最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

9話 全国の王子八割は嫌なやつ

「お、クロト! 一ヶ月ぶりじゃねぇか」


 イザベラさんに別れを告げた後、俺はまっすぐエルトリア学園に向かった。
 学園には新入生が続々と入っていき、校舎の窓から覗く上級生は値踏みするようにこっちを見ている。
 学園内の上下関係がどうなっているのかは知らないが、毎年こういうものなのだろうか。


 そんな事を考えながら門の前に立ち学園を見上げていると声をかけられた。


「お、ガイナ!久しぶり」


 声の正体はガイナだ。適正判断の時にできた俺の友達。ベルガラック男爵家の長男って言ってたっけか。
 その後ろにエルネア公爵家長女のマナもいる。


「あんた達変わってないわね。ま、一ヶ月じゃそう変わらないか」

「マナも久しぶりだな」

「ええ、久しぶり」

「じゃあ行くか」


 俺たちは新入生の集合場所である第二校舎に向かう。
 普段は総合学科で使っている校舎で、門から見て正面に見える第一校舎の更に奥にある建物だ。


「俺たち、なんでこんなに見られてるんだ?」


 門からはまっすぐ煉瓦の道が続き、両脇には木が植えられ、人工的に川が流されているのでかなり綺麗だ。
 俺達はその道の端や校舎にいる上級生達にずっと見られていた。


「そりゃぁ今年の新入生には色々とやべぇ奴らが多いんだよ」

「やべぇ奴ら?」

「ああ、例えばこいつな」


 と、ガイナはマナを指差す。


「ちょっと、やめてよ」

「わりぃわりぃ、でも事実だ。エルネア公爵家の長女だからな。それだけ注目されている」

「もちろん私だけじゃないわ。今年はイーニアス王子も入学したらしいし」

「イーニアス王子?」

「ああ 現国王デルタアールの一人息子で次期国王になる」


 一人息子か。次期国王となればどうにか縁を作れれば自分だけでなく家族の安寧にも繋がる。取り入れられればそれが莫大な価値を得るわけだ。ならまぁ、注目されるのも当然か。


「そしてそれ以上に注目を集めてるのは『氷の悪魔』だ」

「氷の悪魔?」

「それなら私の方が詳しいわ氷の悪魔、本名はエヴァリオン・ハルバード。ハルバード公爵家の長女よ」

「ハルバード公爵? 帝国領にいない公爵か?」

「いえ、本当はいたの 私達エルネア公爵の領にね」

「ん、どういう事だ?」

「それは……あ、着いたわ」


 そんな事を話している内に俺たちは集合場所についた。
 今年の新入生は総勢千人ほど。ただ全員を一度に集める場所がないため、百人一塊の十グループに分けて教室に召集されている。


 俺たち三人は同じ教室に入る。来た順に教室に振り分けられるため、バラバラになるという事は無かった。
 そして偶然なことにさっき話題に上がったイーニアス王子が同じ部屋だった。『氷の悪魔』――エヴァリオン・ハルバードも。


 部屋は正面のスクリーンを中心に机が半円形型に並んでいる。
 後ろに行くに連れて段差が付き、前が低く後ろが高くなっている。大きさはちょうど百人が入る程度。


「お、あれがイーニアス王子だぜ」


 ガイナが指差しながら耳打ちする。


 指差した方を見るとスクリーンの前の机に座っているブロンドの髪をなびかせたいかにもって感じの王子がいた。
 その周りに大剣を背負った青髪の少年と背中に片手剣を持った少年が立ち、少し離れたところに赤いローブをまとった黒髪の少女が座っている。
 あの三人は王子の護衛ってところか……なんとなく、オーラが違う。同学年にしてイザベラさんと同じ強者を連想させるような雰囲気を纏っている。


 俺達は教室の一番後ろに座り、教室の様子を眺める。
 緊張している人もいれば、俺達みたいに友達同士で来たらしくワイワイ騒いでいる人達もいる。


 そして俺達の左、窓際の席に前髪ぱっつん、ストレートロングの金髪の髪を腰まで伸ばした少女が座っていた。
 なんとなく雰囲気でわかる、この子がエヴァリオン・ハルバード。しかしその周りには人が全く寄っていない……避けられているのか。
 俺は全く聞いたことのないうわさだが、『氷の悪魔』なんて呼び名と関係しているのか?


