最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

35話 新しい旅立ちと目的

「……でよ、その後鬼みたいな顔したババアがよ……」

「……ほうほう……うん…それで?」

「クロ坊〜、酒がまだだぞ〜」

「あ、ああ。レッグ」


 ブルーバードは一瞬静止したもののすぐにいつもの調子を取り戻した。ここに集まる連中はみんな総じてどこか変な部分が多い。そしてよそ者を拒まない。故にこの黒革鎧軍団も何かわけのある新入りだろうと言う認識なんだろう。
 俺は黒革鎧の男達、特に先頭にいる黒髪のリーダー格から目が離せす、上の空で相槌を打つ。


「ほらよ」


 レッグから酒の入った瓶を受け取る。
 受け取るのとほぼ同時に俺の頭に映像が流れ込んで来た。
 真っ黒の宮廷に巨大な玉座、座っているのは赤い顔の巨人。その足元でひざまずく黒髪の少女。場面は変わり宮廷の門の前で先程の少女が黒革鎧の男達になにか指示を出している。次の場面は森で魔物を討伐している場面だ。黒革鎧の男達の後ろで少女が見ている。


 場面が最初に戻った。
 でも今回は映像じゃない。もっと立体的な、まるで俺がこの場にいるかのような……ブルーバードが消え、俺は薄暗い広間にいた。
 最初の映像で見た真っ黒な宮殿だ。奥に巨大な玉座が聳え、座っているのは巨人。真っ赤な皮膚に巨大な王冠。黒とも灰色とも取れる色の着物を着ている。よく見ると人の顔、それも苦しんでいる人の顔の模様が入っている。


「クリュよ」


 巨人の野太い声が広間に静かに響く。この場にいるわけでは無いのに腹の奥がぞわそわするような、重く響く声だ。


「はッ! 父上」


 その声に反応するのはまだ十五歳程度であろう少女。真っ黒な髪を方まで伸ばし、目は白く濁りがない。


「そろそろ限界だ。我はここを離れることが出来ぬ故、お主に頼む。ゼウスに代わる英雄を見つけ出し、我の元まで連れてこい」

「は!」


 最後の声が消えるか消えないかの内に俺はまたブルーバードに戻ってきていた。
 誰だ、あの巨人。クリュ……あの少女か。限界ってなにが。ゼウスってなんだ。なぜこんなものが見えたんだ……


「……ロト!」

「おい!クロト!」


 ㇵッと俺は我に返り周りを見渡す。


 レッグ、ヴァランにマルスとアジェンダが心配そうに俺の方を見ている。
 酒は…………カウンターの上で粉々に砕けてる。全身から汗が吹き出していた。俺は息を整え話す。


「わ、悪い。大丈夫だ」

「本当に大丈夫か? まだ魔力枯渇症が治ってねぇんじゃねぇか?」

「それは大丈夫……のはず。ちょっと悪い」


 俺はカウンターを離れ黒革鎧の男を睨み付けながら近づく。左腰にさげているテンペスターに手を添え、いつでも抜けるようにする。何が目的かは知らないが友好的には見えない。
 そして黒革鎧の男の前で立ち止まり見上げる。こいつ、強い。今戦えば俺の全力で互角か、長期戦になれば負ける。


