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ノベルバユーザー330919

お嬢様の知らないお話~マリーの憂鬱~



 皆さま、ごきげんよう。私はルーンナイト家に仕える侍女の一人でマリー・シュタインと申します。特に私は畏れ多くもフィオナ姫様の専属として仕えております。


 姫様は言わずと知れた美貌の持ち主です。誰もが羨む容姿は女神すらも羨むと自信を持てます。


 姫様は小さな頃より控えめな性格でいらっしゃいます。新人の侍女たちはよく誤解をしますが、姫様は至って普通の女の子と変わりません。確かに、神々しいオーラが見えたり、声を聴くと崇めたくなりますが、至って普通の少々控えめな女の子なのです。


 あまり他の使用人の前に姿を現すことが無いために、稀に姿を現すと崇拝されていますが、弊害は姫様の居心地の悪さ位で、むしろ仕事がよく回るようになりますので、悪いことはありません。…姫様の対人訓練にもなりますので。


 姫様は特別なのです。普通の貴族令嬢であればすぐに根を上げてしまうような教育内容にも文句ひとつ言わず、黙々とこなしてしまいます。これには公爵家の皆さまも大層驚いておられました。姫様は気付いておられませんでしたが、厳しいと有名な家庭教師の先生方を次々と攻略してしまう様子はスッキリとするものがありました。姫様の美貌に邪な気持ちで近づいたモノたちも、次々と浄化されているかのような様変わりはとてもおもし…いえ、興味深い現象でした。さすが姫様。


 無自覚で可愛らしい姫様ですが、最近困った遊びにはまっているようで…


「姫様。そろそろシェリー様が… 」


「ひぇっ!?にゃにがっ 」


「…姫様。何をしていらっしゃるのですか 」


 挙動不審な姫様を眺めながら検討をつけます。なるほど。また気配を消して盗み聞きですか。全く。やるならもっと周囲にも注意を払ってほしいものです。自慢ではないですが、姫様の未熟な隠形に引っかかるものは中位下までの者のみでしょう。またしても姫様は気付いておられませんが、公爵家に仕える者たちには階位が存在します。上位中位下位と大まかに分けられ、さらに上中下と分けられています。試験もございますが、今は置いておきましょう。


 外への憧れが強く、しかし公爵家の敷地から出ることを厭う節が姫様にはございます。その反動なのか、最近では公爵家の城を隅々まで探索しており、隠し通路まで活用しているようです。


 令嬢としてはいかがなものかとは思いますが、今の臆病な姫様には必要なこととも言えます。


 …決して、教える内容が減って楽になったなどと思っておりません。ええ、全く。


「…ほどほどにして下さいませ。母に怒られますよ 」


「…はい… 」


 母の名を出すことでしばらくは大人しくなさることでしょう。決してしょんぼりした姫様が見たいがためにこのように申している訳ではありません。ええ、心を無にして姫様のために申しているのです。本当ですよ。


 姫様をお部屋までお見送りし、公爵家の仕事に戻ります。私は姫様の専属侍女ですが、一部家の管理も任されております。下の者たちに指示を出すことです。


「ケニー、客室のシーツを回収しなさい 」
「ライラ、料理長の買い物を手伝ってきなさい 」
「トミー、セバス様が探しておいでよ 」


 指示を出す内容は多岐に渡ります。その合間に抜け出す姫様をお部屋に戻すことも重大な仕事になります。特に姫様のお兄様であらせられるレオンハルト様から直々に指示されております故。


 しかし、デビュタントを無事迎えられてから姫様の様子がどこかおかしいようです。一体会場では何があったのでしょう。確か、レオンハルト様が始終エスコートを行い、他の来客者との接触はかなり少なかったと聞いておりましたが、まさか、何方か気になるお人が出来てしまわれたのでしょうか…いえ、レオンハルト様がそのような重大事を見逃すとは思えません。


 では、何が原因でしょうか。…そういえば、最近怪しい占星術にはまっているようです。よくお部屋で独り不気味な笑い声をあげながら見たこともない記号を紙に書いている様子を目撃します。


