最弱属性魔剣士の雷鳴轟く
20話 暴走、そして涙 動き出す闇
「ふぅ…………よし!早くクロトを助けに行かないと!」
私は勢いよくカフェを飛び出す。
いくらトイレを我慢していたとはいえ、あいつと私達の力の差は歴然。早く行かないとクロト一人じゃきつい。
さっき来た道を走り抜け、フロリエルと遭遇した場所まで戻る。
「ひぇひぇひぇひぇひぇ。遅かったですねぇ、つい待ちきれず殺してしまうところでしたよ」
「う、うぅ」
人影がクロトを右足で踏みつけながら話しかけてくる。
「……クロト! 氷術 氷の大砲」
「闇術 破壊」
私は両手を重ねて氷の塊をフロリエルに放つ。が、フロリエルの放った闇術が氷の大砲を破壊する。
「闇術は相殺系が多い……」
「ひぇひぇひぇひぇひぇ、実につまらないですねぇ。意外性のあった彼の方がよほど面白かった……ああ、そうだ」
フロリエルは人差し指の先に魔力を込めて小さな魔力の玉を作り、クロトに落とす。小さな魔力の玉はクロトの体内に浸透し…………
「闇術 痛み」
「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁ」
突然クロトが苦しみ始める。体をのけぞらせ叫び声をあげる。
「ク、クロト!? フロリエル! クロトに何したの」
「ひぇひぇひぇひぇひぇ。“痛み”を与えたのです」
「ぐぁぁぁ……はぁ、はぁはぁ。ぐぁぁぁぁぁぁ」
クロト。だめ……クロトが……
「ひぇひぇひぇひぇひぇ、いい悲鳴ですねぇ。もっと苦しみなさい」
「ク、クロト……だめ……や、やっと、私を…………し、死なせない!」
何かが切れる音が響き……
◇
痛い、なんだこれ。全身が焼けるようだ。
俺のすぐそばに誰か立ってるな。遠くで響く気味の悪い笑い方。フロリエルだな。
「ひぇひぇひぇひぇひぇ。なんですかそれ? まるで悪魔ですねぇ」
悪魔……?こいつもエヴァの事を……そういえば、エヴァはどこだ? トイレに行かせてからずいぶん経っている。もう戻ってきていてもいいはずだが、まだ戻っていないのか。俺の体が動くようになるまでしばらくかかる。それに魔力も尽きてろくには戦えない。戻ってくるぐらいなら逃げてくれ、一人じゃ勝ち目がない。
「すごい魔力ですねぇ」
魔力? 確かにさっきから頭上にものすごい魔力の圧を感じる。それこそフロリエルよりも強い圧だ。ちらっと上と方を見ると人影が立ってる。エヴァ……か?見た目はエヴァそっくりだが、黒髪だし、目が濃い赤だ。やや前傾姿勢で、腕を前に投げ出している姿は野性的な印象を受ける。
『うぅーーふぅーふぅー……うぅーーー!!!』
ザンッザンッザンッと円錐状の黒い氷が地面から付き出す。が、フロリエルは軽々とかわしていく。突然地面から突き出す黒い氷の棘は俺だけを避け、フロリエルを追う。
「ひぇひぇひぇひぇひぇ、もっとよく狙いなさい。その程度で…………ぐはっ」
ちょうど真下からくる氷をかわすため上に飛んだ時、壁から突き出た氷がフロリエルの脇腹を突き刺す。
「なるほど、闇雲に放っていたわけではないのですね……しかし忘れたのですか? 私には…………何故です? なぜ再生しない!?」
意識がはっきりしてきた。
俺は確か、フロリエルに雷鋼剣を使って……当たったそばからフロリエルは再生し、全くダメージを受けなかった。そこで全魔力を使い切った俺は反撃をただ受けるしかできず、そのまま負けたんだ。
エヴァは、どうしてあんな姿に……それにあの黒い氷、なにか変だ。魔力の濃さがエヴァの普段の氷術とは比べ物にならない。禍々しい雰囲気も感じるし、フロリエルの超再生が機能していないのも気になる。
