ロストアイ

ノベルバユーザー330919

くじ引き@その2



 見知ったメンツに不覚にも安心してしまい、自分の精神を疑う。横にどいてから捌かれる生徒たちを見ていたが、リアは普通に別の通路から案内役のお兄さんに連れていかれた。

 私たちは横で突っ立って居るだけだったが、たまに奇抜な格好をした生徒や、素行に問題がありそうな生徒が仲間入りをした。

 ……もしかしなくとも、問題児を隔離したみたい。

 他の二人はともかく、え? 私、壁破壊以外は何もやってないのに?


『…………』


 おかしいな。パパ経由だったから職人の派遣は迅速だったはず。修理もすぐに終わったって報告もあったし、何がダメだったんだろう?


『…………』


 そうだ! さっき実力云々って話をしてたんだし、見た限りではそこそこ出来るメンツを集めているのに違いない。問題児を集めたとかまさかそんなことではあるまい。ハッハッハ。

 まさかね、と希望的観測を思い浮かべていると、


「――はい。お待たせしました。あなたたちは一番最後にくじを引く順番となっています。案内しますので、はぐれずについて来るように」


 時間はかかったが、華麗な手際で並んでいた生徒たちを捌ききったお姉さんがこちらへきて教えてくれた。

 思った通り、私たちがハンデを背負うことになる最後の組のようだ。本当は単に問題児集合させたのでは、と未だ疑っていた心の天秤が逆側へ大きく傾いた。

 ふう。焦った。まとめてお叱りを受けるかと思った。

 違うと分かったら余裕が出来た。なので素直にお姉さんの後に付いて行く。ママならここで油断させておいて後でこってり怒る。しかし、目の前の仕事一筋です! と主張する理知的な雰囲気のお姉さんにそんな趣味は無いと思うので油断しても問題なし。

 気楽に行こう。


「――それではこちらから順番にお入りください」


 粛々とお姉さんの指示に従ってついていくと、どこかの部屋に繋がるドアの前についた。学園は基本的にどこもそうだけど、機能美第一! と言わんばかりの殺風景モノクロさなので、意外と扉など見逃して素通りしてしまう。

 そのひとつだと思うけど、相変わらず中がどうなっているのかは分からない。


「説明会にて軽く説明を受けたかと思いますが、中に入りましたら上級生が隠したくじを見つけて下さい。くじを見つけましたら魔法で染めて頂ければ結構です」
「あの、くじを見つけた後はどうすればいいですか?」


 半VRとは聞いたけど、中の様子によっては自分のくじを見つけても、皆がくじを見つけるまで待つ必要があるのかもしれない。

 通常の、異次元に身体ごと取り込まれる最新の本格的なVRと違って、景色がVR、自分自身は生身で挑むことになる。

 実際には脳の錯覚らしいんだけど、例えば草原の景色なら、リアルな幻覚として草に触れたり、匂いや味を感じたりできるのだ。

 古いタイプのVRではあるけれど、今回のように何かと未だ利用されることも多い。

 質問の意図としては、限られた部屋の中――生徒全員が入れるならかなり広いだろう――に、目的を果たした生徒が残っていても邪魔ではないのか、ということだ。


「問題ありません。くじを見つけましたら上級生が迎えに来ますので、その指示に従うように」


 お姉さんが言うには、魔法でくじを染めると、対となる上級生のくじに魔法回路が繋がるらしい。其の場で待機していれば、上級生が追跡魔法で見つけ出してくれるそうだ。

 ちなみに、上級生の中には本気でくじを隠す人や、不慣れな下級生のためだけに分かりやすく隠す人もいるそうだ。きっと、隠されたくじはその人の性格を移したような隠し方に違いない。

