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ロストアイ

ノベルバユーザー330919

闘交会―知識部門―@奇跡な話



 ――闘交会が始まる。


 血沸き肉躍ると言うほどの殺伐とした催しなんかじゃねえ。むしろ頭を使うゲームだ。俺は頭を使うのが得意ってわけじゃねえ。記憶力は俺自身驚くほどにバツグンだが、どうしても活用が上手く出来ねえんだ。

 その点、大将はボンヤリと佇んでいても常に思考を重ねているのか、やたら的確な指摘が多い。

 見た目はひ弱そうなのに、めちゃくちゃな怪力パワー冷静クールさなんだぜ、正直、あんなでたらめに強い奴を見るのは初めてだった。

 大将は覚えてねえかもしれねえが、説明会のあったあの日、俺が不覚にも気絶してしまっていた時だ。一見、見捨てたように去りやがって、起きて誰もいなかったときはかなり頭に来たぜ。

 だがよ、良く周りを見てみれば、見たことねえ薄い魔法の気配で幻の足跡が残ってたんだ。それを追いかけてみれば、他の連中にも合流出来た。

 俺が集団に合流すると、真っ先に大将が振り返ってくれたんだ。確証は何も無かったが、俺の直感が告げていた。――あいつが助けてくれたのか、とな。

 それからのひと月、いや、特に数日間は目まぐるしいものがあった。俺は一言一句、一挙一動として忘れることはしねえ。だから、大将が普段周りにどんだけ気配りしてんのかは嫌でも分かった。

 俺が大将を大将として敬うのは、あの日見ず知らずの俺を助けてくれた、ただそんだけの理由だ。アメリアにも助けられているが、大将はその比じゃねえ。

 俺の知る人たちに、力に驕らねえ奴等なんざいなかった。力こそすべて。弱肉強食。

 ……それが魔獣と戦う俺たちが背負うべき義務と捉えて、家族にすらも助けを求めなかった理由だった。強者は弱者を守る。だが、どこかで必ず下に見て驕ってしまう。それが真理だと疑うことは、無かった。

 最初は強者の余裕かと、大将を色眼鏡で見ていたのは事実だ。だが、大将はでたらめに強いくせに、自分はまだまだ弱いと自信満々に言い切りやがった。

 こんなすげえやつでも弱いのか、と半ば唖然とした記憶はまだ鮮明だ。いつもウサギのぬいぐるみを連れ回していて、小難しいことばかり話してやがるのも、大将の凄いところだ。

 俺には到底理解できない次元の話だったが、あいつらはそれが日常だった。桁が違う、というのはこういうことかもしれねえ。俺には分からなかった難問も、大将はあっさりと解決しやがる。

 大将は偶然だ、運が良かった、てなホラをほざいていたが、俺の目はごまかせねえ。恩ばかり積もって何も報いることが出来ねえ。

 大将は隠したがっているようだが、かなりのお偉いさんなのはバレバレだ。貴族って感じでもねえが、きっと、俺の知らねえような高貴な身の上の存在なんだろうよ。

 ……俺は、身分があるような出身でもねえ。大将のでたらめさを見ていると、記憶力意外、役立てそうな技能もねえ。だからよ、何か助けになりてえって、デボラんとこに一緒に通い出した。

 結果は分かっていた。だが、敢え無く現実に敗北した。もっと上手く出来ると、どうやら俺は俺が気付かないうちに驕っていたようだ。俺が嫌いな連中みたいに――。

 ヤマトは強敵だった。あいつもひ弱な外見のくせに、でたらめに強かった。いつも変な被り物を付けていて顔は見たことねえが、大将が言うにはかなりの美少年。俺にとっちゃ顔なんざどうでもいいが、そのお綺麗な顔で苦労してきたと聞かされれば、なんとなく、でたらめな強さの理由が分かった。

 大将は気付いてねえみてえだが、ヤマトは存外小賢しい。人見知りとは聞いたが、どうやら、俺の知ってる人見知りとは一癖も二癖も違っていた。あいつ本当は――。

 ――「そんなに自信あるなら助けないからね」

 先程別れた大将の言葉が突き刺さる。変な場所に入ったは良いが、くじとやらが見つからねえ。大将に頼りっきりじゃいけねえからと、自信満々に答えた自分の言葉が今更後悔となって押し寄せてきた。


