ロストアイ
闘交会―知識部門―@後半戦
ほとんど先輩による魔法講義や雑談などでお昼をやり過ごし、余裕もってまったりしていたところで再開の花火が上がった。
後、三時間もある。おんぶはやめて、今は普通に歩いて移動していた。午前中はなんだったんだと言われそうだけど、今や上位の成績であろう私たちに文句を言える人は居ないと思われる。
順調に散歩気分で共通教室問題を解いて行っていると、話題が一昨日考えた罠に変わる。
「誰か引っかかってくれてないですかねー」
「どちらかというと誰にも引っかかって欲しくないという複雑な思いがあるよ」
「えー!」
せっかく短い時間で考えた力作なのに。造ったら試してみたいと思うのが人の性よ。特に今回は殺傷能力皆無の罠と言って憚らない、知略を用いた罠なのだ!
「ジミー先輩は本当に誰も引っかからないと思ってます?」
「いいや」
即答ですか。ありがとうございます。
「じゃあ、どれが引っかかりやすいと考えてます?」
「そうだね……」
顎に手を添えて、上半身だけ考える人となったジミー先輩が唸る。なんか、「どれもこれも判断しづらいんだよね……」とも呟いてたけど、私としてはかなり単純で狡猾な罠だと自負している。
「……まずはあれかな。幻覚魔法で迷わせるっていう罠」
「ああ、あれですか」
単純な罠だけど、意外と気付かないものである。
決して、皆も迷ってしまえ、という邪な心で制作したわけではない。断じて、ない。
「さすがに上位の実力者は容易く見破るだろうけど。学園内の似たような景色という条件合致のおかげとでも言うべきか、まだ殆どの生徒のレベルでは看破が厳しい罠だよ」
「そうなんですか?」
最近、学園内には人外か人外予備軍しかいないと気を引き締め始めていたけど、そんな世紀末な化け物だらけの学園ではなかったようだ。不覚にもちょっと安心してしまった。
「他も甲乙つけがたいけど、次点で工事を装ったセット、かな?」
「おおー! そこに目をつけるとは先輩もなかなかですね……!」
「何故だか嬉しくないね」
「えー。そんなこと言って、半分は先輩が考えたも同然じゃないですか!」
「ちょっと意味が分からないかな」
工事セットとは何か。前世でよく道路工事なんかで見かけたような雰囲気を想像してもらえればそれが正解だ。
しかも、絶妙な位置に大きな目立つ幕を張って囲っているため、避けられやすい。
無論。覗きは出来ない仕様だ。わざわざ幕内側からも大きな工事音が鳴るようにアンドロイドを借りているのだ。違反ではない。だってルールには違反に当たるとは書かれてなかったし?
引っかかったおマヌケさんが悪いのだ。
「私は工事風景とはどんなものだと聞かれて答えたまでだ。とんだとばっちりも甚だしい!」
「ちぇ」
「…………」
ジミー先輩から、オイコラという視線を感じたものの、総スルーする。うささんの協力を得られない私だけでは実現できなかったので、半分というのは過言でも何でもない。
おおむね前世と同じだったけど、若干、一般的と言われるデザインが想像と違っていたのだから。
ちなみにこのセットはシリーズものになっているのだが。
「今更ですよ。もうすでに合作として提出されているんですから。潔く、諦めて下さい!」
「……はぁ」
疲れたようにジミー先輩が溜息を吐いた。
「それに、真に真価を発揮できるのは見た目ではないじゃないですか。もっと自信もって胸を張りましょうよ!」
ジミー先輩は複雑そうな顔をしていらっしゃるけど、これは明らかな傑作だ。
工事現場は複数個所にばら撒かれており、行く手を阻む。そして同じ景色が続く場所をあっちこっちと遠回りするたびに道がどんどん逸れて行き、最終的には本来の目的地からは遠ざかり、迷子になるのだ。
幻覚魔法で思考誘導しているとも言える。
明らかに罠です、と目立つ場所を強行突破するか、危険回避の為に遠回りを行うか、ここで決断が分かれる。
ちなみに強行突破を選ぶと、ただの色付きガスが幕の中でみっちりと充満しているため、目の前が見えにくく、前に進んでいるかも分からなくなる。中はそこそこ広く煙いため、方向感覚を狂わせるのだ。
反対側の外へ出られたとしても全く同じ景色の為、脳が混乱を起こす。これで迷子のいっちょあがりである。そして逆に遠回りすると、最初に先輩が言った幻覚魔法の餌食となる。
