ロストアイ
魔工学教室
またしても気付いてはいけない事実について気付いてしまった感が否めないけれど、一先ず目的地に到着してしまったからには結論を先延ばしにするしかなかろう。
と、私の心の中に潜む天使と悪魔がタッグを組んで囁いてきたため、その通りに従う。こういうデリケートな問題はヤマトくんみたいに繊細そうな見た目の人に直接聞いてはいけないアレコレに該当するのだ。
『天使と悪魔ですか。それは人の保守的妄想から生み出されたという、身勝手の塊で出来た架空の代物であるアレのことですか』
「まって。そういう結構エぐいことをさらっと言わないでくれます?」
『? 事実ですが』
事実事実って、なんであっても時と場合があるでしょうに。思ったからって口に出していいことと出したらややこしいことっていっぱいあるでしょ!?
『なるほど。つまり先程の思考で、――』
「あーあーあーあー!! 聞こえない! 聞こえなーいっ!」
『――と考えていたのに口に出さなかったのはそういうことでしたか』
うささんにしか割れていない真相を何のてらいもなく話されそうになったため、とりあえず大声で遮る。私の声にビビってまたヤマトくんがビクゥッ!! とした反応があったが関係ない。
些細な怯えと共に真相を葬り去れれば是非も無し。許せ。そして納得できたのかうささんがおしゃべりを止める。まったく。本音と建て前というワードを知らないんかね、このポンコツAIが。
『それより、中には入らないんですか』
「私も学習したの」
『何を』
ちょ、なんでそんなに反応が冷たいの。いつもより割増しで冷たいよ! 冬の大バーゲンセールですか?
「昨日は見つからないからって勝手に入口を造っちゃったけど、実は別に入口があったわけでしょう?」
『当たり前ですが』
「…………」
いかにもそれが常識です、といった枕詞を感じ取った。腹が立つことこの上ないけども、それを言われちゃあ私も反論できない。
でもそれにしたって内側の、それも地下からの入り口しかないって分かりにくく過ぎるでしょう。という弁明はきいてほしい。
『周りに気配があると分かっていたのなら、聞くと言う行為で全て解決したのでは?』
「…………」
ぐうの音も出ないとはこのことか。非常識なハイサイエンステクノロジーでいつもはおちょくってくるから、時々出る前世寄りの常識を説かれるとめちゃくちゃ腹が立つ。
考えても見てほしい。いつもおちゃらけた人に毎日イタズラされていて、それならばとお返しというお茶目で少しだけイタズラし返したら、とたんに真顔でそれはいけないことだと滾々と説教されているのである。
確かに慣れてないことでイタズラ失敗してしまっていたのかもしれないけど、今までの行いを鑑みてでのその反応。さすがにそれはないだろうよ。
というより、分かっていたのならそう言って止めてほしい。普通にスルーで止めずに見ていただけなのも同罪だかんな!
あ、まてよ。そういえば大分昔で記憶があやふやだけど、私って世界ランク的な何かで上位に属されていて、建物の構造とか結構細かくまで知れるんじゃなかったっけ。
『……ついに気付かれましたか』
まるで今気づいた私がおバカみたいに言うな。確かに昨日気付けなかったのは盲点だったなとは思うけども。そこまでではないとも思う。
『昨日に限らず利用できる場面は多々ありましたが』
「たとえば?」
『屋敷を出歩いていた時期、世界を飛び回っていた時期、細かく言うならば、――』
「あ、もういいです」
そうやって列挙して言われてみれば確かに使える場面が多々ありましたね。それを助言もせずに放置して私が苦労するのを楽しんでたうささんに言われたくは無かったけど。
『聞かれませんでしたので』
ぐおおおおお……!! そんないかにも命令に従順なので聞かれてないことは~みたいな態度を取られても腹立つだけなんですけど。なんなら今私に芽生えたこの怒りを糧にうささんへの逆襲を決行しようか。
『そんなことより早く移動しませんと時間に間に合いません』
ぐおおおおお……!! ――矛盾。これは矛盾だ。ただただ矛盾である。さっき思った通り命令に従順という体裁ならば何故命令口調で指図されにゃあならんのか。誠に遺憾である。
……遺憾ではあるけれど、うささんの指図も仕方のない内容の為、口からの言葉を押し留め、頭で恨み辛みを述べる。押し留めてないとか知らない。私の頭の中だもの。
「…………」
言いたいことは現実に口にせず、頭の中では絶賛一揆中である。そうやって心の平安を保つと同時に、通りがかった犠牲者……じゃなくて、通行人に教室への入り方を教えてもらう。
異様な私たちにびびってらっしゃったけども、なんとか入室方法は教えてもらえた。やっぱり交渉において笑顔と挨拶は欠かせない。……たとえ第一印象からしてマイナススタートだろうとも。
そうして今度こそ真の入口に辿り着き、ついに私たちは魔工学教室に辿り着いた。普通に見学するだけなのに、物凄い困難な遠回りをしたような気がしないでもない。
「すみませーん。魔工学見学希望者なんですがー!」
早速、教室に入る前にノックをしてから声を掛ける。前世でも他所様のクラスに入るときはいちいちノックしていたことが想い出される。あれ、結構注目されるから恥ずかしいんだよね。
前世の記憶に若干トリップしていた私。そのため、ウィーンという音もなく、横に静かに開いた教室のドアより出てきた人に、反応が遅れた。
「……あなたたちでしたか、問題児たち」
「……」
うおおおおお。心当たりが多すぎる……! 咄嗟に反応出来ず、曖昧な笑顔になってしまった。そうして見上げた先にはまたしても見覚えのある顔。
「あ、説明会でママの横に居た……」
「ママ? ……なるほど、そういうことでしたか」
私の反応に何やら納得すると、見覚えのある女性。昨日、説明会にてほぼほぼ説明をしてくれていた、右目にモノクルをかけた頭のカチッとした固めの女教師。
先生はメルディアナ・ソロウと名乗った。同時にメルディアナ先生と呼んでほしいとも言われたが、何かこだわりでもあるのだろうか。しかし大人の女性の頼みは基本断ってしまうとろくなことが無いと経験済みのため、特に疑問も無く承諾する。
「ここは魔工学教室のうち、魔工学の基礎知識について学ぶ教室です。日によっては実技教室に代わるので、教室も別の場所に変ります。間違えないように」
そのまま普通に先生から教室の説明がされる。なんだか普通に見学しているということに物凄い感動を覚えているのは私だけだろうか。
思い返してみても、誰もかれもろくな説明もなく、今日を迎えているのである。唯一追い出されたことについてはカウントしていない。あれは明らかに私たちが悪かったと反省してる。
やっと見学という学校イベントをこなせるようになったと喜ぶべきなのか、冴え先の悪さに悲しむべきなのか。メルディアナ先生の分かりやすい説明に、私とヤマトくんはうんうんと相槌を打って聞き入るのだった。
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