「おぉーし!集まってるか?」


 そんな事を考えているうちに先生と思わしき男が入ってきた。
 赤髪をオールバックにし、赤い鎧を着ているがかなりガタイが良く、筋肉隆々なのがわかる男の人だ。
 結構な強面とその体格から怖いという感想が出てくる。


「俺の名前はアラン。気軽にアランと呼んでもらっても構わん。主に武術学科で剣を教えている、よろしく」

「おいおい、アランってあのアランかよ……」

「なんだ、ガイナ。知ってるのか?」

「逆にクロトは知らねぇのかよ。ドラゴン騎士団の団長だぜ?」

「な……まじかよ」


 ドラゴン騎士団って言えば帝国内にある騎士団の中で一番強いとされている騎士団。噂によればドラゴンを倒したことに由来するとか……
 位で言えばイザベラさんと同じ。そのイザベラさんが強いと言うレベルって事は相当なものなんだろう。気迫だけでも凄まじいな。
 大丈夫かな、俺……


「んーと、そうだな。俺は説明がめんどくさい……じゃなくて下手なのでいきなりではあるがパパっと説明するぞ」


 頭をポリポリと掻きながら視線をイーニアス王子に視線を向ける。


「まずイーニアス王子。デルタアール国王より王族としてではなく一人の生徒として扱ってほしいと言われてます。それで大丈夫でしょうか?」


 急に雰囲気が変わった。
 あんなに荒そうな人でも流石国に仕える武人。メリハリはしっかりしてるんだな。


「はい、それで大丈夫です」

「ありがとうございます。じゃあ周りの奴らもそういうことだから。王子と仲良くできる機会なんてここを除けば殆どないだろうから仲良くやってくれ」

「あれが次期国王か、結構良いんじゃないか?」

「……あの王子はだめよ」

「マナ?」

「……」


 マナはなにか心当たりがあるのかじっと王子を見つめて……いや睨みつけている。


「じゃあぱぱっと学園について説明するぞー。この学園では授業は掲示された時間に勝手にやってるので自由に授業を受けてもらえればいい。あ、あと何かとチームでやることが多いから今のうちにチームを作ってくれ」


早口で説明したのちに、紙の束をぺらぺらと掲げて話を続ける。


「このチームが結構重要でな。四年間同じチームで対抗戦やらなんやらに出てもらう。人数制限は七人まで。この紙にメンバーの名前とチーム名、リーダーの名前を書いて提出してくれ。じゃ、よろしく」


 本当にぱぱっとだな……
 周りの生徒は戸惑いつつもチームを作るべく声をかけている。


 さて、俺達も決めないとな。
 ガイナとマナは…………当たり前(でしょ?)(だろ?)と言う風にこっちを見ている。この二人は決定だな。
 さて、三人でもいいのかな……


「この三人でいいか?」

「いや、人は多いほうがいい」

「なんで?」

「チームの強さがそのまま評価に直結するからな。チームメンバーはナンバーズと呼ばれそれが自分の肩書にもなるから、強いほうが格好もつくし」

「なるほど、誰か知り合いいるか?」

「「いない」」

「即答かよ」


 マナやガイナは貴族の子供なんだからそういう繋がりがあっても良さそうだがな。もちろん俺は友人なんて一人もいない。
 そんな時一人の顔が浮かんでちらっと左を見る。
 エヴァリオンさんは未だに一人だ。本人もチームを組む気は無さそうだし、周りも避けてる。


 俺は立ち上がりエヴァリオンさんに近づく。


「おい、クロト……」


 後ろでガイナが止めるが俺は気にせず近づく。


「エヴァリオンさん……だよな?」

「ん……」


 コクっと頷く。その目にはありありと警戒の色が浮かんでいる。恐らく噂に関してエヴァリオンさん自身も知っているんだろう。俺が話しかけてくるのが意外でしょうがないみたいだ。


「俺の名前はクロト・アルフガルノ。よろしくな」

「ん……」 


 喋らない子だな。


「もしよかったらさ 俺達のチームに入らないか?」

「え……?」

「もし一人ならみんなと一緒の方が楽しいと思うし……」

「やめておきたまえ」


 急に声をかけられ振り向くとイーニアス王子が立っていた。三人の護衛も一緒だ。周りの生徒もこっちを見ている。


「あ、えっと……イーニアス王子? 何がやめておいたほうがいいんでしょうか?」


 噂についてもまだ聞いていないし、教えてくれるなら教えてもらおう。


「無理に敬語で話さなくていい。それに王子も付けなくても大丈夫だ、ところで君の名前は?」

「それは……助かる。俺はクロト。で、やめておけって言うのはどういうことだ?」

「彼女は悪魔だ。チームなんて組んだら君や君の仲間まで死んでしまうよ」

「どういうことだ? だいたいなんでエヴァリオンさんが氷の悪魔なんて呼ばれてんだよ」

「君、知らないのかい?」


 周りもざわざわと騒ぐ。そんなに有名なのか?


