ロストアイ
珍道中?
あれから。
ヤマトくんに精神攻撃を受けた私は、傷心をそのままに、しばらくしてなんとか気を持ち直した。というか、うささん以外に事の真相は割れていないので、後は私が忘れて無かったことにしておけばいいのである。
そう思い立ったら無理やりにでも無かったことにすべく、今まで何事も無かったかのように、数秒前までの醜態を止め、けろっとした顔で、何か? とばかりにやり直した。
無理やりではあるけれど、特に気にしない性質なのか、ヤマトくんもスルーしてくれた。口下手とも言うけど。
そんなわけで、今は後ろに新たなパーティーメンバーのヤマトくんを加えて黙々進行中である。彼の必殺技は、怯える・か弱い仕草・無垢な視線、このコンボで決まりだろう。きっとあらゆる敵が油断してくれること間違いなし。
かくいう私も既に先程、大ダメージを受けた恐ろしいコンボである。幼女時代に試せていればと思うほどなので、相当だ。きっと同じくパパには大ダメージだろう。ママにはもちろん効かないだろうけど。
『そうして歴史は繰り返されるのですね』
いきなりの、ドキュメンタリー番組に良く出るコメンテーター的発言にちょっと、ビビったわ。でも確かに。過去の自分の部屋に起きた惨状のことを言うなら、有り得なくもないけども。
『今やっても同じことだと思われます』
「…………」
よく考えたらそれもそうだった。もう何年も会ってないけど、幼女時代の強烈な記憶が、悲劇はまたしても起こり得ると、肯定している気がする。
「シュコー、シュコー」
有り得るだろう可能性に、使えるわけでもないのに禁じられた技認定を勝手に取り行い、一先ずこの話は自分の中で終わりとする。
今は噴水広場から離れて、教室が多くひしめき合うエリアに向かっている途中なのだ。時間帯的にも一気に人が多くなるためか、結構背後ぴったりにヤマトくんがついてくる。
……別に、どこぞのスナイパーというわけではないけれど、背後に居られる気配があると、背中がむずむずするのだ。しかし怯えるうさぎに、背後に立つなとガン垂れるわけにもいかず、中々にこの状況はストレスであった。
「シュコー、シュコー」
それにしても、背後に居るから気配を敏感に感じ取れるんだけど、昨日のアレは何だったのかと言いたくなるほど大人しいものである。
とはいえ、なぜかしっかりと迷いなく、私の後ろをちょこちょことついてくるわりに、ずっと視線は周りをキョロキョロしている。特に珍しい景色でもないとは思うけど、足元は疎かにして大丈夫なんだろうか。
生け垣から出てきたことといい、外見はあんまり似てないけど、あの変態との血のつながりを感じてしまった。惜しい。色々と。
「シュコー、シュコー」
威圧してるみたいに怯えるため、特に私から視線は向けていない。だけど、後ろの気配がフラフラするので、いろんな意味で気が気じゃない。本当に大丈夫なのか?
まるでリードをつけずにペットの散歩をしている気分である。興味のあるものを見つけて、好奇心に任せてどこかにフラフラ~っと消えそうなのがなんとも危ない。
――ふと、そこまで考えて、なぜか昨日の先輩の言葉が頭を過ぎる。
――『――あ、出来れば早朝に一緒に散歩はしてほしいけど』
――『――一緒に散歩はしてほしいけど』
――『――一緒に散歩は――』
――『――散歩は――』
――『――散歩』
――『散歩』
「…………」
結局先輩の思い通りになってるううううう!!!!
……気付きたくなかった、この事実。誰か飼育係代わってくれないかなあ。あ、無理か。
それに何故だか知らないけれど、私は懐かれているようなのだ。雰囲気と態度的に。さっきからペースを速くしたり遅くしたりと変えてるのに、それに文句も言わずフラフラとしながらもピッタリと離れないように一定距離を空けてついてくるのだ。衝撃。
何度思い返しても、ヤマトくんにとって散々な目にしか合わせていないだろうに、何が懐かれポイントになったんだ。不思議。
『それはおそらく、恐怖による支――』
「まだ言うか!」
暇してたのか、またうささんが私の思考に対して余計な口を挟む。というよりか、まだ続いてたのかそのブーム。もういいよ。さすがに飽きたよ。
それに、仮にヤマトくんに懐かれた理由がそんなんだったとして、どんなドM体質なんだって話になる訳で……え? まさか、え? 違うよね? 違うと言って、ヤマトくん!
思わず振り返りそうになって、思いとどまる。いや、まだそうと決まったわけではないんだ。落ち着け、私。面倒なことに気付くな。ステイ。深呼吸。踏みとどまれ……!
自分にそうやって言い聞かせながら、しかし残念なことに、また脳裏に昨日の出来事が過ぎり――そういえば、昨日の先輩も態度がそれであった。と、思い出し。その流れでヤマトくんもその人の血縁関係であるということに――思い至る。
……待って。身近にSっ気が強すぎるヤバい一族が居るんだから、真逆の性質の一族が居ても不思議ではないよね。というか、その可能性は考えつきたくなかった。マジで違うと誰か言ってくれ。
「シュコー、シュコー」
恐ろしい可能性に気付いてしまって、勝手に恐れおののいている私をよそに、ヤマトくんは至って平和だ。のほほんとした空気がこちらの不穏な空気にも伝染してくる。
……一見そうとは見えないけれど、実はヤマトくんも隠れ体質で実はそういうタイプだったとかそういうことですかそうなんですか……!?
「シュコー、シュコー」
勝手にどんどん暴走する私の思考を置き去りに、やはりヤマトくんの周囲の空気はのほほんとして平和だ。まったくもってその片鱗が見えないけど、仮に無意識下で体質的に懐かれたとかそういうことなのか……!?
思い起こせば、昨日の馴れ馴れしい先輩の態度もそんな感じであった。確信犯な気がしないでもないけど。でも何度名前呼び、ひいてはちゃん付けを拒否しようとも、数瞬後に忘れたのかと思うほどの言動であったのだ。
悲しいかな、結局あの後シバいても笑顔で微笑んでくるだけだった。ある意味こっちが恐怖に支配されたわ。嘆かわしい。そして断言できる。あれは素である、と。
……考えたくない。これ以上考えたくないのに、うささんの余計な一言のせいで私の、今世ママから引き継がれているだろう優秀な私の脳、そこで日々働いている優秀な思考回路が超高速で回転してサービス残業までしているのではないかと疑うほど無駄に働いてしまう。
……可能性を否定したいのにっ! 可能性を否定できないような証拠がどんどん示されていく……!
くそう……。考えないようにするとどんどん思考が引っ張られてしまう。悪循環である。お願い、誰でもいいから誰かこの無駄に優秀な思考能力を逸らしてくれっ……!
「シュコー、シュコー」
「ふぉぉぉぉぉ……!!」
先ほどの繰り返しとなるが、乙女にあるまじき奇声を控えめに出し、思考を逸らすことを試みる。が、一向に逸らされる気配もなく……。
結局、目的地に着くまでヤマトくんには気付かれなかったけれど、道中増えた周りの生徒たちに私たちの不審さ、もとい、温度感の差が奇異の目で見られることとなった。
ちなみに余談ではあるけど、人が増えるとヤマトくんはほぼ私の背に引っ付く状態になった。ガスマスク装着系という属性にプラスして、サナギ系という新たな属性の称号を与えたのは言うまでもないことである――。
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