最弱属性魔剣士の雷鳴轟く
84話 一日の始まり
次の日の朝。
目が覚めた俺は軽く身支度だけして一階に降りた。
一階には受付をするカウンターがある正面玄関と、その隣に食堂があり、朝食はそこで出してもらえる。レオはもう部屋にいなかったし、女子の部屋の方からは人の気配がなかったので、皆もう起きてるんだろう。
一階に降りるとフィールがカウンターから勢い良く顔を覗かせた。
「あ、昨日の旅人さん。おはよー!」
「おはよう」
「こら!フィール。お客様になんて口聞いてんだい! すいませんねぇ、お客様」
「大丈夫ですよ」
俺は、軽く会話をしたあと、食堂に入った。
食堂とはいえ、大きめの部屋に四人がけの丸テーブルが数個置いてあるだけの質素な部屋だ。
入ると奥のテーブルでエヴァが既に朝食を食べていた。俺達以外には誰もおらず、貸切状態だった。
「エヴァ、おはよう」
「…………」
声を掛けたが、聞こえていないのか返事をしてこない。
最近、俺達と一緒にいる時は何でもない風に装っているが、一人の時に憂れるような表情をしてることが多い。
「おはよう」
俺はエヴァの視界に入るようにして、再び声をかける。
「……あ! お、おはよう!」
「おう、おはよう」
「遅かったね」
「らしいな……レオとシエラは?」
「えーと……シエラはすぐ近くの森に行ったよ」
「ん? 森?」
「うん 腕がなまるといけないから早朝訓練だって」
「へぇ、意識高いな。レオは?」
エヴァは水を飲みながら人差し指で上を指す。上……?
◇
宿屋〈ホワイトパピー〉は一回が正面玄関と食堂。
二階が客室になっており、三階は女将やフィール達の生活スペースになっている。三階建ての建物はこの近くにはなく、赤い屋根が頭一つ飛び出している。
その三角屋根の上に完璧なバランスであぐらをかき、両目を閉じた紫髪の青年が居た。白い長Tシャツにズボン、腰には一本の白い刀がさしてあるだけ。
大和に居た頃、よく行っていた瞑想をしながらレオは、この間のロックドラゴンとの戦いを思い返していた。
最終的には勝てたとはいえ、それはシエラの回復、クロトの新しい力、ハンター隊の援護。
それらがあったから勝てたのであって、レオ一人では勝てたかどうかわからない。
「(この程度じゃだめだ。クロトは雷化・天装衣よりも更に上位の魔術を、シエラは神眼を持っている。エヴァリオンもグラキエースドラゴンとの戦いでは謎の盾を無意識で呼び出したらしい・おれもこのままじゃ駄目だ、もっと強く……強くならないと)」
その時、ホワイトパピーからクロトとエヴァが出てきた。レオは目こそ閉じていたもののすぐにクロト達だと気づき、目を開けた。振り返ったクロトは屋根を見上げ、まっすぐレオを見る。
「レオ! 仕事に行こう!」
「……今日はパスだ」
クロトもエヴァも不思議そうな顔をしていたが、すぐに「わかった!」とだけ言って冒険者ギルドの方へ歩き出した。
レオは立ち上がり、建物の入り口とは反対側から降り、路地に消えた。
◇
「しかしなんでレオの奴来なかったんだろうな」
俺達はホワイトパピーを出たあと冒険者ギルドへ向かい、依頼を受けてきた。
その目的地である森には着いたけど、レオは誘ったのに来ないし、シエラは帰ってこないし……仕方ないから二人で行くことにした。
「色々と考えがあっての事じゃない? レオも直感で動くタイプだけど、頭が悪いわけじゃないし」
「まぁな……気にしても仕方ないし、とりあえず仕事やるか」
「うん!」
「それにしてもブロンズなのによく討伐の依頼が回って来たな」
「近くに大規模なゴブリンの巣が発見されたらしいよ。そこをシルバー級冒険者パーティが叩くから、漏れた敵を倒してほしいって事みたい。数が多いらしいし、結構な冒険者に声かけてたよ」
「なるほどな、通りでこんな末端にまで……ま、依頼は依頼だ。ゴブリン程度狩り尽くしてやるぜ」
「一匹あたり銅貨五枚! 上手くやればここでかなり稼げるよ!」
「おう!」
◇
一方、別の場所では。
「ナンダヨ、小鬼狩リッテ。オレ達ノスル依頼カ?」
「ここの冒険者ギルドには世話になっている。困っているのなら助けてやるのが当然だ」
「マ、ソウダケドヨ」
片手剣が大量に張り付いたマントを着た男、雨刃とくすんだ赤色のマントを身に纏った女、リンが歩いていた。
二人共オリハルコン級冒険者パーティ〈シルク・ド・リベルター〉のメンバーで、共にミスリル級、つまりオリハルコンより一つ下の位に位置する冒険者である。
「ギシャァァァ」
「グギャァァァァ」
草むらから飛び出した二匹のゴブリンが雨刃とリンに飛びかかる。
「小鬼ッテノハ多少ナリトモ知識ガアルハズダガ……」
羽刃はマントについた剣を一つ掴み、ゴブリンを斬り捨てる。
本来なら縫い付けられている片手剣を掴むとマントまで付いてくるはずだが、片手剣とマントはたった一本の糸で繋がっており、マントから糸が伸び、まるで縄鏢の剣バージョンの様になっている。
「格上相手ニ向カッテ来ルノハ勇敢デハ無ク、無謀ダ」
もう一体のゴブリンも既にリンに斬り伏せられている。
二人は素早くゴブリンから耳を削ぎ落とし、リンは雨刃に渡し、雨刃はマントの中に入れた。
「さて、次の獲物を探しに行くぞ」
目が覚めた俺は軽く身支度だけして一階に降りた。
一階には受付をするカウンターがある正面玄関と、その隣に食堂があり、朝食はそこで出してもらえる。レオはもう部屋にいなかったし、女子の部屋の方からは人の気配がなかったので、皆もう起きてるんだろう。
一階に降りるとフィールがカウンターから勢い良く顔を覗かせた。
「あ、昨日の旅人さん。おはよー!」
「おはよう」
「こら!フィール。お客様になんて口聞いてんだい! すいませんねぇ、お客様」
「大丈夫ですよ」
俺は、軽く会話をしたあと、食堂に入った。
食堂とはいえ、大きめの部屋に四人がけの丸テーブルが数個置いてあるだけの質素な部屋だ。
入ると奥のテーブルでエヴァが既に朝食を食べていた。俺達以外には誰もおらず、貸切状態だった。
「エヴァ、おはよう」
「…………」
声を掛けたが、聞こえていないのか返事をしてこない。
最近、俺達と一緒にいる時は何でもない風に装っているが、一人の時に憂れるような表情をしてることが多い。
「おはよう」
俺はエヴァの視界に入るようにして、再び声をかける。
「……あ! お、おはよう!」
「おう、おはよう」
「遅かったね」
「らしいな……レオとシエラは?」
「えーと……シエラはすぐ近くの森に行ったよ」
「ん? 森?」
「うん 腕がなまるといけないから早朝訓練だって」
「へぇ、意識高いな。レオは?」
エヴァは水を飲みながら人差し指で上を指す。上……?