「く、再生していないわけでは無さそうですね。しかし再生速度が遅すぎますね……なぜです……? まさかその氷……闇魔術 侵食が混ざっているのですか……? しかしなぜあなたが闇魔術を使えるんです?」
エヴァに立て続けに問いかけるフロリエル。だが、返事はない。返事はおろか話しかけられている自覚すらなさそうな様子だ。
『うぉぉぉぉぉぉ』
返答の代わりと言わんばかりにエヴァの叫びに反応して地面から氷が突き出し、フロリエルの太ももに突き刺さる。
「ぐっ……まずい、非常にまずいですねぇ」
その後一秒の余裕も与えすにフロリエルの全身を数十の氷が突き刺す。
「闇術 衝撃」
闇の衝撃が氷を砕く。が、フロリエルは超再生が間に合わず全身傷まみれの血まみれだ。
「ぐっ……あなた何者ですか? 異能を超越する程の魔術を使えるなんて……」
『ぐぁぁぁぁぁ』
エヴァが叫ぶと周りの道路も建物の壁もフロリエルでさえ凍った。俺を除いて。
が、これはあまり効果が無かったらしく、三秒もしないうちにフロリエルは氷から脱した。
「ぜぇ、ぜぇ、ひぇひぇひぇひぇひぇ。これは勝てそうに無いですねぇ……一旦退かせてもらいますよ」
それだけを言い残し、黒い影に変化し屋根に飛び乗って夜の闇の中へ消えていった。
体は痛むが、寝てはいられないと何とか踏ん張って起き上がる。
テンペスターは……かなり離れたところに刺さってる。フロリエルの攻撃を受けた時に離してしまったんだろう。
俺はちらりとエヴァを見る。未だに元に戻る兆しは無い。黒髪と赤い目、ただそれを除けば普段のエヴァのままだ。一体何があってこうなったのかもわからない。フロリエルを敵として認識していた。俺を攻撃に巻き込まなかったという事は俺のことも認識できてるのか?
どちらにしてもここでエヴァを置いて帰るわけにもいかないし、元に戻るかどうかはわからないが、何か試してみないと。意を決してフラフラとした足取りでエヴァに近づく。
「エヴァ もう大丈……うっ……」
攻撃してこないと踏んでの接近だったが、どうやら読みは外れたらしく、黒い氷が飛んでくる。が俺は避けるほどの体力が残っていなかったためそのまま受ける。
脇腹に激しい痛みが襲う。
傷口部分は冷たいのにそこからどんどん熱くなってくる不思議な感覚。徐々に熱いのか冷たいのかわからなくなってくる。
『うぉぉぉ』
「大丈夫だ……エヴァ。俺は……お前の、仲間だ!」
飛んでくる氷がかすり傷を作りながらも俺は足を止めずにエヴァに近づく。幸いにも狙いは乱雑で、さっきフロリエルと戦っている時とは雲泥の差だ。脇腹以上の致命傷を受けることなくエヴァに接近し、俺はぽんっとエヴァの頭を撫でる。
するとすっと目の色が元に戻り、髪も綺麗な金髪に戻る。そしてそれと同時に周りの黒氷も砕け、粉塵に変わる。
「ん…………え、え!? クロト? クロト!!」
「戻ったか……よかっ……た……」
俺の意識はそこで途切れた。すでに魔力も空で、脇腹のダメージも深刻だったのだろう。抗う事も出来ずに意識が闇に落ちる。
あとから聞いた話だが、俺が意識を失ったすぐ後、異変を察知した騎士団が到着。俺とエヴァは無事保護された。
もっと早く来てくれよ、とも思ったが、助けてくれただけでも感謝しよう。それに、タイミングが悪かったらエヴァが魔族と捉えられてもおかしくなかった。
エヴァの方は外傷が特になく、一見治療は必要なさそうに思われたが、二人一緒に治療を受けさせられた。
◇
魔族領、とある古城にて人影が三人。
