ロストアイ
闘交会が開催されるようです@その3
うささんへと投げられたダメージがブーメランしてしまった。
ダブルダメージを甘んじて受け止め、先程の話を無かったこととする。AIが宿主に影響される云々を同時に思い出してしまったため、その記憶を記憶の彼方へ投げ飛ばして封印。
二度と出てくんなよ!
『……それでは説明しますので、しっかりと覚えて下さい』
私の意図を正確に把握したうささんが無かったこととして処理してくれた。これぞ一心同体というものよ。突かれることは無いけれど、藪蛇になるので説明に集中する。
『まず、闘交会の主目的ですが――』
うささんが本当に一から説明を始める。移動中でも、数分程度で分かる内容なので、確認のため出来るだけ要約してみた。
まず、闘交会は上級生と下級生の交流を図るものである。交流だけなら寮の中でも出来るだろうと思うかもしれないが、それは無理な話である。
それぞれ自由に教室を選択している上、実は寮生が同学年だけなので、他の生徒との交流は何か企画が無い限り皆無だ。
寮の仕組みとしては、前年度の卒業生が翌年の新入生のために入学前に退寮する形式だ。つまり、学年ごと、適正クラスごとに寮が細かく分かれている訳である。
……稀に居座る先輩もいるが、そういう人は滅多に表に出てこない研究生が多いので、この際これは置いておこう。会う機会も無いとプリシラさんが言っていたし。
ちなみに教室に助手として向かう先輩が多いんだそうな。今は関係ないけどね。
脱線したけど、つまり、先輩方は他の人とのコミュニケーションを図るため、下級生は目標となる先輩方を見つけるためといった名目があるのだった。
『特待生に関して言えば、やたらと自信過剰な生徒が多いため、という理由も付け加えられます』
うささんが補足説明してくれたが、自信過剰な脳筋が多いため、そんな子たちに対して世の中の広さを知ってもらう、といった目的もあったようだ。
……それが機能しているかはともかく、つまりそういうことであった。
『主目的を理解いただいたようで何よりです。それで、内容は分かっておられますか?』
おおっとっと。うささんから催促が入ったので思考の脱線を元に戻す。
先程まとめた通りの目的で学園イベントが開かれるわけだけど、闘交会では上級生と下級生、それぞれ一人づつのペアを組んで難題に挑む。
……もちろん。公共物である壁の破壊は禁止だ。ママにも釘を刺されていることだし、慎重にいくつもりだ。
『…………』
うささんから信じていないような無言の圧力を感じるが、スルーで続けます。
初めに行うのは知識部門。
学園内の建物を移動しながらナゾナゾやクイズを解いていくのだ。脳筋にはきつかろうが、それを知るためのイベントだ。頭脳派なら問題なし。
それに基本は共通教室で学んだ内容からの出題の為、上級生が居れば分かるのだ。こうして上級生は下級生からの尊敬を集め、下級生は上級生を目標に後々勉学にも励む。
……一部色んな意味の規格外はいるらしいけど、そんなのは例外中の例外の為省かれる。
『…………』
またしても無言の視線を感じたが、きっと私が理解していることに感激感心しているからだろうと勝手に解釈する。……続けます。
そんなわけで知識部門では学園内の建物を行き来し、それぞれの教室ごとに特色がある問題を解いてポイントを稼ぐのだ。
このポイントは後々とある成績に反映されるので、結構ここで本気になってポイントを狙う上級生も多い。下級生にとっては校内の様子を覚える手助けにもなる。
『私は参戦出来ませんので、おひとりで頑張ってください』
うささんから注意が飛んだ。このイベントに関してはAIが回答するなどのズルは許されない。言われなくとも私を追い詰めるのが趣味であるうささんが手を貸すとは思えないけどね。
『…………』
だんだんと私のスルースキルが上がっていっているようで何よりである。
知識部門は制限時間を設けており、それがお昼を抜いて五時間となる。そうそう。脳筋に相応しく、どこにどんな問題があるのかは速いもの勝ちのため、他のペアに対して道具を使った妨害が許可されている。が、さすがに殺傷力が高い罠は許可されておらず、しかも事前許可制だ。
気合の入ったペアなら結構大がかりな罠を用意したり、中には元からの設置看板を逆に向けるみたいなしょうもないイタズラレベルの妨害工作も許される。
校内が広大で教室数が多い上、それぞれ個人の選択教室がバラバラなので、意外と有効なのが癪に障る。毎年必ず騙される奴がいるのがお約束だ。
『…………』
……もちろん、私は格が違う。そんなチャチな罠には引っかからない。
何故ならそもそも騙される前に道に迷うので、看板なんぞ元から意味を為していないからだ!
『…………』
……自慢できることではない、と言いたげな視線を感じるが、人が多いのでこれも気のせいだろう。うん。
話を戻すと、知識部門は学園内を探索してポイント稼ぎに協力し合うゲームみたいなもの、ということだ。私が脳筋レクリエーションとまとめた理由が分かろうというものだ。
まったく、面白そうで今から楽しみだ。
『――理解いただけていたようで何よりです』
言いたいことはいっぱいあるけど、全て呑み込みました的な言い方である。失敬な。しっかりと理解出来てたんだからもっと褒めてもいいのよ?
