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ロストアイ

ノベルバユーザー330919

閑話・続  うささんと私と愉快な仲間たち



 ――九時、十分前、寮へと移動中


 寮へ戻る道すがら障害物をガン無視して、いつかのママのようにぴょんぴょん飛んで真っすぐ進んでいく。うささんが小さな手で示す方向。ひたすらその方角へまっすぐ突き進むのだ。

 かなりアクロバティックな動きでドーム型の建物を足場にして飛んでいく。時々近くの木も足場にして真っすぐ突き進む私のスピードはかなりのものだ。

 今なら電車とタイマン張れそうだ。


「――あと、どの、くらい?」


 時々トリッキーな動きもしているので、問いかけが途切れ途切れになる。さすがにママみたいに平然と会話することまでは出来ない。こういうときに、ああ、もっと素で肺活量を鍛えておけばこんなに会話で苦しまなくてもいいのに、と考えるのだ。


『――およそ十一分、といったところでしょうか』


 意外と距離あるよねー。まあ行くときは約一時間半以上は掛かったんだし、当たり前だけど。あ、ヤバい。今思い出したけど、そういえばヤマトくんはどうしているんだろうか。置いて来てしまった。

 後ろが気になるけど、ブレーキかけるにしても、振り返るにしてもだ大惨事となるため、出来ない。今はまだまだ身体機能が未熟な私。電車とタイマン張れるスピードで急ブレーキかけると、筋力が足りずにまず足が逝く。

 振り返ったらもっと悲惨だ。トップスピードのまま横転する電車を想像して頂ければ分かりやすいだろう。足だけでなく手足に首までゴキッと逝ってしまわれる。想像しただけでグロの大惨事だ。


『――ちゃんと、付いて来ていますよ』
「…………」


 え。誰が? うささんなら肩に居るけど。何を言っているんだコイツは。とうささんへテレパシーを送る。一瞬、ヤマトくんのことかと思ったじゃん。びっくりした……。


『はい。その通りです。ぴったり遅れず後ろに居ます。――振り返らないで下さい』
「――――」


 先程思考していたことをすっかり忘れて後ろを振り返りそうになってしまった。危ない。危うく先程想像した大惨事を引き起こすところだった。

 うささんが止めてくれなければ死んでたな。て、うささん。あなた何言っているの。このスピードにぴったり遅れずに付いて来れるのなんて、ママか師匠しかいないよ。

 すばやいヤマトくんでもさすがにこれは無理でしょ。物理的に。だってヤマトくん身体強化も使えないのよ。生身で付いて来れるとかそれどんな超人。いや人外?

 それもし本当なら、この前もちょいちょい思ったけど言動と実力に差があり過ぎるわ。て、ん? ……たしかジルニク君、開始直後に一歩も動けずに背後取られてたよね。私もかろうじて素で見えてたけど、あれ凄かったなあ。じゃなくて。

 あれは突発的で一時的な刹那的スピードだと勝手に思ってたけど、もしや長時間あのスピードが維持できるとか? それなら納得するけど、ビックリ人間過ぎません?

 オリンピックで独占金メダル狙えるよ。私だってさすがに素の状態で電車とタイマン張れるスピードは出せない。せいぜいママチャリを必死に漕いだスピード程度だ。それも十分早いけどさ。


『どうやらそのようですね。珍しく予想が当たったようで何よりです』


 …………そっか。リアに続いて常識人枠に勝手に当てはめていたけど、ヤマトくん、あなたもそちら側だったのね。裏切られた。完全に見た目と雰囲気で騙された。

 やっぱり私の周りには変な奴しか集まらないのかと、入学前に見た師匠のごまかし笑いが思い出される。師匠、あの時逸らされたあなたの視線は正しかった。皆が皆、ママみたいに人類としておかしいわけではなかった。

