ロストアイ

ノベルバユーザー330919

準備



 闘交会の開催は明後日からだ。

 なので限られた時間で先輩と計画を立てることにした。


「どこの教室から攻めるかが問題ですね」
「私としては得意な分野に挑戦してポイントを稼ぎたいね」


 共通教室よりは専門教室のほうが稼げるポイントは高い。ポイントを稼ぐと後々色々と役に立つのだ。

 話は変わるが、この学園では生徒の個人成績という制度が存在している。生徒は皆平等で強制参加対象だ。逃げられない。

 ポイントを稼ぐと、ポイント上位保持者は色々な特典が得られる。

 評価方法として選択する教室はバラバラなわけだけど、まずは共通、選択教室ごとの年間ポイント評価、その場その場で学園行事やイベントごとに得られるポイント評価、外部からの支援で得られるポイント評価。主に三パターンだ。

 最後に関してはハッキリ言って卒業後にスポンサーになりたいという外部からの支援ポイントなので、外部を招くイベントや学園外で活躍しないと得られないポイントだ。

 ポイントを稼ぐことで得られる恩恵は主に二年目以降から実感できる。最初の一年目は皆同じように中位者・上位者の特典を一部だけ一年を通してタダで体験できる。それも寮生活上で利用することが多い特典ばかりだ。

 一年目に贅沢を覚えさせて、二年目以降からは生活維持QOLのために必至に足掻かせるとは性格が悪い制度だ。

 確かに今の便利な生活が原始レベルとまで揶揄される文明差まで下げられたら必死にもなろうと言うもの。私の日々の生活で前世料理の再現は奪われてはならない楽しみの一つなのだ。今から油断はできない。

 たぶん、一般生徒なら手での洗濯とか自分で部屋掃除とか、自炊とか? まあ、せいぜいがそんなところだ。しかし前世的には原始でもなんでもないけど、冒険者でもないのに、日常生活で野宿なんてとんでもないという生活が今世のスタンダード。

 私は記憶があるからいいけど、そもそも洗剤とか箒とか誰も見たことないんじゃなかろうか。私的には経験して損は無いと思うけど、慣れないことでわざわざ生活で苦労したくないということだろう。


「ジミー先輩はポイントどのぐらいですか」
「今は困ってないけど、上位に食い込むほどではないかな」


 そこそこのポイントを維持しているらしい。ここは先輩の得意分野で稼がせたほうがいいかもしれない。学園内は無駄に広いし、罠は私が建物を無視した移動をすれば問題ない。

 というわけで、宙に映し出される地図モニターに印をどんどん追加していく。


「ん? ……少し待ってくれるかな」
「え、なんでですか」
「さすがに時間内にこんなには回れない」


 すかさずジミー先輩が印を消して修正していく。私がとりあえずでつけた印は五十近い。一時間で十箇所回る計算だ。

 修正されたところで確認したら二十にも満たなかった。


「どんなに頑張ってもこのくらいしか回れないよ」
「えー、余裕ですって」
「………」


 何を言ってるんだコイツはと、呆れたような眼差しを向けられた。まるで私が現実を直視できないバカのような扱いだ。失礼な。


「行けますって! 信じて下さい!」
「……そもそも移動に時間が掛かる以前に、そこら中に罠が張り巡らされているんだ。それに引っかからないとも限らない。残した印は罠に引っかからなかった場合の想定だよ。無理だろうけど」


 そう言ってさらに減らされる。なかなかにシビアな予想だ。もっと気楽な予想をすればいいのに。別に戦争でもないし、死ぬ罠があるわけでもないのに、予想が大げさだ。


「なんだい? ……もしかして殺傷能力の低い罠しかないのに大げさな、と考えてない?」
「え、なんで私の考えが分かるんですか、先輩実はAIですか!?」
「……顔に書いてあるよ、分かりやすく」
「え!」


 ぺたぺたと顔を触って確認する私に対して、違う、そういうことじゃない、と先輩が頭を抱えた。一拍遅れてから表情が分かりやすいという意味だと気付いた。恥ずかしい。


「……今はいいけど、敵との駆け引きでは気を付けたほうがいいね」


 と先輩に真面目に忠告された。ママにも散々怒られていた内容なので余計身に染みる。……もっと恐怖に染み渡る感じで日常的にママから怒られていたわけだが、目の前でやんわり怒る先輩はそれを知らない。

 真剣に聞き入る私に怪訝そうな様子を見せたが、長々と忠告することでもないと、早々に引いてくれた。


「確かに殺傷能力の低い罠ではあるけど、その分姑息な罠ばかりだ。まず一つも引っかからないということはありえない」
「それ、疑問なんですけど、事前申告はまだしも、罠自体はいつ設置とかされるんですか。開始した直後なら余裕で躱せると思うんですけど」
「ああ、罠といっても全て事前申請しなくてはならないけど、設置は教師に頼む場合と、移動中に生徒が設置する場合と様々だ」
「……開始前に先生たちが必死に設置して回るってことですか?」
「そういうことだね」


