最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

23話 世間って狭いよねぇ

 エルトリア城最上階。玉座の間。


 白髪頭に白いひげを生やし、赤いマントを身にまとった男――デルタアール国王――と天馬ペガサス騎士団団長 イザベラが話していた。
 デルタアール国王の後ろにはでっぷりと太り、不敵な笑みを浮かべた中年の男――ブルックス大臣――とアラン団長より一回りごつい男が立っていた。


「うむ……東の地にて再びミノタウロスは出現せず、か」

「は、我ら天馬ペガサス騎士団が東の地全土に散っておりますが、全くそういった気配や形跡は確認できません」

「そうか……」


 そこへドタバタと一人の兵士が転がり込む。


「なんじゃ……騒々しい」

「はぁはぁ…………ほ、報告します! アルバレス公爵領より救援要請!昨夜、大魔森から突如としてアンデットの大群が出現。応戦するも謎の魔族からの攻撃により兵の三分の二が壊滅。三分の一の領地が襲われました!」

「な……」

「…………!?」


 周りにいた兵士達もざわつく。
 そりゃそうだ。アルバレス公爵といえば十二公爵の中でも一位、二位を争うほどの軍事力を誇る公爵家だ。それこそ帝国と戦争できるほどの兵力だっている。


「現在、バンリ様の活躍により動きを抑えていますが、なにせ数が多すぎます。いつまで持つか……」


 バンリ・アルバレス。アルバレスを統治する公爵だ。


「うむ……事は急を要する!ファリオス」

「は」

 
 デルタアール国王の背後から低い声が聞こえたかと思うと筋肉男が前へ出てきた。三大将軍の一角 剛力将軍のファリオス・デルガルドンだ。バンリの実の弟で、パトリックの父。
 エルトリア帝国に仕える際デルガルドンの名を貰い、今はそっちを名乗っている。