 ――訂正します。この世界、常識人の割合がそもそも少なかっただけだった。これで納得。


『そろそろです』


 私がまたしても益体のないことを考えていたら、うささんから指示が飛ぶ。そろそろスピードを緩めないと寮を通り過ぎてしまう。慎重に少しづつスピードを落としていき、最後にはほぼただの早歩きまでスピードダウンさせる。

 しばらくその状態で進むと、最近見慣れ始めたオンボロ寮の景色が近付いてくる。もう九時を少し過ぎてしまっている。遅刻だ。

 実は今日、リアととある約束があったので、いつもは散策で終わったところを一度戻ってきたのである。


「あ、探しましたのよ! アイさん、どちらへ行かれていましたの?」


 ちょっと遅刻したからか、リアが探しに来てくれたようだ。一言謝ってからリアと共に寮の中へと入る。その際、チラッと後ろを見たけど、マジでケロッとしたヤマトくんがいた。

 ガスマスクつけてるから疲れてないかは顔で判断できないから、なんとなくだけど。もし疲れで息が上がれば、肩が上下したり、歩き方にも違和感が残るものだ。

 見た目では貧弱そうにしか感じられないのに、実際には素の状態でなら普通に負けそうだ。しかもあのガスマスクを取られて目線を合わせられた状態なら、身体強化使っても使わなくても負けそうだな。

 やはり恐るべし、ヤマトくん。


「――というわけですの。アイさん。聞いてますの?」
「あー、うん。たぶん」
「たぶん……?」


 おっと。リアから怒りのオーラを感じた。余計なことを考えている場合ではなかったな。それで、なんだっけ。そもそも何のために集まる約束してたんだっけか。


『ゾンビ用同盟。順調ですね』


 そうだった。それそれ、その件。それについての会議だかなんだかで集まろうって話をしていたんだった。言い方に引っかかりがあるけど、とりあえずはさりげなくワードを教えてくれてありがとう、うささん。


「分かりますの?」
『ええ、もちろん。協力も惜しみません』
「まあ! 頼もしいですわ」
「…………」


 やはり何か引っかかりを覚えるけど、うささんがリアの機嫌を直してくれたので、それについては感謝する。正直聞いてなかったから、結局今何の話をしているかは知らんけど。

 そんな私の思考が伝わったわけではないけれど、タイミングよくリアが本題を告げる。


「そう、今のところ全て順調なのですわ。ただ、あとはどういった販路から介入するかが問題ですの。古株たちが新商品を発売するのならこんなことは悩みませんが、そもそも新参者のワタクシたちには売る場所も、買って下さる固定客も居りませんのよ」
「そうだよねー」


 なんか良く分かんないけど、つまり、品物を用意出来ても、置いてくれるところもないってことかな。とりあえず繋ぎに適当な相槌は送っておく。

 今は寮の中でもエントランス横のくつろぎスペース的なちょっとした小部屋にて会議中だ。壁は透明なパネルの為、内外から様子を伺える。

 私とリアが横隣で一人専用ソファーにそれぞれ座っている。ヤマトくんもついて来ていて、贅沢にも正面の三人座り専用ソファーに座っていた。


「ですので、まずは大量生産などは考えず、一つのブランドとして少しづつ大きく取り扱っていければと考えておりますの」
「へえ」
「学園に在籍している間に人脈やコネを増やし、卒業後にゆくゆくは立派な商会を立ち上げるのですわ!」
「……へえ」


 そこまで将来の目標が決まってるんだ。早いな。私なんて、その日どう平穏に過ごせるかが目標なのに、そんな先の事まで考えられないや。……前世も何をしたいかなんて決められず、周りに言われる通りのなあなあな状態で生きてたな。

 今のところ、特にやりたいことも無い。そもそも今世はほぼ隔離と旅してただけだし。旅してた時に関しては身を隠して移動していたから、どこかでバカンスみたいなシャレたイベントは無かったんだよね。

