最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

94話 皇帝鬼

 東南ルート。
 〈蒼紅そうくあしぎぬ〉はゴブリンの群れに遭遇する事も無く、道に迷う事も無く順調に進んでいた。


「拍子抜けだなぁ」

「まぁまぁ、何事もない分には良いではないですか。ランシエ」

「そうだけどよぉ」


 蒼のベポ、紅のランシエはその絶妙なコンビネーションと熟練の知識から、なんの問題もなく歩みを進めていた……が。


「グォォォォォォォッッ!!」


 咆哮と共に草むらから現れたのは赤黒い皮膚、角の生えた頭部はいかつい顔に鋭い牙も生えている。


「おお、オーガか」

「どうしてこんな所にオーガが……ともかく殺りますか。ランシエ」


 オークの振り払ったなたをベポが棍で受け止める。その隙にランシエの金棒がオーガの下顎を強打。
 オーガはよろよろと後ずさるが、二人は引き下がらない。


「グ、グギャァァァ」

「無駄ですよ」


 棍による突きで四肢を突かれ、オーガはがっくりと膝をつく。


「お、ら、よっと!!」


 そこへランシエの金棒がオーガの頭部を捉え、グチャリと嫌な音を立てて、オーガの頭は潰れた。


「他愛もないですね ランシエ」

「オーガ程度、余裕余裕」


 東南ルート。
 障害に遭遇するも問題なく進行。





「ドウダ?」


 オーガを仕留め終えた雨刃は片手剣についたオーガの血を落としながら尋ねる。血を落とさない事をエヴァに怒られてから気を付ける事にしたらしい。エヴァは「意外に素直なんだ」と驚いていた。
 雨刃が聞いたのは恐らくはディーナス達の具合についてだろう。


「全員かなり傷付いてはありんすが命に別状はなさそうでありんす」

「ソウカ。ジャアサッサト外ニ連レテ……」


 こっちに近づきながら喋っていた雨刃がピタリと動きを止める。
 竹笠から見える赤隻眼が何かを思案している。と言っても赤い点が見えるだけなので、勘でしかないが。リンも感じているようで、入ってきた入り口よりも右側に続いている通路をじっと見据えている。
 シエラとエヴァは治療でそれどころじゃ無く、レオは腰の銀月に手を当てている。


「ホゥ……」

「……何か……何か来る」


 耳に神経を集中させ音を聞く。
 何か、金属のような物を引きずる音。それに合わせて足音、それも並の魔物じゃないレベルの魔物の足音だ。デカさで言えばさっき雨刃が殺したオーガの二倍……いや三倍にはなるだろう。


「グギャハハハハッッ!! 随分好き勝手暴れてやがんなーッ!!」


 通路から現れたのはオーガと同じく赤い色の肌の鬼。
 下半身にはみっちりと筋肉がついており、上半身は筋肉隆々……では足りないほど筋肉で盛り上がっている。片手に引きずっているのは巨大な剣は一振りで俺達の体なんて簡単に真っ二つに出来そうだ。
 そして何より今までの魔物と違うのは喋っているということ。魔物の中には言語を理解する種が存在するとは聞いていたが、遭遇するのは初めてだ。


「ドッカデ聞イタヨウナ台詞ダナ」


 雨刃は直ぐに片手剣を展開させオークの上位種と思わしき魔物に狙いを定める。


将軍鬼ジェネラルオーガか」

「お? えれーべっぴんな嬢ちゃんがひぃふぅみぃ……グギャハハハハハッッ! 俺はついてるなぁ 雑魚共が数体やられてるがまぁそれも問題な……ッ!!」


 俺達を値踏みするように見ていたジェネラルオーガは突然攻撃を受け、言葉を止める。リンの攻撃だ。高速の連撃がジェネラルオークの全身を捉え、斬り刻む。
 だが浅い。全身に傷ができたもののどれも大して効いてない。


「おうおう、血気盛んなこった。だが、その程度では俺を倒すことは……お?」


 数十の片手剣が天を舞いながらジェネラルオーガに襲いかかる。
 だが、なんでもないと言わんばかりにその巨大な剣を振り、その大木の如き腕を振り、片手剣を跳ね除ける。


「一級トハ思エナイ強サダナ」


 単体でもオーガの四肢を斬り裂く程のパワーがあった雨刃の攻撃を全弾打ち落とし、おまけに言語も理解。一級にしては強すぎる。なんだ……ジェネラルオーガじゃないのか。


「一級? 俺は一級のジェネラルオーガじゃねーぜ。俺は……いや、これ以上は言えねーが俺は皇帝鬼エンペラーオーガ、ジェネラルオーガの上位種にしてその実力は伝説級にも劣らない」


 エンペラーオーガ……伝説級に匹敵する……?


「ソンナ人喰い鬼オーガハ聞イタ事ガ無イ」

「そうだろうな この世界に俺以外にエンペラーオーガは居ねぇ」

「それもおかしな話だな」


 雨刃とエンペラーオーガの会話にリンも加わる。


「上位種とは、別名、突然変異種。いつ生まれるかも、どこで生まれるかもわからない未知の個体。なのに世界に一体なんてどうやって断言できる?」

「この世界には、自然の流れで突然変異する奴も居るが、俺は違う。“意図的に”突然変異したのが俺だ」

「意図的?」

「ああその通りだ。正確にはさせられた、だがな。俺はある方によって意図的に作られた種族ってこった」


 意図的に魔物を作る? そんなやつがこの世にいるのか。
 居たとしたらなぜこんな所にエンペラーオーガを置くんだ? 突然現れたゴブリンの巣……その巣を支配しているのはゴブリンでは無く、オーガの上位種。何が目的で、何がしたいんだ。俺の知らないところで何が起きているんだ。


「クロト!」

「あ、ああ!」

「アイツハ危険ダ。ココデ殺ル。ヒトマズ時間ハ稼グ。ソノ間ニソイツラディーナス達ヲ外へ連レテ行ケ」

「俺達も……」

「邪魔ダ」


 言い終わると同時に片手剣が嵐の如く動き出す。その数は百。本気だ。
 だがエンペラーオーガもかなり早い。流石に巨大な剣を高速で振る事は出来ないらしく、盾のようにしながら攻撃を防いでいる。
 更には素早い動きで腕を振るい、足を振り上げ雨刃の猛攻を防いでいる。だが、流石に数の暴力には勝てず、全身に多くの傷が出来ている。作られたという事は普通のオーガよりも高性能ということなんだろう。
 あの巨体にしてはかなり早いし、かすり傷が出来ても全く関係ないというようにただひたすらに突き進んでいる。自己回復も出来るのか、純粋なタフさが可能としているのか。
 確かに攻撃を仕掛けているのは雨刃で、エンペラーオーガは受ける事しか出来ていないが、じりじりとその距離を詰めている。このままでは……


「クロト!」

「ん、エヴァ?」

「行こう……」

「そうだな、俺達が居ても邪魔になる」


 強さがどうとかのレベルじゃない。
 雨刃の戦闘は個人戦ソロでこそ本領を発揮する。俺は気を失ったまま倒れているディーナスを肩に担ぎ、出口を目指す。

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