ロストアイ
闘交会が開催されるようです@その2
超スピードでヤマトくんに運んでもらい、私たちはなんと、四分前には目的地に到着した。到着してすぐにヤマトくんが下してくれたんだけど、何故か距離をげっそりと置かれてしまった。
……人の腕の中ではしゃいでたのがいけなかったのかもしれない。
『受付はあちらのようです』
そんな私たちに構うことなく、うささんがゴール地点を教えてくれた。それはそうと周りの視線が痛かった。私とヤマトくんに注目されることなんて、とそこまで考えて先程の私たちを客観的に思い出す。
ガスマスクを被った異様な男子生徒に、その男子生徒に抱えられて興奮で発狂している女子生徒。……そんなヤバい奴らが超スピードで突撃して来た。……私なら関わり合いたくない。
そそくさと受付まで何食わぬ顔で移動して、学生証を提示する。ちょっと引き攣った笑いの上級生らしき綺麗なお姉さんに愛想笑いと小型端末を貰ってその場を離れた。
ヤマトくんも私と同じものを受け取って、一緒に会場に入ることにした。
「おお~」
田舎者丸出しで中の様子を観察する。入口付近にいた生徒たちには何故だか地味に距離を取られてしまったため、奥を目指す。
……別に。このイベントは自分で声を掛けないといけない系のイベントじゃないからダメージなんてないもん。
「――――」
私の後ろに少し距離を空けてヤマトくんが追随する。心なしか海を割るように人波が割れて行っている。きっとガスマスクのせいだ。うん。きっとそうに違いない。
ある程度進むと上級生や下級生が入り混じるエリアに突入した。
『そろそろ開始されるようです』
うささんが私にだけ聞こえる様に調整して声を掛けてくる。特殊な方法で伝えているらしく、たぶん音の方向の調整とかそんなんだったと思う。前世でも聞いたことがあったから、そんなマイナーなことでもないとは考えられる。
こうやって人が多く犇めき合う場所では、うささんは話をすることを好まず、ただのうさぎのぬいぐるみに擬態する。私以外と話をするのも嫌らしい。
人工知能にもこだわりや決まり、規則などがあるらしいけど、それについては教えてくれなかった。
――ブゥゥゥゥ
何かの作動音がすると、一部緞帳で覆われていた場所が開き始める。前世的に言えば、豪華な朝礼が始まった気分だ。イスも無く、学年バラバラの立ち見なので若干の差はあるけど。
そうして開ききった舞台の上で、一人の上級生と思わしき人物が前に進み出る。赤の軍服なので、同じ特待生の上級生と思われる。
比較的近い場所だったのか、その人物の表情まではっきりと見えていた。
「――ようこそ。シグナール学園へ」
開口一番に歓迎の言葉を述べ、生徒たちにそれぞれの学年に対して軽い時候の挨拶を行う。なんか、生徒会長っぽいな。ぼんやりと右から左に聞き流しながら、生徒会長(仮)を見物する。
覚めるような明るい青に、群青色の瞳。ちょっと線は細めだけど、絶妙に鍛えているとみて分かる体格だった。顔は普通に美少年って感じで、近くの女子生徒たちがうっとりと意識を飛ばしているのが、その美少年っぷりの偏差値が分かるというものだ。
適当に観察してやり過ごしていると、なぜか途中、目が合った。しかもただ目が合ったのではなく、チラ見、二度見、ガン見、チラ見という謎の段階を経ている。とても驚いていたようだけど、あの人と知り合いだったっけ?
『……事実上の初対面です』
「だよねー」
相変わらず私にだけ聞こえる調整とやらでうささんが教えてくれる。他の人をバカにするわけではないけど、あんな美少年が知り合いに居たら絶対忘れないだろう。
美形は鑑賞してこそ、初めて美形としての価値が示されるのだ。
ちなみに周りの人は気付いていない。表情の変化が乏しいのが原因か、それともワザとか。私は集中して美少年を鑑賞していたので偶々気付いたのである。
「――以上をもって開会の宣言とする。各自、指定の場所に移動するように」
気付いたら話が終わってしまった。全く内容が頭に残っていないが、うささんもいるし、問題なし。これぞだらけきった人間の末路よ……。
と、冗談はさておき、このイベントは何気に楽しみにしていたので、早速移動を開始することにした。
『内容は頭に残して下さい』
私の思考を読んでいるうささんからすかさずクレームが入る。自分の仕事を増やしたくないという隠語を感じ取った。だが断る。
『……案内を放棄します』
「うおお、うそうそごめん! 許してっ?」
うささんがストライキ宣言を出したので、慌てて取り繕う。あんまりうささんに頼り過ぎると、たまにストライキされるのだ。
……AIがストライキとか、聞いたことない。それも私の前世の知識の影響か。ただ、AIがストライキとかこの世界じゃマジで笑えない。笑い話で流すには支障が多すぎる……!
『――――』
「本当に申し訳ありませんでした。もうしないように気を付けます」
ガチの謝罪を、うささんに向けて小声で行う。近くで見るとうさぎのぬいぐるみに小声で話しかける奇妙な女子生徒の完成だ。私なら関わりたくない。
……気のせいか。開いていた周りとの距離がさらに開いた気がする。
『――仕方ありません』
「!」
『次忘れたら二度と説明しませんので』
おっけーおっけー! 今度は聞き逃さないので、教えて下さい!
『――調子のいいことです』
私の態度の変化にうささんが呆れた空気感を醸し出す。なんだかんだで私に甘いので、最後まで見放さないのを私は知っている。
うささんのツンドラ期は、その向こうにある一瞬の常春を垣間見るための前夜戦でしかない! と、私の今世経験上断言します。
『簡単な内容は覚えていますか』
「えーっと……」
なんか、生徒の仲を深めるための脳筋レクリエーションプログラム? ってことは覚えてる。字面からしてアホ臭いが、そうとしか言えない内容だった記憶がうっすらと残っている。
『……間違ってはいないのですが、いえ、止しましょう』
何。その残念な子に話しても無駄だったな的な言い回し。言いたいことがあるならはっきり言ってよ。あ、ストライキはなしの方向でお願いします。
『そうですね。最初から説明したほうが早そうです』
あ、諦められた。ひどい。これでも頭の機能は優秀なのよ。……微妙なことにしか活用できていないけど。
言ってて虚しくなったな。
『いくら伝説の宝剣を手にしても、使い手が稚拙では宝の持ち腐れですね』
「……」
……その場合、私をディスったうささんも同類だかんな!
そんな負け惜しみを頭の中で叫ぶ私であった。
……ところで、今何か、それとなく言葉遊びでダジャレっぽいこと言いませんでした?
「『…………』」
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