「知らん」

「まぁいい、後で話してあげるよ。それよりこの学園に悪魔は居てはならない。みんなもそう思うだろ!」


 「そうだそうだ!」「悪魔は来るな!」と生徒から声が上がる。
 少し、気分が悪いな。どんな噂があればこうなるんだろうか。


 イーニアスは剣を抜きエヴァリオンさんに近づく。何をする気が知らないが、いい事ではないのは確かだ。
 俺はテンペスターを抜きイーニアスとエヴァリオンさんの間に入りイーニアスに剣を向ける。


「何をする気だ イーニアス」


 王族に剣を向けるなんて許されないだろうが、黙って見過ごすことはできない。
 イーニアスは一瞬ひるんだがすぐに俺を敵として認識した。


「クロト、邪魔をしないでくれ。そいつは悪魔なんだよ?」

「何をする気だって聞いてるんだ!」

「……レイグ」

「僕? ……わかったよ」


 レイグと呼ばれたのは大剣を背負った青髪の少年だ。


「悪いね……」


 レイグは大剣を抜きそのまま俺に斬りかかってくる。


「おい!アラン団長! いいのかよ!これ!」


 俺はテンペスターでレイグの剣を受け止めつつアラン団長に呼びかける。が


「ぐがーーーーー」


 ね、寝てやがる……


 俺はレイグの斬撃を受け止めつつイーニアスに話しかける。


「おい、イーニアス! 俺は一言二言しか話してないけど! エヴァリオンさんは悪魔なんかじゃない!」

「君は知らないんだ 彼女を」

「知らないからなんだ! お前も知らないだろ!偉そうに悪魔なんて言ってんじゃねぇ! ……黒帝流 打上剣狼」


 俺は軽く大剣を軽く押し返し、追撃で剣を振り上げレイグの大剣を弾き飛ばす。大剣はレイグの後方に飛び、ガシャンと音を立てて地面に落ちる。
 そしてイーニアスに剣を向ける。


「イーニアス 俺はエヴァリオンさんが何をしたのか、なぜ氷の悪魔と呼ばれてるかなんて知らない。だが、エヴァリオンさんはもう俺達のチームに入るって事になってる。仲間に手を出すなら俺も本気でやるぞ」


 すると、ガイナとマナが俺の隣に立つ。


「こいつの無知さはどうにかしなきゃと思うが、俺はこいつを気に入ったんだ。俺はこいつについていくぜ」

「女の子に剣を向けるような人より百倍……いや千倍マシよ!」


イーニアスは自分の予期していなかった展開に狼狽えるがすぐに元の調子を取り戻す。


「ベルガラック男爵家の長男、それにエルネア公爵家の長女か……き、君達も悪魔の…………」

「すみません、王子。僕もこっち派です」


 何か言おうとしたイーニアスをレイグが遮る。


「な、レイグ!?」

「血迷ったか、レイグ」


 今まで黙っていた片手剣の少年が話す。


「元々君達との薄っぺらい関係は好きじゃなかった。僕は仲間を大切にする人が好きなんだ」


 はっきりと言い終えるとレイグはガイナの隣に立つ。
 イーニアスは完全に動揺しきっている。が、後ろの二人は冷静だった。赤いローブをまとった少女は一歩前に出て赤い魔法陣を展開する。片手剣の少年は剣を構え王子の前に立つ。


 対する俺達、レイグは今度は王子に剣を向け、ガイナは拳を マナは細剣を握る。
 そして俺はテンペスターを構え一歩前に出ようとしたその瞬間、視界の左側から剣が突き出される。


「そこまで」


 そこにはアラン団長がいた。さっきまで寝てたくせに……


「よし!時間だ、紙出したら解散! 俺は第一校舎に戻るんで、机の上においといてくれ」


 アラン団長はひらひら手を振りながら教室を出ていった。
 自由な人だ……


 改めて俺はイーニアス達の方を見る。護衛の二人は続ける気満々だ。やるしかないか……
 諦めてテンペスターを構えると、


「やめろ。アイズ、パトリック」

「「は!」」

「クロト、そして悪魔、レイグ。いつか後悔することになる」


 そう言い残してイーニアスは去っていった。




ーあとがきーーーーーーーーーーーーーー
9話読んでいただき、ありがとうございます!

いきなり問題発生ですね……笑
ちなみに気づきました?イーニアス王子の護衛の1人、名前がアイズなんですね そう私です。名前だけだけど……


イーニアス「9話 全国の王子8割は嫌なやつ を読んでくれてありがとう

まさかとは思うけど、このタイトル 僕の事じゃ無いだろうな?…………

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ここどうなってんだって方はコメントにて質問してくれればいい
ではまた」

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