話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

ロストアイ

ノベルバユーザー330919

極度の人見知り



 ――ムシャムシャムシャムシャ。


「……いや、止めなくていいんですか?」
「うーん。そうだな……」


 先輩がドアを開けてから結構経ったけど、一向に見知らぬ人を助けようと動く気配が無い。そして、繁殖したら人が捕食されそうな、というか捕食している前科がついた謎の巨大植物も同様に、こちらに対して動く気配が無い。先程からずっとマイペースでムシャムシャとしているだけなので、なんだか妙に手が出しにくい……。

 それに、呑み込まれそうな人が良く見たら、一定時点から呑み込まれてないからというのもある。正直、謎植物に対してどう対処すればいいのか分からない。ママも言ってたけど、未知との遭遇はいつでも命がけだと……。


「……もしかして、ヤマトなのか?」


 暫く見てるだけだった先輩が、突然話しかけ始めた。その声に反応したのか、ムシャムシャされている人らしきものがピクッと、見えている下半身部分が揺れる。……今気づいたけど、ジャージっぽいズボンだ。案外ラフだな、食べられてる人。生徒じゃないのかな?


「やはりそうか! いやー久々だな!」


 人間的な返事があったわけじゃないけど、先輩が喜色満面になって捕食現場へズカズカ急行する。異様な光景だけど、危険は無いってことなのかなと、何もせず先輩が直進していくさまを見送る。

 ――がぶっ

 ――ムシャムシャムシャムシャ。


 そして、私の期待を知らずして、先輩は何の迷いもなく、綺麗な飛び込みガブリんちょをかまして逝った……って、


「おいぃぃぃっっ!? 被害者増やしてどうすんだコラァアッッ!」


 何の迷いもなく進むから、危険は無いと思って傍観しちゃったでしょ!? 流れる様に綺麗に呑み込まれやがって……! 期待した私の待ち時間返してっ!

 私の叫びが聞こえたのか、呑み込まれ損ねた肘から下をこちらに向けて先輩が親指をピシッと立てた。……なんだそれ。後はお前に任せたってか。役立たずめ……せめて逝く前に謎植物の解説しておけよ!

 湧き上がる怒りをこさえながらも、ここで対処できそうなのは私しかいなかったと思い当たる。リアは刺激が強かったのか、隣で気絶している。仕方ない。最終兵器が必要だ。

 ――さあ! 出番だうささん!


『――誠に都合がよろしいことですね。しかし、確かに現状は仕方の無いことかもしれませんが……』
「でしょ? 助けてくれない?」


 近くに皆の知恵袋が居て助かったな。危うく現場放棄か証拠隠滅で頭を悩ませるところだった。


『私の扱いについて考えを改めて頂きたいのですが、ひとまずは置いておきましょう。……まず、あの生物がしていることですが、あれは捕食ではありません。好意による甘噛みです』


 甘噛み?

 ……ほんとだ。液体まみれでムシャムシャされてるけど、出血している訳でもなく、まだ生きてるっぽい。案外大丈夫そうだ。

 しかし、そう言われると不思議と甘噛みして甘えているようにしか見えなくなった。なんかよく聞くとキューキューと鳴いてるし。猟奇的な捕食シーンが、微笑ましいペットの甘えシーンに脳内でチェンジしちゃったよ。


「でも、あれだと話にならないよね。どうすれば解除できるの?」
『いくつか方法は存在しますが、この場合、迅速で的確なのは一気に力関係を示して服従させることですね』


 なるほど。

 それなら、なんだか可哀想な方法だけど、それっぽいのがあるよ。昔ママが身体強化で大はしゃぎした時に、実験を色々としてみたみたいで、そのうちの一つを教えてくれたんだけどね。とりあえず、試してみるか。

 私はその場で精神統一をはかった。集中しないと今の私では経験不足で使えないのだ。威力も弱まるし。


「――ハッ!」


 自分の内側の魔力に集中して、一気に周囲へ解き放つ。ママが興奮しながらも教えてくれたんだけど、これが魔力威圧っていうスキルに昇華したのだということくらいしか覚えていない。

 そして、やり方として覚えているのが、ここで注意しなければならないことだ。それは、放った後に身体の周りに留めること。ここが難しくって、実践ではまだ使えない。

 私の魔力による威圧行為に反応したのか、巨大謎植物はピシッと固まると、スルスルと、食んでいた二人を吐き出した。そしてそのまま、怯えたようにふるふるとしながら首を地に垂れた。

 キュ~、と弱弱しく鳴く姿がどことなく、しゅんと反省して縮こまったように見える。なんか、ママにいじられるヨドさんを思い出した。別に悪いことをしたとは思ってなかったけど、段々と罪悪感湧くな、これ。


「だけど、これでようやく話が進むよね」


 そう自分に言い聞かせるように呟きながら、部屋の中に他に同じ植物が居ないことを確認して、まずは先輩に近付く。見た感じは問題なさそうだ。正直。べとべと液体まみれで触るのは遠慮したい。キモさ倍増である。

