最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

99話 帰還

次に目を覚ました時には全てが終わっていた。
と言っても、俺が気を失っていたのはほんの二、三時間程度だったらしい。
その間にホブゴブリンとスペルゴブリンの残党は全て倒され、ディーナス達の治療も、応急処置ではあるものの完了したようだ。


「……? エヴァか」


まだだるい体の上でエヴァが寄りかかるようにして寝ていた。
どうやら俺に付いていてくれたらしい。
レオとシエラは……近くにはいないな。
他の冒険者パーティもいない。
どこに行ったんだろ……?


「ちょっと、ごめんな」


俺はまだ動きの鈍い体に鞭打って体を起こす。
寄りかかっていたエヴァを起こさないように起き上がり、激戦を繰り広げた元ゴブリンの巣、クレーター部分に歩いて行く。
ゴブリンの死体が転がってるばかりで、他には何もない。
エンペラーオーガも完全に燃え尽きて死んだらしい。鉄の棘も消えてる。


「起きんしたか クロト」

「シエラ!」


背後から声を掛けられ振り返るとシエラが森の中から出てきた。
どうやら森の中を偵察していたらしい。


「レオはどうした?」

「ゴブリンの残党が居るかもしれないって森の中に入ってしまいんした
他の冒険者パーティならディーナス達を連れて一足先にアイゼンウルブスに帰りんしたよ」

「そうか……」


ひとまず全員無事……じゃないんだよな。
俺はクレーターを見つめる。


「雨刃、リン……本当に死んだのか?」

「イヤ、生キテルゾ」

「え……」


今、どこから声が……?
聞き間違い、か? でもあの訛りの感じ……間違いなく雨刃のそれだ。


「勝手ニ殺スナヨ」


突如としてクレーターの一部が崩れ……いや、斬られて窪みが現れる。
中から現れたのは球体の……針鼠?
大量の片手剣が円形を描きながら球体を維持し、その姿はまるで体を丸めた針鼠そっくりだ。
そして細い糸が何度か球体の周りを回ったかと思うと球体が一気に崩れ、片手剣はマントに戻る。
そしてほぼ無傷の状態で雨刃とリンが現れる。


「ヨ!クロト!」






「危ナカッタヨ、本当ニ」


俺達はアイゼンウルブスに帰る為、森を歩いていた。
レオは未だに帰ってきていないが、あいつならなんとか帰ってくるだろう。
エヴァは疲れてまだ俺の背中で寝ている。


「全くだ 私もわかっていて協力はしたが、大崩落を起こすなんて
雨刃の剣によって落石のダメージを防いだまでは良かったがそのまま生き埋めにされてな
おまけに雨刃は疲れたとか言って寝たせいで身動きも取れなかった」


なんだそのびっくり展開は。
でも、それでも生きてるってのがやっぱりオリハルコン級冒険者パーティのメンバーたる所以なのかもしれない……


「ソウ言エバ、クロト」

「ん?」

皇帝鬼エンペラーオーガハオ前ガ倒シタノカ?」

「ああ、一応な」

「ソウカ……チャント耳ハ取ッタカ?」

「いや、そんな余裕無かったよ
それに倒した時には原型留めてなかったし、俺すぐ気絶したし」

「耳ガアレバスグニ昇格出来タノニ……」

「俺たちの目的は昇格じゃないからいいんだよ」

「デモ報酬ニモ関ワルゾ?」


あ、それはまずい……
またエヴァにどやされる……


「ま、まぁそんな事はどうでもいいさ」

「ソウカ?」

「あ、ああ ははは」


今、首に巻き付いているエヴァの手が若干締まったような……
おかしいな、寝てるはずなのに。






同刻。
森のはぐれにて、意外な二人が対面していた。


「おい、あんた ちょっと聞きたいんだがこの辺にゴブリン居なかったか?」


森の少し開けた場所に呆然と立ち尽くしている赤毛の女性。
その赤毛の女性に話しかけながら草むらから飛び出す紫髪の青年。レオだ。


「い、いえ……こっちには来てないけれど……」


答えた赤毛の女性は腰に三日月刀を三本ぶら下げており、腰に括り付けた茶色い革袋の中にはゴブリンの耳が大量に入っていた。
この女性は今回の作戦において東北ルートを進んでいたゴールド級冒険者〈舞姫のナイアリス〉だ。


「……あんた、なんでそんな喋り方してるんだ?」

「え……? な、なんの事……」

「あんた、無理にその口調作ってるだろ」

「…………チッ なんでわかったんだ」

「そんな気配がした」

「気配……?」

「ああ、あんたからはそんな育ちの良い言葉遣いをするような気配を全く感じない」

「なるほど……気配に敏感な奴はそれだけで気づくんだな
で、なんの用だ?」


もうバレてしまっているためか、さっきまでの気弱な様子は無く、髪を耳に掛けながら高圧的に態度を変えた。
それに対しレオも、闘気を放ちながら答える。


「要件ならさっきも言った
ゴブリンがこっちに来なかったか?」

「その答えならしたはずだが?
こっちには来なかった、と」

「そうか、なら二つ目の質問に答えろ
なぜそんな喋り方をしているんだ?」


ナイアリスはしばらく悩むように頭を捻り、そして答えた。


「昔から口が悪くて友達が居ないから、皆の前では丁寧に喋ってるだけ」

「なんだ、案外面白くない理由だな
そんな事気にして、生きるの疲れないのか?
おれの仲間には変な喋り方の青髪 シエラ が居るが、全く気にならないぞ」

「な、なんだと……!」

「そんな小せえ事で自分を潰すなよ」


レオはそれだけ言うと森の中へ引き返そうと振り返る。
が、ナイアリスはそれを制した。


「ま、待て」

「……?」

「そ、その…………いや、いい……
アイゼンウルブスに帰るんだろ?……いや、帰るんでしょ?」


少しもじもじとしたような、さっきまでとはまた違った態度を取ったかと思えば、再び高圧的な態度でレオに尋ねる。


「もうはぐれのゴブリンもあらかた始末したから、その予定だ」

「私も行く……」

「……何故?」

「その…………に……った……よ」


いよいよ体をもじもじさせながら小声で何か呟く。
風の音にも負けそうなその声にレオは当然……


「道に迷っただ?」


聞こえていた。


「そ、そうよ!帰り道がわからなくてずっとここをウロウロしてるの!」

「……わかった
でも、あの黒い煙を追えば帰れるんじゃないのか?」


レオは木々の間から見える黒い煙を指差す。
それは、アイゼンウルブスからあがる煙だ。


「それを辿っても気づいたら逆方向を歩いてるのよ……」


その言葉を聞いたレオは、何を考えてるのか、無表情のまま森の中へ入っていった。


「ま、待ちなさいよ!」

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