ロストアイ

ノベルバユーザー330919

組み合わせと作戦



 知識部門が終わり、派手な結果になってしまったが、好成績をおさめた。それ以外の何物でもない。

 ……そういうことにしてほしい。

 それに、よくよく聞いたら一般に非公表とかも出来るようだし、その場合は教師にバレルだけで済む。この世界の秘匿レベルは高度だ。とことん隠そうと思えば出来てしまうのが今世の特徴でもある。……ママのように。

 結果は結果としてさておき、今日は組み合わせが発表される日。

 形式はトーナメントで進む。ポイントが高ければ高いほど後半で戦えるので、消耗は少ない。ただ、その分外部への個人アピールも少ない。

 それぞれにメリットデメリットがある訳だ。

 どっちもどっちだけど、戦う相手が少なそうなのは良かった。むしろ外野でワイワイ観戦していたい派なので、最後まで楽しく過ごせそうだ。

 それに勝ち上がった相手について事前に知ることが出来るのはアドバンテージだ。

 というわけで、


「ひゃ~、これは仕方ないですね」
「まあ、当然の結果だよね」


 現在はジミー先輩と一緒に特A寮の休憩用小部屋を借りてトーナメント表を確認中である。六学年とやたら人数が多いので、数えたら十六のグループに分かれていた。

 その中でベスト十六を決めて、さらにベスト八を決めて、次のベスト四で決勝だ。決勝までいったとして、最高試合数は十二回だ。

 最初の試合が一グループ七十四試合とシードが一枠で試合数が多い。勿論私たちはシード枠だ。他のグループでリアたちも皆シード枠に入っていたので、予想違わずってところだろう。

 決勝まで行くとして、シードなら最高七試合だけだ。ただ、一グループの試合数がバカにならないうえ、それが十六グループもあるのだ、時間がかなりかかる。しかも時間制限が無いので、長引くところは長引く。

 そのため、武闘部門については約三~四週間も期間を置いている。順次試合を行うが、全て魔演武場コロッセオで行うため、さらに時間が掛かる。

 私たちは第八グループのシード枠なので、最初の試合までに二千百五十九試合も控えている。バカになりそうな数字だ。実際の試合はかなり後半になるだろう。


「バカげた数字ですね」
「毎年恒例だから、もう気にならないね」
「そうですか」


 私たちの試合までに気楽に過ごせそうだな。ここまで仕出かしたなら、狙うは優勝だ。

 観戦は自由なので、連日生徒や街人が応援に駆け付ける。また、外部から特別に招き入れられる貴賓も観戦するので皆気合十分だ。

 まあ、毎日見てくれるようなそんな暇で奇特な貴賓は少ないだろうけど。大体はベスト十六決定戦あたりから顔を出す。ママ情報なので間違いない。


「試合観戦は自由にしますか?」
「そうだね。時間のある時に気になるペアをそれぞれで見て確認すればいいんじゃないかな」
「了解です。あ、作戦はどうしますか。何なら私が全部一人でやりますけど、」
「それはやめてほしいな」


 苦笑を浮かべて、「ただでさえ少ない僕の見せ場が無くなるからね」と、真剣な顔でジミー先輩が私を諭す。確かにそうだ。自分基準で考えてしまっていた。

 なぜなら、相手によるけど、ざっと確認した限りではそれほどの強者が多くいるとは思えないからだ。せいぜいちょっとだけ苦戦する相手かも? くらいのレベルしかいない。

 特に、うささんがサポートに回らない状態での予想なので、自分のスペックの恐ろしさを思い知るばかりである。


「……私が言っても説得力は無いだろうけど、せっかくのペアなんだ、連携で戦いに挑みたいかな」
「分かりました。それなら攻撃とサポート、好きなほうを選んでください」
「……いいのかい? アイ、君なら単独でも十分な強さだろう」
「ママに協調性が足りないって怒られてるので、気にしないで下さい」
「ママ?」


 あ、そういやジミー先輩知らないんだった。虚を突かれたような表情で先輩が言葉を繰り返す。怪訝そうな顔になりながらも結論、「母親が好きなんだね」とスルーしてくれた。

 なにやら、ママの言うことはしっかり聞く良い子ちゃんだと考えたような微笑ましい表情だ。間違ってはいないけど、内情を知ったらジミー先輩の表情はみものだな。


「それなら我儘で申し訳ないんだけど、最初は私がメインで魔法攻撃を行って、危ないときだけサポートをお願い出来るかな。最悪、私が倒れたり、戦闘継続が怪しくなったら好きにしてもらっていいから」
「サポートって、どの程度までがいいですか」
「君の使える魔法をあまり知らないけど、補助系魔法は使えるかい?」
「はい」
「元素系は?」
「使えます」
「……次元系もかな?」
「はい、実は」
「…………」


