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ノベルバユーザー330919

気配が分かる令嬢です



 世の中、美人は得が多いですよね。事実、人は外見で相手の性格まで決めつけることが多い。時代が変わると美人の価値観も変わるけれど、結局見た目で判断されることが変わることは無い。それ故に美人は得が多い。


 かく言う私もかなりの美人であると自負ができる。艶やかに波打つ黒に近い紫の髪、暗闇の中でも目立つ金色の瞳。透き通るような色白の肌に、完璧に整った顔のパーツ。少したれ目がちで右目の下に泣き黒子が無ければ造り物のような顔である。さらに付け加えるのであれば男女関係なく誰もが憧れる、きゅっと引き締まったウエストに、出るとこはしっかりと出ている、二次元かと思われるような夢のあるグラマラスなプロポーション。


 客観的に見ても美人ですね、ありがとうございます。誰もが欲しがる美貌を手に入れてしまいました…


「ああ…なんてこと」


 月明かりの差し込む窓際に寄りかかり、私は届かない願いを祈っていた。…神様、今すぐチェンジでお願いします!


 近くでばたばたと倒れる音がした。また今日も尊い犠牲者が発生した。遠い目になりながら私は今までのことを思い返そうとしてため息をついた。あ、また誰か倒れた。気が抜けない…


 唐突だけれど、私は転生者だ。転生したのはオタクの憧れ、西洋風の剣と魔法のファンタジーな異世界。勇者や魔王も存在する世界だ。多少異なることはあるけれど、とてもファンタジックな世界の、とある国の有力貴族の令嬢として産まれ落ちた。


 御年16歳。フィオナ・デ・ルーンナイト。それが今世の私。王家にも連なる由緒正しき公爵家の令嬢に転生してしまったのです。
 美貌も地位も得ていて我儘言うな、変われ、と思われる方も多いとは思いますが、私こそ是非お代わりいただきたいです。
 美人は得が多い。それは真実。けれどそれは傍から見てればと、今では思っています。


 前世では地味なオタクOL人生を満喫しており、特に波もアクシデントも発生せず生きていました。もちろん男性関係も全くの皆無です。死ぬ間際のことは記憶に無いので、もしかしたら彼氏ぐらいは出来ていたかもしれません。…転生したので希望的観測になってしまいますが。


 そもそも私は顔も人間関係もきらきらしたリア充は嫌いです。全く話が合いません。今思えば、あれは別人種といっても過言ではないと思っています。それなのに、このいかにもリア充引き寄せ上等なご令嬢に転生してしまい、周囲との認識の差に戦々恐々としています。


 ひとたび声を出せば周りの注目を浴び、一挙手一投足に視線が集まり、まるで怪しい魅了魔術の呪いでも発生しているのかと思うくらいに周りの崇拝が止まない。正直、かなり怖いです。


 しかし、今日ほど平凡な村娘Cとしてやり直したいと思ったことはありません。今日、今世の父に近々デビュタントに参加するようにと告げられたのです。


 本来であれば、デビュタント前に近い年頃の貴族令嬢と少しづつお会いし親睦を深めるため会場で孤立するようなことはありません。同じ年頃の娘たちが固まり過ごすため、和やかに迎えられる行事なのです。本来であれば。


 転生後の弊害とでもいうべきか、産まれてからかなりの早い段階で前世の自我が目覚めてしまい、子供の振る舞いも分からないため、もともとコミュ障なのに、さらにコミュ障をこじらせてしまい、結局、子どもだけのお茶会に参加することが出来ず、今に至っています。


 約1か月後には王宮にて若い娘たちのデビュタントが開催されるのです。それぞれの家のお披露目になりますから、公爵家の娘ともあろうものがぼっちで過ごすなんて最悪です。しかし、ドレスなどの用意もあるため、今更お友達になりましょうというお茶会を催そうとしても相手方にも迷惑になります。


 ああ、思いっきり頭を掻きむしりたいのに周りの目が気になって行動に移せない小心な自分が憎い…!


