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ノベルバユーザー330919

お母様の理由



 私は大量の候補者の資料を前にして、大層困り果てていた。読んでも読んでも一向に資料は減らない。むしろ次々と増えている。どんだけ候補者がいるんだ……。さすがにこの数はないだろう。絶対に誰か二重で紛れ込ませているに違いない……!


「姫様、何を考えていらっしゃるかは分かりますが、これでも少なくしたのですよ。姫様の場合、血筋の関係で他国も含まれますので」
「それにしては多すぎるのではないかしら?いくら他国の王侯貴族が含まれていたとしても、他の令嬢方もいらっしゃるのに、どういうことなのよ……」


 マリーが追加で持ってきたであろう資料を整理しながら、私が趣味が合わないと感じた方については丁寧に仕分けをしてくれる。……後で、お気持ちは嬉しいのですが、今回は機会が合わなかったということで~みたいな返事をしなければならないからです。終わる気がしない。


「大体、何故、秘密裏に集めたはずの候補者資料がこんなに存在しているの?」
「奥様の人脈のおかげ、としか申し上げられません」
「それにしても、かなり遠くの国からも縁談話があるなんて、どうすればそんな人脈が持てるのかしら?」
「奥様は若いころ、外交で活躍をしていました。それに、姫様もご存じの通り、奥様は未だに劣らぬ絶世の美貌をお持ちですから。……旦那様と結婚する前はそれはそれは揉めたようですよ。当時の奥様は、今の姫様よりも素晴らしい状況でしたからね」


 ……そうだった。そういえば、お母様は昔、外交で諸国を回って、その度に当時の権力者たちを魅了していたという……。引きこもりである私ですら、崇拝されたり、信仰されたり、直接会っていないにも関わらず、この有様です。コミュ力の高いお母様がどんな状況だったか推して知るべし……。


「姫様。他人ごとではありませんよ。当時の奥様を知る各国の権力者たちは、奥様の美貌を色濃く引き継ぐ姫様に注目しているのです。特に、恋敗れた方々は自分の子の世代であればと必死なのです。いつ、攫おうと動き出すのか分かったものではありません」
「私、そんなに危険なの……?」


 マリーが資料を整理していた手を止めて、真剣な顔つきで私に向き直った。知らず知らずのうちに生唾をゴクンと呑み込む。私が真面目に聞く姿勢になったのを確認してか、マリーが口を開いた。


「この際です。はっきりと申し上げますが、公爵家を一歩出た途端、姫様の周りは敵しかいません。守ってもらえるなどと、甘いことを考えてはなりません。たとえ好きな方に嫁ぐことが出来たとしても、姫様の夫となる方は常に死の危険と隣り合わせとなるのです。奥様が旦那様の元に嫁ぐことが出来たのは、シェリー様の力を借り、周辺諸国に圧力をかけたからです。そうでなければ、いくら旦那様であっても、奥様を守り切ることは不可能でした」


 そこで言葉を区切ると、マリーは少し視線を下げて、昔を思い出すように目を細めた。


「奥様は数年に数回のみしか、王都の公爵邸にはいらっしゃいません。何故だか、姫様に分かりますか?」
「……私が知っているのは、お母様は私がここから動かないから、避暑地にいる時間が長くなっているということのみよ」
「その通りです。しかし、何故そうしなければならないのか、姫様は理解していなかったようですね」


 お母様と今まで話した内容を想い出しても、理由まで明確に教えられたことは無かった。いつも、困ったように眉尻を下げて優しい微笑を浮かべていたから、深く聞くことは無かったけれど。


「仕方ありません。奥様もまだ早いと判断して話していないようでしたので。姫様が知らないのは当然のことです」
「そうなの……?」
「私が理由を説明しましょう。今なら問題もありません」


 知らなくて当然のことだったのか。それにしては、とても複雑な事情がありそうだ。今まで話していないのに、今話すということは心して聞かなければならない内容に違いない。


「奥様は昔、婚約者が14人いたそうです。ですが、ことごとく破談となりました。何故だか分かりますか?」
「縁談が上手く纏らなかったから?」
「確かに、違いはありません。ですが、もっと単純です」


