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ロストアイ

ノベルバユーザー330919

どちらさまでしょうか?



 どうも。

 最近、変な勧誘にまんまと道連れにされてしまった、アイ・スズキと申します。変な団体に所属となり、いつのまにか幹部として登録されてしまいました。クーリングオフって、まだ可能でしょうか。


「アイさん、こちらですわ」


 そして今、なにやら先輩と熱く語り合い、良く分からない同盟を発足させた張本人に手を引かれ、元々話していた見学予定の教室に向かっている。

 本人は気付いていないようだが、どさくさに紛れて名前を呼んでもらえるようにまではなりました。でも、なんだろう。経緯がアレで素直に喜べない。全然嬉しく感じない……。


「クレイ先輩からお話を聞いていなければ、行く場所を間違ってしまうところでしたわ」


 私はリアの言葉で、別れる直前の先輩の助言を想い出していた。それは、白服の生徒と赤服の生徒の違いだ。

 私も勘違いしていたが、結論から言うと、赤服の生徒に共通教室は無いようなのだ。そのため、本当に好きな教室を好きなタイミングで好きに受講できる。

 リアも詳しくは知らなかったようで、普通は寮監から教えてもらえると先輩が言っていた。昨日の騒動もあって、そんな落ち着いた暇は無かったし、あのぽけぇっとしたプリシラさんのことだ。私達が出かけるときにも言い忘れたのだろう。危なかった。

 おかげで、空気を読まずに白服の生徒しかいない教室に突撃することも未然に防げた。……他の生徒は知らないけど、なんとかなるだろう、きっと。

 そんなわけで。

 実質、赤服の生徒は自由な時間も多いのだ。それで、人数が少ないうちに見学しようと移動している。

 手を引かれながら、事の経緯を想い出していると、ひとつ、気になることも思い出した。


「そういえばリア。見学先は一緒でもいいとしても、入る教室は決まってるの?」
「ワタクシは攻撃魔法、魔草薬学、商業をまず考えてますの。他には暗殺教室も検討してはいるのですが、暗殺教室に限ってはかなりの教師が存在しておりますし、一概にどこの教室があっているかは見学しなければ分かりませんわ」
「へーそうなんだ。商業って何?」
「読んで字のごとくですわ。商いについて全般的に学べる教室ですの。実際の大物商人が教師を勤めているという噂もございますわ。同盟のこともありますので、余計張り切りますわ!」


 いや、そこはほどほどでお願いします。

 でも、そうか。

 つまり、商売人の素養を育てる教室ってわけね。面白そうだけど、私は暗記は得意だけど、計算とかは特に苦手だしな。そろばんもはじけないようじゃ、皮算用も出来ないだろうし。


『一生縁の無さそうな教室ですね』
「分かってても言わない優しさって知ってる?」
『優しさですか。現実を知らせることこそが優しさと教えられたのですが』
「誰に? ……あ、ごめん、やっぱいいわ。誰か分かった」


 うささんが一瞬固まった。それで十分、誰の仕業か知れたものよ。

 こういう反応の時は、決まって、私がママに説教された内容をもとに嫌味を言ったときだからね。納得だわ。


「この辺りと書かれていますの。入口はどちらかしら?」


 そう遠くない過去に一瞬意識を飛ばしていたら、どうやら目的地に到着したらしい。大きなドーム型の建物だ。しかし、パッと見、入口が見つからない。どこから入ればいいんだ?


「――てめぇら、こんなところで何してんだ?」


 きょろきょろと入口を探していた私たちに、後ろから声がかけられる。気付いてはいたけど、まさか、直接声がかけられるとは思わなかったな。やましいことは特にないので声が聞こえた方向へ振り返る。どこかで見たような男子生徒だった。はて? どこで見たっけ……?


「あ、あなたは!」


 お、リアが知ってるっぽいな。いきなり声を上げたリアに驚きつつも、ここは一歩下がって見守ることにした。リアが何かを知ってるっぽいので、場をリアに譲る。

 しばらく、リアと男子生徒が向き合っていた。男子生徒はリアの言葉を律儀にも待っているようだ。そんな中で、リアがか細い声を振り絞って呟く。


「……誰ですの?」 
「「…………」」


 私は男子生徒と目が合った。目が合ったが、自然に見える様にそのままそっと、視線を空へ飛ばした。

 誰も動かず、その場にかなり微妙な空気が漂う。その空気に我慢できなかったのか、たまらず、リアがもう一度呟く。


「……誰ですの?」 


 それが決定打だったのか、それとも偶然なのか。。男子生徒はリアの言葉に反応し、地に膝をつく。そして、振り絞るように叫んだ。


「俺は! ジルニクだ! ジルニク・エンストール!」


 私たちの反応から、名前が分からないと知ったのか。はっきりと聞こえるようにジルニクくんが叫ぶ。

 心なしか、後ろにオールバックで、ツンツン逆立った真っ赤な髪が萎れているように見える。

 魂の叫びとでも言うべき咆哮を遂げたジルニク君が、私とリアに、くわっ! と血走ったように見える目で、どうだ! とばかりに顔を向けた。

 目の色が白に近い銀の色合いのためか、白目部分のの血管がはっきりと見えて怖い。

 そして、私ちリアはと言えば、ジルニク君の自己紹介を経て、顔を見合わせた。気分はあれだ、まるで、久々に会った、昔仲良かったはずの友人を前にしている状態だ。

 知ってるけど知らない。話した気もするけど、それほど親しく話したわけでも、思い出がある訳でもない。でも、向こうからは何故か旧知の友のように話しかけられていて、どうしよう。……って感じかな、言うなれば。最悪だ。

 でも、そうだな。ここは正直に、こう返事するしか無いな。視線での無言のやり取りにより結論が出ると、私たちは再びジルニク君に顔を向けた。気配で同時にリアがジルニク君を見たのが分かった。ジルニク君が注視する中、私たちは言ってやった。


「……結局、誰ですの?」
「ごめん。記憶に無いです」


 ……でも、ほんと、名前言われても分かんないや。おたくは結局どちらさまでしょうか?

 私たちの言葉にダメージを受けたのか。ジルニク君は両膝をついたまま前のめりに手をついて、そのまま暫く動けないでいるのだった。

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