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ロストアイ

ノベルバユーザー330919

くじ引き



 ――さて。

 一難去ったところでもう一難、がやってくる前に大人しくするに限る。なので周りの視線も何のその。何事も無かったかのように列に準じる。

 しばらくは周囲からの視線が痛かったが、それも沈静化が早い。もう何も起こらないしね。


「先程は、」
「いいのいいの、気にしないで!」


 俯きがちなリアが、か細い声で何かを言おうとする前に制止する。もう過ぎたことだし、長々と引き摺るものでもない。事情は知らないけど、私はリアの味方だ。

 私からの視線の意味を感じ取ったのか、リアが頼りなげな、けれど、ほっとしたように笑った。


「それにしてもくじ引きとかいつ以来かな?」


 空気を変える意味で話題を逸らす。ちょっと不自然だったのかもしれないけど、そこは大目に見てほしい。それに今から行うペア決めのくじ引きが久々だったというのは嘘でもないし。


「? 学園のくじ引きを行ったことがありましたの」
「ん?」


 前世の席替え以来かもしれない……などと思考を飛ばしていたら、不思議そうにリアから質問される。くじ引きと言ったけど、何か違うんだろうか。


「……もしかして知らないのではないの?」
「くじ引きはくじ引きでしょ?」
「…………」


 どうやら何か特殊なくじ引きのようだ。

 しかし真っ先に思い浮かべるものでも、数字の割り振られた割り箸を引くとか、閉じた箱に手を入れて中身が書かれている折りたたんだ紙を引くとか、後はあみだくじぐらいしか思いつかない。そんなにヴァリエーションはないでしょ。

 そんなに豊富な方法も無いと思われたので素直にリアに尋ねると、呆れましたわ、とでも言い出しそうな顔をされた。ちょっとムッとしながらも詳しい内容を聞いてみると、


「ただのくじ引きではございませんわ。まず、ペアを組む上級生と下級生で別れますの」


 ほうほう。だから二手に分かれてたのか。普段通りにうささんの手先誘導と人の流れに沿ったので、どうやって分かれているのかは知らなかった。


「別れた先にてさらに別れますの」
「何回別れるの?」
「二回ですわ」


 一回目が上・下級生、二回目が個人能力らしい。運動能力が低い生徒からくじが引けるらしい。

 というのも、ただのくじ引きのはずなのに、くじをあちこち探し回わらなくてはならないらしいからだ。

 ここで疑問なのが、何故運動能力が低いと先に引けるのか。

 入学時の説明会もそうだったが、それはもう例の如く、くじ引きとは題しているものの、実際にはわざわざ半VRのゲーム世界にてくじを探す必要があるからだ。

 もっと言うと、広大なマップから紙切れ一枚を探し出さなければならないのだ。最悪の想定として、この前の説明会にてやったゲーム、偽魔獣がいた密林マップで紙切れを探し出さなければならない、という事態も考えられる。

 そこに問題があるとすれば、体力のない生徒や、サバイバルに慣れていない生徒では時間が掛かり過ぎることだと思われる。

 もちろん、必ず毎年仮想密林であるということはなく、リアが言うには毎年違う場所らしく、対策が取れないとのこと。そして、私たちが既に密林系は体験しているため、今回省かれる可能性はあること。

 逆に一度体験したからと、アドバンテージを与える意味でもう一度同じシチュエーションになるのでは? とは思ったものの、そこは言わぬが花というやつだ。藪をつつくことも無い。


「それじゃあ後になればなるほど残り物を探す苦労が増すってこと?」
「その通りですわ。元々闘交会自体は体力を酷く使う行事ですもの、生徒同士の実力差を少しでも埋められるように考えられているのですわ」


 大半は脳筋だけど、確かに苦手そうな子は周りを見る限り少なくは無い。選べる数も多く、比較的探してすぐに見つけやすい序盤の難易度が低いうちに、ってことか。

 そうなってくると、いつもの――といってもまだひと月しか経ってない――メンバーのなかでは唯一リアだけが実力不足になる。特待生に入れるくらいだから、一般生徒よりは上手だろうけど、私たちの中では守られる側だ。


