ロストアイ

ノベルバユーザー330919

ペア決定とスキル



 窓の外から私の居る位置に向かって気配が近付いてくる。どこから迎えに来るかと思えば、まさか外側からだったとは。

 太陽の光は透き通っているけど、内側からは外の景色が真っ白にしか見えないので、盲点だった。


「――待たせたね」


 しばらく窓際に立って待っていると、何をしても開くことが無かった窓から人の上半身がにゅっと出てきた。内側からはバリアが張られていてこちらからは通れなかったんだけど、外側からは入れるもよう。

 上半身が窓から生えてるみたいだけど、待ち人の先輩らしき男子生徒は気にしてないようだ。差し出された手を無言で取る。

 私が応じたことを確認すると、すぐさま窓の中へと引き込まれた。


「うぉっ」


 引っ張られたことでバランスを崩した。吸い込まれるように引っ張られたわけだけど、窓の外側に完全に出ると、どこかの広間に繋がっていた。

 振り返ると後ろには歪に揺れる空間の捻じれがあった。なるほど。次元魔法か。


「気分はどう?」


 おそらく魔酔いのことかと思われる。次元系の魔法は継承スキルに分類される魔法の一種で、訓練し慣れていない普通の人だと、言い知れぬ強烈な不快感に全身を襲われる。

 理由としては規模によらず膨大な魔力が空間内に溜まるので、呼吸で例えるなら息がしづらい状況にほぼ生身で晒されるからだ。使用者より利用者が酷い目に合うことも稀ではない。

 酷い目に合うといっても人による。そういう意味では、ママが普段遣いしてるので私は案外慣れていた。


「大丈夫ですよ」


 無事を伝えるためにペアだろう先輩に告げる。ちょっと驚いていたけど、それは良かったと安心したようだ。まあ、本当は身体強化の応用で自分の身を守ったからだけどね。

 反発することで自分の空間を空間内に生成して……とあーだこーだ言葉にしても伝わらないから厄介なんだよね、魔法って。
 結局、習うより慣れろ! ってママとお勉強したわけだし。


「もう分かっていると思うけど、私は君のペアになった上級生だ。よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」


 高度な継承スキルを駆使できる先輩とは心強い。次元系は頭がよくないと使えないのだ。見た目も頭脳派っぽいし、これなら頭脳戦は任せて楽できそうだ。


「先に自己紹介をしよう。私の名前はジミー・デル=フェルナンデスだ」
「……どこかの貴族、ですか?」


 長ったらしい名前だ。今世初遭遇の貴族かもしれない。ちなみに貴族っぽいなと思う人はいたけど、ちゃんとした名前を確認していないのでノーカンだ。

 よく見ればどこか気品みたいなものを感じ取れる。どういえばいいのだろうか。立ち姿や振る舞いが育ち良さそうな雰囲気なのだ。


「そうだよ。先に言っておくと、デール王国のフェルナンデス伯爵家次男だ」
「……へ、へぇー、デールの、」
「……もしかして知らない?」
「「…………」」


 止そう、この話題は。聞いたことがあるような気はするけど、行ったことも無い異国の情報なんて覚えてるはずもない。私の反応に何かを察したジミー先輩がおっほんと間を取る。


「えー、名前を教えてくれるかな?」
「ア、ハイ」


 気まずい空気を変えて頂いたので、普通に私も自己紹介する。ジミー先輩も気を取り直したのか、「アイか、改めてよろしく」と握手を求めてきた。

 拒否することも無いので、笑顔で握手を交わした。


「そういえばジミー先輩って次元魔法使えるんですね」
「ん? ああ、あれね」


 その後、闘交会の為にお互いの長所短所を教え合うこととなったので、今は質問タイムだ。今は消えてしまった歪みをチラリと確認してジミー先輩が教えてくれた。


「私は使えないよ」
「えっ! でも、」
「正確には使わせてもらったってところかな」
「どういうことですか?」


 話を聞くと、元々次元魔法は相性が良くないと継承出来ないスキルの為、使える人自体が少ないそうで、ただ、使える人を経由しての行使は誰でも出来るらしく、今回はすべての上級生がその方法で利用しているそうな。


「ほら、継承系は保有者自体が少ないだろう?」
「確かに」


 前にうささんが説明してたな、そういえば。スキルはユニークスキル、固有スキル、継承スキル、その他アメニティースキル、と分類される。

 ユニークスキルはこの世に二つとない、生み出されてからまだ短く浅い新種のスキル。

 固有スキルは民族、種族、地域、環境などの様々な特定条件下で得られるスキル。

 継承スキルは技術、芸術、文芸などといった文化的な面が強いが、徒弟制度のように修行次第で得られるスキル。

 アメニティースキルに関してはその他全部という雑多な扱いだ。ここまでこれば誰でも習得は容易になる。

 大きく分ければこの四つに分かれるわけだけど、数の内訳としては上から下がるにつれどんどん持っている人が増えるスキルになっている。

 特にユニークが厄介で、まだスキルの性格や条件が定まっておらず、固有スキルとして定まるまでは内容がコロコロと変わることも少なくない。

 例を挙げるなら、最初はちょろちょろ水を出すだけだったはずのスキルが、超進化して金属をも切断できる勢いで水が出せるスキルになっていたり。生み出して使う人によっては凶悪だ。

 ユニークスキルが定まると今度は固有スキルとなり、特定条件下に合えば、誰でも習得が可能となる。

 そして固有スキルから継承スキルに切り替わるタイミングも同じような感じで、さらに習得が容易になる。そうして最終的にはアメニティーに変わるわけだけど、正確に全部が全部習得できるわけではない。

