悪役令嬢の影武者を嫌々演じて十年、憎っくき本物に『ざまぁ』したけど? 本当の悪役はアイツだった……!?

鼻血の親分

40

「あの追っかけ、編入生でしたわ」

 放課後になるといつも中庭で取り巻きとお茶会を開いていた。話題はもっぱら謎のオンナの事だ。

「何者なの?」
「ミーアって言う特待生らしいけど全く正体不明ですね」
「生徒会……かしら?」

 わたくしの王子様はこの度、生徒会長に就任された。生徒会室を拠点に様々な行事を取り仕切り活動しておられる。

「いえ、期中交代は選挙で決めるのが慣例でございますから、あの娘は関係ないと思いますよ」
「ふぅぅん。ふぅぅん。じゃ、ただの追っかけじゃん」

 気に食わないわね。これまで王子様に纏わり付く不届き者は大概厳しく指導してきたのに、生徒会でもないただのファンが王子様に引っ付いて歩くなんて許せない。

 久々に現れた馬鹿女に腹ただしく思う反面、わたくしはどこか楽しんでいた。だって暇つぶしになるからね。

「シェリー様、どうなさいますか?」
「そうねー  、先ずは『警告その壱』かな。うふふ」

 警告にも段階がある。その壱は威圧だ。わたくしは貴族院のボス、側近の取り巻き含めて配下は院内の半数くらいは居るだろう。女生徒の半数が馬鹿女を「睨んで威圧」するのだ。これでヤバいと悟るのが殆どで大概大人しくなる。

「分かりました。威圧の御触れを回しときます。明日が楽しみですねー」
「そうね。わたくしの婚約者に付き纏ったらどうなるのか、思い知るがいいわ」
「オーホホホホホホホホ……」

 取り巻きも楽しんでる様だ。わたくしも楽しいよ。


 ***


「ミー……何とか様ですか?」
「そうよ、ポピー。王子に群がる馬鹿女が居るからアンタも一応、知っといてねー」

 お屋敷の大浴場に隣接するマッサージルームで、わたくしはお風呂上がりのマッサージをポピーにやらせていた。大嫌いなヤツだけど情報共有は大事だ。というか、エミリーの勧めで仕方なく一緒に居る時間を作っている。まあ、今では殆ど影武者を使ってるからどちらかと言えば、わたくしが情報を聞きたかったのが本音だけどね。

「どうなされるのですか?」
「先ずは威圧してビビらせてやる」
「そんな……」
「ん? なに? 王子が迷惑してるのよ?」
「王子様が? それは大変です」
「そうでしょ、うん。……あ、言っとくけどね、わたくしは彼の事、何とも想ってないからね。婚約者だから気にかけてるだけ。わたくしが憧れてるのはロイヤルファミリーになって贅沢三昧な暮らしがしたいだけだからー」
「王子様の事、お好きではないのですか? それと今でも充分なお暮らしかと思いますが……?」
「馬鹿ねー、あんなカエルにびくびくする様な男、どうでもいいわよー。全くお坊ちゃんなんだから。それとね、皇室と公爵じゃ天と地くらいの差があるの! 分かってないわね、アンタ~」

 ふふん。子供の頃が懐かしいわ。あの頃が一番楽しかった気がする。月一回逢えるのがどれだけ嬉しかった事か。王子様とたくさんお話ししたよね。一緒にダンスしたよね。もう一度、彼と踊りたいなー。

 結婚したら今まで我慢した分、全力で甘えてやるからねっ。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品