 親の職業も詳しく知らないのに、この世界のその他の職業なんて知らない。前世的に、安定している定番職業は公務員だった。

 なら公務員にでもなればいいかとも思うだろうけど、この世界、公務員なんてものは存在しない。国からの援助はあっても基本民間企業が主体だ。王様とかも大企業の社長という位置づけと大差ないらしい。

 税金というものは存在するけど、それは国に納めるものではなく、AIが運営する機関に納めるものだ。そこからAIがこの世界をより便利にするための費用やその他の料金調整に当てられるらしい。

 これを知った時は不思議に思ったものだ。高貴な血筋であるとか、英雄偉人の血筋だからという理由で治めていた国とか、すぐに反乱が起きそうなのに。しかしこれもAIが管理することで解決した。

 体制は変えずに、王侯貴族や民、双方が納得出来る様に支配したのだ。実質的な権力に変化は無かったが細かいところ、特に税金などの金銭関係をAIが管理し、人類にどんどん役立てる成果を出すと、不平不満は自然と消えたそうだ。

 後はそれぞれ好きなように生きているのだ。この世界で死ぬことがあるのなら、ほとんど魔獣か、寿命かしかない。飢餓、病死、傷害、事故、上げればキリがない。

 前世でも特に多かった死亡理由。自殺は無いと言っていいほどこれに含まれない。精神さえもAIが管理しているので、もしストレスを感じて病んでも、自殺を望む前にメンタルケアが行われるのだ。

 すべて寄りかかっているこの世界。職を選んだとしても、自分で選んだのか、適正が分かるからそれを選んだのか、私には分からない。

 なので基本は今現在のことしか考えず、将来のことは考えない。前世で若くして死んだことが影響していないとは思わない。それも含めて自分の意志があやふやで分からないため、今を生きる。それが今の私の目標。


「――そういえば、先程はどちらかに出かけていたようですが、何か用事でもございましたの?」


 澄んだ目で目標を熱意もって語っていたリアが、横でボーっと色々脱線して思考していた私へ意識を戻した。表情から見るに、何か重要な用事があったのに、付き合わせていないか、といったところか。気にするようなことは何もないので、


「大丈夫。大した用事でもなかったから」
「そうなんですの」


 ほっとしたのか、リアが軽く息を吐く。結局、何の話をしていたのか。女子同士の会話って脱線しやすいよね。ま、もしもうささんを女子としてカウントしていいのなら、いつも脱線してしまうのはうささんのせいでもあるということに出来るな。


「――お! 大将とトウジョウじゃねえか!」


 いつもの脱線原因にうささんを巻き込もうと企んでいると、当然と言えばいいのか、中からも外からも丸見えの為、通りすがりの人に必ず気付かれる。

 今部屋から降りてきたのか、目敏く私たちを見つけたジルニク君もそういうわけである。


「大将? ……もしかして、アイさんが?」
「うん。やめてって言っても聞かなくて、ついに面倒くさくなって放置したの」
「そうなんですの……」


 聞いてきたのはリアのほうなのに、なぜか私より微妙な、というか気まずい表情をしている。この表情のお返しは遠い目、しかないだろうな。あはは……。師匠の誤魔化し笑いが移った。


「ここで何してんだ?」


 ズカズカと遠慮なく部屋に入ってきたジルニク君に質問される。内容的には問題ないけど、男の子には需要の無さそうな内容だしな。あ、ヤマトくんは出来るペット枠なのでカウントしてません。

 私はどうしようか迷ったけど、我らが女神のリア様が、仲間外れは良くないとばかりにジルニク君を捕まえた。ん……? 捕まえた?

