悪役令嬢の影武者を嫌々演じて十年、憎っくき本物に『ざまぁ』したけど? 本当の悪役はアイツだった……!?

鼻血の親分

19

 オーケストラの軽やかなリズムに合わせ、わたくしたちは楽しそうにステップを踏む。お互い微笑み合い卒なく踊るものの、王子様の本心は分かったものじゃない。

 笑顔の裏に何をお考えなのだろうと、憧れの御方ではあるけれど今は怖い印象しかなかった。

「シェリー様、素敵ですわー!」

 取り巻きから歓声を浴びる。

 ふと、踊りながらジャック様の姿を捉えた。彼は優しげな眼差しを向けている。怒ってる素振りは見られなかった。

 まぁいち早く王子様がお誘いになられたから、わたくしの選択は間違ってなかったよね? そうよ、大丈夫、大丈夫。

 ……と自身を励ました。そして気になるアイツが何してるのか目で追ってみる。すると一瞬しか分からなかったけど、会館の片隅で顔を上げてボトルごとラッパ飲みしてる姿が垣間見えた。

 まさか? いえ、今、ラッパ飲みしてた……あの馬鹿、絶対にそうだ。おいおい、飲み過ぎでしょう! 今のわたくしたちに気がつかないくらいお酒に夢中なの⁈ ったく、やっぱり馬鹿女だ!

 などと笑顔の裏にそんな悪態を吐いていた。

 やがて曲が終わりかけると王子様と見つめ合い微笑みを交わす。

 取り敢えず無難にこなしたわ。ジャック様と踊るより別の意味で緊張したけどね。でも何故わたくしとダンスを?

 その答えを見出せないまま曲が終了し互いに礼を取ると、会館から割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。続いてオーケストラは二曲目に入ろうと演奏の構えを見せる……が、その時だった。王子様がわたくしの手を握り、ホール中央まで引っ張って行ったのだ。

 えっ⁈ えっ⁈ なに⁈ なに⁈

 オーケストラも突然の出来事に動きが止まった。そしておもむろに王子様は声を荒げたのです。

「ご来場の皆様にご報告があります!」

 エ、エリオット様??

 会館の全員が彼に注目した。

 王子様は先程とはうって変わって、冷酷な眼差しを向けながら、わたくしに言い放った。

「ここに居るシェリー公爵令嬢との婚約を破棄させて頂く! 皆の前で声高らかに宣言しよう!」

 わたくしは一瞬何が起こったのか分からないくらい唖然とした。王子様の余りにも突然の宣言に会館は静寂に包まれた。

 い、今、婚約破棄って仰られた? は? は?

「聞こえなかったのか? もう一度言おう。シェリー、君とは婚約破棄だっ!」
「……え? こ、婚約……破棄ですって……?」

 まさか、王子様? 何を血迷られたのですか? あれほど言ったじゃないですか? ここでそんな宣言なされても勝ち目はございませんって。それにわたくし、影武者ですけど貴方様に反撃の命令が下ってるんですよ。論破しなさいって。ああ、それなのに何て勇み足をなされたのですかー⁈

 すると、静まり返った会館から大きな笑い声が鳴り響いた。

「はーっはははははははははははっ!」
「理事長? いえ、お父様?」

 これはマズい展開です。王子様、わたくしの援護射撃が現れました。これから二人して貴方様を論破しなければなりません!

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