最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

55話 クロトvsアグリア

「よく見れば中々いい男じゃない。私の味方になる気は?」

「フッ……自惚れるなよ、たかが盗賊団の頭領が。おれが従うのはおれより強い相手のみ」

「ふーん……つれないのね。じゃあ死になさい」


 アグリアは再びナイフを構え走り出す。


至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 相殺の型 『身代下降しんだいかこう』!!」


 レオはすばやく抜刀し、斬りかかる。が、アグリアには一切刃は届いていない。


「どこを狙ってるのかしら? 大口叩く割には大した事無いわね!」

「大した事無いのはどっちだろうな。この技の真の狙いも気づかんか」

「……!?」


 言い終えるとほぼ同時にレオが姿を消す。


「ど、どこに……」

「下だ」


 先程までレオが立っていた場所には丸く穴が空き、レオは家の中に落ちていた。


「一瞬だけ敵の気をそらし自分の身を守れる。下が空洞という条件付きだがな」

「それになんの意味があるのかしら」

「至天破邪剣征流は一対多を想定し、得意とする抜刀術。もともとお前との一対一は俺にとって不利、とはいえお前が混じった集団と戦うには少し力不足だ。だからまずお前を離す。後はクロトに任せてな」


 レオは窓を蹴り破り外へ出るとそのまま近くの盗賊に斬りかかる。盗賊は持っていた剣で受け止めるもレオは、既にがら空きになった胴を切っていた。


「ぐぁぁ……」

「な、くそ! 待て!」


 アグリアはレオを追いかけようとするが、バチバチと稲妻が屋根に走りアグリアは足を止める。


「お前の相手は俺がしてやるよ」


 すぐ近くに隠れていたクロトが姿を現わす。





 テンペスターとシュデュンヤーを抜き、アグリアを睨む。
 相手は姉御と呼ばれる正真正銘この盗賊団のリーダー。使う術は不明だが、見てわかる通りのナイフ二刀流。おまけにさっきの動きを見るにかなり早い。
 初めて戦うタイプの敵だし、気を引き締めていこう。


至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 薙払の型 『横一文字斬り』!」

「ぐあ……」

「ぎゃぁぁぁ」


 レオが周りにいた盗賊を横一文字に斬り、盗賊達は衝撃で吹き飛ぶ。改めて見て思うが、レオの剣術は常軌を逸している部分がある。まず抜刀からの横薙ぎ一閃で人が吹き飛ぶ程の威力は普通出せない。俺の様に雷術の爆発力を利用しているわけでもなく、純粋な力勝負で戦っている。


「へ……俺が相手してやるよ! クソ剣士!!」

「あなたの相手は私がしてあげる。氷術 氷牢」

「なに……!?」


 ラディの腰から下が凍り付き、身動きが取れなくなる。ラディが振り返るとエヴァがドヤ顔で立っていた。
 レオが盗賊達をいっぺんに相手し、実力者二人を俺とエヴァが抑えておく。予め決めていた役割分担だ。


「こんなもん……おりゃぁぁぁ!!」


 ラディは無理矢理力を込めて氷の拘束を破る。エヴァの速攻の氷術では表面上を凍らせる事しか出来ず、力ごり押しのラディの様なタイプには少々不利だ。


「あなたには昨日のお返しをしなくちゃね。氷術 冷たい処女コールドメイデン


 エヴァが手を鳴らすと、昨日のラディが使った鉄の処女アイアンメイデンの氷バージョンが出現する。
 どうもアレに捕まったのが屈辱だったようで、わずか半日で模倣して仕上げてきている。元々エヴァには魔術の才能があるとは思っていたが、見様見真似でコピーする様には驚かされる。


「こ、これは……」


 冷たい処女コールドメイデンの胴が開き、中から氷の鎖が飛び出す。ラディに巻き付き、そのまま冷たい処女コールドメイデンに巻き取られ、ラディも中に閉じ込められる。意表を突いた一撃で、自分の得意技を相手が使って来るとは夢にも思わずラディはあっけなく冷たい処女コールドメイデンに囚われる。


「こんな……もん……」

「はぁ!!」


 エヴァがさらに魔力を込めると冷たい処女コールドメイデンごと巨大な氷柱になり、ラディは完全に氷の中に囚われる。ここはエヴァのオリジナルだそうだ。結局エヴァに使われた時は途中でレオが鎖を断ち切った事で脱出しているため、捕まるとどうなるのかわからなかったのだ。


「ラディ! お前達!」

「お前の相手は俺だぜ。アグリア……だっけ」


 俺はアグリア乗った屋根に飛び乗り右手に持ったテンペスターと左手に持ったシュデュンヤーを握り直す。
 アグリアは部下をやられた事か、俺達に一杯食わされた事か、はたまたその両方に怒り、顔を歪めこちらを睨む。
 二人の間に独特の緊張感が流れる。相手は長年殺しと盗みを生業としてきた。純粋な戦闘力は抜きにしても場慣れしているのは確実に向こうだ。この戦い、俺が一瞬でも気を抜いたら死ぬ。


「……」


 しばらく睨み合った後、先に動いたのはアグリア。逆手に持ったナイフを下から上に振り上げる。
 シュデュンヤーで防ぐが、すぐに逆の手のナイフが振られる。
 体を若干右にずらしながらテンペスターで上に弾き、そのまま二本の剣を合わせて斜めに斬る。が、さすが盗賊。素早い動きで剣を避け屋根の向こう側に逃げ込む。
 俺は不意打ちを取られないように大きめにジャンプし、上から屋根の向こう側に回り込む。姿を捉えられないのはまずいと直感的に感じ、すぐさま振り返るも、アグリアの姿は既にそこには無かった。


「どこだ……」


 目を離したのは飛び上がった瞬間だけ。移動してれば音や気配でわかるはずだ。もしくは足音や気配を完全に消して移動できる歩術のようなものを習得しているのか。
 さっきアグリアが初めて姿を現した時も、音や気配は感じられなかった。となればまだこの周辺に居るが、完全に気配を消しているという事か。
 俺は周りを見渡しながら周囲の気配を探る。視界には何も映らない。気配も素人の俺じゃ掴み切れない。


 その時、ザッという藁が踏まれる音が後ろから聞こえ、振り返るとアグリアがすぐそこまで迫っていた。
 アグリアは長い脚を突くように蹴り上げる。俺はテンペスターの柄で受けるが、衝撃が思ったよりも強くテンペスターが手から離れ、後ろの屋根に刺さる。
 俺自身も蹴りの衝撃を受けきれず若干後ろにのけぞる。足を踏ん張りなんとか倒れずに済むが、アグリアは畳み掛けるように右手のナイフを振り下ろす。


「くそ……」


 俺はシュデュンヤーでナイフを弾き、そのままアグリアに振り下ろす。が、一瞬アグリアの方が早く左手の握り拳を突き出していた。
 トンっと右脇腹に拳が当たると同時に、不自然に突き刺すような痛みが広がる。打撃の痛みと言うよりは刺突の痛みに近い。


「ッ……! なんだ、これ……」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品