『――――』
こ、こほん。ひとまず知識部門は理解した。部門、と別れることから分かるように、もう一つ脳筋プログラムが待っている。むしろこっちが本命ともいえる。
『毎年こちらの部門のほうが人気がありますね』
うささんが人気があると言っているが、たしかに脳筋ばかりでインテリジェンスが後回しなこの世界では頗る人気がある内容のイベントだ。むしろ闘交会って言ってるんだからメインがどっちかなんて分かり切ったことであった。
――武闘部門。それがこの闘交会の目玉イベントだ。
『毎年人々の間で熱がこもります』
熱狂的、といった意味も含まれているだろうけど、それだけではない。武闘部門は学園にある特別施設、魔演武場にて執り行われる。
そのため、中で応援含めて戦いによる余波で熱がこもるという意味も含まれている。人口密度が一時的に高くなることが原因ともいえるけど。それくらい人気なのだ。
もちろん生徒だけではなく、一般人も観戦する。ここは絶海の孤島だが、生徒のいるエリアとは別に一般人も生活するエリアが存在している。説明会でメルディアナ先生が説明していた街のことだ。
そもそもからして、この学園自体山型の三層構造だ。
まず生徒たちが主に活動する教室と寮のエリア。
その反対側に一般の人も生活する街エリア。
間を挟んだてっぺんにコロッセオなどの大きい特別施設エリア。
こんな具合に大きく三つのエリアで綺麗に分かたれているので、普段生活する分には他のエリアとのかかわりが少ない。エリア間の移動が手間、という理由が無いではないけど。
また話が脱線してしまったが、再度すべて簡単にまとめれば、知識部門が教室と寮のエリアにて行われ、武闘部門が特別施設エリアのコロッセオにて行われるのだ。
そのままのペアでタッグマッチを行うのだ。ルールについては今は省いてもいいだろう。どうせ当日までには忘れる自信がある。
『…………』
うささんを腕に抱え直してうささんの視界を封じる。封じたところで意味は無いが、気分である。それに、今はいっせいにどこぞへ移動していたのだけど、どうやら目的地についたみたいなので、肩に乗せたまま注目を集めないようにしたのだ。
学年ごとに分かれて並び始めたようなので、人の波に逆らわず私も並ぶ。
「――あら?」
大人しく列に並ぶと、後ろからここ最近見知った気配を感じた。言っておくと、ヤマトくんではない。問答無用で私の前に並ばせたので。
「朝は見かけませんでしたが、間に合ったんですの?」
「いやー、完全に遅刻したかと焦ったけど、なんとか」
「『…………』」
二方向からの無言の訴えを感じ取るも、今はリアのターンなので無視します。
周囲の気配からリアが何か察したのか、深くは聞くまいと、慈愛に満ちた視線で口を開いた。
「……そうでしたの。それはなによ――」
「――そこにいるのは出来損ないではないか」
他愛もないやりとりを暇つぶしにしていたところ、横から唐突に無粋な声が割って入る。闖入者を確認すべく目線を向けると、蛍光ピンクの女子生徒がこちらを、正確にはリアを見下していた。
「……お久しゅう存じます、アリアナ様」
「ふん、会いたくもなかったわ」
喧嘩腰ですね。とは思ったものの、リアが殊更丁寧に対応しているので自分を抑える。何かしらの因縁があるらしいし、私の口出すことでもないだろう。
一歩引いて様子を伺う。声が大きいからか、周りからの注目を集め始めていた。
「そなたのことなどどうでもよいが、ちょうどよい。そこを代われ。この貴き身の役に立てると喜ぶがいい」
後ろにパラソルらしき傘を手下らしき生徒に持たせてこちらを見下していた女子生徒だが、リアが下手に対応していると、いきなり尊大な態度で尊大な物言いを始めた。
さすがの私もカチンときたので、文句を言ってやろうと一歩前に踏み出そうとした。
「――申し訳ございません。アリアナ様の命であってもお受け致しかねます」
「―――――」
私が前に出る前にリアが言葉を発した。その際、ちらりとこちらを見られた。私を制して任せてほしいといった意志を感じ取ったので、ぐぬぬと思いながらも抑え込む。
先ほどまで見下した尊大な態度を取っていたアリアナ様とやらはリアの返答を予想していなかったのか、先程までのつまらない路傍の石を見るような眼が見開かれる。
そのまま流れ的に引き下がるかに思えたが、癪に障ったのか、その眦を釣り上げた。
「お前……下賤の子のくせに、私の前に並ぶだなんて、身の程をわきまえなさいな!」
……なかなかに穏やかではない様子に、自然と私の元から悪い目つきが鋭くなるのを意識の外で感じるのであった――
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.7万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,659
-
1.6万
-
-
9,536
-
1.1万
-
-
9,332
-
2.4万
-
-
9,154
-
2.3万
コメント