 説明を聞いて真っ先にそう思った。


「他に質問はありませんか」


 残った十数人に視線を向けてお姉さんが確認を取る。私以外に何か疑問に思った人は居ないようで、むしろさっさと始めろと恫喝し出しそうなヤツしかいなかった。

 お姉さんは一つ頷くと、「それでは順番にどうぞ」と一人一人名指しでドアの向こう側へ入らせる。

 まだかなー、まだかなー? と、のんきに待っていると、先にジルニク君がお姉さんに呼ばれた。ジルニク君はやる気に満ちた笑顔で「先に行ってとっとと終わらせてくるぜ!」と自信満々に盛大なフラグを立てて行った。

 そもそも、今朝はどうやって迷わず会場に来れたのか。聞いたら答えは単純、「アメリアがついでに連れて来てくれた」だそうだ。

 いつの間にか名前で呼び捨てするくらいお世話に、こほ、こほ、仲良くなっているようで何よりです。だけどジルニク君、あなたの能天気さは角砂糖よりも甘いと言わざるをえない。

 何故ならそのアメリアさんは先に行ってしまっていて、私とヤマトくんがまだ呼ばれていないことを忘れているようだからだ。そんな状況でどこからその自信が湧いて出てくるのか。

 再三状況を鑑みてどんなに甘く予想しても、最終的に部屋の中でひとりだけエンドレスに迷宮入りするに違いない、と近い未来まで確信した。

 生徒同士で協力するのは禁止されていないけど、ジルニク君には「そんなに自信あるなら助けないからね」とニッコリ忠告し、「おう!」と返事は貰っている。ご愁傷さまです。


「――次、ヤマトさん」
「シュコー、シュコー」
「……足元には気を付けるように」
「シュコー、シュコー」


 間近でガスマスクを見たことで、お姉さんの眉間にしわが寄った。シュールな絵面だな。若干引いてはいたものの、目を瞑るとヤマトくんに注意を促した。

 確かに外から見る分には周囲が見えにくそうなフォルムだものね。でも、私は知っている。なにせ、ヤマトくんに被せる前に自分で被って確かめたからだ。

 実態は案外、スムーズな呼吸を促し、浄化されているのか、むしろ被っていたほうが常に新鮮な空気で呼吸できたのだ。それと視界も良好。

 どういう仕組みかは分からないけど、被ったところで被っていない時と変わらない。中からは外がほぼ透明に透けて見えるのだ。またしても不思議技術だった。

 不思議なテクノロジーについて考えても持論だけで解明出来ないので、これも脳内の隔離収納タンスに放置。……隔離している不思議技術が多すぎるとか気にしない。最悪うさえもんが分かっているので安心だ。

 そうしてヤマトくんが呼ばれてからもまだ数名が残っていて、その人たちもどんどん呼ばれていく。疑問だったのが、順番の選考基準だ。正直、ジルニク君とヤマトくんレベルの実力者がいるとは思えなかった。

 だが、二人は比較的早くに出発した。完全に実力での選考ではない、ということかもしれない。どんどん呼ばれてドアの向こうへ消えていく人たちを見送る。

 早くしないと最後になっちゃうなとぼんやり思い始めたところで、残った私と一人の男子生徒。お互いに顔を見合わせ、これは――! と、どちらとも最後にはなりたくない、という強い意志を瞳に宿しお姉さんを見る。

 最後ってだけで目立つ。そんな目立つ言葉は私の平穏な学園生活において無縁だ。頼む。先に私を呼んで……!

 私の願いが伝わったのか、お姉さんが眼鏡をクイッと整えて一つ、頷く。ドキドキしながら両目を閉じて次の言葉を待っていると、


「次は――あなたです」
「いよっしゃあああ!」


 思わず喜びの声が漏れた。しかし早まらないでほしい。喜んだのは私ではなく、隣の男子生徒だ。私はガクン、と膝を折り、両手をついて四つん這いの落ち込みポーズだ。セリフをつけるなら、あれだ。


「なん、だと……」


 男子生徒は「フッ、いい勝負だったぜ……」的な顔でドアの向こうに消えていった。一体何の勝負だったんだと、数秒後に我に返ったけど、仕方ない。私は日常的なノリのいい娯楽に飢えているのだ。あの男子生徒はノリが良かった。後で知人くらいにはなってやってもいいな。


