「そんな事より依頼行こう!」

「一日ぐらい休んでも……」

「時は金なり……という言葉を知らないのか!」


 口調の変わったエヴァが人差し指で俺を指す。


「……そうだな。休んでる暇は無いしな!」

「うん!」


 下で眠っていたシエラと未だナイアリスと飲み比べしていたレオを引っ張りながら俺達は冒険者ギルドに向かった。
 途中女将さんとフィールに出会い、馬鹿騒ぎした事への謝罪をしておいた。女将さんは大笑いしながら久々に楽しかったと喜んでくれたのが意外だった。
 フィールもどうやらこんなに楽しかったのは初めてらしく、冒険者たちとひとしきり馬鹿騒ぎして未だに眠っているようだ。
 そんなこんなで冒険者ギルドに向かうと……


「あ、クロト様! ちょうどお話があったんです」


 と、受付に行くなり話が始まった。
 簡単に言えば昨日の報酬についてと、昇格についての話だった。
 俺達は殆ど耳を取らなかった為、報酬は出ないはずだっが、他の冒険者の証言や冒険者ギルドから信頼の厚い〈シルク・ド・リベルター〉のメンバーである雨刃達のおかげで報酬が出る事になったらしい。


「伝説級魔物の討伐、巣の破壊、その他にも多大なる功績を称え、金貨二百枚を贈呈します」


 に……二百枚? いきなり大金持ち……


「ありがとうございます!」


 特に驚いた様子も無く、受け取れるエヴァはすごいな。あ、でも元公爵の出だから大金を見る機会ってのもあったのか?


「そして昇格の話です。ギルドマスター直々の判断でクロト・アルフガルノ様がブロンズからミスリルへの昇格、エヴァリオン様、レオ様、シエラ・アグリアス様はブロンズからゴールドへの昇格となります」


 ブロンズからアイアン、シルバー、ゴールドを飛ばしてミスリル!?
 雨刃やリンと同格……いきなり過ぎないか。


「それに伴い、クロト様御一行のパーティもミスリル級へなります」


 あ、そうか。確かパーティ内で一番位の高い人のものが反映されるんだったな。


「どうしてクロトだけミスリルなんだ」

「そりゃ、直接エンペラーオーガ倒したからでしょ」

「納得いかねーー」

「納得行かなくても依頼には行くでありんすよ」

「……依頼、行くか」


 雨刃とリンが「今回勝てたのはクロト達が居たからで、もしいなければ全滅も有り得ていた」とギルドマスターに直接訴えてくれたことで、異例の昇格が受理されたそうだ。当人達からは口止めを厳しく言い渡されたそうなので、雨刃とリンには内緒ですよ!っと受付嬢はウィンクしながら教えてくれた。





「ふぅぅぅぅぅん……」

「どうされたのですか?」


 北の大陸に点在する廃古城のうち、リヴァ達四魔王が使っている城とは別の城にて、唸りながら水晶を眺める白衣姿の男と、それを傍らで見守るクロコダイル男が居た。
 クロコダイル男とは、黒光りする鱗を全身に持ち、口、牙、爪、尻尾……どこ取ってもクロコダイルであるが、形状だけは人間だった。筋肉質な体付き故に普通の人間よりはかなり大きく、半竜半人のリザードマンに似ている。


「どうやら被験体八号が死んだようだね。しかもブロンズの少年相手に」

「そ、それは真でありますか」

皇帝鬼エンペラーオーガ、僕が二号から七号で得た知識をフル活用したまさに最強の化物……だったのに」


 この男の名はフランケンポール。四魔王の上に立つ大魔人と肩を並べる魔人であり、皇帝鬼エンペラーオーガの作成者でもある。
 フランケンポールは改人造魔……人や魔族を媒体として改造魔物を作り出す異能を使い、造魔軍団を作り上げようとしており、雨刃を手こずらせ、クロトですら地獄の門を開く事でやっと勝利した皇帝鬼エンペラーオーガは彼にとっての初めての成功作とも言えた。
 因みに、二号から七号までは生物として、もしくは戦力として決定的な欠点があり、運用するには至らなかった。
 話を戻して、傍らに立っているクロコダイル男の名はアリゲイン。アリゲインはフランケンポールの被験体一号であり、人間と二級魔物クロコダイルの改造魔物である。
 何故一号が成功しているのに八号までを失敗作としているかと言うと、アリゲインは純粋に半人半魔。何の特異性も持ち合わせていないただのキメラだからである。研究の助手とするだけならアリゲインで十分のため、処分していない。


「恋人を暴走した造魔に殺されたとか言って攻め込んできた魔族を媒体とし、あの辺り一帯を収めていた小鬼王ゴブリンキング。それに実験で使わずに残っていた将軍鬼ジェネラルオーガを合わせた傑作だと思っていのに、まさかやられるなんて思わなかった」

「皇帝殿が……相手は?」

「どうだろうね。皇帝鬼エンペラーオーガに仕込んでおいた意送受魔石から届いた最後の意思は『俺がこんなブロンズ程度のガキにぃぃ……』となっている」

「ブロンズ……人間の大陸で最弱の位」

「まずは情報収集……皇帝鬼エンペラーオーガは伝説級にも匹敵する実力を持っていたのだから倒されれば当然話題になるはず。見つけ出して、観察、実験がしたい……」


 白衣を翻しながら引きつった薄気味悪い笑顔で妄想を膨らませる。
 彼の頭の中はある強い信念とそれを成す為の非人道的な計画の数々、そして人を人とも思わぬ考えしかあらず、その狂気の笑みにフランケンポールを慕うアリゲインですら若干の恐怖を抱いている。