どちらかと言えばどっちもどっちだけど、まだ強行突破のほうが芽がありそうだ。
「生徒には手の終えない辛辣な罠だよ。回避するのが一番だと、皆考えるんじゃない?」
先輩の予想がこれであった。確かに、今まで回避してきた罠はなんてことなかったし、私たちみたいにあからさまな罠を設置しているところ自体少なかった。
当然、怪しい場所は単純一途でも回避できるというわけだ。
しかし、
「それなら、ジミー先輩は露天風呂セットには引っかからないと、言い切れるんですか?」
「…………」
これがその答えだ。
「……うん、人によるかな。おそらく大体の男はほぼ引っかかるんじゃない?」
「ですよねー」
人の心理なんぞそんなもんである。ちなみに女子の為にはバーゲン、セール、ブランド、といったキーワードが書かれたブラインドショッピングセットなるものを用意していたりする。
これ以上に効果覿面なワードを、少なくとも今の私は知らない……単純なものだ。
……ウィンドウショッピングだと思って中に入るとガス溜まり。商品はなし。私なら普通に怒る。狙いは怒りで思考能力を低下させて判断力を奪うことだから罠としては合ってるけどね。
「これぞまさに知略ってやつですよ……!」
「うーん、そうだね……」
なんか腑に落ちないって顔だけど、そんなこたあ構いやしませんぜっ!
お~ほっほっほっ!
考えれば考えるほど、悪役みたいな不気味な高笑いをしたくなるほど傑作な罠だ。物理的にも精神的にもとことん迷わせてやんよ……欲望と理性の狭間の迷宮としてなあ!
せいぜい引っかかってくれるといいわ!
「…………」
ジミー先輩が心なし引いてる。私から漏れ出た邪悪な笑いが原因かな。仕方ない。高笑いは漏れ出るものなのだ。
……完全に私怨が混じってるように感じるけど、ほんと、みんな一度迷子の経験をしたほうがいいと思うの。決して、私怨ではないの。
人生の迷子を先走る先輩としての助言よ。迷子は経験すべし――。
それに、
「……今回、かなり優しい罠になってしまいましたから、案外と効いてない可能性もありそうですね」
「それはない」
「え!」
「え?」
「「…………」」
通りすがりに見えた共通教室の問題パネルへ先輩が逃げた。
私が今世で引っかかった凶悪な罠とふと比べてみたら、ママの罠とは段違いに生易しいと、そう思っただけなんだけど、やっぱり私の基準は世間的におかしいのかもしれない、と再認識させられる反応だった。
その後も雑談しながら順調に歩みを進めた。正直もう完全にやる気モードが著しく低下している。そろそろ終了時間なので、気が緩んでるともいえる。
結局午前中はママの罠に必要以上に警戒していたけど、午後はゆっくりまったりとしたペースだったので、ママの罠を警戒する必要も無かった。
「そういえば、こそこそと私が知らない罠も申請していたようだけど、何を申請したんだい?」
「あ、バレテました?」
「当たり前だ」
じとん、とした視線を受け取りながらも完全自作の罠を思い出す。正直、もはやただのネタなので、引っかかる人は居ないだろうとも考えていた。
「……正直、その場の惰性で創ってしまったので、罠としては役立たずですよ」
「その場の惰性って、どういう意味……?」
私独自の言い回しなので、意味が上手く伝わらなかったようだ。ジミー先輩の頭にはてなマークがぴこんぴこん出ている。
「引っかかる人がいるのなら、その顔をマジマジと拝んで大爆笑してやりますよ、って意味です」
「……そんなにかい?」
「ええ。そんなにです。とにかくひどいもんですよ」
なにせ、前世の愛犬すら引っかからなかった罠だ。
……動物が頭悪いとは思わないし、むしろ人より賢いなと思うことも多々あったから、すらって言い方は失礼かもしれないけど。
それに結局、自ら空気を読んで罠に引っかかってくれたので、やはり人より賢いのかもしれないと当時の私は思っていた。
「……少し、興味があるな」
「終わったらどうせ回収するんですし、今からその方角に進んでおきます?」
「そうだね」
こうしてジミー先輩とゆっくりまったり雑談しながら、私たちの後半戦は終了の花火が上がるまで穏やかに過ぎて行った。
――最終得点? 後で判明するよ。
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