「お前が率いる特別精鋭隊ですぐに向かってくれ、後から隊を送る」

「は。了解しました」


 それだけ言うとファリオスは早足に玉座の間を出ていく。


「イザベラ 天馬ペガサス騎士団をすぐに呼び戻しいつでも出れるようにしておけ。魔族が大魔森から攻めてきたならこちらも備えなければならない」

「はっ!」

「よりにもよってこんな時に……」





「なんだか騒がしいみてぇだな」


 エルトリア城から何度も騎士達が出たり入ったりしてる。騎兵なので馬に乗っているため目立つ。


「知らないのかい?ガイナ」

「あ、俺も知らねぇ」

「クロトもか」

「……レイグ、なんで?」

「なんでも大魔森からアルバレス公爵領へアンデットの軍隊が攻めてきたらしい。おまけに魔族まで現れたらしいよ」

「魔族…………」

「……」


 俺とエヴァは無言で向き合う。
 あいつフロリエルが来たのか、それとも別の魔族か。


「フロリエルって奴とは別のやつだと思うよ」

「ん、なんでわかるんだ?」

「なんでって……君達の証言であいつの顔も能力もこの国全土に知られてる。そんなところにおめおめと戻っては来ないだろう」

「そうか……」

「…………ほ…うか?」

「ん? ガイナ?」

「アルバレス公爵領が襲われたってのは本当か?」

「あ、ああ。少なくとも僕はそう聞いている」

「そ、そうか」


 あのガイナがなにか考え込んでいる。
 それほど何があるのか、アルバレス公爵。


「……ガイナ どうしたの?」


 ナイス、エヴァ


「ん、ああ……わりぃ。アルバレス公爵は親父の、ベルガラック男爵と仲が良くて、俺もよくかわいがってもらったんだ……」

「そうか……それは心配だな」

「ああ。本当ならすぐにでも安否を確かめに行きたい……けど、俺なんかが行ったら何してんだって怒られちまうかな」


 力なく笑うガイナに俺はいつの間にか自分を重ねていた。魔物や魔族のせいで大切なものを奪われる人はもう見たくない。


「行こう、ガイナ」

「え……?」

「じっとなんてしていられないはずさ。俺も、少しだけならわかる。行こう、後で悔やんだんじゃ遅い」

「で、でもよ、ここから最速で三週間はかかる。それに雪山合宿だってある」

「関係ないさ。そんなことより大事な場所なんだろ?」

「あ、ああ」

「よし、じゃあけっ…………」

「その必要はないわ」


 突然後ろから声をかけられた。
 振り返るとそこには約半年ぶりのイザベラさんの姿があった。そしてイザベラさんを先頭に数十人の白い鎧を着た女性も。


「イ、イザベラさん!」

「久しぶりね、クロト。それに皆も。マナだけはそうでもないか」

「お久しぶりです。あの、俺達……」

「ふふ……止める気はないわ。でも、あなた達が行く必要はないわ」

「え?」

「三大将軍であるファリオス様が救援に向かわれたわ。ファリオス様なら絶対に大丈夫よ。それにあなた達が行っても戦況は変わらないしね」

「そ、それは!!…………それは、本当ですか……!」


 今まで迷っていたガイナが声を上げる。


「ええ、本当よ、だから安心して」

「イザベラ先輩。そろそろ」


 イザベラさんの左斜め後ろにいた茶髪の女性が声をかける。あれは確か……


「……短剣担当の人」

「やっぱりか?」

「あ、エヴァちゃん!久しぶり、でもないわね」

「……ん」

「クロトははじめましてよね。天馬ペガサス騎士団副団長のエイナよ」

「君がクロト君かぁ!噂はかねがね、よろしくねぇ~!」

「え、あ、よろしくお願いします」

「まぁ、てなわけだから任せてくれる?」

「は、はい!もちろん。それでいいか?ガイナ」

「あ、ああ!」

「じゃあ、またね」

「ばいばーい」


 と手を振って引き返していった。


「良かった……良かった…!」





「バンリ様、どうしますか」

「うむ、魔族のせいで戦況が変わった」


 アルバレス公爵領。
 青髪に青い鎧、2メートルはあるかと思うほどの槍を持ったバンリ・アルバレスとアルバレス公爵領を守る兵士達のまとめ役、ガウィンだ。


「あの魔族……張本人は居なくなりましたね」

「ああ、だが女のほうが残ってる。ありえないほどバカでかい魔力だ 生き残った兵でアンデット軍団を追い返せるかどうかも微妙なのにあいつが居たんじゃ勝ち目はないな」

「でも、もうすぐ……」

「ああ、帝国から軍が来る。おそらく俺の弟が来るだろう、それまで耐えれば俺達の勝ちだ」





 バンリ達より南。壊滅した街の一角を陣取る一人の魔族。土創巨兵のアリスだ。


「ここももう潰してもいいかしら、ギリギリを攻めるのも難しいわ。兵士を減らし過ぎなのよ」

「…………」

「…………」


 アリスの側に槍と剣をそれぞれ持った褐色肌に白髪の、恐らく双子の少女が二人立っていた。


「ねぇ、エンリ。あの中年の男、潰して」

「はい」


 エンリと呼ばれた槍持ちの少女が応える。


「リンリ」

「は、はい!」

「あの青髪、殺って?」

「は、はい……」


 もう一方の剣持ちの少女が応える。二人の胸にはしっかりと、奴隷紋が刻まれていた。





 場所は戻り、バンリ達が動き出す。


「いいか! お前たち! アンデットは痛みを感じないうえ、腕を切り落とそうが胴体を切り離そうが死なない。殺す方法は一つ……術者を殺すことだけ。今の状況を考えるにあの女が術者だ。アンデットを足止めし、俺とガウィンであの女を狙う。つまりお前たちにはそれまでの間アンデット軍団を足止めしてほしい! 足を攻撃すれば多少は動きを止めれる。五分でいい! 耐えてくれ! 軍神が我らに微笑まんことを!!」

「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ」」」」


数十人の兵士とバンリ&ガウィン。

        VS

アリス&エンリ、リンリと約千のアンデット。




ーあとがきーーーーーーーーーーーーーー
23話、読んでいただきありがとうございます!

今回はかなり物語が動いた、のかな?

新登場の人物が多いですね!
覚えておいてほしいのは、剛力将軍ファリオス、アルバレス公爵のバンリ アルバレス公爵の兵士たちのまとめ役ガウィン
アリスの奴隷エンリとリンリですかね!

今回もあとがきコーナーは無しです!すみません!

もう少しどんな人物かわかってから喋らせたいので!ご理解ください!
では!

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