 ……あれ、待って。可哀想だからとかではなくて、どちらかと言えば獲物を見つけたハンターみたいな顔してるわ。さらっと出た捕まえたって表現に違和感があったけど、仲間外れ云々が違っていたからなのね。

 リアの逃がさないわよ的空気を感じ取ったのか、先程まで無防備に入室してきたジルニク君ちょっと怯えている。ご愁傷さまです。

 そうしていいカモとなったジルニク君は、午前中いっぱい同盟についてリアからレクチャーされるのであった。めでたく同じ同盟に加入させられたようだ、と後から聞いた。大丈夫なのか。

 ちょっと強引な悪徳商法みたいなやり口になってない? 大丈夫? セーフなの?


 ――十三時、ママの教室


 午前中はジルニク君を犠牲にしてやり過ごした。そしていつの間にかヤマトくんは消えていた。私は午後からママに課題を提出しに行くと言ったら快く送り出されただけだ。暇人のジルニク君は良い言い訳も思いつかず、今もまだ捕まっていることだろう。

 ……もし戻った時にまだ捕まっていたら助けてあげよう。


『不在です』
「それはなにより」


 私が何を気にしているのか分かり切っているうささんが短く答えをくれる。それだけ確認出来たら後はママの執務室に課題を置いておけばいい。

 私はこの見学期間中、バカみたいにただただ筋トレと散歩だけして過ごしていたわけではない。もうすでに何度かママからの課題という皮を被った指令所をいただいて、提出も行っているのだ。

 ここ最近思考が脱線することが多いが、それもこれもママの課題のせいだ。特に社会情勢について調べるように、という課題を課されたときは、何のために? としか思えなかった。

 今回も同じようなものだ。だが今回に限って言えば、AIによる支配の利点、欠点を挙げよ、といった中々にデンジャラススレスレな内容だ。

 最初はビビってうささんから隠そうとしたけど、思考を読まれて当たり前に速攻バレた。知られてしまったからには色々と想像してビクビクしたもんだけど、その人間が死ぬような状況でない限り、その人の自由意志にAIは全く関与しないとのこと。

 なので結局、その課題をうささんの目の前で堂々とやってやったわけだけど。


「よし。退散するか」


 大学のレポートみたいに纏めた内容を、貴重な紙で綴ったもので提出する。ママ曰く、記録として消えるものでないといけないそうだ。……内容を考えれば当然だけど。

 さっさと建物から出て、また寮へと戻る。ママの教室周囲は異常なほどに人の気配が無い。そして教室ではない謎の建物がママの教室を囲んでいる。

 何回か課題の提出に来たけど、あれからママには会っていない。ママの教室なのに、本人は常に不在なのだ。どこで何をやっているか見当もつかない。

 うささんに聞いてもいいけど、ママの存在は私より上位に位置付けられているらしく、ママがその気になれば簡単には見つからないそうだ。……どっかで聞いたような話だな。

 それはともかく、ママがいないのは七不思議ばりに有名な話らしい。散策中にすれ違った生徒たちがそんな話で盛り上がっていた。下手したら遭遇するだけで都市伝説だ。


 ――十四時半過ぎ、寮内


「――ですのよ。聞いていますの? ジルニクさん!」


 寮に戻ってくると、リアの声が聞こえてきた。未だにジルニク君は捕まっているようだった。仕方ない。放置すれば夜まで逃げられないだろうから助けてやるか。


「あ、リア、これから行くところがあって、ジルニク君も連れて行きたいんだけど……」
「大将おおおおぉぉ……」
「そうなんですの?」


 おいおい男が情けない声を出すな。弱り切った顔されると姫ヴァージョンを思い出してややこしくなるから。私の頭が。

 リアは残念そうに「仕方ないですわ……」とジルニク君を解放してくれることとなった。自由を得たジルニク君は心なしかいい汗掻いたぜまったく、的表情で喜びをかみしめている。


「それじゃ、行くか」
「おう!」


 こうしてジルニク君を救出した私は新たなる目的地へと旅立つこととなった。ちなみに寮の外へ出た瞬間には、またしても何処いずこから出現したヤマトくんがパーティーメンバーに加わった。