ボロボロのテーブルを囲い話していた。
「つい先程フロリエルがボロボロになって帰ってきた」
「あのフロリエル君が……誰にやられたの?」
「名前までは知らんそうだが、黒髪の雷魔剣士と金髪の氷術使いだそうだ」
「なんにせよ、不死不滅と謳われたフロリエルがボロボロになるとは注意が必要じゃ。それに、わしらも動く時かもしれんのぉ」
大きなうねりが今 エルトリア帝国、いや大陸全土に迫ろうとしていた。
◇
「ん、ここは……」
俺は体を起こす。まだ頭がクラクラするな。治療を受けるまでの記憶はおぼろげに残ってる。って事は治療を受けてどこかに運ばれたのだろう。目覚めれば知らない天井が迎えてくれた。
ドンッ――――
「いて! な、なんだ?」
脇腹がズキッと痛む。
他のかすり傷はきれいに治ってるのに脇腹だけ包帯で巻かれてる。
と、そんなことより……俺は腹に抱きついて泣いているエヴァを見る。
「どうした?」
「ごめん……ごめん……」
ぐちゃぐちゃに泣きじゃくりながら謝るエヴァ。
「何言ってんだ? エヴァが守ってくれたんだろ」
「え……?」
「エヴァがあいつを追い返してくれなかったら俺は死んでた。ありがとうな」
「で、でも……クロトを傷つけた…………あの日、二度と使わないと誓ったのに」
なるほど。詳しく話を聞かなくてもある程度は話が見えて来たな。ハルバード家滅亡の全貌には、あのエヴァのもう一つの姿が関与してそうだ。
「気にするなよ これくらいなんでもないさ」
それでも何か言いたそうなエヴァをぎゅっと抱きしめ、頭を撫でてやる。
そのうち泣き疲れたのかすぅすぅと寝息を立ててしまった。
「クロト」
と、イザベラさんが入ってきた。どうにも違和感が無くてここがどこかを考えていなかったが、よく見たらここはイザベラさんの家だ。
俺は寝ているエヴァを起こさないようにベッドに寝かせイザベラさんの元に向かう。
「だいぶ回復したようね」
「はい、治してくれたんですよね? ありがとうございます」
「ええ……その事も含めて話したい事があるわ。少しいい?」
はい、と答え俺は部屋を出る。
「まず一つ目、あなたの脇腹の傷ね。それはそう簡単には治らないわ、私の癒術をもってしてもね」
「え?」
「話を聞いた限りエヴァリオンさんの使った黒氷には闇術 侵食が含まれてる。そのせいで傷の治りが遅いの。侵食はなんとか抑えたけど、抑えるのが精一杯で回復まではできなかった。だから回復するまでしばらく時間が掛かると思って」
「あ、はい。それは大丈夫です」
「うん! で、こっちが本題」
イザベラさんの顔が真剣な物に変わる。
「入学前日にクロトが言っていたアレ。本格的に習得に移ったほうがいいかも知れないわ。今回襲ってきた魔族、『超再生』を持っているということは四魔王の一角、不死不滅のフロリエルで間違いない。そしてそんな相手をボコボコにしたってことは別の四魔王が動くかもしれない。今回はたまたまエヴァリオンさんの黒氷が相手の超再生を封じただけで、もし四魔王と戦うことになったら私達でも討伐より生存を考えるわ。相手はそれほど強い。ならこちらもそれなりの力がいる」
「だから、あれを開放するんですね」
「ええ、クロトが言っていた方法なら理論上は可能だわ。ただリスクもでかい、土壇場で出来るほど簡単じゃないわよ」
「はい!」
「うん!じゃあまずは体力を回復することからよ」
と言って俺達は部屋に戻った。
ーあとがきーーーーーーーーーーーーーー
20話、読んでいただきありがとうございます。
昨日は出せなくてすみません!
