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ノベルバユーザー330919

月に願いを



 マリーに怒られた。過去最大に怒られた。そんなに怒ることないのに…ちょっとした好奇心だっただけなのに…


 好奇心は身を滅ぼすとはこのことね。二度としないと、マリーに誓いました。


 今日は散々でした。昼食後、庭の奥にひっそりと佇む小屋まで赴いて、小屋の近くに潜むところまでは上手くいったのに…


 ケビンくんがきちっとしたスーツでやってきて、その後すぐに物々しい雰囲気でマリーがやってきたところまでは良かったのに…


 あんまりに物々しいからと、こっそり中を覗いてみたらどうよ、アレ。てっきり甘酸っぱい青春模様が繰り広げられているかと思えば、ケビンくんの背後に回ったまま首に鋭い刃物を突き付けて、耳元で冥土の土産は何がいいですか?みたいな状況に陥っていて心臓が止まりました。私もですが、ケビンくんも。思わず飛び出してしまった自分が憎い…


 据わった目で何故出てきたんです?って言われたときは思わずそのまま回れ右をしそうになりましたが、堪えました。このまま回れ右したらケビンくんが白目剥いたまま帰らぬ人となりそうでしたので!


 それはもう必死にマリーをどうどうと落ち着かせて話だけでもと説得し、ケビンくんの意識をあの世から引き寄せて…私を見て一度気絶したけど、マリーが強制的にケビンくんを現世に呼び戻しました。…どうやったかは想像にお任せします。


 結局、私が見守る中で仕切り直しましたけれどね!ケビンくん、最初見たときは告白での緊張で強張ってたけど、刃物突き付けられていたときは若干、白目剥いてて可哀想でした。違う意味でドッキドキの展開でもうびっくりだよ。ケビンくん、仕切り直したとはいえ、刃物突き付けられた直後に付き合ってくださいって告白まで出来て本当に凄い。ちょっとやけになってたのかなぁ?


 …まぁ、マリーの返事も大概でしたが。てっきり受けるか断るかのYESかNOの返事かと思ったのに。マリーったら、


「なるほど、話は分かりました。では父を倒してください。返事はそれからです 」


 だって……ねぇ、どういうこと!?なんか色々と思っていた展開と違うよマリー!マリーのお父さんって、公爵家お抱えの騎士団長ではなかったですっけ?まだ新人のケビンくんには荷が勝つよっ、ひょろひょろで弱そうなケビンくんにはキツイと思うよ!しかもケビンくんもなんか、


「…分かりました。必ずお父様を打倒してマリーさんへ結婚を申し込みます。待たせてしまって申し訳ございませんが、必ず成し遂げます!」


 ちょっとケビンくん、成し遂げるって…それでいいの?というより、受け入れるの早くないですか?凄いよ、ノリが。何故かお付き合いから飛躍して結婚まで話が飛んでますけどっ、もしかして、落ち着いたと見せかけて実はまだ混乱してるの!?ねぇ、どういう状況なのっ?


 …マリー、あなたも何よその、出来るものならやってみな!みたいな姉御顔。え、違う意味で青春してない?対応がなんか少年漫画っぽいよマリー…


 と、決意に満ちた顔で去っていくケビンくんを見送るまでは私も余裕があったみたいです。ケビンくんがいなくなりましたので、そろそろ私もお暇を…


「姫様。話はまだ終わっていませんが?」


 …出来ませんでした。そのままこってりと説教をされました、正座で。くっ、畳もなく、床に座ることもないような西洋系世界で長時間の正座は拷問に近い!誰から教わったの!…あ、昔小さいころに私が教えたんだった。のおぉぉ、過去の私のおバカっ、過去に戻ってしょうもない前世知識をひけらかす自分の口を縫い付けたいっ!