「どこだ、ここ」


 一本道だったはずだ。それなのに、降りていたはずの階段は、いつの間にか昇り階段へ変わってやがった。良く分からねえ大きな石をぶっ壊してみても中には何もねえ。

 俺は記憶力だけは良い。だから、今歩いてるとこが今まで通ったことの無い階段だということは分かる。分かるが、俺にはその記憶を活用する方法が分からねえ。

 綺麗に地図みてえに思い浮かべられるはずなのに、まるで方向感覚が狂ったかのように、元来た道にさえ戻れねえ。情けねえ……。

 こんなんじゃまだまだ大将に恩返しだなんて早い。俺には足りないものが多すぎる。

 ――血の味を感じた。

 気付かねえうちに唇を噛んでた。情けねえ。間もなく終わりの時間だが、まだくじの一つも見つけられねえなんて、大将たちに顔向けできねえ。


 ――ゴンッ
「~ってー」


 俯きながら進んでたら、壁に頭をぶつけちまった。階段を歩いていたはずなのに、何故壁に当たるのか。周りを見ると、どうやら行き止まりらしい。

 ――結局最後まで来ても見つけらんなかったなあ

 半VRだからこそ、建物をもとにしていて限界がある。感覚はあるが、全て幻だ。壁にぶつかったのなら、ここが終着地点なんだ。

 しかし、終わってしまった壁を仰ぎ見るべく顔を上げると、おかしなことに気付いた。


「これ、は……?」


 白く大きな四角平面な石に共通言語で文字が書いてあった。


『ここまで辿り着いてしまった愚か者へ!

 こんな果てまで来るようじゃ高が知れるわね!

 どんだけの長い道のりとチャンスがあったと思ってるの?

 有象無象が用意したもの、全部台無しね! 素敵!

 このままではあなたは有象無象以下よ! 分かってる?

 ――いいでしょう。

 そんな情けないあなたのために、このあたしが協力してやらないでもないわよ!

 ここの天井を見なさい』


 かなりキツイことが書いてあって、弱っていた俺の心をぐさぐさと突き刺した。返す言葉もねえ。だが、協力してくれるとも書いている。俺はそれを信じて書かれている通り、天井に目を向けてみた。


『ここよ、ここ!

 この紙切れに魔法を掛けなさい!』


 上にまで落書きみてえに分かりやすく書いてあった。面倒見の良いヤツかもしれねえ。指示通りに、天井の文字近くに張り付けられていた紙切れをひとっ跳びで回収して適当な魔法を込めた。

 魔法構築は得意じゃねえから、ほぼスキルしか使ってねえが。

 ……時代が時代なら、俺は魔法なんて使えなかっただろうよ。

 魔法を籠めると、紙切れが変化した。どうやらどこかへ回路が繋がったようだと、俺の勘に引っかかるものがあった。

 しばらくして待っていると、壁の向こう側から急に気配がしたもんだから、そちらを注視すると、


「――ご機嫌いかが?」
「うおっ!?」


 剥製みたいに顔と手だけが壁からにゅるっと飛び出た。おそらくペアの上級生だろうが、登場の仕方が気持ち悪かった。声には出してねえが。


「ふふふ。あたしがあなたのペアよ!」
「お、おう、よろしく、お、ねげえします?」
「……無理に敬語を使わなくていいわよ。あなた苦手そうだもの」
「す、す、――わりい、助かる」


 お偉いさんに向ける言葉遣いを俺は知らねえ。いや、性に合わなかったから覚えることもせず、喋らんねえんだ。

 目の前の上級生は見た目が派手だが、言葉遣いは気にしねえようで良かった。


「それじゃ、行くわよ!」


 有無を言わさずに壁へ吸い込まれた――。


     ◇◆◇◆◇


 闘交会前の二日間はあっという間に過ぎちまった。気になるようなことと言っても、何やら大将が時折邪悪な笑いを浮かべていたくらいだが、ストレスでも溜まってんじゃねえのかと心配しただけだ。

 見学期間中はずっとデボラと死闘ばっかしてたからな。疲れでも溜まってたんだと思うことにした。


「さあ、行くわよ!」
「おう!」


 闘交会、知識部門が空中に放たれた綺麗な爆発で始まる。道に迷っちまう俺には知識部門は厳しい。問題を解くだけなら俺の記憶力があれば何の苦もねえが、その問題の場所へ辿り着けねえからには意味がねえ。