これからも頑張るのでよろしくお願いします。
フロリエル「読んでくれたんですねぇ
ひぇひぇひぇひぇひぇ
グッドやコメントよろしくお願いします。」
私は勢いよくカフェを飛び出す。
いくらトイレを我慢していたとはいえ、あいつと私達の力の差は歴然。早く行かないとクロト一人じゃきつい。
さっき来た道を走り抜け、フロリエルと遭遇した場所まで戻る。
「ひぇひぇひぇひぇひぇ。遅かったですねぇ、つい待ちきれず殺してしまうところでしたよ」
「う、うぅ」
人影がクロトを右足で踏みつけながら話しかけてくる。
「……クロト! 氷術 氷の大砲」
「闇術 破壊」
私は両手を重ねて氷の塊をフロリエルに放つ。が、フロリエルの放った闇術が氷の大砲を破壊する。
「闇術は相殺系が多い……」
「ひぇひぇひぇひぇひぇ、実につまらないですねぇ。意外性のあった彼の方がよほど面白かった……ああ、そうだ」
フロリエルは人差し指の先に魔力を込めて小さな魔力の玉を作り、クロトに落とす。小さな魔力の玉はクロトの体内に浸透し…………
「闇術 痛み」
「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁ」
突然クロトが苦しみ始める。体をのけぞらせ叫び声をあげる。
「ク、クロト!? フロリエル! クロトに何したの」
「ひぇひぇひぇひぇひぇ。“痛み”を与えたのです」
「ぐぁぁぁ……はぁ、はぁはぁ。ぐぁぁぁぁぁぁ」
クロト。だめ……クロトが……
「ひぇひぇひぇひぇひぇ、いい悲鳴ですねぇ。もっと苦しみなさい」
「ク、クロト……だめ……や、やっと、私を…………し、死なせない!」
何かが切れる音が響き……
◇
痛い、なんだこれ。全身が焼けるようだ。
俺のすぐそばに誰か立ってるな。遠くで響く気味の悪い笑い方。フロリエルだな。
「ひぇひぇひぇひぇひぇ。なんですかそれ? まるで悪魔ですねぇ」
悪魔……?こいつもエヴァの事を……そういえば、エヴァはどこだ? トイレに行かせてからずいぶん経っている。もう戻ってきていてもいいはずだが、まだ戻っていないのか。俺の体が動くようになるまでしばらくかかる。それに魔力も尽きてろくには戦えない。戻ってくるぐらいなら逃げてくれ、一人じゃ勝ち目がない。
「すごい魔力ですねぇ」
魔力? 確かにさっきから頭上にものすごい魔力の圧を感じる。それこそフロリエルよりも強い圧だ。ちらっと上と方を見ると人影が立ってる。エヴァ……か?見た目はエヴァそっくりだが、黒髪だし、目が濃い赤だ。やや前傾姿勢で、腕を前に投げ出している姿は野性的な印象を受ける。
『うぅーーふぅーふぅー……うぅーーー!!!』
ザンッザンッザンッと円錐状の黒い氷が地面から付き出す。が、フロリエルは軽々とかわしていく。突然地面から突き出す黒い氷の棘は俺だけを避け、フロリエルを追う。
「ひぇひぇひぇひぇひぇ、もっとよく狙いなさい。その程度で…………ぐはっ」
ちょうど真下からくる氷をかわすため上に飛んだ時、壁から突き出た氷がフロリエルの脇腹を突き刺す。
「なるほど、闇雲に放っていたわけではないのですね……しかし忘れたのですか? 私には…………何故です? なぜ再生しない!?」
意識がはっきりしてきた。
俺は確か、フロリエルに雷鋼剣を使って……当たったそばからフロリエルは再生し、全くダメージを受けなかった。そこで全魔力を使い切った俺は反撃をただ受けるしかできず、そのまま負けたんだ。
エヴァは、どうしてあんな姿に……それにあの黒い氷、なにか変だ。魔力の濃さがエヴァの普段の氷術とは比べ物にならない。禍々しい雰囲気も感じるし、フロリエルの超再生が機能していないのも気になる。
