最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

58話 ただいま

 キンミー村を後にした俺達は俺の故郷であるリブ村に向かうことにした。


「俺の勘が正しければもう近くまで来てるはずだ」

「そんなのわかるのか?」

「この川が目印だ」

「川?」


 レオは俺達が進んでる道のすぐ隣を流れる川を見る。


「この川は帝国まで流れてて、俺の村もこの川のすぐ近くにあるんだ。ここから帝国は見えないし、もうすぐのはずだ」

「なるほどな」


 そんな会話をしつつも俺達は馬車を進め、ついにリブ村に到着した。


「…………」

「おい……クロト」

「ああ、言ってなかったな。俺の故郷、リブ村は五年前にミノタウロスに襲われ、崩壊してる」

「……そうか」


 俺達は馬車を手綱でひき、村の奥に進む。
 血は乾燥し、村人たちの死体も無い。だが、斬り裂かれ、踏み潰された家々にはしっかりとあの日の惨劇が刻まれていた。


「ここが、村の中心だ」

「キンミー村に比べても大きい村だったんだな」

「ああ」

「……クロト」


 エヴァがスッと俺の袖を掴む。


「大丈夫だ、エヴァ。取り乱したりしないから」

「うん……」


 何気なく広場の端を見ると、大きめの石が規則的に並べられていた。釣られる様にそっちの方に歩いていく。
 そこには墓というにはあまりにもささやかだが、気持ちの込められた、俺にとっては立派な墓が立っていた。膝までの大きさの石がきれいに並べられ、その下の芝生が土になっているのを見るに、ちゃんと遺体も埋めてくれたんだろう。
 視界がぼやける。
 涙が頬を伝い、地面に落ちる。物心ついた時からの記憶が走馬灯の如く駆け巡り、止まることなく涙がこぼれ落ちる。俺は唯一無二の故郷を失ったんだと、五年経った今明確に心に刻まれた。今まで心の底でまたここに来れば村の皆に会えるんじゃないかと思っていた。でも、もうそんな甘い幻想は見ない。決意と共に魔王への復讐の気持ちが高まる。


「クロト……」


 駆け寄ろうとしたエヴァの肩をレオが掴み止める。


「今はそっとしといてやれ」

「……うん」





「悪い、時間を取らせた」

「もういいの?」

「ああ、行こう あんまり時間も使ってられないしな」

「わかった、行こう」


 父さん、母さん、ローガン師匠……そしてリック。
 ただいま、そして……行ってきます。





 リブ村で一晩過ごした後、俺達は旅を再開した。
 来る日も来る日も馬を進め、特になんのトラブルもなく二週間が経過した。その朝。


「……ロト! ……クロト! 起きて! クロト!」


 ん、この声はエヴァか。どうしたんだ、こんな朝早くに。昨日の見張りはレオとエヴァが交代でしてくれているはずだったが。
 俺は寝惚けまなこを擦りながら目を開く。朝の日差しがもろに入ってきて一瞬怯むがなんとか起き上がる。


「おはよう、どうし……」


 ぼやけた視界でエヴァがいるであろう方向を向くと、巨大な虎のような生き物がよだれを垂らしながらこっちを狙っていた。
 体毛は白く、たてがみは黄色い。目は人間ならば白目の部分が黒、黒目の部分が赤色をしている。四足で立っている状態でも高さは俺達の二倍、三倍はある。


「こ、こいつは……?」

「さぁな。とりあえずこのままじゃやばい。おれが足止めするからクロトとエヴァリオンは馬車の用意をしてくれ」


 俺とエヴァの間にレオが立ち、足止めしようとしてくれている。


「クロト……」

「ああ、行くぞエヴァ」

「うん」


 俺は野営に必要な荷物を入れてある袋を掴み、走る。
 森を走り抜け馬車があるところまで出ると昨日と同じように止まっている馬車に荷物を投げ込む。
 馬達には悪いが朝飯の前にひとっ走りしてもらう。


「ヒヒィィィィン」


 伸び伸びと草を食べていた二頭の馬は何かを感じ取ったのか「ありえないわ」と言った顔で俺を見る。
 そんな顔で俺を見るなよ。緊急なんだから。


「よし、エヴァ乗れ!」

「うん!」


 俺も荷台に乗り込み森を見る。ここからじゃレオの姿は見えない。向こうがどうなっているのかわからないが、レオならついてこれるはずだ。


「なんだ……」


 妙な違和感と嫌なプレッシャー。肌が、ピリピリして髪が逆立つような……
 次の瞬間、突然にして視界を真っ白な何か・・が塞ぐ。それ・・は地面をえぐり、土や木が宙を舞いながら森から外へ放たれる。森の中から高エネルギーの何かが放たれたらしい事しかわからない。何か・・は森の正面に位置する川にぶつかり水を巻き上げながら止まった。


「……な、なんだこれ」


 目の前の平原がえぐれた土に変わり、川は水を吹き飛ばされ、底の岩が見えている。そして次の瞬間レオが森から出て来た。
 肩のあたりから若干焦げてるのか煙が上がってる。


「おい、これ」

「馬車を出せ! 早く!」


 俺はレオを引っ張り上げ、手綱を握る。と、ほぼ同時に虎が森の中から現れる。口元には雷をバチバチと纏わせている。
 反射的に馬に鞭を振るい走らせる。


「あれはなんだ?」


 全速力で馬を走らせながらレオに聞く。


「わかんねーけど、雷を操る虎だ。わりと、強いぜ……」


 レオの語尾が妙に楽しそうで、強い魔物を見て闘争心が掻き立てられてるんだろうと察する。
 しかし、レオじゃないがこれは戦うしかない気もする。馬車を引いた馬のスピードなんてたかが知れてる。このままじゃすぐに追いつかれる。事実虎と俺達の距離は三メートルも無い。


「ゴンザレスぅ……エリザベスぅ……頑張って……うぷっ……」


 ゴンザレス? エリザベス? いつからこいつらにそんな名前つけたんだエヴァ。……と、そんなことよりこれは本当にやばい。逃げきれないだろう。


「戦おう。このまま逃げ切るなんて無理だ」

「わかった。行くぜ……」


 レオは荷台の後ろから虎に向かって飛び、腰の刀、二代銀月を握る。


至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 薙払の型 『横一文字斬り』!!」

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