 頼りになるのはペアになる訳だが、俺のペアになった上級生は貴族だった、しかも特待生。驚いたが、奇抜なヤツだからか気にならねえ。気さくな上級生で良かった。

 レオ先輩、本名をラオネ・ダレ=レオナードと言うらしいが、長ったらしいのは貴族の特徴だ。何と呼んでもいいと言われたんで適当に呼んでる。

 レオ先輩の先導の元、道を進んでるわけだが、俺には分かる。さっきからずっと同じ場所をぐるぐるしちまってんだ。


「――レオ先輩」
「何かしら?」
「さっきからずっと同じ場所歩いてるぞ」
「……やっぱり? どうりで一番近い教室にいつまで経っても辿り着けないのね」


 向かっていた教室に着かないことを疑問に思い始めていたようだ。思い当たることがあるとすれば、昨日、やたら大将が道に迷った時の対処方法について言い含めてきたことぐらいだが……まさかな。

 レオ先輩も幻覚魔法ではないかとアタリを付けてるようだが、解くことはまだ実力不足で出来ねえそうだ。……そんな高度な罠が用意されてるのか。

 例年と同じ罠があればレオ先輩も知っているはず。今年から急に変わるもんなのか?

 ……まさかな。


「ああ、もう!」


 レオ先輩が頭を掻きむしって地団太を踏んだ。引っかかっちまったもんはしょうがねえと思うが、共通教室の問題も見つからないんじゃ、最低限の目標ポイントも稼げねえ。


「ジル。あなたが進んでみなさい!」
「俺が、か?」
「そうよ!」


 背中をがっしりと捕まれ前へと押し出された。俺がよく迷うことはレオ先輩に告げている。自棄になってんな、こりゃ。

 言われた通りに、適当な道を進むことにした。そうしてしばらく適当に進んでいると、途中、不自然に見たことない道に出た。


「あ」
「どうしたの?」
「知らない道だ」
「ほんと!?」


 慌ててレオ先輩が地図を確認して何かに驚いてる。

 曰く、「なんであそこからこんなとこまで来れてんのよー!?」と喚いている。

 俺としては理由が分からねえが、抜け出せたんならとっとと問題解いてポイントを稼ぎてえ。生きていけねえわけじゃねえが、一度便利な生活ってやつを体験してると戻りにくくなっちまいやがったからな。

 ったく、恐ろしい学園だぜ……。


「~もう! なんでもいいわ。やるじゃない。とっとと問題解いていくわよ!」
「おう」


 ひとしきり騒いでいたが一段落着いたのか、レオ先輩が前向きになって一番近い教室を目指す。俺も先輩に付き従い進むことにした。

 その後、順調にポイントを稼いでいき、たまに幻覚魔法に引っかかることはあったが、味をしめたレオ先輩と入れ替わって俺が先導することで難を乗り越えた。

 お昼を挟み、午後からも順調にポイントを稼いでいた時分、それは起きた。

 ――ふん~ふ、ふんふふ~

 どこからか鼻歌が聞こえてきた。女の声みてえだが、闘交会の真っ最中にえらく陽気なもんだ。よほどの強者かもしれねえ。

 気を引き締めて次の曲がり角を曲がると、――


「――ろてん、ぶろ……」


 味のある趣きで看板が立てられていた。声は中からしているようだ。あきらかな罠に違いねえ。俺の後ろに居たレオ先輩もそう判断したのか、横を通り過ぎようとしていた。

 俺もそれに倣い、無視して通った。

 ――いや、通り過ぎるときに「女」と書かれている文字と、中から聞こえてくる水とはしゃぐ女の声に魂をだいぶ持ってかれたが、実際に覗くわけでもねえし、何より怪し過ぎた。強引に前へと無視して進んだ。

 ……レオ先輩も何度か振り返っていたが、俺が後ろから無理やり押し出して危険な香りのする罠から一刻も早く遠ざけることで難を逃れた。

 去り際、後から来たのか導かれたのか、正気を保てずに中へと入っていった男子生徒が見えていたが、数秒と立たずに情けねえ悲鳴が聞こえてきた。それを見てレオ先輩も前に向き直してくれてこちらとしては助かった。

 ……恐ろしい罠が用意されてるもんだ。

 次に通りがかったところ、何やら工事中の看板があった。罠なのか、それとも本当に工事中なのか、外からは判断が難しかった。

 判断が出来ねえんで、レオ先輩が遠回りになっちまう迂回ルートを選択した。俺もそれには賛成した。俺の勘が回避しろと囁いていたからだ。

 そうして途中途中で奇妙な罠を見かけたが、全て回避することにしてやり過ごした。一番回避に苦労したのはレオ先輩が食いついた罠だった。

 ブランドがどうたらこうたらの限定品がなんちゃらって謳い文句の怪しい看板にフラフラと入っていきそうになっていた。慌てて止めたが、あの時のレオ先輩の目はうつろになってて、正直怖かった。

