ロストアイ

ノベルバユーザー330919

古典的方法……?



 出禁を食らった私、リア、ジルニク君は一緒に次の教室見学まで移動していた。

 結局、カンカンに怒った教師の怒りが静まることも無く、デカデカと出禁書みたいなのを貼られてしまった。罪人のように手配書風の紙が出入口に追加されていることだろう。

 あ、出入り口、地下からでした。

 来る途中、変質者に会わなければ見つかったはずなので、いっそのこと、あの変態に修繕費を擦り付けたほうが良かったのかもしれない……。

 自分の選択の余地について思考していると、ふと、疑問に思うことがあるのに気づいた。


「ねえ。なんでジルニク君ついて来てんの?」


 私の言葉に、特に何も言わず歩みを進めていた二人の足がピタッと止まった。

 なんとなく流れで一緒に移動しているけど、よく考えたら、ジルニク君のことさっき知ったばっかだし。いくら遠慮が無い私でも、急に男子と仲良くとか出来ない。意外と奥手なのよ。


「そう言われますと、気になりますわね」


 リアも同じように思ったようで、疑問の目をジルニク君に向ける。私とリアがじーーっと見ているためか、ずっとだんまりだったジルニク君が、その重い口を開けた。


「――――よ」
「ん?」


 全然聞こえなかったな。

 ワンモアターイムとばかりに耳に片手を当てて、うんうんと頷きつつ聞いてますよアピールを行う。もう少しはっきりと大きい声で発言しましょう。

 だんだんうつむき加減になっていくジルニク君の声を拾おうと益々耳を澄ましていると、今度はある程度聞き取れる内容だった。


「――道に、迷ってたんだよ……」


 目を忙しなく動かしながらも、絞り出すような声でジルニク君が懺悔のするように告げた。瞬間。私とリアの空気が凍る。

 え、もしかして、え、それってつまり、迷子、ってことですか? …...え! そんなイケイケな不良っぽい見た目を晒しておきながら、迷子ですって……!

 私は上から下までジルニク君の外見を確認すると、思わず自分の腹筋と口を押えた。漏れ出る空気が私の今の状態を分かりやすく表してくれる。


「ぐぅ……!」
「くっ! 笑うならもっと盛大に笑いやがれっ!!」
「ひぃひぃふぅ、ひぃひぃふぅ~」
「なんだその奇妙な笑い方は?!」


 やめてくれ、ジルニク君の必死な姿が余計に笑いのツボを刺激するんだってば……! さすがに失礼だと思って堪えようとした私の努力を無駄にしないでっ……。


「……ふっ」


 私が必死に笑いの発作を沈めていると、私たちのやり取りを見ていたリアが、そっぽを向きながら扇子を広げて、顔の下半分を上品に隠した。でも、手がぷるぷる震えている。隠しきれてない。


「てめぇらなあ!! ……仕方ないだろ! 俺には太陽を見上げても、どっちに沈んで、どっちから出てくるかなんて分かんねぇんだからよお! どうしろってんだ!」
「ひ、ひ、ふぅ~」
「だから、なんだその笑い方は!」


 だって、ジルニク君。太陽を見上げてって、見上げてって……! 日中、太陽を見上げてても方向は分からないんだよ……。もしかして、そんな方法で今まで生きてきたのかと思うと……、


「おもしろ……興味深過ぎるよ。何その、古典的な方法での方向音痴っぷり。太陽見ても方向は分かんないよ。あ、でも陰で進んでる方向なら分かるよ……太陽のだけど」
「あ? そうなのか?」


 まるで分かったように偉そうに告げると、ジルニク君が「こいつ、すげぇ!」みたいなキラキラと尊敬のこもった眼差しを送ってくれる。ふっ、チョロイな……。


『方向音痴なら、負けてないと思いますが』
「はーい、余計なことは言わなーい!」


 うささんが得意げにする私に対して横やりを入れてくる。おのれ、毎度毎度余計な口を挟みおってからに……!!


「アイさんも方向音痴なんですの?」


 ほらみろー! リアが変な勘違いしちゃったでしょーー!? 違うよ! 私は違うからね! お願い。信じて?!

 リアに向かって違う違うと視線でアピールをしていると、肩に手を置かれた。振り返ると、白銀色の目と目が合う。先程まできらきらとした尊敬の眼差しが違う意味でキラキラとしている。


「……お前も、そうなのか?」


 やめてっ! お前も同士だったんだな的視線を送るのはやめて……! 私は地図が読めないだけで、太陽の位置で場所を調べる古典的な方法はとっくに卒業しているのよっ……!!


『地図が全く読めないので、いつも私が道案内をしていました』


 うささんが、「せんせー、このこがやりましたー」みたいな軽い感じで証言する。だから黙ってて……! お願い! 明日のおやつ半分あげるから……!!


『食べれませんので、いりません』


 だめだった! くっ、毎度毎度なんて手ごわいやつなんだ……!


「そうでしたのね。それならそうと、おっしゃっていただければよろしかったのに」


 リアが、仕方のない子たちを見守るお母さんの目で私とジルニク君を見ていた。なんだか、いたたまれない……。


「それでは、引き続きワタクシが案内いたしますので、はぐれないように、しっかりと後ろをついてくるのですわ」


 最終的に、リアが引率をする形で話が落ち着きました。

 私とジルニク君は特に文句を述べる訳でもなく、大人しく先導するリアの後を、見失わないように、ただただコガモのように付いていきました。

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