 ……気配が無さ過ぎて、全く気付かなかったわ。むしろ今まで近くに潜んでいたのでは、と疑いたくなるレベルよ。


「それで大将。どこに行くんだ?」
「…………」


 そうだとは思ってたけど、あなたどこ行くかも知らずに元気よく「おう!」とか返事してたのね。いや別に私はいいんだけどさ。


「実はこれから毎日デボラと訓練するって約束しちゃったんだよね」
「そうなのか!」


 そうなのです。何故初めて会った日からではないかと申しますと、併設された訓練場が私たちの破壊の負荷に耐えられないので、しばらくは突貫工事もかくやの急ピッチで改造工事が施されることになったのである。

 今日工事が完了するからって、昨日うささんに連絡が入ったのよ。待ちきれなかったんだろうな。建築についてはちんぷんかんぷんだけど、普通は工事完了後も何かしらの作業が必要なのではなかろうか。

 私の部屋の大改造を一晩で行う技術力があるのだから、もしかしたら今世の建築はまったく別物なのかもしれないけど。


「それは、俺も参加していいのか!?」
「ダメ」
「なんでだ!?」


 そもそもあなた身体強化使えないでしょう。死ぬよ、マジで。

 デボラが求めているのは身体強化を用いたバトルであって、素の状態じゃ遅すぎてつまらないだろうよ。本人曰く、制御を間違えても死、相手の身体強化での攻撃に身体強化で対応出来なくても死、魔力が尽きてしまっても死、なスリリングな状況がいいらしい。

 命がけで訓練するからこそ、さらに成長出来るのです、と恍惚とした表情をして語り始めたので、あ、これ長くかかる上に聞いてるほうが無駄に疲れる奴だ、と悟った私。すぐさまストップをかけて事なきを得た。代償も大きかったけど。


「とにかく、身体強化も使えないようじゃ無理」
「じゃあ――」
「無理」
「なんでだ!? まだ何も言ってねーよ!」


 どうせ、じゃあ身体強化を覚えるとかなんとかほざくつもりだったんだろうけど、無理です。あなた、この前デボラがした話聞いてました?

 制御が難しいのよ、コレ。失敗すればリトライ不可の死、一択。さすがに出来ないと分かっているのに進んで自殺しろとは私も言えない。


「せめて、ヤマトくんから背後を取られなくなるようならいいよ」
「無理じゃねえか!」


 その通り。だから無理だって言ってるでしょ。正直、私も身体強化しててやっと躱せるなと思うレベルよ。ヤマトくんくらいの身体能力があれば使えると思うけどね、身体強化。

 これって基本、元の身体スペック依存だから、もしヤマトくんが覚えたら私はボロ負けしかしないだろう。基礎って大事。


「くっ……!」


 ヤマトくんと対戦した本人が一番分かっているようで何よりだ。それでも未練があるのか、後ろをフラフラ~っとついてきていたヤマトくんに恨めし気な視線を向けている。

 当のヤマトくんは一瞬、ジルニク君のヤンキーみたいな視線にビクついたが、すぐにのほほんとした空気に戻った。ちょっとは私たちに慣れたのかもしれない。


「……まあ、ハードな訓練でもいいなら、身体強化取得までの道のりを少し手伝わないことも無いけど?」
「ほんとか!?」
「その代わり。死ぬことは無い代わりに、死ぬ思いはすることになるけど」
「おう! 身体強化を覚えられんのなら問題ねえ。やってくれ!」


 威勢よくジルニク君が宣言したので、これからのスケジュールにジルニク君と逝く、地獄のハードコースと入れておく。

 ポイントは私にとっては昔やり遂げた地獄の訓練であっても、今は余裕でこなせるということ。つまり地獄を見るのはジルニク君だけであった。

 発案者は私ではない。元ネタの提供者はママで、監修は効率の鬼と化したうささんである。この二人が組めば四方八方と隙はない。何度も実際に死にかけた経験者が語るので間違いない。