 先輩は男だ。だが、言動はどちらかと言えば女だ。俺には良く分からねえが、奇抜な趣味だと思うことにした。

 ……妙にこちらの心理を読んでるような巧妙な罠が多い。避けた先にあった幻覚魔法も、気付かない奴のほうが多そうだ。気付いても生徒のレベルじゃ対応出来そうにないが、俺は何故か幻覚魔法をひょいひょい通り抜けられた。

 これは気付かなかっただけで、元々持ってた俺の特技なんじゃねえか、と思うくらいにはな。


「思ったより順調にポイントがたまったわね。毎年、間に合わなくて共通問題を死ぬ気で問いていたのだけど、不思議だわ」
「…………」


 普通に考えたら巧妙な配置の巧妙な罠のせい、いや、おかげだろう。……実力ってわけじゃねえからなんだか複雑だが。

 終了時間タイムアップはもう間もなくだ。ある程度のポイントは何とか貯められた。これ以上稼ぐ必要性はないが、


「せっかくだから、もう少し貯めましょう」
「分かった」


 レオ先輩がやる気になってんだから俺がもういいと言えるわけもねえ。大人しく続けることにした。ポイントに余裕が生まれたからか、張り切るレオ先輩の後に付いて行くと、視界の端に、看過できねえもんが見えちまった。

 俺は一も二もなくその場所へ駆け寄った。

 木から吊るされているが、これは本。題名タイトルは『必殺! 初心者のための四十八の固有スキル極意書』と書かれていた。

 本というのは貴重なものだ。しかも紙製。規定外の森林伐採を禁じられているこの世界じゃまず、貴族か大金持ちでもなけりゃ手に入らねえ。

 破れねえように掴み、確かな重みが手にのしかかる。もちろん、貴重だからってのもあるが、問題は中身だ。普通、スキルは継承とアメニティ以外公開されることはまずねえ。

 行使するやつが有名にでもならない限り広まらないもんだが、この本の題名タイトルは『四十八の固有スキル』と書いてやがる。

 スキルは理解出来てねえとまず、取得が出来ねえ。こんなところにその極意を載せられるってんなら、相当の使い手ということだ。喉から手が出るほど誰もが欲しがる代物だ。とんでもねえ。


「何、それ……」


 俺を追いかけて来たレオ先輩が後ろから覗き込んで目を見開いた。当然だ。この本はどんな金塊の山を持ってこられても譲れねえ、物凄いお宝の本だ。


「それ、貰ってもいいんじゃない?」
「…………」


 誰かの落とし物かもしれねえ。脳裏に過ぎった可能性に何もしてねえのに罪悪感が湧く。レオ先輩は俺の顔をみて、「持ち主が分かれば返せばいいじゃない」と言った。渋い顔を崩さないでいると、「大体、こんな貴重なものをこんなところにポイ捨てするほうが悪いんでしょ」とも言ってきた。

 言われれば自業自得としか思わないが、それでも心の中で本当にそれでいいのか、と俺を責める俺が居た。


「……なら、あたしが代わりに貰ってあげようか?」


 キラッと先輩の目が輝く。勝手に取るのはどうかという思いはあったが、先輩に渡すのもよろしくないと俺の勘がいってた。

 焦った俺は、慌てて木にぶら下がっていた本の紐部分を切った――

 ――ガシャン


「「…………」」


 本を手元に移して安心したのもつかの間、どこから湧いたのか、土から盛り上がった檻に周りを囲まれた。相当に頑丈な檻で、結界も張られてびくともしねえ。完全に閉じ込められた。

 そして、畳みかけるようにいつの間にか手元の本も封印されちまいやがった。


「「…………」」


 ――悪いことすると自分に返るんだよ!

 ウサギに対して大将が文句言ってた光景を思い出した。あの時は意味が分からなかったが、つまり、こういうことだったのか。奇跡は連続して続かない。

 ――わりぃ、大将。助けてくれ。

 終わりはもう間もなくだが、最後の最後でマヌケにも罠にはまっちまった。無意識に大将へ助けを求める俺の軟弱な思考を思うと情けない心地にもなった。

 結局、やたらと頑丈な檻に為す術も無くガクッと首を落とすと、横で騒ぐレオ先輩と終了時間タイムアップを檻の中で待つ破目になった――

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