「アリゲイン、すぐに行ってくれ。そして必ず見つけ出して、ここまで連れてくるんだ」

「はっ……!」


 突然、声色が真剣なものに戻ったフランケンポールの命令にアリゲインは即答し、暗い廊下を通って外へ向かう。
 元はフランケンポールに慕って助手を務めていた男の成れの果てであるアリゲインはその記憶をも無くしたままフランケンポールにただ従う。
 先人達はフランケンポールを厄災と呼び、四魔王や大魔人よりも強力かつ卑劣極まりないと警戒していた。その魔人が次の狙いをクロト達に定めた。
 これから巻き起こる戦いを引き金に巨大な敵が動き出す。





 フランケンポールの計画が進む中、奴らも動き出していた。


「エイナさんっ!」


 エルトリア帝国城下町、騎士団区にある天馬ペガサス騎士団の兵舎。
 元々はイザベラが使っていた騎士団長室にて、団長のエイナが書類をまとめていた。
 別に家を持っていたイザベラがこの部屋を使うことはあまり無く、物置となっていたが、三年前からエイナが使い始めた。まだ物置の名残があり、部屋の壁に埋め込まれた本棚に入り切らない本や紙の束がそこら中に転がっている。
 そこへ一人の団員が転がり込んでくる。


「どうしたの? そんなに急いで」


 扉を勢い良く開けたのはエイナより薄い茶髪をポニーテールにした若い団員だ。
 兵務は終わっていたため、鎧を着ておらず、コート型の制服を着ている。白を基調とし、背にはペガサスがあしらってある。


「それが……はぁ……はぁ……敵襲ですっ!!」


 敵襲という言葉に対応するかのように爆発音が響いた。


「うそ……でも、生きて帰るつもりはないようね。ここはすぐ隣にドラゴン騎士団の兵舎もある……相手は?」

「それが……バンリ様やファリオス様が相対したとされる魔王のアリスをはじめとする四人組です!」

「四魔王……!? ……すぐに戦闘態勢に移りなさい!」

「はいっ!」


 目を見開いたまま団員が出ていくのを見届けエイナ自身も鎧の準備を始めた。


 そしてそこより少し離れたとある部屋では……


「な、何者!?」


 壁が破壊され、土煙が舞って降り、その中に姿は見えずとも威圧感を放ちながら部屋に入ってくる。
 それを鎧ではないコート型の制服に見を包んだマナティアが腰にさげたローズレインを今にも抜かんとして構えていた。
 襲撃された部屋はマナティアの部屋だったのだ。


「四魔王が一角、死者ノ王リヴァ……と言えばわかるじゃろうか」


 襲撃者リヴァは名乗ると同時に姿を現す。
 いつも通りの白いコートに白いマフラーの白髪老人。そしてそれとほぼ同タイミングで別の場所でも爆発音が起こる。


「四魔王……!! しかもその姿、三年前テリア山でクロトとエヴァちゃんを襲った……!!」

「……懐かしい話をするのぅ。確かにその通りじゃ」


 その言葉を聞くとマナティアは眉間にしわを寄せ、いつでも飛びかかれる程に力を入れ、身構えている。
 だが、その一歩は踏み出さない。
 マナティアは二年前、天馬ペガサス騎士団に入ってからイザベラに教えてもらった事を自ら応用させ遂には聖炎の騎士と呼ばれる程にまで成長した。だが、元の性格からか慢心もせず、格上相手に飛び込む程愚かでもない。
 彼女とリヴァの間にある絶対的な実力差を本能的に理解しているのだ。


「そうかっかするでない。別に命を取りに来たわけではない」

「な、なにを……」

「別の場所で暴れておるアリス達も所詮はただの引きつけ役じゃ」


 そう言いながら、刀が仕込まれている杖をつき、数歩前へ出る。それに合わせてマナはジリジリと後ろへ下がる。


「目的はお前さんのその、腰の剣じゃ」

「……!? これはイザベラさんの形見……なんの目的で狙う!」

「知らずとも良い」


 リヴァはゆっくりと仕込み刀を抜き、威圧に加えて殺気をも撒き散らす。殺気に怖気づき、戦意を喪失すれば命までは取らないというリヴァの算段だった……が。


「聖炎術…………不死鳥フェニックス!!」


 マナティアはローズレインを引き抜くと同時に突きの動作を行い、それに合わせて刀身が発火。
 白く輝く炎は鳥を型取り、リヴァへ飛んで行く。だがリヴァは避けようともせずに刀を構える。


「爆殺剣……」


 一際大きな爆発を巻き起こし戦闘は終了した。
 爆炎が収まったときリヴァの姿はなく、別の場所を襲撃していた他の三人も消えていた。マナティアは部屋に倒れており、かすり傷こそあるものの、ほぼ無傷に近い状態で倒れていた。
 だが、その腰にローズレインは無かった。

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