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ロストアイ

ノベルバユーザー330919

シンプルに暑苦しいです@その2


「――さて、どうするつもりですか?」


 アイがボディさんを挑発する。それに対して堅実に、しかし怯えと共に汗を垂らしながらも構えるボディーさん。白服生徒として何年も努力を重ね、特待生にも引けを取らないとまで言われるような、あのボディーさんがだ。

 ――やれやれ。凄まじいね。


「――あんたを倒して、さっさとあの生意気なヤツもぶっ倒す!」


 ――やれやれ。目の前の特待生君も血の気が多いなぁ。

 若干、現実逃避したくなるところをグッと堪える。味方であることは心強いが、制御が難しいのはお互い様のようだと、ジミーは微妙な心地になるのであった。


     ◇◆◇◆◇


 あらら。あの特待生の子、血気盛んだなおい。生意気なのは否定しないけど、実力的には文句言われる筋合いも無いと思うけどね!

 目の前ではいつ私が動くか内心ドキドキしているであろうボディーが身構えている。お疲れ様です。


「『火之玉ファイアーボール』!」


 相手の特待生がジミー先輩に向けて継承スキル『火之玉ファイアーボール』を放つ。そこそこでかい大きさで複数放てるところを見るに、そこそこの実力者だ。

 だけど、


「――『火之玉ファイアーボール』」


 残念だけど、ジミー先輩も使えるんだよね。


「――なっ!?」


 相手のグリルは驚いてる。けど、まさか自分しか使えないと思ってたんだろうか。最近になってアメニティーへ格下げされる予定だってうささんから聞いてたし、それほど驚くことでもないと思うけどな。

 目の前のボディーも驚いてないし。もしや噂に聞く自信過剰系特待生なのかな?


「くっ! 『火之玉ファイアーボール』! 『火之玉ファイアーボール』! 『火之玉ファイアーボール』! 『火之玉ファイアーボール』!!」


 どんどんスキルを連射するグリル。ジミー先輩も冷静に同じスキルで相殺する。おそらく物量で押すことにしたのだろう、正しい判断だ。

 実際、魔力量で言えばグリルのほうが倍以上はある。変換効率に差があるとしてもなおの魔力差。普通ならジミー先輩のジリ貧で負け、魔力消費は激しいけどグリルの勝ちになるだろう。――普通にやればね。


     ◇◆◇◆◇


 実況席にてホウソウ、そして勿論マリアも観戦実況していた。開始早々のボディー対アイに興奮状態であった観客もろとも、魔法スキルの合戦でさらに盛り上がっていた。

 しかし派手とはいえ、魔力量の差においてジミーの不利は変わらない。白服と特待生の境は魔力量も関係している。基準の倍以上は無いと特待生にはなれないのだ。

 そのため、いくら実力者であってもボディーのように白服の生徒が存在していた。詳しい理由は秘匿されているが、AIが実権を握るこの世界において魔力量は絶対的な判断基準。

 昔からいる貴族階級が未だに貴族として残っていることが多いのもそれが理由。魔力量が多い者を貴族庶民関係なく政略結婚で縁を結んできたおかげともいえる。

 なので基本的に貴族は魔力量が多い。しかし、ジミーのように基準に満たない貴族も多く存在していた。貴族名を名乗るには多様な功績、または魔力量が最初の基準として挙げられる。ジミーは前者、グリルは後者であった。

 現状、魔力量においてはジミーの魔力切れで敗戦することは濃厚、というのが観客の予想であった。

 同じく、実況席にて実況を盛り上げていたホウソウも同じことを考えていた。


「おおおお! ここにきて派手な魔法合戦です! しかしこのままいけばジミー選手の負けが濃厚――」
「――それは違うわ」


 大多数の予想をぶった切るようにマリアが告げる。その一言に盛り上がっていた観客含めてシーンと静まり返る。

 そのまま続けて、


「単純に判断するだけでは何も見えないわ。物事には多種多様な側面が存在しているのよ」
「それはいったい、どういうことでしょう?」


 すかさず、ホウソウがマリアへ質問する。貴重な発言を逃すまいとする反応力は見事と言えよう。観客席からもひそかに期待に満ちた視線がマリア達へ注がれた。


「――自分で考えなさい」
「え!」
「と、言いたいところだけど。今回は特別に教えてあげるわ~」
「ありがとうございます!」


 こちらを一瞥もせずに試合観戦するマリアから一瞬、ひやっと物騒な気配を感じ取ったものの、それも気のせいだったか、了承を得られた。

 観客が試合より固唾を呑んで見守る中、マリアの解説が始まった――。


     ◇◆◇◆◇


 ――くそくそくそっっ!


