悪役令嬢の影武者を嫌々演じて十年、憎っくき本物に『ざまぁ』したけど? 本当の悪役はアイツだった……!?

鼻血の親分

50

 ※ジャック視点

 卒業パーティーで王子は動いた。

 打ち合わせ通り、シェリーをダンスに誘う。この時点で影武者かどうかの判断はつかない。私ですら踊ってみないと分からないのだ。しかし予測はついていた。皆の前でステップを踏むから、ここは影武者ポピーでないと対応できないだろう。

 それが分かった上で……

「シェリー公爵令嬢との婚約を破棄させて頂く! 皆の前で声高らかに宣言しよう!」

 王子は言い放った。ポピーが自白するのを促してる様にも見える。

「はーっはははははははははははっ! これは何の余興ですかな、エリオット王子?」

 やはり父が黙っていない。豪快な笑い声とは裏腹にお怒りの形相だ。

「シェリー、お前も何か言いなさい。王子の発言、場合によっては侮辱罪で訴えても構わん!」

 ところが……

「お父様、いえ、御主人様……まだお分かりになりませんか? わたくしは使用人のポピーでございます」

 彼女は自らカミングアウトしたのだ。

「はは……は……シェリー、どうしたのだ、何故そんな見えすいた嘘をつく?」
「シュルケン公爵、これは本当の事だ!」

 王子は自信満々に言い切った。

「馬鹿な……? 何を突拍子のない事を……王子、いくら貴方でも許しませんぞ。それにシェリー、お前までそんな話、誰が信じると言うのかっ⁈」

 さて、そろそろ私の出番だ。ポピーが自白したのは予想外だったが、かえって彼女の発言によって父を説得し易くなったのは間違いない。

「お父上様、このジャックはとっくに気がついていましたよ」
「ジ、ジャック⁈ えっ? お前まで……⁈ ま、まさか、まさか……⁈」
「はい。ポピーはシェリーの影武者です」

 父は空いた口が塞がらない。暫くポピーとシェリーを見比べていた。しかし私は父に信頼されている。だからこの証言が真実だと悟るのに時間は掛からなかった。

「ほ、本当なのか、ジャック……お前がそう言うのならこの娘は使用人だろうな……あぁ、何てこった……信じられない」

 そして狼狽した父を王子は見逃さず、トドメを刺した。

「シュルケン公爵、この罪は大きいぞ。皇族である僕を騙し、世間を騙した。このまま彼女と結婚など出来る筈もない!」

「……は。も、申し訳……あ、ありませ……ん」

 父はうなだれた。完全に敗北だ。そして全ての元凶だと思われるシェリーを睨みつけた。そこから彼女の断罪が始まった。生徒、教員、父兄の居る前で、それは酷いほどに。

「この馬鹿モノーーッ! お前と言うヤツは! お前と言うヤツはっ!」

 面子を潰された父が何度も何度もシェリーを叩く。私は思わず止めに入った。鼻血を垂らし悲痛な表情と共にカラダが震えている妹をこれ以上、見てられない。

「もういいでしょう……」

 
 ***


 エリオット王子はシェリーの貴族院卒業の取り消しとポピーの卒業を認めさせた上、公爵家の養子にしてポピーと結婚すると言う、とんでもない案を父に呑ませる事に成功した。でないとシュルケン公爵家がどう処分されていたか分からなかった。

 恐らくこの件で我が公爵家の信頼は地に落ちていくと思う。権勢を誇っていた時代は終わるのだ。皇室には二度と逆らえないだろう。

 しかし、私は釈然としないものがある。それが何なのか? 事の真相を突き止めなければならないと、そう感じていたーー

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