「やっと見つけました」

「なんの話だ……? 何故いきなりあんなものを見せた……お前だろ? 見せたの」

「場所を変えましょう」


 とだけ言うとスタスタとブルーバードから出ていった。来いと言うことらしい。
 ヴァランに目で少し抜けると伝え、そのまま男に続く。





暫く歩いて近くの森の近くで男は止まった。


「突然の無礼、申し訳ありません」


 男は振り返ると膝を付き、頭を下げる。周りの奴らも同じく。


「な、なんだよ、急に」


 さっきまでの威圧的な態度が嘘のようだ。


「こうでもしなければ我々に気づいてもらえないと思い。手荒になってしまった事、本当に申し訳ございません」

「……わかった、それはいいよ」


 後でレッグに酒代払ってくれれば。


「で、なんであんなのをいきなり見せたんだ?」

「単刀直入に申し上げます。我々の主を救っていただきたい」

「主?」

「ええ、主はある目的のために貴方を……いえ、適合者を探しておりました」

「目的?適合者?」

「申し訳ありません。私の口からは……どうか我らの主、ハデス様の娘であるクリュ様とお会いください」


 クリュ……映像に出てきた少女の事か。


「で、そのクリュって奴はどこにいるんだ?」


 俺は周りを見渡しながら聞く。この男達以外に人影はない。


「今ここにはおりません。突然行方がわからなくなってしまったのです」

「行方不明……?」

「クリュ様はお強いお方ですので無事だとは思いますが、主から人間の殺生は禁じられておりますので、もしかすると……」

「そうか、じゃあまずはクリュを探す……もしくは助けるところからだな」

「はい、ご協力感謝します」

「最後に聞かせてくれ」

「はい?」

「どうして俺だったんだ? あの場ブルーバードに俺より強いやつは他にもいた。それこそヴァランやアジェンダ、マルスみたいに……お前だって俺より強いはずだ」

「主より仰せつかった命は『ゼウスに代わる英雄を見つけ出し、我の元まで連れてこい』 です」

「だからなんで俺なんだよ。だいたいゼウスって誰だ」

「ゼウスとは主の古き友人でございます。三千年前、世界を救った英雄……単純な理由ではありますが、ゼウスは雷属性の使い手でしたので同じく雷属性のクロト様をお選びいたしました。この世界にて雷属性をあそこまで使いこなしている方はクロト様しかいませんでしたので……」


 俺の名前、いつの間に……しかも俺の属性も知ってる。
 何者だ、こいつも主とやらも。


「わかった、じゃあまずクリュって奴を助けよう。お前の名前は?」

「私はグレイドといいます」

「グレイドか、よろしくな」

「よろしくお願いします」


 そんなこんなで俺は素性も何もわからないこいつらを助けてやることにした。
 俺の最終目標はイザベラさんを殺した帝国を滅ぼす事。
 だが、今それができると思い上がるほど馬鹿じゃない。今は耐える時期だ。力を、つけないと。





「なんだクロト、話って」


 俺は、グレイドとセントレイシュタンで落ち合うと約束し、別れた。
 その後、ブルーバードに戻り仕事を終えて今、ヴァランと二人で話をしている。


「今日来た黒革鎧の男達、覚えてるだろ?」

「ああ、あのときは大丈夫だったか?」

「ああ。で、あの後、そいつらと話したんだが……」


 俺はさっきした話を掻い摘んで説明する。


「なるほど……どうしてその話を受けようと思ったんだ? 特にお前にメリットは無さそうに思えるが」

「それは……わからない。前にも言ったが、俺の目的は帝国を外から切り崩す事。そのために今は多くの事を知って、実際に見て感じてみたいと思ってる。だから……」

「その帝国へ復讐するという気持ちが揺らぐ可能性もあるぞ」

「その時はその時だ。俺は憎しみに操られる殺戮者にはなりたくない」

「……わかった、行ってこい!」

「恩を返しきれてないのに勝手を言ってすまん。ありがとうな」

「気にすんな」


 ヴァランに感謝を伝えた後、俺は自室へ戻り同じ事をエヴァにも話した。


「……エヴァはここで待ってても……」

「ううん、一緒に行くよ」

「そうか、じゃあ明日の朝には出発するからな」

「わかった!」





「じゃあ短い間だったが世話になった。また一段落ついたら帰ってこようと思ってる。その時はまた雇ってくれると嬉しい」

「ああ、しっかりやれよ」


 俺達はヴァラン達に見送られ出発した。


「アオーーーーーン」


 あ、忘れてた。





ーあとがきーーーーーーーーーーーーーー
35話 呼んでいただきありがとうございます!

今回はグレイド君が登場しましたね。
因みに第二章で新たに登場した人物はマルス、アジェンダ、クリュ、グレイド、エリックとビリー、ですね。
これから更に増えていくことが予想されます。よろしくお願いします。




ヴァラン「よぉ 読んでくれてありがとな

これからも応援してくれると助かるぜ
フォローコメントいいね待ってるからな

さて、クイズだが、えーと……

あ、そうだ Q4
俺が使っていた水刃の派生魔術で水刃を乱舞させる技をなんというか!
因みに棘のように尖らせて打ち込むのは水刃・蜂の舞だ

じゃあな」

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コメント

  • 相鶴ソウ

    Q4 答えは
    水刃・蝶の舞でした!

    0
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