悪役令嬢の影武者を嫌々演じて十年、憎っくき本物に『ざまぁ』したけど? 本当の悪役はアイツだった……!?

鼻血の親分

53

 屋敷の最上階にシェリーの部屋がある。私はドアをノックした。しかし返答はない。寝てるのだろうか、それとも……まさかと思うが嫌な予感がする。少し震えながら再度ノックをしたが変わらない。

「シェリー、入るぞ」

 返答がないままドアを開けた。シェリーはベッドの上で布団を被って寝てる様に見えた。しかし確認しなければ安心出来ない。

「シェリー?」

 私は近づいた。すると鼻水を啜りながら泣いてる声が聞こえてくる。

 生きてるな。良かった。

「シェリー、まだ痛むのか?」
「お兄様?」

 私に気がついた様だ。布団から顔を覗かすと直ぐに逸らした。見られたくないのだろうか? 父に叩かれた青痣あおあざがくっきりと残って痛々しく見える。

「お前の事、分からなくてゴメンな」

 シェリーは啜り泣きながら顔を横に振る。

「わたくしが悪いのです」
「自分を責めるな。私はこれから兄として、お前を守って行くと決めた。だから何も心配するな」
「う……ん……ありがとう」
「お母様が憎いか?」
「怖い。苦手です」
「そうか。お母様は屋敷から出て行くだろう。お父様とは離縁すると思う」
「えっ⁈」
「影武者を考え実行したのはお母様だ。これは許されるべきではない。だからお父様は離縁を決めたんだ。そして共謀したライラもクビにする」
「で、ではエミリーは⁈」
「彼女は一身上の都合で辞めるそうだ」
「そ、そんな……」
「お父様は引き留めた様だが」
「エミリーは側にいて欲しいよ。お兄様からも説得して頂けませんか⁈」
「なあ、シェリー。彼女は単なる使用人だが、お前にとっては特別な存在なのか?」
「はい。お姉様のように思ってます。わたくしの理解者で味方ですから」
「確かに院では長く一緒にいた。お前に尽くしただろう。分かった、私からもお願いしてみるよ」
「ありがとう、お兄様」

 シェリーは啜り泣きしながらも笑顔を覗かした。

「ところでだな、暫く医者をこの屋敷へ常駐させる事にした。お前はアルコール依存性だ。これからは治癒に専念するんだ。いいな?」
「はい」
「で、気分は悪くないか?」
「実はなかなか眠れないのです」
「そうか。でも焦るな。時間はたっぷりある。何も心配する事はないぞ。薬を飲んでリラックスすれば、いずれ回復するだろう」

 シェリーはベッドの上に置いてある薬袋を握りしめて軽く頷いた。

 さて、そろそろ本題に入ろう。

「シェリー、幾つか聞いていいか?」
「何ですか?」
「蔵からワインを取り出したのはお前なのか?」
「そ、それは」
「正直に教えてくれ。怒ってる訳じゃない」
「わたくしが頼んでエミリーが持ってきてくれました。悪いのはわたくしです」
「分かった。ではもう一つ、最初に飲んだきっかけを覚えてるか?」

 シェリーは首を横に振った。

「治療するに当たって重要な質問なんだ。辛いのなら無理に言わなくてもいいが、出来れば知りたい」

 彼女は暫く考え込んでいた。すると徐々に記憶が蘇ったのか、途切れながらも当時の状況を話してくれた。


「そ、そうだったのかっ⁈」

 私はシェリーの言葉に愕然とした……





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