「――『火之玉ファイアーボール』! 『火之玉ファイアーボール』! 『火之玉ファイアーボール』! 『火之玉ファイアーボール』……!!」
「――『火之玉ファイアーボール』『火之玉ファイアーボール』『火之玉ファイアーボール』『火之玉ファイアーボール』……」


 ――しつこいやつだ!

 グリルにとって『火之玉ファイアーボール』は良く使うスキルの中でも強力なスキルだった。単純に相性が良かったというのもあるが、幼き頃より好んで使用した結果、一番扱いが上手かったのだ。

 それをこうも尽く相殺されては面白くない。継承スキルの中ではアメニティーに近いと言われるスキルだが、元より実力主義。扱いにさえ長ければユニークスキルにだって負けはしない。

 魔力主義であるグリルにとって、それが常識であり、貴族社会においてはそれが大多数の思想でもあったため、当たり前と疑うことは無かった。

 それがひっくり返ったのは昨年。意気揚々と乗り込んだ学園は例に漏れず、特待生が特別扱いされ、その大多数は貴族が占めていた。

 実力でも身分でも名家の生まれである自分を上回る者など、それ以上の名門出身か、幼き頃より異名を戴くような化け物だけだった。

 調子に乗っていたのは間違いない。しかし、当時は驕ることこそが美徳であり、貴族として生まれたものの誇りでもあった。ボディーに完膚なきまでに負けるまでは。

 この学園には一年を通して様々な行事がある。そのどれもこれも己の実力を図るためのものであり、研鑽を積むためのものである。

 その中でもグリルは昨年の魔演武祭、個人戦にて初めてボディーと一対一で対戦し、完膚なきまでに負けた。最初は白服の生徒に負けたことを恥とし、何度も何度も再戦を申し込み、そのたびに負けた。そうして何度も挑み負けて、白服の生徒に負け続けたことでいつしか、いつしかグリルの中で何かが変わっていた。

 素直に現実をありのまま受け入れることが出来るようになったのだ。これは今までのグリルの価値観をひっくり返すような出来事でもあった。

 日増しにボディーへ近付こうと努力するようになり、自分の実力が上がっていくのも実感していた。そのためか、次第にボディーと共に行動することが増え、今年は執念の賜物でペアにまでなれた。

 こんな機会チャンスは二度とない。こんなところで終わることはできない。

 ――もっとボディーさんと共に戦いたい!

 目の前の相手は白服。貴族社会においては取るに足らない相手だ。しかし、今のグリルは一昔前までのグリルではなかった。相手を侮ることはしない。

 何より、ボディーが相手しているヤツは化け物であると、言われずとも最初から感じ取れていた。ボディー一人では確実に負ける。だが、自分が加われば多少可能性が無いとも言い切れない。

 最初からあの化け物を総力で倒すことが一番ではあるが、ボディーの判断は分断。今は目の前の相手を自分の全力の魔力量でもってして圧倒することが一番だとも理解していた。

 ――はやく、早く、速く、倒れろ!

 全てを相殺されているわけではない。避けられないところだけ相殺されている。もう時間の問題だ。早く目の前の相手を倒してボディーの元へ援護に向かわなければと、グリルの思考はそれだけであった。

 次第に物量に押され、相手の動きが鈍くなっていく。予定調和だ。魔力量の差から考えれば相手も善戦したほうだが、これまでだ。

 ――姿勢を崩し始めた。決めるなら、ここだ――!

 今までの『火之玉ファイアーボール』を上回る特大サイズをお見舞いする。周りを複数の『火之玉ファイアーボール』で袋小路に追い詰めたところのこのトドメだ。もう相殺は出来ない。

 確信をもって全力で魔法を放ち、結果を確認することなく、すぐさま化け物と対峙するボディーの元へ向かうことにした――。


「――グリル! まだだ! まだジミーは諦めてない……!」
「へ……?」


 二人の対戦はまだ、終わっていなかった。

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