 一体どこからあのような怪しい術を見つけてきたのでしょうか。書庫にそのような書物は無かったと思われますが…


 最近はシェリー様と盛り上がっておられましたから、もしかすると原因はシェリー様なのでしょうか。あのお方は私が物心つく頃よりお姿が変わりません。王国七不思議に数えられるのも伊達ではありませんが、頼んでいないのに姫様のことを聞きつけるや否や勝手に魔法の教師として公爵家に押しかけてきて、色々とお世話になった旦那様や奥様は下手に出ることが出来ず、そのままなし崩しに教師に収まりましたから、同じように何か姫様に吹き込んでいる可能性はございます。


 いけませんね。敬愛する姫様に何かおかしなことを吹き込まれたとあればいくら旦那様方の恩人であろうとも殺意が湧くことを止められません。


「おやおや、まいったねぇ。ご立腹かい、マリー?」


「…シェリー様。お早いお帰りでございますね。出口はあちらでございます 」


「…冷たいねぇ相も変わらず。言っておくが、フィオナのあれは誰も何も教えちゃぁいないよ 」


「何も申しておりませんが?」


「怖いねぇ、目が口ほどにものを言ってるのさ 」


 怖い怖いと自らの両腕を摩る動作をするシェリー様の目は愉快気に細められ、楽しんでいるのが丸わかりです。なるほど。目が口ほどにものを言う。教訓になります。覚えておきましょう。


「そんなコワイ顔してると幸せ逃しちまうよ、ほれ、笑いなさいな 」


「余計なお世話でございます 」


 そうかいねぇと、困った子どもを見るように頭を撫でられます。力加減が出来ていないので首が変な音を立てています。そろそろ首が持っていかれそうですので、失礼ながら頭に置かれた手を払わせていただきます。特に気にした様子もなく大げさに肩を竦ませると、そのままシェリー様はお帰りになりました。


 …全く。いちいちお騒がせな方ですこと。明日は休日ですから、自室でゆっくりと読書でもしましょうか。


「あ、あの!ま、ま、ま、マリーさんっ!今いいでしょうかっ!」


「残念ながら現在暇ではございません。出直して下さい 」


 この少年、今年新しく採用された、確か…ケビン・コナーだったかしら?階位は下位下の庭師所属のはず。今年の採用資料を思い返し判断いたします。


「は、はひぃっ!」


 何がしたかったのでしょうか、あの少年は。不可解に思いながら残りの仕事を片付けようと動き出し、一歩を踏み出した時です。それは、起こりました。


「…っあの、明日の夕方前、奥の蔦小屋で待ってます!」


 それだけを告げると、少年は耳を真っ赤にして去っていきました。少年の後姿を見送るとともに、私は自分の顔が羞恥でじわじわと赤くなるのを感じました。なんということでしょう…


「…不覚。ケビン・コナー…何者ですか 」


 私に悟られずに腕を掴むとは…しかし、調べ直すにも時間がかかります。明日の誘い、、万全の準備で臨みましょう。


 そうしてその日の仕事を終え、明日に向け万全の準備を行います。ヤラレル前にヤル覚悟。姫様のためにも不穏分子は近くに置けません。今まで陰で姫様の為に磨いてきた上位中の実力を発揮する機会はそうそうありません。ケビン・コナー、覚悟しなさい。私に喧嘩を売ったことを後悔させます。


 そうして、翌日殺気を押さえて出向いたところ、物陰に隠れる姫様と、遠くから視線を向ける母とシェリー様に見守られ、私は盛大な勘違いを後悔することとなりました。


 しかし、シェリー様もあれほど爆笑されることがあるのですね。完全装備のまま、そのまま消し炭にしたくなりました。…失礼。


 そして、とんだ勘違いで死にかけたケビンさん。申し訳ございませんが、私への求婚は父を倒してからという家訓がございまして、まず、間違いなく父相手では死にますので、諦めたほうが良いと思います。悪しからず。


 父のせいで行き遅れそうな、マリー・シュタイン、19歳まで半年の春でした。


 …もちろん姫様は別できっちりお仕置きでございます。

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