 うへー。それは大変そうだ。開始後に設置されるのならともかく、開始前にも既に罠は存在するというのは厄介だ。おそらく充分な時間をもって設置されるに違いない。

 この学園で知り合った教師は少ないけど、みんながみんな手を抜かなそうな雰囲気だ。きっちりと張り巡らされるに違いない。何より不安なことがもう一点あった。


「……あの、その罠って教師も用意して設置出来たりします?」
「出来るよ?」


 ――ちーん。私終了のお知らせです。

 邪神ラスボスの前では短い魔王様チート人生だったな、これ。後に続く「教師の学園行事への参加は滅多にないけどね」という先輩の言葉も今は聞こえない。

 残念ながら邪神ママが見逃してくれるとは思わない。それにクレイ先輩やデボラもいる。面白半分と脳筋破廉恥がノリノリで罠の設置をする未来しか見えない。

 特にママ。私が罠を無視した行動をとることは簡単に予測しているはず。きっとえげつない結末が待っているに違いない。確信できる。


「どうかした?」
「……いえ、ただ色々想像できて気が滅入っただけです」
「そ、そうか」


 生きた屍のように生気の無くなった私にジミー先輩が二歩引いた。

 しばらくして、「ふ、ふふふ……」と妖しい笑いをあげはじめた私から徐々に距離を置かれた。


「……ジミー先輩」
「! な、なにかな……」
「私、決めました」


 ちょっと、いやかなりドン引きした様子の先輩を無視して決意表明することにした。今から対策を練ろうにも自然災害級のママ相手にはせいぜいお手柔らかに、と祈ることしか出来ない。


「このイベント、必ず生き残ってみせます!」
「う、うん。頑張ろうね?」


 私の「うおおおお…………!!」とみなぎる闘志に先輩も控えめに答える。私のやる気に気圧けおされたようだ。気を取り直したところで、話を続けるために疑問の解消を進めることにした。何事も細かく確認しすぎて困ることは無い。特に今回は。


「ところで先輩。開始地点スタートはどこからですか?」
「そこからか……」


 またしても先輩が頭を抱えた。ごめんなさい。どうせ忘れるだろうからと、うささんの説明を聞き流していました。チクチクが増す脇腹から、ピタッとくっついていたウサギのぬいぐるみをぺいっと引き剥がす。

 その小憎たらしい顔つきを眺めながら、あなたは今、ただのぬいぐるみなのよ……! と強い思念を送る。もちろん、ただのぬいぐるみが反応することは無い。チクチクが止んだので、満足してぬいぐるみを抱え直す。

 そろそろ髪の毛がジルニク君みたいに逆立ちそうだったので、安心した。


「――それで、地下の転送門を利用してランダムに振り分けられるんだ」
「……なるほど、つまり問題ないということですね」
「………」


 返答を間違えた。ダメだコイツ、とジミー先輩の視線が語る。ごめんなさい。うささんが邪魔するから。と考えていたら、もぞ、と今はただのぬいぐるみとなっているウサギが動く。チクチクは自重したようだ。うむ、それでいいのだ!

 しかし先輩からの視線が痛いな。ここは汚名返上しないと、


「それなら対策も立てにくいですね。目的の教室が近くにあるとは限らないですし。地区ごとにある程度の候補を考えたほうが良さそうです」
「………」


 とそれっぽいことを言ってみた。先輩も「お?」という顔になったので、これで間違っていなかったということだろう。


「……それなんだけど。私が得意なのは魔法関係になるから、他の地区に出た場合厳しいと思う。解けないということではなく、早い者勝ち、というところがね」


 先輩は近接戦闘が得意ではないそうだ。典型的な体力無しの魔法使いタイプという。一般生徒の証である白い制服なので、そんなことだろうとは思ったけど。

 つまり、移動に時間が掛かりすぎるうえ、簡単なところは他の体力バカたちが狙うため回収は難しいということだ。

 そんなこと、と一瞬考えたけど、ママが罠を用意するかもしれない、と思い出す。ダメだ。悲惨な結果しか思いつかない。


「……明日まで猶予がありますし、移動については後で考えましょう。どうせなら先に相手の嫌がりそうな罠を考えましょうよ」
「うーん、時間もないし、それが賢明かもね。明日はお互いの実力を確認することに充てるとしようか」
「そうですね」


 こうして私とジミー先輩による究極の嫌がらせ罠の作成でその日は終了した。会心の、素晴らしい罠の出来に、先輩も「ハハ……」と若干渇いていたものの、遠い目で罠に引っかかるバカどもの未来を見据えて喜んでいた。

 次の日。

 お互いの実力と連携を確認するために事前に集合場所を決めたわけだけど、ここでうささんが反旗を翻し、果てで迷子になった私を先輩に迎えに来させる珍事件が起こった。


「…………」


 てへぺろっ☆

 一回だけ可愛くポーズを決めてみたのだが、返事は冷たい視線だけだった。そのまま固まる私の前で溜息を吐くと――何故こうも皆私の前で溜息ばかりなんだろう――先輩が向き直って告げた。


「……明日は寮へ迎えに行くよ」
「……お願いします」


 私に否やは無い。ふざけたポーズを正して丁重にお願いすることにした。

 というやり取りの一幕があったわけだけど、そんな過去の些末事はもう忘れた。これ――迷わない――だけでもう私は無敵だ。はっはっはあ!

 あ、その後はバッチリ連携の確認をしたり、有意義に過ごしました。途中、ジミー先輩が死んだ魚のような目になってブツブツ何事か呟いていたけど、最後には何か吹っ切れたのか、「明日は遠慮せずに全力で挑もう」と、昨日までの慎重派意見を覆していた。

 私としてはママからの罠とかが怖いので、慎重派に賛成していたけど、何度もイベントを経験している先輩が言うんだ、イケる!

 と思い直してやる気十分だ。

 ――こうして、闘交会の前哨戦ぜんしょうせんは過ぎて行った。

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