「く、再生していないわけでは無さそうですね。しかし再生速度が遅すぎますね……なぜです……? まさかその氷……闇魔術 侵食が混ざっているのですか……? しかしなぜあなたが闇魔術を使えるんです?」
エヴァに立て続けに問いかけるフロリエル。だが、返事はない。返事はおろか話しかけられている自覚すらなさそうな様子だ。
『うぉぉぉぉぉぉ』
返答の代わりと言わんばかりにエヴァの叫びに反応して地面から氷が突き出し、フロリエルの太ももに突き刺さる。
「ぐっ……まずい、非常にまずいですねぇ」
その後一秒の余裕も与えすにフロリエルの全身を数十の氷が突き刺す。
「闇術 衝撃」
闇の衝撃が氷を砕く。が、フロリエルは超再生が間に合わず全身傷まみれの血まみれだ。
「ぐっ……あなた何者ですか? 異能を超越する程の魔術を使えるなんて……」
『ぐぁぁぁぁぁ』
エヴァが叫ぶと周りの道路も建物の壁もフロリエルでさえ凍った。俺を除いて。
が、これはあまり効果が無かったらしく、三秒もしないうちにフロリエルは氷から脱した。
「ぜぇ、ぜぇ、ひぇひぇひぇひぇひぇ。これは勝てそうに無いですねぇ……一旦退かせてもらいますよ」
それだけを言い残し、黒い影に変化し屋根に飛び乗って夜の闇の中へ消えていった。
体は痛むが、寝てはいられないと何とか踏ん張って起き上がる。
テンペスターは……かなり離れたところに刺さってる。フロリエルの攻撃を受けた時に離してしまったんだろう。
俺はちらりとエヴァを見る。未だに元に戻る兆しは無い。黒髪と赤い目、ただそれを除けば普段のエヴァのままだ。一体何があってこうなったのかもわからない。フロリエルを敵として認識していた。俺を攻撃に巻き込まなかったという事は俺のことも認識できてるのか?
どちらにしてもここでエヴァを置いて帰るわけにもいかないし、元に戻るかどうかはわからないが、何か試してみないと。意を決してフラフラとした足取りでエヴァに近づく。
「エヴァ もう大丈……うっ……」
攻撃してこないと踏んでの接近だったが、どうやら読みは外れたらしく、黒い氷が飛んでくる。が俺は避けるほどの体力が残っていなかったためそのまま受ける。
脇腹に激しい痛みが襲う。
傷口部分は冷たいのにそこからどんどん熱くなってくる不思議な感覚。徐々に熱いのか冷たいのかわからなくなってくる。
『うぉぉぉ』
「大丈夫だ……エヴァ。俺は……お前の、仲間だ!」
飛んでくる氷がかすり傷を作りながらも俺は足を止めずにエヴァに近づく。幸いにも狙いは乱雑で、さっきフロリエルと戦っている時とは雲泥の差だ。脇腹以上の致命傷を受けることなくエヴァに接近し、俺はぽんっとエヴァの頭を撫でる。
するとすっと目の色が元に戻り、髪も綺麗な金髪に戻る。そしてそれと同時に周りの黒氷も砕け、粉塵に変わる。
「ん…………え、え!? クロト? クロト!!」
「戻ったか……よかっ……た……」
俺の意識はそこで途切れた。すでに魔力も空で、脇腹のダメージも深刻だったのだろう。抗う事も出来ずに意識が闇に落ちる。
あとから聞いた話だが、俺が意識を失ったすぐ後、異変を察知した騎士団が到着。俺とエヴァは無事保護された。
もっと早く来てくれよ、とも思ったが、助けてくれただけでも感謝しよう。それに、タイミングが悪かったらエヴァが魔族と捉えられてもおかしくなかった。
エヴァの方は外傷が特になく、一見治療は必要なさそうに思われたが、二人一緒に治療を受けさせられた。
◇
魔族領、とある古城にて人影が三人。
ボロボロのテーブルを囲い話していた。
「つい先程フロリエルがボロボロになって帰ってきた」
「あのフロリエル君が……誰にやられたの?」