 そしてジルニク君。私は道のりは手伝うと言ったけど、実際に覚えることを保証したわけではないから。実質あなたの努力次第よ……と、詐欺っぽいことをキラキラして未来に希望溢れるジルニク君の横で考える。ようこそ地獄へ。犠牲者は歓迎します。


 ――十五時、魔法技師教室、訓練場


「おー、なんか空感が広く感じる」
「ありがとうございます」


 魔法技師教室に到着すると、出待ちしていたのか、すぐデボラに訓練場へ案内されたところである。前とのはっきりとした見た目の違いは感じられないけれど、心なしか空間が広くなり、なんとなく壁も頑丈な印象を強くしていた。


「じゃあ、面倒くさいし、はじめちゃいますか」
「はい!」


 ぶんぶんと勢いよく振り切れる尻尾の幻覚を確認して、訓練場真ん中で向かい合う。まずは慣らしで、身体強化を使わずに素の状態で組み合う。そうして徐々に身体強化を強めていく訓練だ。

 訓練場の壁に近いほうにヤマトくんとジルニク君が居る。二人には前回と同じように戦ってもらっている。少々違うとすれば、ヤマトくんには漫画みたいにかなりの重りを付けたうえで、ジルニク君の最高スピードと同じという制限を掛けた。

 これならジルニク君の訓練にもなるし、ヤマトくんも普段よりゆっくりと動くことで、違う部分を訓練できるだろう。前世で、自分より遅い他の人のペースに合わせると、色々とキツいと聞いた。

 マラソンなんて典型だろう。自分のペースで走れないと、速い人ほどストレスを感じるらしい。なのでヤマトくんにも同じことをして頂いているのだ。まさに一石三鳥くらいは狙える。


「はああ! ハッ! フンッ!」


 襲い掛かるデボラの攻撃を次々軽く対応する。横目でチラッと二人の様子を見ていたけれど、これが出来るのは今がまだ素の状態だからだ。正直デボラは素の身体能力は高くもなく、低くもない、平均値だ。なのでまだ余裕をもって対応できる。

 では何故、身体強化を使うとデボラが優位になるのか。前にも思ったが、単純に実戦経験の差である。魔力も私より遥かに少ないだろうデボラ。しかし、天性の才能か、身体強化の使いどころや効率が格段に上手いのだ。

 次第に身体強化を強めていくと、余裕もなくなり、デボラにだけ集中する。訓練の時間はかなり遅くまで続いた――。


 ――二十三時、就寝。


 あれから何度もデボラと同じような訓練を繰り返し、二十時頃にやっと解放された。いい訓練だった。でもかなり疲れたのか、終わった直後は二人とも膝がガクガク震えていた。


『――明日からの予定を修正しました』


 うささんから注意が入る。ここ最近は散歩しかしてなかったけど、明日からは詰め込みの毎日になりそうだ。学生ってこんなに忙しかったっけ。しかも理由が学生っぽくない。


『マリアから課題が届きました』


 明日以降の忙しい毎日に思いを馳せていると、うささんからまたしても注意が入る。分かってる。おそらくアレを使っているのか、高いセキュリティーを誇る建物でもなんなく侵入して連絡してくるのだ。私は慣れているけど、普通の人にはリアルホラーで恐怖しかないだろう。

 ……被害者が出ていないことを祈るだけだ。すでに居たらごめんなさい。うちの身内がすみませんくらいは後で謝っておこう。


『そろそろ就寝を』


 はいはい、分かってるって。うささんはママよりお母さんっぽいな、全く。いつも厭味ったらしく口うるさいし、めちゃくちゃ余計なお世話を焼くし、でも実は何事も私優先だし……。

 ――実はあなたが私のママか。


『くだらないこと考えてないで、さっさと寝て下さい』
「はーい」


 こうして学園に入学してからの私は、見学期間中同じような毎日を繰り返すこととなったのであった。




 ~第二部完~

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