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ノベルバユーザー330919

母の愛と友の誓い



「マリー。これは何かしら?」
「見ての通りです」
「でも、これって……」


 私の前には今、大量の紙束があった。紙とはこの中世の世界ではまだまだ貴重品に入るものです。すでに印刷技術は確立していますが、紙自体が高級品ですので、実質手にしているのは貴族や裕福な平民くらいでしょう。その紙がこれほど大量に目の前に積み重なっていることは、仕事の内容が書かれている訳でもないのに、それほどあることではないでしょう。


 一番上に重なっていた一枚を手に取る。そこには、どこそこの貴族令息で、趣味はどうたらこうたら、普段の生活から、理想の結婚生活について、極めつけは、私に対しての愛のポエムのような文面。他にも手に取ってみると、内容は多少違えど、同じような内容が書かれている。裏面を見てみると、その文面の本人だろう写真が印刷されている。


「ラブレター?なのかしら……でも、それにしては、こう……」


 写真も少々粗いけれど、顔がはっきりと分かる印刷です。写真はまだまだ高価だというのに、こんなにデカデカと載せてしまって……金銭的に余裕のある公爵家生まれの私でも思わず天を仰いでしまいそうです。


「らぶれたあ?ですか?これは見合い用にと奥様が確保した資料ですが」
「そうなの?私がいうのもなんだけれど、よくお父様とお兄様が許しましたね」


 公爵家の姫として、今まで複雑な事情もあってか、婚約の話も全く上がることが無かったというのに。お母様も、表面上ではお父様たちの意向には従うとおっしゃっていたのは知っているけれど、一体どうやったのかしら?


「旦那様には、奥様では判断の出来ない火急の要件があるということで、遠い避暑地まで来るようにと手配し、レオンハルト様については、只今貴賓が王宮にいらっしゃっており、近衛の仕事が忙しいところ、隙をついた次第です」


 お~。私が引きこもっている間にそんなことになっていようとは。マリーの噂話にしか興味無かったから全然気付かなかったな。でも、そういえば最近お父様とお兄様の姿が見えなかったけれど、そういうことだったのね。


「それで、これが見合い用に揃えられた資料だというのは分かったのだけど、私はこれをどうしたらしいのかしら?」
「お好きなようにどうぞ」


 それは、好きに選べってこと?でも私は公爵家の姫。もちろん、高貴な身分に生まれたからにはそれなりの家に嫁がなければならないとは分かっているのだけど、まさか、そこに私の意思を含めてもいいとは夢にも思わなかった。結局はお父様とお兄様が素敵な方を選んでくださるか、もしくは、政治的にも利があるところに嫁がされるのだとばかり思っていました。


「……本当に、私が選んでいいの?」
「もちろんです。奥様から許可は頂いております」


 __本当に私が選んでいいの?


 私が呆けた顔をしていると、マリーが笑って頷いてくれた。……初めてマリーの笑顔を見ました。私はまだ、夢を見ているのかもしれない。これが現実かどうかを確かめるために、私は自分の左の頬を思いっきり抓ってみた。……痛い。ヒリヒリとする。どうやら、現実のようです。


 私が現実の痛みに涙目を浮かべていると、マリーが呆れた顔で氷を魔法で造り、布で包んで赤くなっているだろう頬に当ててくれました。面目ないです……。


「お母様から許可を取っていたとして、本当に勝手に選んでもいいのかしら?お父様やお兄様にお伺いを立てたほうがいいのではないの?」


 この期に及んで、私はやはり、気が進みません。確かにお母様の許可は頂いたのかもしれませんが、そもそもからして、最終的に決断が成せるのは家長であり、当主であるお父様です。


 いくら私が愛娘であろうと、お父様が家の為なら情を捨て、非情な決断もすることを知っています。お兄様も、確かに可愛がってくれていますが、次期当主としても、私の嫁ぎ先については神経質になることでしょう。たとえ、ここで私が何方かを選んだとしても、とても良い結果になるとは思えないのです。


「姫様。これは奥様からの伝言なのですが」


 私が、まだ消極的なのを見てか、マリーが私の前へと姿勢を正して出る。そして、そのまま、綺麗に片膝をつき、座っている私に目線を合わせる様にして私の右手を取った。マリーの次の言葉を待つように固唾を呑んでいると、


「『__一年。あなたがあなたの運命を選べる期間よ。無為に過ごすのも、有益に過ごすのも、好きにしなさい。私は遠い地から、私が今のこの人に出会ったときのように、あなたがあなただけの運命の人を見つけられることを祈っています。母はいつでもあなたの味方ですから、母を信じなさい』__と私に伝言を託されました。手紙では勘付かれてしまいますからね」


 マリーはそういうと、そのまま固まっている私の手を強く握りなおした。そして、決意を秘めた目で私を再度見つめると、こう切り出しました。


「奥様の言葉ではありませんが、私も姫様の味方です。たとえ、この一年の間に誰も選ぶことがなかろうと、誰かを選ぶことになったとしても、このマリー、不詳の身ながら、生涯を姫様と共に在りたいと思っております。どうか、どのような結果が待っていようとも、どこへ向かうことになろうとも、死が二人を分つまで、お傍に在り続けることをお許しいただけないでしょうか__」


 それ以降、マリーは私の手を握りしめたまま、首を垂れるように静かにそこにいて、私の返事を待っていた。握った手が震えている。私の手か、それともマリーの手か、私には分からなかったけれど、私はマリーの想いには応えなければならないと分かった。これは、騎士が生涯唯一の主君に捧げる誓いの儀式だ。


「__許します。マリー・シュタイン。ここに誓いを」


 私が震える声でそう告げると、マリーはすぐに頭を上げて、握っていた私の手の甲に軽く口づけた。そしてそのまま口づけた手の甲を自らの額に当てる。


「__私、マリー・シュタインは、姓が変わろうと、場所が変わろうと、生涯を個人、フィオナ・デ・ルーンナイト様へ捧げると誓います」


 私はその言葉を聞くと、ゆっくりともう片方の手から持っていた氷嚢を資料が置いてある机に置き、冷たいままでマリーの右肩に左手を置いた。そして、そのまま魔力を流し込む。マリーが苦しそうに眉を僅かに顰めた。初めてやるから、加減が分からず、苦しいマリーを見て手が緩みそうになると、握ったままだった右手がさらに強く握られる。


 長引かせれば、マリーが苦しむだけ。一気に魔力を流し込むと、次第に、私の手の甲が当てられたままだったマリーの額が光り始める。そろそろだと、さらに魔力を流し込むと、一際輝きが増したかと思うと、流し込んでいた魔力が流入を止めた。儀式は終わったようだ。マリーは苦しそうにしていたけれど、少し汗を掻いているだけで、大事は無いようです。


「__姫様。ここに誓いは成立しました。よく、出来ましたね」


 珍しく私を褒めると、マリーは握っていた私の手を今度こそ離して、その場で立ち上がった。意外とケロッとしている。私の手は未だに震えているというのに。


「しかし、姫様。儀式の間、それを握ったままで私は気が気ではありませんでした。途中で儀式を止めるほうが危険でしたから、危うく凍傷になるのではと、冷や冷やさせられましたよ」


 そう告げたマリーの目線の先には、先程まで頬に当てていた氷嚢があった。


「魔法で造った氷は自然の氷より何倍も温度が低く、長く使用すると危険が高いのですから、気を付けて下さい」


 ずっと震えていた原因が分かった瞬間だった。

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