ロストアイ
シュコー、シュコー、
「シュコー、シュコー、」
「「…………」」
「シュコー、シュコー、」
「「…………」」
「あの、……ごめんなさい」
私に言えるのはそれだけだった。
――説明しよう!
先程まで、リアとヤマトくんが倒れてしまったので、甲斐甲斐しくお世話をやいておりました、私がっ!
そして、役立たずな先輩より、ペットのお世話よろしく飼育係に任命されました、私がっ!
そこで、人見知りなヤマトくんのため、会話が成立する解決策はないかと探し出しました、私がっ!
そして今、先程の人見知りっぷりもなんのその、目覚めたヤマトくんは非常に落ち着いていた。例のブツを装着したことで。私のおかげかなっ!
……沈黙に包まれる中、耐えきれず、先程の言葉である。
「シュコー、シュコー、」
「……斬新、だね~」
もはや、それしか言えまい。あの先輩が、引いているように見えなくもないな。……私も面白半分でやり過ぎたと反省しております。ごめんなさい。
しかし、ヤマトくんもヤマトくんだ。起きてから微動だにしない。無言で私たちのほうを見ているだけだ。気絶することは無いようだけど、どことなく、困惑している雰囲気が伝わってくる。ごめんなさい。
「私も悪いとは思いますけど、それ以前に、なんでこんなブツがココにあるんですか? 悪ノリしちゃったじゃないですか」
「あ~、うん。危険を伴う実験が多いからね。だが、ヤマトも気に入っているようだし、いいんじゃないかな……」
「シュコー、シュコー、」
「ほら」
「それは返事じゃないと思いますけど?」
改めてヤマトくんの装着しているブツを見る。ゴツゴツとして顔を覆い隠す表面。後頭部で止められるベルト金具がついている。口元には、ミニ消火器みたいなのが二つ。そして空気を取り込む口の辺りが、細かいハチの巣みたいな穴が複数、大量に空いている。
最後に目の部分を確認してみれば、それぞれ顔の四分の一サイズのまん丸お目めだ。しかも、こちらから瞳の色が完全に見えない仕様。どこからどう見ても、――立派なガスマスクである。ごめんなさい。でも似合ってます。
「「…………」」
「シュコー、シュコー、」
「……とりあえず、顔見ただけで気絶されることは無いみたいですね」
「……そうだね。私もこんな方法があるとは思いつかなかったよ。早速、あいちゃんのお世話になってるようで、引き受けてくれて嬉しいよ」
「まだ、承諾してないんですが。あと、次名前呼びしたら、シバキます」
「シュコー、シュコー、」
「「…………」」
無言の訴えが私と先輩を射抜く。それもそうか。だって私たち、物凄く目線を泳がせてますもの。決して逃げている訳ではないんだよ? ちょっと気まずいだけで……。ごめんなさい。
しかし、これ以上の策が無いのも事実。そもそもの話。よくよく先輩から話を聞けば、人見知りの原因は、その御尊顔だというじゃないか。
確かに、今までの人生で出会った中でも、信じられない美貌だ。血迷う奴とて、少なくない数がいるに違いない。それは確信できる。それほどの相貌だもの。……私にはあまり効果が無いみたいだけど。
普通の人は目が合っただけでふらふら~っと襲い掛かることも珍しく無いようだ。ぶっちゃけ、私は単にママの教育のおかげで精神力が鍛えられていますから、そんじょそこらの魅了は効きません。それはヤマトくんほどの美貌であっても変わらないようだ。……これって、感謝していい案件? 素直に喜べないんですけど……。
しかし、一番の問題は顔だ。特に目。気絶して寝っ転がってた時はそれほど引き込まれることは無かったからね。原因が分かるというものよ。
それで、「それなら顔を隠してしまえば問題は解決だ!」と、そう思った私は悪くない。絶対に悪くない。
「シュコー、シュコー、」
……悪くないもん。
「ああー、それより、アメリアは大丈夫かな? 未だに目を覚まさないようだが……」
気まずい空気を読んでか、先輩がリアの容態を伺う。が。未だに入口付近で突っ立いる。マジで役立たず。超役立たず! ……こほん。便乗しましょう。私も空気を変えたい……!
「……ああ。それならさっき、ヤマトくんより先に一度目を覚ましたんですけど、……その子たちがそれに気付いて、上に被さる形で覗き込みまして……それで、もう一回気絶しました」
「「…………」」
「シュコー、シュコー、」
目が覚めて、涎だらだら状態で上から覗き込まれて、口を大きく開けて笑う植物。…………。……気絶コースだな。仕方あるまい。きっと、影が付いて、もっと怖い様相だったに違いない。
ちらっと横目でゆらゆら陽気な植物を見る。……楽しそうだな、おい。
私の恨みがましい視線に気づいたのか、「キュキュ!?」と反応した。心なしか震えている。……あ、ヤバい。暢気なものだから、つい、殺気がこぼれちゃった。そんなに震えんでもいいのに……。ちょっと殺意が湧いただけなのに、そこまで怯えることないでしょ。傷ついたわ。
『早速、飼い主としての躾を行っているんですね。恐怖による支配もまた、王道。これからが楽しみです』
「誰がやるか!」
なに、さりげなく悪の親玉に仕立て上げようとしてんの!? やらないからね? 絶対!
私、見た目は悪役っぽいけど。敵の女幹部って感じだけど。悪いことはしたことないよ! 知ってるでしょ!?
『時間の問題ですね』
「シュコー、シュコー、」
『同意も得られました』
「…………」
どこからツッコめばいいのか。言葉も出ない。何より、なぜか、ヤマトくんも頷く動作をしている。どいうことだ。
私、君に何もしてないよね!? マスクのことなら謝るけどもっ! それ以外は何もやってないよ!?
「シュコー、シュコー、」
『顔が怖いそうです』
「ああ?」
「シュコッ!? …...シュ、シュコー、」
『恐怖による支配ですね』
「…………」
ああ言えばこう言う! なんて忌々しいやつだ。それと、ヤマトくん。あなた、本当に脱兎のごとく先輩の後ろに逃げましたね。ママもびっくりの驚異的スピードです。しかも若干、息をする音が小さくなった。
「いやあ、…………アメリアが起きるのを待ったほうがいいかな?」
「…………そうですね」
「…………シュコー、……シュコー、…………」
とりあえず。常識人で、空気も読める素敵女子ことアメリア様が目覚めるのを待つこととなりました。もちろん、また気絶されては困るので、まだ若干怯えている植物たちから遠くに移動させました。
「シュコー、シュコー、」
「「…………」」
息苦しい沈黙が続く。しばらく、この苦行に耐えるしかなさそうだった――。
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.7万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,659
-
1.6万
-
-
9,538
-
1.1万
-
-
9,329
-
2.3万
-
-
9,152
-
2.3万
コメント