「……何をしているのですか」
「…………」


 四つん這いの姿勢から戻るタイミングを失っていた私だが、お姉さんの言葉でタイミングがつかめた。無言で立って、スカートの埃をはたく。常にアンドロイドたちが執拗に掃除をして回っているのでそんなに汚くはないけど。気分の問題だ。

 後は呼ばれずとも私が部屋の中に入ればいいだけなんだけど、二人っきりになったので、気になっていたことを聞いてみた。

 ……決して、ノリよくはしゃいだのが後から恥ずかしくなって気まずかったからではない。断じてない。


「……あの、入る順番は実力順ではないんですか……?」


 若干、恐る恐るの問いかけになってしまったが、先程もちらっと思ったことだ。後から気になって集中出来ないよりか、聞いたほうがマシだろう。


「……実力順、といえばなるほど。実力順ではあります。――ただ、素行調査によって判明した個人の得意不得意が主な選考基準です」
「単純に強さではない、ということですか」
「もちろん、それも伴っています。そうですね、例えばあなたが良く知る方で、ジルニクさん。あの子は強さで言えば同学年でも上位者ですが、こと探索については壊滅的、と報告が上がっています」


 …………。

 ……ジルニク君の方向音痴がバレてた。お姉さん、困ったようにオブラートに包んで探索って言ってるけど、つまりはそういうことですね、分かります。


「それと、ヤマトさん。あの子は優秀ではありますが、人と接することが苦手、と報告を受けています」


 そうね。極度の人見知りはいつものことだからスルーしてたけど。さっき、列に並んでいた時だって前の人とエライ距離を置いてましたもんね。慣れさせるためにも前に押しやったけど。


「ジルニクさんにはとにかく長い時間が必要でした。そしてヤマトさんにはある程度人が少なくなっている時間帯が良かった、という結論です。いづれにしても、お二人とも強さにおける実力が高いので、下手なグループにも入れられず、選考には苦心しました……」
「そうなんですか……」


 途中から苦労話に変わってしまい、返答に困る流れになった。聞いていますよアピールで神妙な顔をして、とりあえずの相槌を打つと、分かってくれますか、この苦労、と目が訴えかけてきた。

 しかしいつまでも続きそうなおばちゃんの井戸端会議の空気を感じ取り、お姉さんに今のお仕事を思い出させるべくさりげない内容で質問した。


「あの、それならさっきの男子生徒は……」
「ああ、ダレンさんですね。彼は技巧派で、器用貧乏なんです。罠や細工が本職に劣らず得意なのですが、繊細な作業になりますので、どうしても戦闘による力では及ばないのです。こういった企画では真っ先に抜きんでるので、実質、今年の新入生徒の中では一番ではないでしょうか」


 小首を傾げながら思い出すようにお姉さんが教えてくれた。ハーフ顔の美男美女が辺り一帯に多い中、印象としては可もなく不可もない、前世的に考えれば学校のクラス内カーストで中の下辺りに生息していそうなモブ顔タイプだった。

 ほら、目が3という算用数字に変わるような感じの。て、それ、今はどうでもいいんだった。そろそろ無言でチリチリ電流を流してくるうささんが無視できなくなってきたので、私もそろそろ旅立ったほうがいいのかもしれない。


「あの、私、そろそろ……」
「ああ、引き留めてしまってごめんなさいね。行っていいですよ」


 私から切り出すとあっさりと察してくれた。ガールズトークは早めに切り上げないと何時間も続いてしまうのだ。その点、お姉さんはすぐに私を放してくれた。

 ……ママの場合は納得するまで放さなかったし、ガールではないけど、パパはママが強制的に引き剥がすまで離れなかった。

 幼女時代の記憶をフラッシュバックしたせいか、達観したような遠い目でドアの向こう側へ一歩踏み出したのであった。

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