 へろへろになって部屋に戻りました。うぅ、まだ足がしびれるぅ…晩御飯まだかなぁ。まだ時間があるから、今日習った魔法の復習しなくては。


「…?あれ、そういえば、今日は満月だったかな 」


 今日の授業は月の魔力について。この世界の月は地球で見ていた月と違って、変なオーロラみたいな虹が月の周りを揺らめいている。満月や三日月といった区別はあるけれど、オーロラの量によって満月、半月、三日月といったことが決まる。この世界でいう満月は、オーラが綺麗に月表面の全てを覆っている状態を指します。月の魔力は一定の条件を満たすと強力な魔力発電となります。特に王国では国の境界や王宮の結界の魔力としても活用されています。聞くところによれば、かの大国である皇国は一般平民にも一部恩恵が与えられているという。…まるで電気みたいにね。


 説明がくどくなってしまったけれど、そんな授業の中で私が気になったことは一つ。恋愛運を高めるという月の秘薬の作成についてです。満月の夜に月明かりがよく当たる窓辺に、自分の魔力を込めた水を透明な小瓶に詰めて置いておくというもの。一晩たっぷりと月明かりに晒しておくと月の魔力が込めた水の魔力と混じり完成するという代物のようです。


 そうして完成した秘薬を持ち歩いていれば、素敵な恋に巡り合えるという言い伝えが学院の女子の間で流行っているようです。前世のオタク女子魂としてはリア充女子の流行に流されるのは癪ですが、これも出会いが全く無い私自身のため。だったら出かけるか、社交しろと思われるかもしれませんが、お忘れでしょうか。コミュ障はこじらせると自室が安息の地、自宅が安寧の地になるのです。外界とは隔離したところでしか過ごせなくなる社会不適合者なのです!出かけるなんてとんでもない!かるく死ねますね。


 そんなわけで、こちらからは出向けませんので、相手側から来てくれないかなぁっていう前世現代女子の願望を烏滸がましくも代弁します。草食系とは聞こえがいいけれど、がっつくと引かれてしまうのではないかとやきもきする肉食系女子の皮肉ではないかと勝手に解釈します。


 お父様とお兄様のガードが高く、お客様とお会いすることは全くございません。さすがに年頃の娘としては、そろそろ恋の一つや二つは味わってみたいといいますか、平凡でいいので、普通の方と普通の家庭を築きたいなぁと思ったり、思わなかったり?


 前世では全くそういう状況になることも無かったなぁ…引きこもってたから当たり前ですけど。合法的に異性と会話のできる義務教育が懐かしい。あれほど素晴らしい制度は無いと今なら思えます。今からでも小学校ぐらいから前世でやり直せないかな?今ならクラスの男子も温かい目で見守れる気がする…いや、血迷ったけど無いな。小学生男児の残酷さを忘れていました。あいつら平気で女子の嫌がるポイントを刺激してくるのを忘れていました。あ、今思い出したらムカムカしてきた。女の恨みは死んでも消えない…転生しても


 …はっ!またトリップしてしまいました。とにかく、限りなく可能性は低いですが、無いよりはまし。どうかせめて私に出会いだけでも恵んで下さい!切実にっ


 …少し邪念が混ざってしまいましたが、なんとか魔力を込めることが出来ました。少し早いですが、窓辺にセットしておきます。


 お願いします。どうか顔はフツメンで、性格は優しい子ども好きな男性が公爵家に遊びに来て、偶然私とロマンチックな出会いが出来ますように。そして、そのまま穏やかに恋して、そのまま穏やかに愛へと発展し、そのままひっそり穏やかに家族のみの小さな結婚式を挙げて、一男一女を儲けて、男の子は思春期に反抗期で、女の子は一緒にショッピングして、最後は夫より先に家族に看取られながら安らかに逝って…こほん。またトリップしてしまった。小瓶に余計な魔力がさらに加えられてしまいました。


 仕方ありません。十分願いは込めましたので、今は良しとしましょう。前世の後悔がにじみ出てしまいました。親孝行出来ずごめんなさい。私、今世は孫の顔を両親に見せますので許して下さい!


 …さ、そろそろ晩御飯ではないかしら。お腹が空きました。遅れると明日マリーが鬼になります。




 窓辺に置かれた小瓶が怪しく光った気がしました。

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