悪役令嬢の影武者を嫌々演じて十年、憎っくき本物に『ざまぁ』したけど? 本当の悪役はアイツだった……!?

鼻血の親分

39

「ふあああああぁぁぁぁ……ねむーい……」

 朝はつらい。いつも眠たい。ギリギリまで寝てバタバタして馬車に乗るけどそこでまた寝てしまう。院に着いた頃にまた起こされて「秘密のお部屋」へ行くという毎日を繰り返している。

「シェリー様、お紅茶でございます」

 朝はポピーが目覚めの紅茶を差し出す。エミリーの朝は職員室で事務仕事の打ち合わせをしてるから不在だ。だからポピーがわたくしの世話をする事になっていた。

「ポピー、今日は朝から授業を受けなさい」

 わたくしはポピーが嫌い。コイツが居なかったら、コイツが優秀じゃなかったら、わたくしは普通に楽しい院生活を送れたと思うの。まあ首席は無理だけどね。

 だからポピーには冷たく当たりたい。

「かしこまりました」

 コイツは直ぐ感情が顔に出るな。どうせ「またですか?」などと思ってるに違いないわ。腹が立つけど理由を言っとこうか……

「何かねー、昨日アンタ、小テストがあるって言ってたじゃない?」
「はい。言いました。出題される問題もご説明しましたが?」
「忘れたの!」
「えっ?」

 えっ? じゃないわ! 大袈裟に驚いたフリして嫌味な娘ね!

「だから、忘れたのよ! 満点取れる自信ないからアンタが行きなさい! いいこと?」
「……はい」

 ふんっ……だ! アンタみたいに賢くないのよ!

「それとね、休憩時間に誰とどんな会話したかも教えるのよ。あと変わった事があったら逐一報告する事」
「はい。交代はお昼ですね?」
「そうよ、じゃねー!」

 パタンとアイツが部屋から出ていくと棚を開けてワインとグラスを取り出す。お紅茶の気分じゃないのよね。ワインが飲みたいのー。うふふ。

 トクトクとグラス一杯に注ぐと、窓辺の景色を見ながら優雅に頂く。

「あー、朝からのワインは格別ねえ」

 十七歳になったわたくしは、自分の置かれた環境を怨みつつも精神が壊れない様、楽しい事だけを追求して過ごしていた。お酒、睡眠、影武者への八つ当たり、そしてわたくしの王子様に群がる馬鹿なオンナどもの成敗。

 いえ、指導かしら。特に最近、王子様の追っかけで気になるヤツが居るのよねー。アレは何者? いつも王子様にべったり引っ付いてる。馬鹿じゃないの? 全く良い度胸してるわよ。

 休憩時間や放課後は取り巻きと、その馬鹿女をどう懲らしめるかでいつも盛り上がっていた。

「ふああああぁぁぁぁ……よし、体力温存の為に寝るか」

 ベッドへ横たわり朝から安眠する。少し酔って、とても気持ちいい。皆んな真面目に授業受けてるのにわたくしはこれで良いの? 王子様は何でお話されないの? って考える気もなくなる。全てが忘れられるの……


「くかー」



 シェリー様……
       シェリー様……

「シェリー様、そろそろ起きてください」
「う、うーん……エミリー、おはよ……ん? 此処は貴族院か。あー、よく寝た。と言うかお腹すいたよー」
「もう直ぐお昼でございます。ご準備を」
「うん。あ、ワインが残り少ないの。また補充出来るかしら?」
「大丈夫ですよ。お屋敷の蔵に幾らでもあるので明日持ってきますね」
「バレないの?」
「全然。蔵の管理を任されてますから何も問題ありません」

 エミリーだけはわたくしの理解者で味方だよね。何やっても上手く誤魔化してくれる。ありがたい存在だわー、うふふ。

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