 とりあえず、近くに何かないかと探し回り、大きなバスタオルを見つけたので、それをぽいっと先輩に投げる。べとべとで身動きが出来なかったようだけど、タオルを被せただけでもある程度拭き取れたのか、しばらくして復活した。

 問題はもう一人の方だ。

 こちらは長時間ムシャムシャされていたせいか、べとべとまみれというか、べとべとの塊になっていた。拭き取れるレベルではない。しかし、触りたくない。

 そんな私の様子を察してか、復活した先輩がタオルで包んで、近くに完備されているシャワー室があるとのことで、そちらまで運んで下さった。


「で、結局アレなんなんですか?」


 戻ってた先輩に問いかける。私の視線の先には、落ち着いたのか知らないけど、今はゆらゆらと楽しそうに揺れている巨大植物が居た。人の気も知らずに暢気なものだ。


「ああ、あの子たちね。私の研究仲間さ。あの子たちの分泌する粘液をもとに研究をしているんだ。今朝の私を見ただろう? あれも、元はと言えばあの子たちから取り出したサンプルをもとに開発したのだよ。

 といっても、今朝のは開発した薬品ごと呑まれてしまって、成果が不十分なものとなった。前後不覚になってしまったから、それどころではなくなったともいえるが」
「前後不覚って、今朝遭遇したのはここからかなり距離がありましたけど?」
「ああ、それは私も驚いたよ。しかし、あいちゃんの協力のおかげで茂みの葉っぱがあるところに倒れて、ある程度拭き取れたからな。あの時は助かったよ」
「名前呼びはやめて下さい」


 でもそうか。だからゾンビみたいになってたのか。変態を蹴り飛ばした裏にそんな話が隠れていたとは。……そうと知っていれば、そのまま放置で良かったな。残念。

 私が過去の自分の行いについて後悔していると、近くでカタカタと音がした。シャワー室のほうで動きがあったようだ。そういえば、先輩は知り合いの人っぽかったけど。


「あの、もう一人呑み込まれてた人って先輩のお知り合いですか?」
「ん? 知り合いというか……」


 先輩が何か言いかけると、後ろのほうでカラカラとドアが開く音がした。さっきの人かと思って振り返る前に先輩が気付き、私の横を通ってドアのほうへと向かう。続けて私も振り返る。

 ――そうして、何気なく振り返った私の前には、衝撃が待っていた。

 シャワーを浴びたばかりだからか、顔にべたっと張り付くように濡れている髪。濃い紫だからなのか、なんだか艶っぽく輝いて見える。

 その目はぱっちりとウルウルしており、私と同じ色をしていた。ただ、違う点を挙げるなら、妖気の類を感じる様に吸い込まれる感覚があった。気を抜くと、魂ごと吸い寄せられてしまう。

 華奢な体格ではあるけれど、それにしてもまだ、私と同じくらいの子どもに見える。

 しかし、見れば見るほどに、その相貌自体がこの世のものとは思えない容姿だった。そんな引き込まれるような妖しい美貌を持つ少年が、近付く先輩に気付いたのか、微笑を浮かべて話かけようとする。


「あ、クレイお、え……」
「…………」


 しかし、そのすぐ後に私に気付いたのか、言葉に詰まる。

 驚いて目を見開き、口が半開きになった。私であればアホ面だと言われるのに、そんな顔でも芸術品のよう。しかも。首や頬に張り付く髪のせいなのか溢れ出る色気という名のオーラが半端ない。

 服装がジャージ姿だというのに、同じ生き物とは思えないほど端正な顔のせいでプラスマイナスが仕事をせず、プラスの天秤をあの世へ底抜けさせている。仕事しろ。

 私は見知らぬ人に人見知りして観察しているだけだけど、何かに驚いている相手も同じくこちらを凝視している。そのまま状況的にお互いが固まってしまい、見つめ合う形となってしまった私たちの様子を気にせず、先輩が物凄い美貌の少年の隣に立って肩へフレンドリーに手を置く。


「紹介するよ。この子はヤマト。私の実の弟だ。仲良くしてやってくれ」


 平然と言ってのけた先輩の言葉に、私は脳内で即、嘘判決を下した。

 ――うそでしょ? ありえない……。

 色々な衝撃と驚きで思考が混乱し、少年を凝視していると、段々と首の下から上がるように、真珠のように白い肌が真っ赤に染まっていく。そしてそのまま、ぱたりと、倒れてしまった。

 その場を静寂が覆う。

 気まずい心地になりながらも、この場の唯一の生存者の先輩へ目線を向けた。私の無言の視線を感じてか、先輩が苦々しく告げる。


「……実は、極度の人見知りなんだ」
「……そうですか」


 無言になった私に対して、先輩がそう弁護したので、まだ混乱していた私は、そう返事をするしかなかった。

 そして、この後、諸事情により、初対面に関わらず私がヤマトくんのお世話をする破目になりましたことをここに記します――

「ロストアイ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く