 そこで区切ると、マリーは私がごくりと黙り込むことにも気にせずにはっきりと告げた。


「__相手がこの世から居なくなったのです。婚約直後、全員、暗殺され、破談となりました。いずれも同じ犯行手口です。それも、貴賤に関係なく、奥様と親しくしていた使用人までもが、何者かに殺されることもあったのです」
「____」


 私は思っていた内容との差に自然と身震いが止まらなかった。だって、そうでしょう?当時、シェリー様の助けを得られなければ、お父様とお母様が結ばれなかったというのなら、その犯人というのは、まさか……


「__まさか、当時の犯人はまだ生きていて、犯人はまだお母様に固執していて、今度は私もお母様と同じ状況になるかもしれないということ……?」


 マリーは私が絞り出した答えに何も言わなかった。


「姫様。私は姫様の選択であれば、死地であろうと共に生きます。ですので、気軽にとは言いませんが、慎重に吟味して選んでほしいのです。姫様の意思であるならば、私は姫様と、姫様が選んだ伴侶を共に守り抜きます」


 私は唖然としたまま、真摯にこちらを見据えるマリーを見返す。マリーの瞳に宿るのはそれほどの、覚悟だった。私みたいに、ずっと一緒にいられたら、なんて、甘い考えではない。


「避暑地であれば、許可なきものは結界に阻まれます。ここ、公爵邸も同じです。ですが、奥様がこちらにいらっしゃれば、否応なく社交界へ出ることとなります。隙が出来やすいのです。もし、姫様が社交界に出ることが多かったのならば、敵の目はある程度攪乱出来、手出しが難しいように出来ました。姫様も、デビュタントのとき、全身の肌をより隠すようにしていましたが、あれも、魔除けの一種なのです。それでも、姫様の魅力に気付いた方はこれほどいた。姫様は今、とても危険な状態なのです。それだけ理解して下されば、後は何も申しません」


 そう告げると、マリーは話は終わりだとばかりに資料の整理整頓を始めた。私は、目の前に置かれた資料の山を見た。これほどの方が、危険を顧みず、想ってくれているのでしょうか。……いいえ、そんなことはありません。お母様の時と同じく、この美貌に魅せられただけでしょう。お母様の事を思っていたせいか、過去の記憶が蘇る。


『__物語は好き?』
『はい!』


 幼いころ、まだ、お母様がこの公爵邸に一緒に住んでいたころ。お母様は、まだ高価であった絵本を読んでいた私に、物語は好きかと聞いた。既に前世の記憶を想い出していた私は、アニメや漫画が好きだった前世の記憶のまま、それに即答をしたのだった。


『__私は嫌いよ』
『えええ!!』


 そうして、素直に答えた私を騙し討ちしたかの如く、嫌いと、お母様は言った。私は驚いて、思わず声を上げた。でも、どうしてもそれが納得が出来なくて、不満で、思わず、どうして嫌いなのって聞いた覚えがある。純粋に疑問だったのだ。そうしたら、お母様は少しムッとした表情で言った、


『__嫌いよ。だって、あんなのただの嘘じゃない。最後は末永く幸せに結ばれるだなんて』


 私はそれを聞いても、やっぱり納得がいかなかった。ご都合主義であろうとも、ハッピーエンドが一番いいに決まっている。不満たらたらな私を思ってではなかっただろうけど、その後、お母様は違うことも言っていたような気がする。確か、そう、


『「幸せは自分自身で掴むもの。末永く幸せだったかなんて、終わりの時にならなければ分からない」』
「姫様?何か言いましたか?」
「何でもないわ」


 マリーが私の呟きに気付いたのか、資料の山の向こうから顔を覗かせる。私が何でもないと言うと、不思議そうな顔のまま資料の山の向こうへ戻っていった。そういえば、幼かった当時の私はこうも聞いていたな、


『おかあさまは、いま、しあわせですか?』


 私の質問に、お母様はとびっきりの美貌でとろけるような笑顔で私に答えた。


『__ええ、とっても。私の幸せがここにいるもの』

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