「名前までは知らんそうだが、黒髪の雷魔剣士と金髪の氷術使いだそうだ」
「なんにせよ、不死不滅と謳われたフロリエルがボロボロになるとは注意が必要じゃ。それに、わしらも動く時かもしれんのぉ」
大きなうねりが今 エルトリア帝国、いや大陸全土に迫ろうとしていた。
◇
「ん、ここは……」
俺は体を起こす。まだ頭がクラクラするな。治療を受けるまでの記憶はおぼろげに残ってる。って事は治療を受けてどこかに運ばれたのだろう。目覚めれば知らない天井が迎えてくれた。
ドンッ――――
「いて! な、なんだ?」
脇腹がズキッと痛む。
他のかすり傷はきれいに治ってるのに脇腹だけ包帯で巻かれてる。
と、そんなことより……俺は腹に抱きついて泣いているエヴァを見る。
「どうした?」
「ごめん……ごめん……」
ぐちゃぐちゃに泣きじゃくりながら謝るエヴァ。
「何言ってんだ? エヴァが守ってくれたんだろ」
「え……?」
「エヴァがあいつを追い返してくれなかったら俺は死んでた。ありがとうな」
「で、でも……クロトを傷つけた…………あの日、二度と使わないと誓ったのに」
なるほど。詳しく話を聞かなくてもある程度は話が見えて来たな。ハルバード家滅亡の全貌には、あのエヴァのもう一つの姿が関与してそうだ。
「気にするなよ これくらいなんでもないさ」
それでも何か言いたそうなエヴァをぎゅっと抱きしめ、頭を撫でてやる。
そのうち泣き疲れたのかすぅすぅと寝息を立ててしまった。
「クロト」
と、イザベラさんが入ってきた。どうにも違和感が無くてここがどこかを考えていなかったが、よく見たらここはイザベラさんの家だ。
俺は寝ているエヴァを起こさないようにベッドに寝かせイザベラさんの元に向かう。
「だいぶ回復したようね」
「はい、治してくれたんですよね? ありがとうございます」
「ええ……その事も含めて話したい事があるわ。少しいい?」
はい、と答え俺は部屋を出る。
「まず一つ目、あなたの脇腹の傷ね。それはそう簡単には治らないわ、私の癒術をもってしてもね」
「え?」
「話を聞いた限りエヴァリオンさんの使った黒氷には闇術 侵食が含まれてる。そのせいで傷の治りが遅いの。侵食はなんとか抑えたけど、抑えるのが精一杯で回復まではできなかった。だから回復するまでしばらく時間が掛かると思って」
「あ、はい。それは大丈夫です」
「うん! で、こっちが本題」
イザベラさんの顔が真剣な物に変わる。
「入学前日にクロトが言っていたアレ。本格的に習得に移ったほうがいいかも知れないわ。今回襲ってきた魔族、『超再生』を持っているということは四魔王の一角、不死不滅のフロリエルで間違いない。そしてそんな相手をボコボコにしたってことは別の四魔王が動くかもしれない。今回はたまたまエヴァリオンさんの黒氷が相手の超再生を封じただけで、もし四魔王と戦うことになったら私達でも討伐より生存を考えるわ。相手はそれほど強い。ならこちらもそれなりの力がいる」
「だから、あれを開放するんですね」
「ええ、クロトが言っていた方法なら理論上は可能だわ。ただリスクもでかい、土壇場で出来るほど簡単じゃないわよ」
「はい!」
「うん!じゃあまずは体力を回復することからよ」
と言って俺達は部屋に戻った。
ーあとがきーーーーーーーーーーーーーー
20話、読んでいただきありがとうございます。
昨日は出せなくてすみません!
これからも頑張るのでよろしくお願いします。
フロリエル「読んでくれたんですねぇ
ひぇひぇひぇひぇひぇ
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