◇
宿屋〈ホワイトパピー〉は一回が正面玄関と食堂。
二階が客室になっており、三階は女将やフィール達の生活スペースになっている。三階建ての建物はこの近くにはなく、赤い屋根が頭一つ飛び出している。
その三角屋根の上に完璧なバランスであぐらをかき、両目を閉じた紫髪の青年が居た。白い長Tシャツにズボン、腰には一本の白い刀がさしてあるだけ。
大和に居た頃、よく行っていた瞑想をしながらレオは、この間のロックドラゴンとの戦いを思い返していた。
最終的には勝てたとはいえ、それはシエラの回復、クロトの新しい力、ハンター隊の援護。
それらがあったから勝てたのであって、レオ一人では勝てたかどうかわからない。
「(この程度じゃだめだ。クロトは雷化・天装衣よりも更に上位の魔術を、シエラは神眼を持っている。エヴァリオンもグラキエースドラゴンとの戦いでは謎の盾を無意識で呼び出したらしい・おれもこのままじゃ駄目だ、もっと強く……強くならないと)」
その時、ホワイトパピーからクロトとエヴァが出てきた。レオは目こそ閉じていたもののすぐにクロト達だと気づき、目を開けた。振り返ったクロトは屋根を見上げ、まっすぐレオを見る。
「レオ! 仕事に行こう!」
「……今日はパスだ」
クロトもエヴァも不思議そうな顔をしていたが、すぐに「わかった!」とだけ言って冒険者ギルドの方へ歩き出した。
レオは立ち上がり、建物の入り口とは反対側から降り、路地に消えた。
◇
「しかしなんでレオの奴来なかったんだろうな」
俺達はホワイトパピーを出たあと冒険者ギルドへ向かい、依頼を受けてきた。
その目的地である森には着いたけど、レオは誘ったのに来ないし、シエラは帰ってこないし……仕方ないから二人で行くことにした。
「色々と考えがあっての事じゃない? レオも直感で動くタイプだけど、頭が悪いわけじゃないし」
「まぁな……気にしても仕方ないし、とりあえず仕事やるか」
「うん!」
「それにしてもブロンズなのによく討伐の依頼が回って来たな」
「近くに大規模なゴブリンの巣が発見されたらしいよ。そこをシルバー級冒険者パーティが叩くから、漏れた敵を倒してほしいって事みたい。数が多いらしいし、結構な冒険者に声かけてたよ」
「なるほどな、通りでこんな末端にまで……ま、依頼は依頼だ。ゴブリン程度狩り尽くしてやるぜ」
「一匹あたり銅貨五枚! 上手くやればここでかなり稼げるよ!」
「おう!」
◇
一方、別の場所では。
「ナンダヨ、小鬼狩リッテ。オレ達ノスル依頼カ?」
「ここの冒険者ギルドには世話になっている。困っているのなら助けてやるのが当然だ」
「マ、ソウダケドヨ」
片手剣が大量に張り付いたマントを着た男、雨刃とくすんだ赤色のマントを身に纏った女、リンが歩いていた。
二人共オリハルコン級冒険者パーティ〈シルク・ド・リベルター〉のメンバーで、共にミスリル級、つまりオリハルコンより一つ下の位に位置する冒険者である。
「ギシャァァァ」
「グギャァァァァ」
草むらから飛び出した二匹のゴブリンが雨刃とリンに飛びかかる。
「小鬼ッテノハ多少ナリトモ知識ガアルハズダガ……」
羽刃はマントについた剣を一つ掴み、ゴブリンを斬り捨てる。
本来なら縫い付けられている片手剣を掴むとマントまで付いてくるはずだが、片手剣とマントはたった一本の糸で繋がっており、マントから糸が伸び、まるで縄鏢の剣バージョンの様になっている。
「格上相手ニ向カッテ来ルノハ勇敢デハ無ク、無謀ダ」
もう一体のゴブリンも既にリンに斬り伏せられている。
二人は素早くゴブリンから耳を削ぎ落とし、リンは雨刃に渡し、雨刃はマントの中に入れた。
「さて、次の獲物を探しに行くぞ」
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