 とりあえず、お兄様を頼るとしましょうか。


 思い立ったが吉日、お城のように広く、迷宮のように複雑な我が屋敷の廊下を出来るだけすれ違う使用人が少ない廊下を進んでいく。


 どうしてそんな道が分かるのか。人の目線に敏感になるうちに気配が分かるようになってしまったからです。忍者や暗殺者みたいでカッコいい!と、最初は興奮したものですが、冷静になってみると、気配が分かる令嬢って何者なんだよ!?と自分にツッコんだ記憶はいい思い出です。今ではある程度近づけばオーラで人を判別できるので、なんて便利なんだろうかと順調にスキルとして磨いています。…出かける友達もおらず、ぼっちでゲームキャラのレベルをカンストまでプレイしてた記憶が蘇ってくる。あ、なんか虚しい。


 過去の記憶からダメージを受けながら進むこと数十分。人に遭わないように気配を殺しながら進んでいたため時間がさらにかかってしまいました。


 お兄様の部屋の前に着きました。中からお兄様の気配を感じます。次期公爵となられる方ですから、現在は執務中ではなかったですかね。とりあえず深呼吸して…


「…お兄様。フィオナです。ただいまお時間はよろしいでしょうか 」


扉の向こうからお兄様がこちらへと向かってくる気配がします。そろそろ身構えませんと…


バンッ!!


「フィー!ああ、よく来たね!さあおいで!中にお入り!」


「お、お、お、にいさ、」


「うんうん分かってるよ。デビュタントのことだろ?いいからこちらに来なさい。そろそろ来る頃だと思っていたんだ 」


 何の違和感もなく、さっと腰に腕を回され、お兄様にエスコートされます。部屋のふかふかソファに座り、一度深呼吸して落ち着きます。
 私を座らせた後は、向かい側のソファに腰かけて私が落ち着くのを穏やかにニコニコと待って下さいます。とても素敵なお兄様です。


「ん?」


 こっそり今世の4歳年上のお兄様を盗み見ると優しく微笑みかけてくれます。とても安心します。前世は一人っ子だったので、転生してよかったこととして素敵なお兄様が出来たことでしょう。お兄様は色合いこそ私と同じですが、違うとすれば私よりも色気に比重が偏っていることでしょうか。両目の下に黒子があり、お兄様に微笑まれるだけで女性の方は皆さまぽーっとしてしまうに違いありません。絶世の美青年です。自慢のお兄様ですが、兄がいた経験がないためコミュ障が発動し家族であっても、一度深呼吸をして落ち着かないと、はっきりとお話が難しいのです。特に、美形揃いですから。


「お、お兄様…」


「ああ、聞いているよ。ついにこの時が来てしまったかと、家族全員とても嘆いているよ。父様も断腸の思いでお前に告げたんだよ。ああ、もちろん、フィーのエスコートは最後まで私がやるからね。安心していいよ 」


「お兄様…」


「うんうん、ドレスの露出も少なくするようにマダムへ発注依頼済みだよ 」


「お兄様…!」


「あ、それと今回は早めに帰れるように手配も済んでいるからね 」


「…お兄様 」


 手際が良すぎます。…だがそこがいい、さすが私のお兄様。大体の憂いが晴れました。あ~すっきり。あとはデビュタント当日に王への挨拶だけこなせば問題ないようね!


「ところでフィー、ひとつ約束してほしいんだけど、いいかな?」


「は、い?」


 なんでしょう?お兄様のことですから無理難題なんて言わないと思いますが、真面目な顔で改めて言われるとなぜか緊張します。


「絶対に会場にいる男性に視線を向けてはいけないよ。いいね? 」


「はい…?もちろんそんなことは怖いのでしません 」


そんなことをすれば、私にとって不幸なことにしかなりません。この16年間でよくよく分かっておりますとも。


「よしよし、いい子だ。落ち着いたかい?」


「あ、そのようです。お兄様といたら落ち着いたのかしら?」


「ふふふ、フィーはかわいいなぁ。そうだ、最近女の子たちに人気のケーキをいただいてね、フィーと食べようと思っていたんだ。どうする?」


「もちろん、いただきますわ!」


デビュタントについては胃が痛む思いですが、今この時は大好きなお兄様と穏やかに過ごせる日常を満喫しましょうか。

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