 大半の人がそもそもアメニティーで苦戦することも多い。やり方は分かっていても、正しく発動の仕方が分からないと実際にはスキルの自動化はされない。

 水を出す魔法だったとして、必要な呪文、魔力、制御方法と習得するためだけに様々な技術を要求される。

 分かりやすい例で、身体強化は固有スキル扱いになっている。理由は使用者の体力、筋力、集中力などの身体と精神の両方が備わっていないとスキルの圧に耐えられないからだ。

 慣れればさらに要領よく強化出来る様になるけど、そうなるまでの鍛錬はどのみち必要なのだ。

 前世でも、食べるだけで楽して痩せられるなどと謳っていた詐欺広告が蔓延していたわけだが、そんなことはあり得ない。

 人は惰性で長期間寝たきりで過ごすと、すぐに病にかかる。自律神経とやらが乱れるからだ。必ず運動して動く必要があるわけで、体重が減ることがあっても騙されてはいけない。大体の原因が、便が良く通るようになっただとかいう理由だからだ。

 胃の中は数キロ単位で不要なものがどんどん溜まるので、排出しただけで数キロダイエット成功。そこで油断してリバウンドの繰り返しだ。痩せてもすぐに増えるのではない。もともとの体重が痩せていないだけである。

 とまあ脱線したけど、要は習得自体は可能でも、習得までの時間が掛かるというものだ。一度でも成功すれば、後は自分で変化させない限り使用者に合わせた固定調整をAIが自動的にしてくれるのだ。

 その一度の為に苦戦する場合も多い。


「どうやって借りたんですか?」


 うささんからの講義を思い出したところで、やはり疑問だ。今回はいわば借りている状態ということだけど、そもそも次元魔法の継承スキルは高難易度だ。気安くほいほい借りられるものでもないと思う。


「簡単なことだよ。このくじに魔法を込めると対のくじに繋がるっていう説明は受けた?」
「はい。魔法回路がどうとかで上級生が迎えに来るって聞きました」
「そっかそっか。うん。それなんだけど、元々このくじに次元魔法の使い手の魔法を込めていてね、その魔法回路というのが次元魔法の一種なんだ」
「つまり、対になってるから空間を繋げられた、ということですか」
「うんうん。アイ、君理解が早いね、その通りだよ。距離の問題があるからあまり離れられないけど、この施設の中ならふらふらしててもいいんだ」


 感心したようにジミー先輩が褒めてくれた。余計なことも言ってたけど、そっちはどうでもいい。だからか、周りに人の気配が無かったのは。

 このくじ限定の効果として毎年利用しているんだとか。聞けば元々は軍事利用のために開発されたらしいんだけどね。

 まず、空間移動は短い距離でのみしか使えず、魔法で完全に染めてしまうため他人が使えず、さらには再利用できないという問題が発覚しこんなしょうもないところで活躍しているらしい。

 というか、軍事利用出来なかった無駄な技術が学園にどんどん無償で寄付されているようで、こんなところで平和な使い方をされているとは一般人には分かるまい。

 謎の無駄技術の発端が垣間見えたな、これ。


「ところでジミー先輩。先輩は武闘派ですか、頭脳派ですか」
「いきなりだね」


 私にとっては重要な質問だ。クイズやナゾナゾは得意ではない。最終的には破壊の衝動が湧き上がる。回りくどいやり方は嫌いなのだ。

 今回は戦闘でスパッとやりたいのでこの問いだ。最近のデボラとの訓練の成果を確かめたいともいう。


「……どちらかと言えば頭脳派、かな?」
「それは良かったです」


 苦笑いでジミー先輩が選ぶ。私が頭脳派を強調したのは伝わったらしい。押しに弱いタイプと見た。師匠と同じだ。シメシメ。


「私、戦闘面で頑張ります」
「そうかい。期待しておくよ」


 乾いた笑いでジミー先輩が答える。苦労人の気配もするけど、今回に限って言えば楽が出来ると断言しよう。

 なにせ私はこれでもママ仕込み。さらに上手の連中が周りに溢れている環境のせいで忘れがちだけど、私自身が一般基準では生半可な強さではない。

 熟練の騎士やチートなスキル持ちならともかく、学生の中にそんなヤバいヤツがいるはずもない。いたら先にママやうささんから一言あるはずだもの。

 つまり私はこの学園では魔王様チートみたいなものよ。勇者ズルでも簡単には討伐クリア出来まい。

 そんなことを思っていると、脇腹にまたしてもそこそこ強力な電流が流れた。でも言わせてほしい。

 ……これは自信過剰ではなく事実です!


     ◇◆◇◆◇


 ――後に、この時期、学園行事の一部でしかなかったはずの闘交会が契機で、人類の歴史に暗黒時代と刻まれた時代の始まりだったのではないかと、遠い未来で歴史家たちは議論することとなるが、今はまだ誰も知らない、まだまだ先の話であった――。

 ――ちなみに、私は今世で会ったことないけど、お伽噺にも出てくるような『勇者』というスキルがあるらしく、かなり厳しい特定条件で得られる固有スキルのようだ。過去の時代によっては何人も得られたらしい謎多きスキルだ。

 ま、そんなスキル持ちが居たとしても遠目で見るだけで、直接深く関わり合いになることも無いでしょ。とこの時の私は軽く考えていたのであった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品