 むしろ使えないのはユニークスキルと一部固有、継承スキルだけだ。アメニティはほぼマスターしてるので、公式魔法で使えない魔法はほぼ無いと胸を張れる。

 ……幼女時代の苦労がこんなところで実るとはね。

 ただ、覚えただけで数が多くて使用することはあまりなかったので、今回はいい機会だ。存分に一回しか使ったことないスキルなんかも利用して挑むのも楽しい枷になりそうだ。


「……はぁ。それは、頼もしいね……」
「ありがとうございます」


 ジミー先輩が天を仰いで眉間を揉む。だいぶお疲れのようだ。昨日は大変だったし、仕方あるまい。しばらく眉間を揉みほぐして気が済んだのか、質問を変えられた。


「逆に聞こうかな。使えないのは?」
「えーっと、ユニーク、一部固有と継承だけですね。あ、アメニティは大体使えますし、何なら継承系は教えてくれればすぐに覚えますけど……」
「……うん。十分だよ」
「そうですか?」


 コンプリートもやぶさかではないけど、ママから順次段階的に教えてもらってるので、バレたら酷いことになりそうだ。やっぱりやめておこう。


「とりあえず、相手への目眩まし、魔法発動の妨害、出来れば行動の制限なんかでサポート出来るかな」
「いいですよ。お安い御用です」


 そのくらいであれば同時発動もなんなく出来てしまう。ジミー先輩から提案したのに、何故だか物凄くマズイ苦虫を噛み潰したような表情をされた。解せぬ。


「……そうかい。言ってて結構高難易度だと思ったんだけど」
「そんなの、幼女時代のヤバい修行に比べたらなんてことないですよ、ふふふ」


 ふっ、とそう遠くない昔を思い出し、遠い目になる。あの頃はあれがただの異常な環境ではなく、普通からほど遠い異常な環境だとは知らなかった。


「いったいどんな幼少期を過ごしてきたのか、逆に気になるね」
「……聞きます?」
「やめておこうかな。聞いたら心臓に悪そうだ」


 普通に遠慮されてしまった。

 その後の会議は、とりあえずの作戦を決めると、実際の連携確認をどこでやるかで悩むこととなった。武闘部門開催中はどこの訓練場も予約でいっぱいになるため、共有する場合もあり、人であふれかえるのだ。

 最初の試合まではおそらく一週間以上は経つと思われるので、焦ることは無いけど、速めに確認したほうがいいのは変わらない。


「困ったな。どこも既にいっぱいだろうし、念のため入れた予約も当分先になりそうなんだ」
「「うーん」」


 ジミー先輩と向かい合ってウンウン唸りながら首をひねる。どこか使える場所は無かろうか。近場の広くて頑丈な訓練場。それも予約要らずの……あ、


「ちょっと心当たりがあるんですけど……」
「本当かい?」
「ええ、まあ。とりあえずついて来て下さい」
「分かった」


 先輩を連れてとあるところへ向かう。考えてたらここしか思いつかなかった。通いなれたそこへ戸惑いなく入っていく。迷わなかったかって? 勿論ジミー先輩に道案内をお願いしましたが、それが何か。


「……あれ? どうしたんですか、教官」
「ちょっと訓練場借りてもいい?」
「どうぞお好きにご利用ください」
「ありがとう」


 そう。ここは魔法技師教室。つまりデボラの教室だ。見学期間中はお世話になった場所だけに、気軽に立ち寄ることも多いので慣れたものだ。

 客観的にズルいかもしれないけど、人脈も大事な戦略のうちだ。特にデボラは私の言うことなら大体は受け入れてくれるので利用しているようで悪いけど、純粋に助かるのだ。

 ……そのために、訓練という名の死合に連日付き合う代償を支払ってるんだけどね。

 デボラは何やら忙しそうなので、勝手に訓練場を拝借することにした。


「……さっきの子は誰かな?」
「デボラです」
「……ここはどこかな?」
「魔法技師教室です」
「……そんな教室があったとは知らなかったね」
「今年から始めたんですよ」
「なるほど。他にも色々と気になるところだけど、今はいいかな」


 こうして、無事訓練場を差し押さえた私たちは色んな連携技を試すことで武闘部門に備えることとなったのであった。

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