「……悔しいですけれど、ワタクシは先に引くことになりそうですわね。……もっと、鍛える必要がありそうですわ!」


 自分のことをよく理解出来ているといった風情でリアがこの場は一歩引く。しかし、ムキムキになられても可愛さ成分的に困るので、リアはそのままでいいと思います。

 一瞬脳裏を過ぎった想像イメージをもみ消す。忠実に再現しようと過剰に働く脳が今はニクい。最近働き過ぎなので、もっと程よくサボってはくれまいか。

 苦々しい表情でもしていたのか、リアがこちらを不思議そうに見ていた。

 いかんいかん、これ以上変なことを考えても碌なことになりそうにない。思考を切り替えるために不自然にならない程度の笑顔を取り繕う。


「それは今、やらなくてもいいんじゃないかな? リアには大きな夢があるし、ぶっちゃけそんな暇ないでしょ」
「……そうですわね。古来より、二兎を追う者は一兎をも得ずと言われていますものね。ワタクシとしたことが焦っていましたわ」


 今世では聞かなかった諺を呟いて納得してくれたようだ。

 ……それにしても不思議だけど、所々に日本の名残みたいな言葉や物がある。そっくりそのままや、なんか惜しい、というのもあるんだけど、これってどういうことなのかな。

 確かに今世は日本という名詞を用いた国は存在しなかった。国について言うなら、前世の有名な国家名はまったく見つからなかった。

 全てを覚えている訳ではないので、もしかしたら細々と生き残ってる国とかはあるのかもしれないけど、私が知る限り、当時地球上で先進国などと持て囃されていた大国、有名な観光地や色んな意味で注目を集めた国々はその名が見つからなかった。

 外国名は知らないけど、私然り、リア然り、どことなく日本らしい姓の持ち主だ。スズキという名詞は外国人に覚えられていたと聞くし、そういう名残があるのかもしれない。

 まあ、顔が完全に日本人じゃない時点で純粋な民族の生き残りが居るのかは疑問だけど。皆が皆ハーフっぽい顔なので、民族関係なく混血での世代交代が進んだのかもしれない。

 時代はグローバルだ! って民放に出てたどこぞの偉い教授が言ってたので、そういうことだったのかもしれない。


「そろそろ順番ですわ」
「あ、ほんとだ」


 ぼーっとまたしても益体の無い事柄を思考していたら自分の順番になっていた。おそらく生徒会の役員なのか、バッサバッサと生徒たちを捌いていた理知的な雰囲気のお姉さまと目が合う。

 さっき遠くから見たときは前の人が学生証を提示していたので、私もスカートのポッケに放り込んでいた学生証をごそごそ取り出そうとする。

 こういうときになって、先に用意しておけば良かったなと後悔する。

 前世でも、先に用意して待っていればいいのに、会計時になって慌てて財布を取りだす人たちを冷めた目で見ていたが、人の振り見て我が振り直せ、が適用されずに自分たちも同じ轍を踏んでいた。

 中々取り出せない学生証と格闘していると、


「あなたは、……あちらへどうぞ」
「え、あ、あの、もうちょっと待って下さい!」


 学生証を中々提示出来ない私に呆れたのか、お姉さんがどけ、とオブラートに通告する。慌ててもうちょっとだけ猶予を貰おうと焦っていると、お姉さんが無言でアテンションプリーズ! で有名な仕草のように、左掌ひだりてのひらを横へスライドした。

 忙しいところをモタモタしてた私が悪いので、今度は素直に従って横にずれた。


「はあ……」


 叱られた後みたいに思わずため息を吐いてしまっても仕方がない。しばらくは横で静かに待機だ。そうしてしょんぼりとして地面を見ながら横に掃けると、何やらトントン、と軽く肩を叩かれた。一体誰だ、と横を見ると、


「シュコー、シュコー、」
「よお、大将」
「…………」


 お前らもか。

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